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 ――三分じゃ済まなかったな。申し訳ない。

 もうしばらく妄言に付き合ってほしい。既にこの女だけではなく、俺も関わってしまったこの妄言に。



「世界が滅びる」

「そうよ。アナタの所為で、この地球は滅びるの。このままだと」


 地球が滅びるとな。

 アレかな。俺の政治的なイデオロギーが世界に戦争をもたらすとかそういう感じの? 

 それとも物理的に爆発する的な話?


 ……付き合ってらんねえよ。この自称魔法少女、いい加減にうんざりだ。

 鈍器でどつくってのがお前の言う魔法なら、なんなら今から俺だってお見せしようか。


「……もう限界だ、お前の妄言の相手をするのは。これ以上は医者の仕事だよ。良い病院を探しなさいね」

「信じてもらえるとは端から思ってない。だから私は、アナタの排除を最優先したの。穏健派の意見なんか受け入れてたら間に合わないから」

「お前みたいなキ印が他にもいんのか。そりゃ大変だ。まとめて入院するがいい」

「精神検査はクリアしているわ。病識の有無を問われたこともない。だからこそ、私は任務を受けてここに居る」


 んんんー。

 無駄に凝った設定だってのはもう十分すぎるほどに分かりましたからー。

 そんな小難しい言葉使わないでもいいのですからー。

 おかえりくださいまし―。


「……分かった。ならこうしよう。魔法少女……名前も名乗らんからお前の事はMと呼ぶ。M子ちゃん、俺に魔法を使ってごらん。なんでもいいから。鈍器を振り回す以外で。取りあえずそれが出来たら、もう少し真面目にお前の話を聞いてやろうじゃないか。出来なけりゃ……どこにとは言わん、爆竹を突っ込んでやる」


「出来ないわ」


 よっしゃ爆竹だ。どこ置いたっけ。


「待ちなさいよ! 話は最後まで聞いて!」

「魔法を使えたらそうするって話だったろ。さて、湿気しけてなきゃいいが……」

「違うのよ、使えるけど、危ないの。アナタをあんな風に始末しようとしたのだって、直接魔法で殺害したら危険だからなのよ! それが出来るなら、そもそもこんな……人殺しなんてしようとしないわ!」


 やっぱり殺す気だったのかこのガキ。洒落にならんぞ。


「……もうこうなったら、ちゃんと一から話すから聞いて。魔力強化した一撃を頭に受けて死なない時点で、私達じゃアナタを殺せないから」


「ほーぅ、なら好きに話せ。俺は爆竹を探す。探し終えて包装を剥いて、お前の服に手をかけ始めたらタイムリミットと知れ」


 それまでにこちらの関心を引けなければ、お前は古今中々類を見ない面白楽器になる。

 背を向けて棚をガサゴソしながらそう言い捨てたが、女はさして怯えるでもなく堂々と妄言を再開した。


「私たちの世界……正確には次元なんだけど、伝わりづらいだろうからこういうわ。私たちの世界はアナタたちがいる世界を監視しているの。そちらの科学技術の発達、それは確かに目をみはるものだけれど、さして脅威とはならないのだけれどね」

「ほう。世の科学者に失礼な言い分だな。随分と上から目線だ」

「問題となるのは、あなたたちの中に稀に生まれる魔力を持った存在よ。科学ではなしえない、時空間の操作、思考の正確なリーディング、完全な生体複製。これらを可能にする……なんでもできるエネルギーとでも言った方がいいかしら。今意思疎通を可能にしている『日本語』の使用だって、魔力による変換があってこそだしね」

「ほうほう。まさしくマジックパワー。放射線問題は大丈夫?」

「そんな非効率的で不完全なものじゃないわ。アナタ達にとってはまさしく夢のエネルギーに見えるでしょうね」

「そうねー」


 どこやったかなあ。絶対ここら辺に置いといたと思ったんだがなあ。


「……お探し物はこれ?」


 そう、M子ちゃんはこちらに声をかけてくる。

 振り向けば、右手で導火線を吊るしながら目当ての爆竹を揺らしている彼女。


 流石M子ちゃんだ。魔法少女やマジックガールからではない、マゾっぽいからM子ちゃんと名付けただけはある、自分をいじめるブツを態々準備万端ときた。

 しかし逃げないものだ。ここまで話をさせておいてなんだが、さっさと逃げ帰ってくれれば一番楽だったのに。実際爆竹も脅しでしかなかったが、後に引けなくなっちまった。


 仕方なしに、いかにもこれから説明書きに反する使い方をしようという感じで指をワキワキさせながら近づいていくと、M子ちゃんは嫌そうな顔をして、そのままそれを握り込んだ・・・・・


 パパパパン。


「ば、馬鹿! って、火も着けてないのになんで……!」

「なんともないわよ、この程度で」

「強がんな、すぐ氷持ってくるから!」

「……ほら。ご覧なさいってば」


 そう言って、握り込んだ指を開いてこちらに見せてくる、と。

 確かにそこには、火傷一つ、傷一つなかった。


「流石にこんなのを魔法って言い張るつもりもないし。どうしようかしら……そうね、ちょっと待って」


 そう言って、窓に近づいて行って手でガラリ。


「……魔法で開けるとかしないの?」

「だから、アンタがいるから出来ないの! 自分の体表面への使用とか内部に作用する筋力強化ならまだしも、下手に使ってどんな反応が起きるかもわからないし!」

「まあいいけどさ……なあ、ほんとに手の平大丈夫?」

「……大丈夫だってば。ああ、もう。やめてよ、心配しないでよ。ただの排除対象にしたかったのに、罪悪感なんて、覚えたくなんかなかったのに……」


 そんな事をしんみりと言うもんだから、思わずこっちもしんみりしかけるが。よくよく考えればコイツは人の頭を殺す気でドついてきた暴漢であった。しかしやはり少女、それもポニーテールでキリッとした顔つきの美少女である。

 金髪碧眼、ピンク色のふわふわドレスを押し上げる胸。今は俺の手にあるマジカルステッキがなければ、こちらから交際をお願いしたいくらいの器量だったが……いや、やはりアレだ。女性は中身だ。オツムがイっちゃってる疑いもまだ解けていない以上、その様な考えは早計に過ぎる。


「ねえ、ちょっと外に出て、空を見てて」


 挙句これだぞ。暴漢が家主に出ていけと。


 ……それでも、さっきの爆竹の破裂音が耳に残っていて、それがこちらにこそ妙な罪悪感を植え付けていて。

 人がよいとは言われた覚えがない。口が悪いからだろう。しかし損をする性質だとはよく言われた。こんな風に、勝手に借りを作った気になるところがそうなのかもしれない。しかしこれも性分だ、付き合っていくしかない。損をするならしてやろう、何、命まで取られなければなんとでもなる。あの少女も、最早暴力を振るおうという感はない。


 これが最後だ、これに付き合ってやれば満足もするだろう。

 そう思って、彼女の言うとおり、アパートの外に出て、空を見上げてみる。


 今日は生憎の曇り空だ。陰鬱な気分になる。空は、夕日があってこそ映えるのに。


 そんな事を思っていると。


「……は?」


 不意に、ぽっかりと空に穴が開いていた。


 空は、雲は、ここから遠すぎる。大きさの比率が分からないから半径何m程かもわからないが、丸くぽっかりと、厚く覆われていた雲が、綺麗さっぱりくりぬかれたように消えていた。


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