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 ちょっとばかり誤解があるかもしれない。


 賢明なる諸兄においてはまさか俺がこいつを連れ込んだなどと、そんなそんな。

 そのような勘違いをどうかして欲しくない。


 この女は加害者であって、自分はただの気の毒な被害者なのだ。憐れまれるべきは自分なのだ。


 万が一にもあってはならないのは、俺がこの女を良からぬ目的で監禁しているなどという勘違いを呼ぶことである。


 コイツが半年もここにいるのはコイツ自身の不徳のなすところであり、断じて俺が好き好んでこの女を手元に囲っているわけではない。


 その辺りの事情……少なくとも、自分が知っている限りの事情をお伝えしたく、ここで少しばかりのお時間を頂戴したい。


 聞くも涙、語るも涙。……野郎の涙なんぞつまらんだろうな。三分で済まそう。話すよ。



 ――半年前の事だ。この女……自分は魔法少女であるなどとのたまうこの馬鹿女は、たまたま路地裏にいた俺の頭に杖で殴打を加えてきたのだ。



 思わぬ死角からの、躊躇のない打擲ちょうちゃくであった。傍から見れば拍手と通報の一つ二つしようけれど、自分が殴られたとあっては話は別だ。


 とっつかまえて話を聞いても、世界を守るだのお前は悪だの、世界がお前の所為で滅びるだの騒ぐばかりで要領を得ない。


 ……魔法少女ですって。俺よりいくつか年下だろうこの女、ごっこ遊びはとうに卒業した歳だろうに。

 ピンクのふりふりのひらひらを着込んでやたらファンシーな杖を振り回す様は、百歩譲ってそれらしくは見える。しかしその杖は太陽をデフォルメしたような可愛らしいデザインをもって、いや、そのツンツンした造形をもって俺を流血させたのであるから、不愉快を誘うだけである。


「なにをしやがる」

「離してよ! アナタは死ななきゃいけないの! 私が、ここで終わらせなきゃいけないの!」


 剣呑だ。終わらせるってな、人生のことか。気安く言うものだなあ。


 だがさて成程、本物だ。

 本物の……アレな相手だ。コスプレに造詣なんぞ深くないが、少なくともその趣味は、こんな誰が通るでもない裏道でたしなむ種類のそれではないだろう。その上闇討ちをかましてきた。あり得ない。


 鼻の穴に指をつっこみ、空いた片手に持ったスマホで写真を撮ってやれば、ついには泣き出した。それで反省の一つもしているならば可愛げもあるが、未だに密猟者に親を殺された象のような、そんな憎しみの籠った目で睨みつけてくる。


 ……あれかな。こいつのやったことは、俺が知らんだけで、世間的には普通の行為なんだろうか。それとも自分が何か悪いことをしたからこんなことをされたのかな、なんて、自分自身を疑ってしまう。


 罪悪感など欠片も無さげに、これほどにこちらへ悪意を向けるコイツの様子を見ているとそんな錯覚に陥ってしまった。


 ……いやいや、殴られる筋合いなんざない。

 やはりおかしいのはコイツであって、自分は暴力事件の被害者でしかない。

 この女、完璧に頭に春が来ている。事実、四月のよい日和だった。日は落ちていたが、風は暖かかった。


 冗談ではない。頭のネジが外れた相手と真面目に会話を試みるなんて出来やしない。金を貰ってもお断りだ。


 警察に連れて行こうかとも思ったが……こいつの姿をみた警官がどちらに譲歩を求めるかなんてわかり切った話だ。んん、やめておこう。ロクな事にはならない。なんで何も悪いことをしていない俺が、こんな奴の所為で面倒を被らなければならないのか。


 取りあえず、二度とするなとだけ言い捨ててその場を去ることにした。背を向けた瞬間にしゃがみこめば、フルスイングの横振りが頭上を通過した。


 念入りにオモプラッタをかけておいた。女は良い声で鳴いた。

 流石に三度目のチャレンジはなかったのが幸いだった。





 ――いいや、不幸だった。


 家に帰り飯を食い、翌朝学校に行き、鼻歌まじりに帰ってみれば何故かコイツが俺の部屋にいたのだ。

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