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パルクール・サバイバーRe:System  作者: 桜崎あかり
System2
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サバイバーの幕開け


 午前12時、近場のファストフードで再び昼食を取ろうと考えたのだが、蒼空あおぞらかなではラーメンを食べる事にした。

ガジェット装備のままで商店街を通るのだが、特に通行人が指をさすような事はない。この光景にも慣れてしまった、というべきだろうか?

「近場でラーメン店は―?」

 蒼空が立ち寄ろうとしたラーメン店の入り口には『本日休業』の看板が掛けられていた。臨時ではないので、定休日と言う事だろう。

しかし、珍しいラーメンが存在するとネット上では話題だったが休業日では仕方がない。

今回はラーメンを諦めて、別のファミレスへ立ち寄ってパスタでも食べる事にした。

ガジェット装備のままでは店内に入る事は出来ないという事情がある為、仕方なく北千住駅まで引き返す事になった。

若干面倒ではあるのだが、そこにあるアンテナショップでガジェットを返却するのを優先する。

ガジェット装備と言っても、パルクール・サバイバーで使用しているのは大型タイプなので、一般的なARジャケットとサイズがケタ違いという事情もあるが――。

アンテナショップへ足を踏み入れた蒼空、書類の方もタブレット端末で項目にチェックを入れ、そのデータを提出した。



 その際、店員はある事に気が付いた。

その店員は即座に気が付かなかったのだが、別のスタッフが項目を見て不審に思った個所があるらしい。

一体、何に気付いたというのだろうか。偽物のカードであれば認識の段階でエラーが出る為、認識出来た事に違和感を持ったようだ。

「お客様、パルクールプレートはお持ちでしょうか?」

 一般で聞かないような単語で説明されてもさっぱりだったので、改めて分かるように蒼空は店員に対して説明を求める。

すると、別の意味でも予想外の話になった。

「パルクール・サバイバルトーナメントでは、自動車で言う普通免許を習得することが義務化しております」

 アンテナショップであっさりとガジェットを借りられたのに、ここにきて予想外の展開である。

一部のエリアではARガジェット用のライセンス関係を簡略化していたり――ライセンス取得その物をなしでプレイできる場所もあるのだが――。

「免許? そうなると、今回のガジェットを使った一連の行動は、無免許運転と同じ扱いに――」

 無免許運転が発覚した場合、警察だと逮捕されてもおかしくない。

サバイバーでどうなっているのかは不明だが――一種のペナルティは避けられないだろう。

「ご心配なく。これはARガジェット未所持のユーザーに対してのみで、他にARガジェットを所有しているというプレイヤーには免許取得の講習に出ていただければ、一応の問題にはなりません」

 ARガジェットに関しては、別ゲームのIDカードがあったはず。

蒼空はそれをスタッフに見せるのだが、それで事態が好転するかどうかは分からない。

「どちらにしてもパルクール・サバイバルトーナメントのエントリー前じゃないですか?」

 考えてみると、レンタルガジェットを借りた段階でエントリーはしていないはず。

そこも確認していれば、このような展開にはならなかった……と後悔しても遅いかもしれないが。

「ガジェットの使用前に提示義務が発生するはずですが……」

 表示義務はアンテナショップでも確認する事が必須となっており、そうなると……?

「提示、義務?」

 蒼空の頭の中も混乱している。

自分はARガジェットのプレートは持っていたが、パルクール・サバイバルトーナメントの物は未所持だ。

このままでは無免許運転として逮捕されてしまう可能性もある。

「――すみません。少し、待っていただけますか?」

 先ほど見せたIDカードの影響かどうかは不明だが、誰かに呼ばれた男性スタッフが一時的に席を離れる。

どうやら、別のスタッフから呼び出しがあったらしい。

その間、自分は何もやる事がない為か私物のARガジェットで他のARゲーム情報を検索し始める。

「どちらにしても、無免許の場合はペナルティがカウントされる。それはマニュアルを見た時に確認済。そうなると、エントリー可能タイミングがずれる可能性もあるのか」

 悩んでも仕方がないのだが、やむ得ない理由があっても無免許でランニングガジェットを運用した事実だけは覆らない。

蒼空は神にも祈るような気持ちで結果を待つ。ネット上で調べた情報を確認する限りでは、即逮捕などはないらしいが……。



 5分後、先ほどのスタッフがこちらに戻ってきた。

手元には何かのパンフレットとタブレット端末の様な物の箱を持っている。一体、これはどういう事だろうか?

「先ほど、ガジェットの返却に来たというショップ関係者の方がこちらにいらしまして、今回の一件に関して事情説明がされました――」

 どうやら、自分にガジェットを貸してくれた人物が回収の為に姿を見せたらしい。

そこで事情説明があり、その際にタブレットを受け取ったようだ。

「あなたへのライセンス発行は数日の間、受理されない事になりました。あくまでも、それがパルクール・サバイバルトーナメントの規則ですので」

 やっぱりという表情で蒼空が落ち込む。

しかし、発行停止だけで他には何も言う事はなかった。本来であれば罰金も10万円前後で発生する。

最悪のケースであればライセンス発行が1年停止というケースもあるのだが、そこまでのペナルティを受けた人物はいない。

ARゲームを使った犯罪は増加傾向だが、一部のARゲームで厳格なルールを設定している事で、最悪の展開を回避しているのだろう。

「しかし、向こうもガジェットプレートの確認は行った事は言及していたようですが、パルクールプレートに関しては完全に手違いと認めています。これに関してはアンテナショップ側のミスですので、罰金はアンテナショップが負担する方向で話をしました」

 罰金に関してはアンテナショップ側のチェックミスという事になり、ショップ側が全額負担で対処するようだ。

その部分に関しての話を含めて事情説明に手間取ったらしい。

「このパンフレットに書かれているセンターならば、何処でも受験できます。インターネットやARガジェットからの予約も可能ですので、ご都合の良い日に講習を受けて下さい。それと、このタブレットはアンテナショップ側のお詫びの品と言う事で―」

 手渡されたパンフレットには、講習センターの場所が書かれている。

西新井、竹ノ塚、北千住、梅島、花畑、保木間等にセンターがあるらしい。

何処のセンターで受けても問題はないようなので、西新井のセンターで受ける事を蒼空はスタッフに伝える。

「では、こちらの書類データに予約のスケジュールを……」

 その後、予約に関しての手続きをスタッフと一緒に行い、4月6日に受ける事も決まった。

ライセンスの発行可能となる日が、丁度4月6日だったというのもあるが。

「このタブレット端末は、パルクール・サバイバルトーナメントで使用するルールやガイドラインをまとめたマニュアルになります。これを当日、講習センターへ持って行けば予約の確認もスムーズになる事でしょう」

 こうして、長いようで短いパルクール・サバイバーの初体験は終わった。

改めて思うのは、これだけハイテクなスポーツが実際はARゲームから派生し、それが大ブレイクしたという現実である。

これに関しては、自分でも未だに実感が湧かない。



 パルクール・サバイバルトーナメント、それは『東京都足立区と一部区域をレース場に見立てた障害物競走』とネット上に広まった異色のエクストリームスポーツである。

ネット上ではフルネームで呼ばれる事は少なく『パルクール・サバイバー』と省略された名称で呼ばれる事が多い。

競技人口は開始当初こそ1万人弱だったのだが、現在は10万人に迫るような勢いで競技人口が増えつつあった。

パルクールの競技人口を考えると双璧をなすまでには至らないが、ネット上ではさまざまな動画がアップされる程のコミュニティ力を持っている。

一昔前のソーシャルゲームと同じように二次創作がフリーになっている事もあって、爆発的な広がりに貢献したと言える。

余談になるが、超有名アイドルの方はファンクラブが出す公式本以外は二次創作が波及せず、裏サイトでBL夢小説等がアップされているという噂も存在している。

しかし、これに関して芸能事務所側は否定している。中にはBL作品ではない作品をBL化しようと言う様な勢力も存在するのだが――。



 その一方で、パルクール・サバイバーには問題もあった。

映画やゲームの題材でもパルクールが取り上げられる事もあるが、そこではビルとビルの間を飛び移る等のようなアクロバットに近い動きや演出がピックアップされているケースも存在する。

その結果として実際に試そうとして大怪我をするような事故がピックアップされ、それがパルクール・サバイバーでも起こるのでは――とネット上で拡散していき、それが不安をあおるような結果になっている。

このままではパルクールへの風評被害も避けられないと判断した運営は、事故防止を目的としたシステムの変更を検討、その過程で別のゲームに使われていた技術であるARガジェットとパワードスーツを融合、パルクールをより安全に進行する為のランニングガジェットを開発する事に成功した。

ランニングガジェットは、ナビゲーションシステムを標準装備、それ以外にも特殊合金で出来たアーマー等の驚異的とも言えるような機能を多数搭載している。

しかし、その全貌は未だに明らかになっていない部分が多く、それらが公表されていない理由に軍事転用が懸念されている話が存在しているのだが、運営が公式見解を出していない為に真相は不明である。

軍事転用と言えばランニングガジェットに限った話ではないのだが、同じような武器モチーフとしたARガジェットの傾向というよりも宿命に近い。



 1月に行われたという謎のロケテストと思われるようなイベント――それとパルクール・サバイバーを紐付けしようと言う動きもある。

しかし、こちらに関しては一部のネット炎上を狙った人物による犯行という事が有力となっており、関連性は薄いと見るべきだろうか。



 ARゲーム自体が手探りで運営されている為、様々な部分で課題は存在する。

ARガジェットを使用した犯罪も増加傾向にあり、テレビ局によっては芸能人の薬物による逮捕等の事件よりも大きく取り上げるだろう。

これに関しては視聴率稼ぎとネット上で炎上する事になったのだが――実際は何か別の目的がある可能性もあるだろうか。



 お昼の12時45分、アンテナショップで色々と手続きが大変だった為に遅い昼食となった蒼空、ミートソースパスタとサラダバー、アイスコーヒーと言う組み合わせの昼食を食べながら近くにあったセンターモニターを確認する。

『先ほど、CDチャートの不正水増し、偽メダル転売等の容疑で芸能事務所への家宅捜索が――』

 蒼空の見ていたニュースは、所属アイドルのCDチャート不正水増しの疑惑があった芸能事務所へ家宅捜索が入ったというニュースである。

握手券商法は未だに規制されるような気配はなく、まずはCDチャートの水増しを規制するのではなく、そちらを優先するべきとニュースを見ながら思う。

それよりも悪質な事例はCD大賞の最優秀賞を金で購入したという芸能事務所だろうか。こちらは今回家宅捜索を受けている事務所とは無関係だ。

しかし、今回の家宅捜索を受けた芸能事務所はライバル関係だったという話もネット上には存在している。

「偽メダルの転売って、芸能事務所も関係していたのか?」

 彼の隣で紅茶を飲んでいた男性客が驚きの表情をする。

どうやら、この芸能事務所に所属しているアイドルのファンのようだ。

その驚きは自分も犯人としてリストアップされるのではないか、と言う不安の表情を見せる程。

「そのメダルって、巷で有名な……」

 蒼空もネット上での話でしか知らないのだが、某作品に出てくるメダルの偽物グッズを芸能事務所が転売に加担していたという事らしい。

しかし、何か矛盾があるような気配はする――。

『今回の事件に関係して、狙撃された芸能事務所の社員も逮捕され、その所持品から色々な作品の偽グッズも発見――』

 マスコミのニュースが信用できないという訳ではない。

しかし、どう考えても超有名アイドル以外のコンテンツを強引にでも規制、超有名アイドル以外は日本のコンテンツとして認めないという風潮にしようとしている流れである。

金の力で芸能事務所は日本の政治さえも影で操ろうと言うのだろうか? 真相は謎のままである。

「一体、パルクール・サバイバーで何が起こっているのか……」

 食事を終えた蒼空は自宅へと戻り、ネットをつないで真相を確かめようとするのだが、ニュースで報道された事に関しては矛盾が多いと批判するつぶやきのまとめ等も既に出来上がっている。

しかし、そのまとめは意図的に複数の部分で捏造されており、超有名アイドルが日本の唯一と言えるコンテンツであるという事を強調するかのような文章に書き換えられていた。

それを叩く書き込みも超有名アイドルファンと言う構図――どう考えも自作自演と言わざるを得ないだろう。

「これは、どう考えても超有名アイドルを抱える芸能事務所によるマッチポンプの疑いが……」

 まとめサイトと並行してチェックしていたのは、アカシックレコードを記したサイトである。

そこにも超有名アイドルによるコンテンツ支配の危険性が指摘されているのだが、このサイトの発言内容が何かに酷似していると思った。

「アカシックレコード、このサイトは阿賀野が作ったものなのか?」

 蒼空はアカシックレコードを阿賀野菜月あがの・なつきが作った物と決めつけていた。

しかし、この決めつけが後に決定的な間違いとパルクール・サバイバーの真実を知る事になるきっかけになるとは、この地点の彼には分からなかったのである。



 4月5日午前10時、テレビのニュースでは偽メダル事件で芸能事務所が記者会見を開き、そこで無実であると公表した。

その上で事務所の社長は、会見の場で予想外の事に関して言及した。

『今回の一件は超有名アイドルを抱える大手芸能事務所1社による陰謀であり、所属アイドルを引き抜こうという動きが見て取れる』

『その為、今回の偽メダル転売事件は本物のメダルを販売するコンテンツ会社と我々を同時に潰そうと考え――』

 その後を続けようとした社長が突然、動きが止まったかのように倒れる。

そして、数十秒後に再び置き上がるのだが、その様子は先ほどとは大きく異なっていた。

『先ほどはカメラのフラッシュが原因で、急に倒れてしまいました。申し訳ありません』

 どうやらカメラのフラッシュが原因と言う事で倒れただけらしい。

救急車を呼ぼうとしたマスコミもいたようだが、早とちりと言う事で連絡を取りやめた。

『話を続けます。偽メダル転売事件に関しては、本物のメダルを販売するコンテンツ会社が我々を潰そうとした陰謀です!』

 この話を聞いたマスコミは動揺をし始めた。先ほどと言っている事が全く違う。

それに関して別の新聞社が質問をした所、想定外とも言える発言を行ったのである。

『この陰謀に関しては、もうひとつの首謀者がいます。それは、男性超有名アイドルのBL作品を書いている勢力――フジョシ。彼らは様々な事情で超有名アイドルではなく、違う漫画作品の非BL作品を利用してBLの夢小説を書き、更にコンテンツ業界を混乱させています!』

『その動きを察知し、正しい方向に導いているのが超有名アイドルグループの――』

 蒼空は記者会見の途中でテレビを別の通販番組へチャンネルを変える。

おそらく、途中で動かなくなったのは何かのシステムによる影響だろう。

そして、事件の犯人をすり替えたのも超有名アイドルの仕業である。催眠術師でも使ったのか、それとも魔法的な何かでも使ったのか?

真相が判明したとしても、即日ではなく――。

「記者会見だけじゃない。マスコミも手を組んだ大きな茶番。それが、パルクール・サバイバーに訪れようとしているコンテンツ流通の危機―」

 阿賀野が言っていた事は被害妄想ではない。

真実となってしまった、と。他にも阿賀野の発言を一種のネタであると笑い飛ばした一部勢力も黙っていなかった。



 同時刻、同じテレビの記者会見を見ていたノブナガはテレビの液晶を叩き割りたい気分に襲われた。

「単純にB社の芸能事務所がA社の超有名アイドルを宣伝させ、彼女たちこそが日本唯一のアイドルと言う事を宣言する――まるで、アカシックレコードで書かれていた超有名アイドル勢力のテンプレではないか!」

 怒りが有頂天のノブナガは別の部下を数人呼び出し、勢いだけで指令を出した。

「ヒデヨシよ、この超有名アイドルのプロデューサー、この人物に関しての真実を暴きだすのだ」

 ノブナガの前にいる男性、ヒデヨシに対して色々な説明を行う。

超有名アイドルのプロデューサーである彼をパルクール・サバイバーのフィールドに引きずり込み、そこで彼の行った事を暴露しようというのだ。

「了解しました。ノブナガ様――」

 その後、ヒデヨシはノブナガの事務所を出て行き、何処かへと向かったのである。

「向こうがマッチポンプと言う手段で超有名アイドルコンテンツが唯一無二と訴えるのであれば、こちらも逆の発想で利用するまで……」

 そして、ノブナガはテレビの記者会見を引き続き、様子を見ながら視聴していた。



 同時刻、他の人物と同じ記者会見を見ていた阿賀野は悔しがっていた。

これでは、自分が完全に悪扱いをされる可能性が高い。むしろ、注目度が上がるのは自分にとっても損な役回りではないのだが。

「パルクール・ガーディアンを含め、サバイバー参加者を全て悪と判定し、超有名アイドルの都合のよいコンテンツにしようと改悪まで考える……」

 阿賀野は周囲からは被害妄想と言われている事が、現実になった事に関して懸念を抱いていた。

これがアカシックレコードによる未来の可能性なのか、と――。



 一方、別のインターネットカフェでは、いかにもサラリーマンを思わせるような私服姿の男性が紅茶を飲みながら一連の記者会見を見ていた。

「これが超有名アイドルのやり方か……やはり、あの時にサバイバー運営を離脱したのは正解だったのか」

 花江提督、彼は過去にサバイバー運営でさまざまな物を目撃し、ある日を境にして辞表を提出したのだ。

そのある日とは、ARガジェットの暴走事件である。その暴走事件の最中、彼は辞表を提出、運営を離脱する。

しかし、運営側は彼の離脱を止める事はしなかった。それに加え、彼を事件の犯人として疑う事もしなかったという。

運営を離脱後は、サバイバー運営の様子を見ながらも単独行動で運営や他勢力の動向を見極めていた。



 花江提督の離脱から数日後、暴走事件は超有名アイドルファンによる風評被害を拡散する為の物である事が判明した。

これによって、いわゆるアイドル投資家ファンに対する風当たりが悪化、規制法案を望む声も上がる。

しかし、この声が届く事はなかったと言う。

「今は、これから動き出す有力人物……彼女の動向を見極めるのが優先か」

 花江提督のタブレット端末に表示されていたニュース、そこに書かれていたのはサバイバー運営の交代を伝えるニュースだった。



 午前10時に行われた偽メダル事件を受けての記者会見、そこで事務所の社長が自分達は無実であると公表していた。

しかし、彼は会見の場を利用して予想外の事に関して言及したのである。

『今回の一件は超有名アイドルを抱える大手芸能事務所1社による陰謀であり、所属アイドルを引き抜こうという動きが見て取れる』

『その為、今回の偽メダル転売事件は本物のメダルを販売するコンテンツ会社と我々を同時に潰そうと考える――』

 その後に何かを続けようとした社長は動きが止まったかのように倒れたのである。

そして、数十秒後に再び置き上がるのだが、その様子は先ほどとは大きく異なっていた。

「カメラのフラッシュは止めてください」

 スタッフの一人が呼び掛け、取材陣はフラッシュを止める。

一体、社長の身に何が起こったのか? その後で倒れた原因がカメラのフラッシュと説明され、救急車を呼ぼうとしたマスコミも早とちりと言う事で連絡を取りやめる。

しかし、単純にフラッシュが原因で倒れたとは思えないような発言がこの後に飛び出すとは予想にもしてなかった。

『話を続けます。偽メダル転売事件に関しては、本物のメダルを販売するコンテンツ会社が我々を潰そうとした陰謀です!』

 この話を聞いたマスコミは動揺をし始めた。先ほどと言っている事が全く違う。

陰謀説と言うのも初耳だが、彼が嘘を言っているような気配にも――と言う雰囲気もあり、会見は続行された。

その後も、さまざまな発言が飛び出したのだが、それ以上に驚きの発言があったのは――。

『その動きを察知し、正しい方向に導いているのが超有名アイドルグループのサマーフェスティバルです! 彼女達は音楽業界に現れたジャンヌ・ダルク……間違いなく、コンテンツ業界における英雄なのです!』

 この後も質疑応答が行われたが、宣伝と言う事に関しては『全く違う』と否定している。

テレビのニュース番組、お昼のニュース等でも記者会見の模様は放送されたが途中から発言が変化した部分は放送されていないケースが一部で存在していた。

一体、あの勢力は何を訴えようとしていたのか? どちらにしても、この行動が一種の発言を歪めると言う事なのだろう。

しかも、やろうと思えば容易に改変可能なつぶやきサイト等に代表されるソーシャルメディアではなく、テレビの記者会見という改変不可能な要素もありそうな物で――。

【明白的に宣伝だな】

【あの芸能事務所、大手からいくらもらっているのだろうか】

【もしかすると、CDランキングやテレビ番組等の部分も超有名アイドルが掌握しているのかもしれない】

 つぶやきサイトも、相変わらずの口調で超有名アイドルが日本のコンテンツ産業を掌握していると言及。

しかし、これらも炎上商法の一種と考える人物も少なくはない。

「なるほど。こうしたマッチポンプがコンテンツ業界でも行われているのか。建設分野の談合と同じようなものでは――」

 西新井近辺のコンビニ前、そこには三国志の諸葛孔明と似たようなデザインにセーラー服を足したような衣装を着た女性が一連のつぶやきを見ていた。

「コレが現実だとすれば、全ての分野は超有名アイドルの芸能事務所が支配している事になる。おそらく、ゴリ押しの海外進出も可能とする法律を国会へ提出する事もあり得るか」

 青髪のボブカット、若干の貧乳という外見の人物は、すぐに何処かへと姿を消してしまった。

彼女は一体何を知っていると言うのか?



 午前12時、この記者会見に関してのニュースは全く取り上げなくなっていた。

それだけではなく、社長を含めた関係者が一斉に逮捕され、事務所も無期限活動停止という趣旨のニュースも一緒に報道されている。

『今回の一件を受けて、サマーフェスティバルの芸能事務所は関与を否定、事務所側の独断で行われたパフォーマンスであると――』

 ニュースの報道をチェックして、ため息をしていたのは竹ノ塚の自宅でお昼を食べている人物がいた。

身長170センチ、黒髪ロングの女性である。

自宅は一軒家なのだが、一人暮らしと言う訳ではなくシェアハウスに近い雰囲気だ。

一軒家には違いないが、実際は廃業したゲームセンターをリフォームした物。そこには、一部の音楽ゲームも置かれており、それらは実際にプレイ可能と言う状態になっている。

彼女のいる部屋は防音設備が完璧であり、隣のゲーム部屋からの大音量が漏れてこないのは非常に大きい。

テレビの置かれた部屋は食事部屋でもあり、キッチンも冷蔵庫を含めて完備、自炊も可能だ。

その一室には別の女性がお昼を食べており、彼女はきつねうどんをすすっている。

「まさか、違法ガジェットを売りさばくバイヤーだけを狙うはずが……こんな事になるなんて」

 彼女は、ある行動を終えてからは別のゲームセンターへ向かった。

その後は自宅へ戻り、現在に至る。今回の件に関しては報酬を出すという事だが、彼女は納得がいかないようだ。

【報酬は何時もの所に入れておく。引き続き違法バイヤーの駆逐を頼む】

 依頼人からのメールは来たのだが、今回の大事件に関してはコメントがない。

あえて黙っているつもりなのか、首を突っ込むなと言う警告なのかは定かではない。

「しかし、違法バイヤーが他のARゲームにも進出している事実は変わりない以上、今はバイヤー駆逐と違法ガジェットの摘発が急務か」

 テーブルに置かれた焼きそばを食べ始め、彼女はテレビのチャンネルを別のニュースが放送されているテレビ局へ合わせる。

『臨時ニュースをお伝えします。先ほどサマーフェスティバルが中堅のARゲーム専門メーカーと提携する事が発表されました』

 ニュースを合わせたタイミングで臨時ニュースが報じられ、そこには芸能事務所社長が中堅のARゲーム専門メーカーと提携する事を発表していたのである。

これには、彼女も衝撃を受けた。おそらく、このニュースを見たARゲームのランカーは同じ反応である可能性が高いだろう。

「遂に動き出したか……。あるいは、本性を見せたと言うべきか」

 このニュースによると資本提携だけではなく、サマーフェスティバルを題材としたゲームを開発する事も同時に発表、更なる業界の発展が期待できると言う事らしい。社長以外には誰も姿を見せていない為、おそらくは何かの陰謀ではないかと考える人物がいる可能性もある。

「これが、超有名アイドルを大手企業並みに税制優遇した事にも繋がると言う事か」

 ここまで来ると、超有名アイドルが日本の経済にはなくてはならない要素―とまで言える状態なのは間違いない。

しかし、それは幻想でしか過ぎないのは彼女には分かっている。

「阿賀野菜月か。彼女を放置するのは危険だが、依頼人からは放置しておけと指示されている以上は手が出せない」

 上条静菜かみじょう・しずな、彼女は依頼人からの依頼で動く本格的なハンターなのだが、殺人依頼は一切受けないARゲーム専門の凄腕スナイパーなのである。

過去には複数の事件を解決していくのだが、その背後にあったのは超有名アイドルの芸能事務所だった。

彼女と超有名アイドルには切っても切れない縁があるのだろうか。それを上条自身が語る事はない。

上条も阿賀野菜月に関しては危険視をしている。

 彼女の思考には超有名アイドルを全て排除し、別のコンテンツを立てれば解決するという単純な野望が見え隠れするからだ。

その為、今回の違法バイヤーに関する一件に関しては納得がいかないのである。

違法バイヤーを駆逐したはずが、その正体は芸能事務所のプロデューサーだったという事実。芸能事務所が行った違法行為を間接的にだが表面化させてしまった事に、悔しさがあふれていた。依頼人が阿賀野と言う訳ではないが、彼女によって踊らされている事は否定できないだろう。

「どちらにしても、超有名アイドルの放置はリスクがあり過ぎる。このままでは、日本のコンテンツ業界は崩壊のシナリオを選択する事になるかもしれない」

 食事を終えた上条は、後片付け後はゲーム部屋の方へと移動していき、そこでいくつかの音楽ゲームを食後にプレイする。

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