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決定戦、その裏で(前編)


 5月28日午前10時35分、他の選手も次々と2周目に突入を開始する。

レースのトップは蒼空かなで、そこから距離が離れる事200メートル近くの位置には花江提督と秋月彩、その背後には小野伯爵、島風、衣笠、阿賀野菜月と言う順である。

『2周目に突入したのは21名―現状ではリタイヤした選手はいません。果たして、2周目ではどのようなドラマが起こるのか?』

 実況の太田さんも熱が入る。それ位の激戦が展開されている為なのだが、まだまだ誰にでも優勝の可能性は残されている。

「前回のレースは途中からトップランカーのワンマンショーと言う展開になった流れもあった。しかし、今回はどうなるのか」

 レースの様子を少し遠めのファストフード店の入ったビルから眺めていたのは、私服姿の如月トウヤである。

その隣には誰もおらず、一人で遅い朝食を食べているようにも感じられた。

「勝負の結果は二の次としても、今回のレース運営は色々な意味でも綱渡り状態なのが気になる所だ」

 如月はテーブルに置かれているタンブラーに入ったコーヒーを飲みながら、レースの様子を動画サイトの中継映像と合わせて観戦する。



 同刻、2位の位置にいる花江提督は直線距離を走って行く中で様子がおかしいと感じ始めていた。稲荷三丁目の信号を目前としたエリアで人混みの多い場所があったからである。

「何かあった可能性もあるが、今はレースに集中するべきか―」

 花江提督は若干気になりつつも、現状では情報が少ない事もあってレースに専念する事にした。他の選手も素通りが多く、振り向きもせずに通過する選手もいた位だ。

おそらく、気になったのは蒼空と花江提督、後続の花澤提督位だろうか。

阿賀野菜月も素通りした位なので、アカシックレコードには関係ないような気配だが――。

「ヴェールヌイが大幅に出遅れた事、それも関係しているような――」

 花江提督同様の重装備ガジェットを使用している花澤提督は、今の人混みとヴェールヌイが大きく出遅れた理由に関連があると考えていた。

しかし、今はそちらよりもパルクール・サバイバーに集中すべきと結論を出し、こちらも立ち止まる事はせずに先へと進んだ。

他の選手が立ち去った頃、小松提督が映像の確認をしている。

人混みが激しかったのは、別の人物がARファイティングと言う2.5次元格闘技を行っていた為である。

「先ほどの別システムによるアクセスだが、外部から行われた可能性があるようだ。今はコースより大分離れた場所でARファイティングが行われているが――」

『そちらの方は特に関係ないだろう。ヴェールヌイとレーヴァテインの交戦記録を確認したが、これは向こうの運営に問合わせ中。しかし、現状ではノーコメントとしている』

「そうか……どちらにしても、超有名アイドルとの関係も疑われるだろう」

『しかし、向こうも総支配人、イリーガル秋元を含めて関係者はほぼ逮捕されている。残るは解明されていない情報を持っているとされる総理大臣だが』

「向こうは、こちらでは手が出せない。警察か第3者機関に任せるしか方法はないだろう」

『今回の妨害工作はパルクール・サバイバーと企業が手を組む事に反対している勢力の――』

「どうした? 通信にノイズが入り始めているが、そちらの方はどうなっている!?」

 小松提督と会話をしていたのは、ゲーセンのフードコートで軽い食事をしていた大塚提督である。

中村提督は太田さんの解説に回っており、大塚提督とパイプを持っている人物は出払っている状況だ。

通信が途絶えた後、小松提督が映像解析を進め……赤い改造提督服を着ている男性の姿が鮮明ではないが確認出来た。

「どちらにしても、運営の把握していない第3勢力が動いている証拠か」


 

 同刻、草加市のゲーセン内にあるフードコートでは大塚提督と遠藤提督が軽い食事を取っている。

その最中に小松提督の連絡が入ったが、途中で連絡は途切れてしまった。

「さっきのノイズは――」

 大塚提督がシステムを起動しようと考えたのだが、エラー表示の為に起動できないでいる。

「ゲーセンに置かれたオンラインゲームは、特に異常がないという事は……特殊なガジェットに対して発生する妨害電波か?」

 遠藤提督はシステムエラーに関して、特殊なガジェット限定で発生していると考えていた。つまり、ランニングガジェットを含めた特殊ガジェットをピンポイントで狙った物かもしれない。

【パワーバランスだと言ったはずだ。超有名アイドルと別の勢力がお互いにぶつかりあい、それをネットで煽って炎上させる……】

【更にはグッズの収益は何割かが税金としてこちらに来る。しかし、超有名アイドルばかりが強くても―一部の投資ファンだけしか税金を支払わないのと同じだ】

【超有名アイドルファンだけが生き残るような格差社会にするのは、政府としても都合が悪かったという事か】

【そうした状況が原因で起きた事件、それがAI事件だ。あの事件が起きてからは超有名アイドル商法に対する風当たりも悪化した。その辺りはアカシックレコードで見覚えがあるからご存知だろうな】

【一次創作を噛み砕き、一次創作を生み出すように仕向け……更には、それらを超有名アイドルの財力でピンポイントに叩き、極めつけには超有名アイドルは正義と言う事を全世界ヘアピールすると言う事か】

【今の発言をネットで拡散する気か? そうはさせない。超有名アイドルファンと言う都合のいい収入源を失う訳には、日本政府としても認める訳にはいかないのでな】

 つぶやきサイト上では、謎の怪文章が流れていた。どうやら、フジョシ勢が思いついた夢小説であるようだが、どう考えても扱っているのはイリーガル秋元のようにも思える。



 謎の怪文章は拡散から1分足らずで首謀者が特定され、フジョシ勢と騙ったアフィリエイト系まとめサイトの管理人だと言う事が判明した。

何故、ハイスピードで特定されたのかと言うと……そこには如月が関係していたのが理由の一つらしい。

【その場で謝罪したとしても、それで許されるような物があるとは思えません。違法ガジェットの正体も、元々はARガジェットを違法に解析して作り出した物――】

 しかし、首謀者が特定されても文章の拡散は続いていた。

そして、ある文章はネット上で衝撃を与える程の破壊力を持っていたのである。

それは、違法ガジェットの正体に関係する文章だったのだが……。

【違法ガジェットは、本当に違法だったのか?】

【下手をすれば、コンテンツガーディアンに捕まるのでは?】

【そうなると、ランニングガジェットの正体は――】

【それ以上事態を混乱させれば、フジョシ等がネット炎上のネタに――】

【このままではAI事件の二の舞か?】

 時は既に遅く、大塚提督たちが懸念していた事は現実になろうとしていた。

ランニングガジェットの件がネット上で拡散し始めている頃、不安なネット住民に対し、ある人物が取った行動は――。

「今は、サバイバーに集中すべきだ。違法ガジェットや超有名アイドル商法は完全に二の次……この会場でサバイバーを楽しんでいるファンやユーザーにも失礼のはずだ!」

 声を上げたのは蒼空かなでだった。彼はきっかけがどうであれ、今はパルクール・サバイバーを楽しんでいる。

だからこそ、ランカー王決定戦の時間が楽しいと感じている。

それに水を差してネット炎上させようとするのは、超有名アイドルのブラックファンが使用する常套手段でもあった。

「この時だけでも、ランカー王を楽しみにしているユーザーの為にも、ネットの反応は二の次に楽しむのが一番じゃないか!?」

 蒼空の声を聞いて、同意をする人物は多い。更にはレースに参加している花澤提督、花江提督、実況席へと移動した中村提督も―。



 午前10時35分頃、北千住のサバイバー本部では一連のネット炎上によって回線のパンクが起きている事が報告された。

下手をすれば、ARガジェットの機能停止も避けられないだろう。おそらく、ネット炎上を狙っている勢力の目的は……。

「サーバートラブルの狙いは何だ? イリーガルが逮捕されている以上、超有名アイドル側が動けば――」

 サーバー管理を任されていた人物が慌てている。その一方で、別の場所で様子を見ている小松提督は何かのタイミングを待っていた。

「ネット炎上勢が一部以外で超有名アイドルに肩入れするとは考えられない。それに、フジョシや夢小説勢も下手に芸能事務所側が動けば自分達に不利になる。もしかして、タニマチやFX投資勢なのか――」

 しかし、結論を急げば急ぐほど勢力の絞り込みは困難となる。

本部では慌てている様子を見せる一方で、小松提督はアカシックレコードのサイトを調べる事にした。

「サバイバーの開催前にあったメッセージが消えている? 過去ログに移動したとも思えないが……何があったのか」

 トップページを見た小松提督は、予選が始まる前に掲載されていたメッセージが削られている事に気付いた。

そして、このメッセージが消えた意味をたどろうと考えたのだが、そこへ別のメッセージが流れてきたのだ。



 午前10時40分、ネットに拡散した情報に惑わされる観客やユーザー、全ての選手に対してランカー王決定戦に集中すべきと発言したのは蒼空かなでだった。

「この時だけでも、ランカー王を楽しみにしているユーザーの為にも、ネットの反応は二の次に楽しむのが一番じゃないか!」

 蒼空の声を聞いて、同意をする人物は多かった。

「その通りだ。闇のアカシックレコードに関しては、レース後にでも真犯人を探る事は出来る」

 レースに参加している花澤提督も蒼空の一言を聞いて、何かを感じていた。

過去のワンマンレースになってしまった、あの時と同じ事を起こさない為にも……。

「ランカー王のレースは終わっていない。終わったことを前提にした発言はするべきではないだろう」

 花江提督も今はサバイバーに集中すべきという意見には賛成した。



 午前10時45分、レースは3周目に突入する。観客の方も蒼空の発言を受けて、下手な炎上コピペには反応しないという事になった。

【確かに、蒼空の言う事にも一理あるな】

【サバイバーのレースは終わっていない。終わってからの評価は、後ですればいい】

【炎上狙いのコピペや煽りに惑わされる事で、事態の混乱は加速する】

【恐怖をあおってネット上の混乱を狙うのは、炎上勢だけの物ではない。詐欺まがいのサービスや商法も同じような手法を使うと聞く――】

【超有名アイドル商法が、いつからか詐欺商法と同一視され、それが風評被害を受けるようになった。それでも、彼らは税金を回収する為に商法を続けた結果――】

【総理大臣の私物となっていた超有名アイドルは、法律で全面禁止すべきだ! フジョシや夢小説勢の環境を守るべきだ――】

【アイドルの存在さえも規制される世の中になったら、コンテンツはフジョシや夢小説勢の独断場になるだろう――】

 様々なつぶやきの中には炎上狙いのコピペも混ざっているのだが、その状況は次第に解消されるようになる。



 同刻、ネット上の炎上コピペを確認していたのは小松提督だった。調べ物の途中で、炎上コピペの事が気になっていたのである。

それを感知していたのは小松提督だけではなく、小野伯爵も同じだった。そして、彼はペンデュラムを起動する。

【炎上コピペはペンデュラムの力で抹消した。犯人で逮捕されたのは便乗犯だけでもある証拠か】

 小野伯爵が起動したペンデュラム、それは一部の人物が探していた第3のアカシックレコード……。。



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