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パルクール・サバイバーRe:System  作者: 桜崎あかり
System4
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黒の提督


 5月5日午前10時15分、周囲でさまざまな騒動が起きている事に関し、小野伯爵おの・はくしゃくは都内某所のアンテナショップ近くで一つの結論を弾きだそうとしていた。

「ネット上を恐怖させるような情報を拡散すれば、こうも広く……」

 繰り返されるデマ情報に踊らされるネット住民、そこに本物のニュースが挟まる事でデマ情報さえも真実の様に拡散される。

こうしたネット炎上は炎上マーケティングとしてマスコミや芸能事務所等の宣伝方法にも利用され、そのノウハウは第4の壁を超えた先でも展開されていた。

小野伯爵が懸念していたのは、こうした人を傷つけても平気と思わせるような事が――ビジネスモデルとして成立している事だったのである。

「その情報の信用性を確認しないまま拡散し、被害は広まる。そして、そこからあっさりと崩す事が出来る」 

 まるで、小野伯爵は情報に踊らされる事例を知っているかのような表情でつぶやきのタイムラインをみつめていた。

アンテナショップはランニングガジェット専門ではない。その他のガジェットも扱っており、その中にはリアル銃火器を思わせるようなデザインのガジェットもある。

その中で、小野伯爵はとあるランニングガジェットを見つめていた。

カラーリングこそ異なるが、それは花江提督はなえ・ていとくが使用するガジェットと類似している。

花江提督の使用しているのは試験型とも言えるガジェットであり、それを改良したのがショップにも流通しているタイプ――小野伯爵が見ているガジェットだった。

「聞いてみるか。あのガジェットについて――」

 それから数分後、小野伯爵はガジェットをレンタルしてある場所へと向かう事になった。



 同日午前10時20分、スタート予定からは20分もずれ込んでいる。特に違法ガジェットも発見されていないレースで、ここまで遅れるのは異例であるのだが、その原因は作っていたのは蒼空かなでが提案した一件だった。

『提案がある。パルクール・サバイバーを正常化する為にも、超有名アイドルとはレースで決着をつけたい』

 ネット上では、該当の動画が公式の配信前に出回っており、生中継で該当シーンを見ていた視聴者からもレースの開始を求める声が出ている。

しかし、パルクール・サバイバーではレースの遅延が日常茶飯事と言う事もあって、慣れている視聴者からは『平常運転か』と言う一言が出る位にとどまっていた。

マスコミの中には『ここまで呑気にしていていいのか?』という意見も少なからず存在し、一部のマスコミやネット炎上勢と言った勢力が一連の流れを調べている所である。

「こちらの方が大変な事になっているみたいね……」

 ラフな私服を着ている一人の女性が蒼空の動画を確認し、事態が急変している事を悟った。彼女の隣には、コロッケバーガーを一口かじる女性の姿もある。

一方の彼女は動画には一切興味を示さず、買い食いばかりをしているようにも見える。

ラムネ味フラッペと焼きそばパン、たこ焼きバーガーと言った珍しい類の食べ物を食べ歩きしているようにも見えるのだが……。

「超有名アイドルに興味はないわ。私は音楽に興味はっても、バーチャルアイドルとかアニメやゲームのアイドルユニットだけだから」

 彼女が動画に興味を示していないのは、単純に食べ物に集中している訳ではないようだ。それに加え、2人の女性はサバイバー運営に向かっている訳ではなく、先ほど北千住駅から会場へ向かっているのである。

「赤城さん、あなたと言う人は……」

 赤城と呼ばれた女性は、再びコロッケパンを食べ始める。

彼女の言う事に関しては同意する箇所はあっても、今は話したくないという事なのだろうか?

実際は食べ物に集中したいと言うのが現状かもしれない。



 同日午前10時25分、敵勢力の追跡を受けていたソロモンは秋葉原駅に入ろうとした矢先で何者かの襲撃を受ける。

大塚提督と会話をしている途中でBL勢に発見されてしまい、それから逃げていたはずなのだが――。

実際は超有名アイドル勢、BL勢、フジョシ勢と多数の勢力に追われており、その内のBL勢とフジョシ勢は撒いた。

しかし、それでもソロモンを追跡していたのは想定内の勢力だったのである。

「まさか、お前が全ての元凶だったとは」

 未確認勢力の正体は超有名アイドル勢の残党とサマーフェスティバルとサマーカーニバルの現役メンバー、更には秋元だった。

ソロモンの前に姿を見せた秋元はサングラスの何かを停止し、それとは別に銃型のガジェットをソロモンに突きつける。どうやら、彼らは戦闘の意思があるらしい。

『どの段階で気づいていた。最初から泳がせたのではなく、ブラックファンか炎上勢の書いたまとめサイトで気づいたのだろう?』

 ソロモンのバイザーには、金髪のサングラスという秋元の顔が見えるようになっていた。

どうやら、先ほど切ったのはシステムの電源らしい。

「そのようなあからさまな誘導には釣られないよ。孔明が逮捕された段階でチート勢が総崩れ、あえて気づいたタイミングを説明するならば、そこだな」

 秋元がソロモンをスパイだと気付いたのは最近であり、深い事情を知っていた訳でもない。

孔明逮捕のニュースを聞き、チート勢が総崩れである。

それに加え、ナイトメアの不審な行動も決定打となった。チート勢は、大きな釣針の一つだったと。

ソロモンは他の勢力にもガジェットを提供していた事もあって、そこから不審に思った秋元がガジェットの提供先を調査した結果――ソロモンにスパイ疑惑が浮上する。

「貴様が他の勢力にも恨みを買っていたのは、ネットでも一目瞭然。つまり、今回の事件は全て貴様のシナリオ通りだったという事か?」

 秋元が「シナリオ通り」と言った段階で、ソロモンは突然笑い出した。「何がおかしい」と突っ込もうとしたが、それさえもできないような状況なのは間違いない。

突如として笑い出したソロモンは、何かのシステムを作動させる準備を行う。

【アカシックモード・起動】

 ソロモンのメット内部に表示されたインフォメーション、この文字は秋元達には全く見えない。更にはソロモンの周囲から青い霧が展開されており、それに超有名アイドルは動揺している。

『シナリオ通りだと? 違うな! 全ては、こちらの想定内で動かされていた、と言う事……』

 ソロモンの鎧が消えたと思った矢先、秋元達の目の前に姿を見せたのは、青髪のツインテール、貧乳気味、白銀の提督服という女性である。それを見た秋元は、何かのトラウマスイッチが入ったかのごとくにおびえ始めた。

「ば、ばかな! お前はアイドル候補生だった……それが、何故に我々へ復讐を……」

 秋元の怯え方は普通ではない。まるで、過去に自分が蹴落としたアイドルを目の前に見ているかのような……。

周囲にいたアイドルは彼女に見覚えがないらしく、おびえる気配はない。逆に、彼女を倒せばレギュラーになれると考える人物もいたほどだ。

「超有名アイドル商法が間違っているという事は、アイドル候補生になってしばらくした所で知った。他にも音楽業界が隠したい複数の案件、出来レースのCD大賞、株取引と同様の状態となったCDランキング、更には自分達を売り込む為にありとあらゆる不正を行うように仕向けるネット住民――」

 彼女の言う事は間違っている……と秋元は訴えようとするのだが、彼女の威圧感がそれをさせない雰囲気でもあった。

「それが、どうして復讐につながる? そのような出来事は存在しない! お前こそ、ネット住民に操られているのではないのか?」

「こちらも最初は、ネット住民に誘導されていると考えていた。しかし、ある業界を知った事で全ては変わった」

 2人の話が続く中、戦闘意思のない超有名アイドル勢の中には撤退する人間も出ている。それ程、今回の争いには得がないと判断したのだろうか。あるいは、それよりも別の話題を探す為に撤退したのか。

一部のアイドルメンバーと秋元、ソロモンだけになった秋葉原駅近く。警察による立ち入り規制もあって、電車及びバスは秋葉原駅を通過と言う措置が取られていた。

「ある業界? まさか――!?」

「そのまさかよ。その流れで立ち上げたのが、パルクール・サバイバルトーナメント――」

「馬鹿な! 貴様がパルクール・サバイバーの提督だと言うのか」

「運営総責任者であるガレス、それが今の自分!」

 ガレスに装着されていくガジェットはパルクール・サバイバー用ではなく、別のARゲーム用のガジェットにも見える。

SFロボットと言うよりは、パワードスーツにも近いデザイン、所々には北欧神話をモチーフにしたアーマーも装着されていた。

「まさか、レーヴァテインも貴様だと言うのか?」

『残念ながら、レーヴァテインは自分ではない。あれは別の人間よ。パルクール・サバイバーとは無縁だと思う人物の単独行動とも言える』

「支配人に影武者をさせ、それが逮捕されたというのは――」

『あれはコンテンツガーディアンの単独行動。そこまでは察知していない。ただし、事前に潜伏情報を提供したけど』

「何処まで行動を把握していた? 我々が拝金主義コンテンツの優遇法案を出そうとしていた段階――」

『――勝った』

 ある一言を聞いたガレスは一言つぶやく。そして、秋元の周囲にいたアイドルはいつの間にか全て倒されており、残るは秋元一人だけになった。

「どういう事だ? 周囲のアイドルはどうした?」

『あなたの話を聞いて逃げたみたいね。結局、この日本を金が全てと言う世界に変えようとしたあなたには愛想が尽きた―と言うべきか?』

 秋元は周囲を見回すと、倒れているアイドルもいるのだが、その数は数人規模。半数以上は逃げたとしても、数が合わない事に秋元は何か思い当たる節はないかと考える。

「まさか!? あの時にシステムを切ったのが原因か」

 自分でシステムを切った事に気付き、再びシステムのスイッチを入れるのだが、時すでに……。

倒れているアイドルのコントールは解除され、逃亡したアイドルの方もシステムがサーチ出来る距離を離れ過ぎている。この状況ではシステムの再起動をしても、手遅れだった。

『マインドコントロールか――そこまでして超有名アイドル商法を恒久化するのには、何か理由でもあったの?』

 ガレスの方も秋元のやり方に呆れかえる。マインドコントロールでアイドルを操り、自分の都合の悪い事を公表させないように口封じ、更には超有名アイドルファンを金で操っていた……一昔前のアイドルとは大違いだ。

これがアニメやゲーム、小説等の架空アイドルであれば『中二病』や『メアリ・スー』等の一言で片づけられる可能性は否定できないだろう。

しかし、それを秋元は現実に持ち出したのである。ある意味でも禁断の果実に手を出したと言うべき行動だ。

「今の日本経済を復活させる為にも、超有名アイドル商法は欠かせない。そうでもしなければ、やがて日本は財政破綻する。コンテンツ流通は超有名アイドルだけが独占すべき物なのだ!」

 秋元は何度も訴えるのだが、ガレスの方は完全に聞く耳持たずという状態になっている。そして、数分後にはコンテンツガーディアンが駆けつけた。



 同日午前10時35分、秋元逮捕のニュースがネット上に拡散したのは、このタイミングである。このニュースを見たネット住民は―。

【やっぱり。全ての元凶がついに逮捕されたか】

【逮捕されたと言っても秋元だけ。そこから色々な芸能事務所へ強制捜査が入るのも時間の問題だ】

【まるで、過去に起こった食品偽装や異物混入事件を思い出す】

【ここから色々なアイドルが秋元との関係等を疑われる】

【むしろ、彼の逮捕で何かが変わるのか?】

【パルクール・サバイバーでも超有名アイドルの妨害等を受けていたという話を聞く。これで全てが終わったと考えてもよいのか?】

【妨害を受けていたコンテンツに関しては、その後も便乗被害と言うのが出てくるかもしれない。真相の解明がされて、初めて解決するというのが大きい】

 ネット住民も、その後の反応次第という事で詳細な言及を避けている。

政府の検閲等ではなく、下手に煽って炎上しては第2、第3の秋元になると懸念している可能性が大きい。



 再び、場所を北千住へ戻す。蒼空かなでの提案を受け、それを提督たちが議論した結果、態度保留と言う事になった。

しかし、これに反対をしたのが夕立と阿賀野菜月の2人。

「超有名アイドル勢の利益至上主義、それが永久に続くと言う慢心は、ここで断ち切ってみせる!」

 阿賀野の発言は周囲にも波紋を広げ、遂にはシュプレヒコールが出る寸前にまで及ぶ。しかし、それを止めたのは意外な人物だった。

「運営上層部の頭が固いのは相変わらずのようだな――」

 遠藤提督のいる壇上近くに現れたのは、黄金のガジェットを装着した人物である。

本来であればスタート地点から離れるべきではないのだが、非常事態なのでスタート地点には装着するブースターユニットを置き、ユニットと連動しないアーマーだけ装着した状態で現れたのだ。

そして、バイザーも脱いで素顔を晒している。その顔はメガネをかけた女性だったのだ。これには周囲も驚きを隠せない。

『種田提督――!?』

 遠方にいる為、モニターで様子を見ていた夕立も種田提督の登場には驚きを隠せないでいた。

実は、松岡提督に関して行方不明と言う事はネット上で拡散している事もあって、それをガーディアンや一部勢力は完全に信じている。

他の勢力が松岡提督の一件を信じ込んでいた為、その正体が実は種田提督の仕組んだものと言う物だった事が衝撃だった。

正体に関しては阿賀野も予測しておらず、気づいていたとしても彼女の動向を知る提督だけだろうか。

「一部エリアでは超有名アイドルがパルクール・サバイバーの名を騙っての評判落とし――つまり、炎上マーケティングを行おうとしているわ。それを力でサバイバー運営が制圧するのは超有名アイドル勢と変わらない!」

 種田提督の一言も阿賀野同様に衝撃を走らせる物である。

この動きは運営も一定量は把握していたが、それの首謀者が種田提督なのは気付かなかった。

ネット上でも諸説存在し、松岡提督を初めとした人材が流れた件は本人の口から語られない限りは判明しないと言われていたのだが……。

「パルクール・サバイバーのコンテンツ正常化を図る為の手段としては――」

 種田提督が別の話をしようとした直前、そこへ姿を見せたのは1体のARガジェットだった。その形状を見た種田提督は笑みを浮かべるが、他の提督は驚きの声を上げる人物もいる。

「中村提督! あなたは北千住の方へ召集されては――」

 別の男性提督が中村提督に声をかけるのだが、それが聞こえているのかは分からない。しばらくして、変形を解除して青い提督服を着た中村提督が姿を見せる。

「召集ならば大塚提督から直接受けている。異議があるのならば、本人に確認すれば良いだけの話だ」

 確かに中村提督の話も一理ある。男性提督はスマートフォンを服のポケットから取り出し、大塚提督へ直接確認をする。

「申し訳ありません。どうやら、他の提督も一緒に呼ばれていたようで――」

 男性提督が確認している途中でも、中村提督は大塚提督のいる場所へと向かおうとしていた。

 しかし、それを呼び止めたのは種田提督である。どうやら、彼を簡単には行かせる訳にはいかない理由があるらしい。

「中村提督、貴方には聞きたい事がある!」

 種田提督は何もない空間から小型のコンテナを呼び出す。

自動で開いたコンテナの中に入っていたのは、何とロングソード型のARウェポンだった。

しかも、この武器には中村提督も覚えがある。そして、種田提督はARウェポンを取り出して中村提督に突きつける。

「アカシックレコードの事を聞きたいのか? それとも、この事件の真相を聞きたいのか?」

 中村提督は戦う理由がない。しかし、向こうには理由がある。そこで、中村提督は2つの選択肢を用意する。仮に後者であれば……。

「そのどちらでもない! 阿賀野であれば、アカシックレコードの事を尋ねようとするが」

 種田提督が突撃をするのかと思ったが、そうではなかった。

黄金のガジェットは、気が付くと別ゲームで使用されている漆黒のガジェットアーマーへと変化する。

それは北欧神話系のデザインを持ち、そのモチーフはオーディンでもあった――。

「お前が、あの時の剣士だったという事か」

 中村提督も黄金のガジェットには反応しなかったが、黄金のインナースーツから装着された漆黒の鎧には見覚えがあったのだ。別のARゲーム、パルクール・サバイバーが出来る前にブームとなった作品で。

「運営総責任者のガレスは何処にいる?」

 種田提督の目的は総責任者のガレスだった。しかし、その本人は長期不在にしている。



 同日午前10時30分、なかなか始まらない状況に対し、観客の方も限界に到達している。

ネット上でも発走時間が遅れるのは日常茶飯事としても、特に違法ガジェットは検出されていない以上、おかしいと感じるのは不思議ではない。

【ここまで来ると、意図的な時間稼ぎにも見えてくる】

【一体、運営は何が理由でレースを始められないのか】

【超有名アイドルによる集団デモ活動が行われているようだが、それと関係が?】

【デモ活動はコンテンツガーディアンや別の勢力が制圧しているという話だ。特にパルクール・サバイバー運営が関係している話は出ていない】

【下手にデモが起こされては、デモの方にニュースやワイドショー、マスコミが食いつく。それが落ち着くのを待っている可能性もある】

【丁度、この時間だとワイドショーでも…?】

 つぶやきの方もレースが始まらない事に関して怪しいと思い始める動きが出始めていた。このままでは、運営の不手際が指摘されてもおかしくない。その中で、ある人物が見たワイドショーで衝撃のテロップが表示されていた。

【サマーカーニバル等をプロデュースする秋元氏、コンテンツ法違反でコンテンツガーディアンに拘束か】

 コンテンツ法とは、コンテンツガーディアンが定めたガイドラインの一つ。二次創作の自由等が保証されている一方で、不当な利益等に関しては非常に厳しいとされている。

これは警察も手が出せない治外法権でもあり、テレビ等でも取り上げない方向性のはず。それがはっきりと言及されている、それは天変地異の前触れともネット上で言われていた。



 同日午前10時35分、椅子に座って様子を見ていたのは神城ユウマだった。彼のスポーツサングラスは非常に目立つ為か、周囲のギャラリーからは写メを求められる事があった。

プライベートと言う訳ではないが、写真撮影には応じている光景がある。

何時になったらレースが始まるのか――という不満の爆発を防ぐ為、その場にいる有名ランカーやアスリート、その他の有名人が突発的なサイン会や写真櫂を開くのは珍しい事ではない。

ただし、有名アイドルに関してはパニックになる事を考慮して禁止されている。この辺りはマナー的な部分もあるのだが、やはりブラックファンの存在は否定できないだろう。

大きなパニックが起きないのは運営の影響もあるのだが、それ以上にファンが協力体制を作っているのが大きい。下手にサバイバーがネット上で炎上のネタになるよりは……。

ネットで言われているのが、ランキング荒らしの対抗策にランカーを投入するという話があり、これを自主的に行い始めたのがパルクール・ガーディアンと言う話が美談として伝えられているほどだ。

ただし、ガーディアン側は否定している為に真相不明。それに加えて不明な部分は多数あり、パズルのピースでさえ揃っていない節がある。

しばらくして、ある人物が神城の前に姿を現した。その人物は、何とカジュアルな私服を着た如月トウヤだった。

「あなたは、如月明日葉さんですか?」

 神城は彼女の『名前』で呼ぶ。名前で呼ばれた如月は戸惑うのだが、周囲を見回すような仕草は見せない。そして、如月は神城の方へと近づく。

「会わせたい人物、まさか箱根の山の神とは思わなかった――」

 一方の如月は会わせたい人物と言われたのだが、正直な事を言うと阿賀野辺りだと思っていた。しかし、実際は箱根の新山の神とネット上でも言われている神城だったのである。

「山の神は称号を返上しています。今の自分には必要がないので」

「今は本名で呼ばれても問題はない――」

 お互いに想定していた人物とは違うが、これも何かの縁と言う事で少し話をする事にした。駅伝の事、ARゲームの事―そして、本題であるパルクール・サバイバーの事も。

「あなたもガーディアンだったのですか」

「元ガーディアンだけどね。今は別組織から戻るように指示を受けて戻る所よ」

 如月の方はパルクール・ガーディアンの方でも活躍をしていたが、別組織の指示を受けて戻る最中だった。その中で仲介者が『会わせたい人物がいる』と言う事で指定された場所へ向かった結果が、神城だったのである。

「――ショートメール?」

 話の途中で如月のスマートフォンから着信音が鳴る。何かと思って取り出すと、ショートメールが届いていたのだ。差出人は松岡提督である。

【レースは45分に再告知、その後にレース再開らしい。他のレースから、こちらに流れてくる選手もいるらしい】

 内容に関してはレースの時間が変更になった事、他のレースから参加希望をしている選手がいると言う事だった。それが夕立の事なのか、阿賀野の事なのかは分からない。

【それともう一つ。秋元がコンテンツガーディアンに拘束されたようだ。既にネット上では祭りになっている。おそらくは、事実関係の調査で遅れている可能性も否定できない】

 もう一つの内容は秋元が拘束された件である。これは初耳だ。如月は事実関係を確かめる為に別組織へ連絡を入れるのだが―ノイズが激しくて通信が出来ないようになっている。

「スマートフォンの電波状況が悪いのか? ならば、こっちは――!?」

 スマートフォンがダメならば、ARガジェットではどうだろうか。実際に試した結果、こちらの方は問題がなかった。どうやら、電波対策のされていない機種ではノイズが起こるらしい。

「どうしたのですか?」

 神城が如月のARガジェットをのぞくと、そこには衝撃的な文章が現れていたのである。

「馬鹿な。秋元は何を行おうと――」

 大手ニュースサイトに掲載されていたのは、テレビで到底報道できないような内容。無理矢理まとめるならば『超有名アイドルによるコンテンツ制圧計画』とも言うべきか。



 同日午前10時40分、一部のガジェットはアンテナショップへ戻されていた。雨が降り出す訳ではないが、再点検と言うのが理由の一つだ。

『お客様にお知らせします。周辺エリアにて同時多発型のテロが行われているという情報が入りました。その為、現状でレースを行う事は選手だけではなく、他の観客に被害が及ぶ可能性があると判断し、レース開始を延期する事にしました』

 女性提督の声で周辺に放送が流れる。どうやら、運営にも秋元拘束のニュースは伝わっているようだ。この放送を聞いて抗議しようという観客は見当たらない。ネット上では抗議のつぶやきも目撃されているが、それらはごく少数である。

【中止ではなく延期か】

【具体的な時間は調整していると思うが、どういう意図で延期を判断したのか】

【蒼空の提案を議論しているのでは?】

【あれは既に却下されたのではないのか】

【却下されたのであれば、聞く耳を持たないはず】

【一体、運営は何を考えているのか】

 さまざまなつぶやき流れる中、大塚提督のスマートフォンから着信音が流れる。

この着信音はクラシック系の物であり、この着信で来る人物は一人しかいない。

「大塚だ」

『無事なようで助かるわ』

「その声は、ガレスなのか?」

『作戦は想定外の邪魔が入って、半分は成功したけど半分は失敗した』

「半分? 秋元が拘束された事が成功か?」

『成功したのは秋元の拘束じゃない』

 秋元の拘束は成功ではなく失敗とも受け取れる。ガレスの言葉自体は弱い物ではないのだが、大塚提督にとっては疑問しか出てこない。一体、秋元の拘束がどのような経緯で失敗扱いとなったのか。

「秋元の拘束という結末は、失敗と言う事なのか」

『話している時間はないから、今はそう言う事にしておいて。成功したのは、BL勢と超有名アイドル勢が手を組んでいた証拠をつかんだ事よ』

「証拠、だと? BL勢と超有名アイドル勢は敵同士ではなかったのか」

『コンテンツ法的には、両者が組む事に得はあり得ない。むしろ、超有名アイドルを題材とした薄い本を出せなくなるのは明白だから』

「そうなると、共通の敵を倒す為に手を組んだという事か」

 大塚提督も秋元の拘束が失敗であると聞いて、深刻そうな表情を浮かべる。しかし、下手にそのような表情を周囲の提督に知られて配置大事なのは間違いない。

『具体的な敵を言うわ』

「コンテンツガーディアンか、それとも反超有名アイドルを掲げる組織、あるいは松岡提督率いる勢力という事もあり得る」

『どれも違う。狙っているのは私たちよ――』

「それは、どういう事だ?」

 ガレスが『私たち』と言ったのと同時に、大塚提督はスマートフォンを落としそうになった。それ程に、事態は深刻な方向に向かっている事を意味している。

『もう一度言うわ。BL勢と超有名アイドルファンが手を組んで、パルクール・サバイバー運営本部を狙っている。これは確実よ』

 大塚提督及びガレスは状況確認が出来ていない為か、種田提督の話が伝達されていないようだ。



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