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プロローグ

『プロローグ』



「今日も雨か…」


傘を指しながらぼんやりとつぶやいた。

この街に引っ越して10日目。

やっと引っ越しの準備が終わりやっと学校に行くことができたというのに,俺は今日とても憂鬱だった。

最近は雨が多い。

雨はテンションが下がるので嫌いだ。

最近は雨が多いことも理由の1つだがそれだけではない。

憂鬱の種は2つ。



ひとつは家族だ。

うちの父親は,転勤が多い仕事をやっていた。

いや,正確には「やっているらしい」だ。

俺は父親の仕事の事はあんまり知らない。

1度聞いたことがあるが,答えてくれなかった。

その後母に聞いたが母すら知らないらしい。

あんまりよろしくない,という噂を聞いたことがある。

噂は,噂だと思ってあんまり信じていないが

家族に仕事内容を言わないのはよろしくない仕事をしていてもおかしくない。



もう1つは学校だ。

今まで転校を幾度となく繰り返して

その中で漫画のように俺をいじめてくるやつは居た。

別に気にしなかったし,仕方がないとも思っていた。

逆にいじめられているやつも沢山見た。

その度に助けてしまうので,大抵いじめの標的は俺になった。

殴られたり、体操服を隠されたり、トイレに顔を突っ込まされそうになったことだってある。そんなことは何回も受けてきた。

さすがに最後のは一回ぐらいしかないけど。

しかし,今回は違う。

クラスの雰囲気を見て思った。

「なにかが違う」と。

悪ガキにクラスが統括されているわけでもなさそうだし

嫌なやつをよってたかっていじめているわけでもなさそうだ。

しかし,このクラス違和感はすぐに分かった。

ホームルームが終わり、大抵は俺に興味津々のやつが話しかけてくるので,「今回も俺の話術であっというまに人気者になってやるぜ!」なんて思っていたら,誰も話しかけてこなかった。

授業が終わっても誰も来なかった。

このクラスでは「会話」がなかった。

授業中はもちろん,休憩時間すらなかった。

誰も喋らない,口から音が聞こえない。

この学校は,規則が緩いので皆漫画とか持ってきて読んでいる。

でも,俺は正直漫画とかにはあまり興味がない。

知っているとしても,ドラ◯ンボールとか,NAR◯TOとかだ。

その上その二つすらもあんまり知らない。

女子は勉強していたりする。

そこで,この沈黙にどうしても耐えきれなくなった俺は

無謀にも隣の女子に話しかけてみた。

「ねーねー」

「きみ何部?」

「・・・・・」

「俺は陸上部に入ろうと思ってるんだけど陸上部ってここの強いの?」

「・・・知りません」

「そ・・そう」

明らかに拒絶している。

俺は人生初の拒絶を味わってこの学校への期待はあっさり裏切られた。

精神的にダメージを受けた俺は初登校の時は絶対にする陸上部の見学もせずに、ぶらぶらとあてもなく新しい町を徘徊していた。

ちなみに,父いわくこれが最後の引っ越しだそうだ。

なので,これからあのクラスとあと二年間付き合うことになる。

「憂鬱」その単語で今の心を満たしていた。


「はぁ」

「あのクラスで過ごすのかー」

考えただけでも嫌になる。

ふと,道路を見ると,

犬が立っていた。

その犬は昔飼っていた犬の「リク」によく似ていた。

「リク」は白くてふわふわで,いつもピョンピョン跳ねていた。

突然父が犬を飼うと言い出して,ペットショップに行き,飼うことになった。

リクはすぐに家に馴染んだ。

引っ越しが多いから,すぐに環境が変わるがリクはそれについてきた。

あのころはとにかくリクがいると俺は幸せだった。

一年前にリクは死んでしまった。

だから俺は犬は結構好きだ。



そして,リク似の犬を通りすぎようと思ったが

車のライトが見えた。

犬は車が来ていることに気づいていないのか,

それとも車がどういうものか知らないのか全く動かない。

車の方も雨で見えていないのか,止まる気配がない。

この状況でリク(仮)を救えるのは俺しかいないというわけだ。

俺は久しぶりに本気で走るのだった。


車が到達するまで,距離がある。

助けても,巻き込まれはしないだろう。

そう考えながら俺は傘を投げ捨てて道に飛び出した。

なんとか無事に雨でびしょ濡れの犬を抱き上げ歩道に放り込んだ。

自分も避けようとしたが,ふっと体勢が揺らいで

俺はいつの間にか空を仰いでいた。

そう,俺は滑ったのだ。

今も降り続ける雨によってできた水溜まりによって。

車が見える。

まっすぐ俺に向かってくる。

まるで俺を初めから轢こうとしていたみたいに。

あぁ俺の人生もここで終わりか...。

犬を助けて,無様に転んで終わりか...。

すごく短かった。

人生もう一回やり直したい,なんてな...。

目が覚めると俺は,光の中にいた。

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