暗雨視点 商業ギルド-7
朝丸がVRMMO系の小説を読んだのはMVRCに参加してかららしい。なんでも、これから住む世界がどの様な世界なのかを知るため………という理由かららしかった。
「初期のVRMMOの世界は一方通行なすごろくという例えがしっくり来ていたなぁ…………。でも、それを覆したのが『VRMMOは直線じゃない!』だったなぁ。」
「そうですね…………。フィールドはたくさんあるけどストーリー的には一方通行な事に代わりはありませんでしたし。」
確かに、デスゲームと生産者系に最強スキル系、縛りプレイ系や極振り系に不遇スキル系などのジャンルは絶えず出て来ていたが、ゲーム内のフィールドの進め方にはどこか一方通行的なイメージになっていた。
しかし、『VRMMOは直線じゃない!』というラノベが発売されてから、VRMMOの小説やマンガの中のフィールドやストーリーには完全な一方通行が消えていったのだ。
ちなみに『VRMMOは直線じゃない!』のあらすじはこうなっている。いじめられっこの主人公が新作のVRMMOでいきなりPVPをふっかけられて搾取される。その後、他のプレイヤーが恐くなった主人公は第二の街とは逆方向に進んでいく。するとそこは、隠しエリアとも呼べる世界が広がっていた……という物だ。
「まぁリグルどころかこの商業ギルドからも滅多に外出しない俺は共感できないけどな。……………でもまぁ、この世界が『荒廃世界のMMO』と同じでなくて良かったと思うぜ…………主人公の感情が虚しすぎる。」
「………………あれはVRMMOというよりは、近未来を描いたドラマですからね…………」
その作品はネット小説からの登場で、アニメになったはなったが、他のVRMMO系の作品のように可愛いキャラクターなどの萌絵とかではなく、昔のアニメと今のアニメの作画を混ぜたような重厚感のある物だったと記憶している。
この作品の主人公は、地球の中で唯一現実世界に存在しているという科学者だった。自分以外の人間が全て電脳世界の住民になっており、一人だけ荒廃してしまった世界を渡り歩く。彼だけが仮想ではない現実世界を知っている………そんな主人公の事が凄く虚しくて、心が締め付けられる…………アニメの時は初見の人達には胸糞すぎると批判ばかりだった作品だ。
この作品の主人公以外の人間はMVRCが完了している。そして主人公は他人にとっての現実を消滅させないために自らの現実を犠牲にしているという設定でもあるからだ。VRMMOに頼り切った人間はいずれこうなってしまうかもしれないという恐怖もこの作品は教えてくれたのだ。
「この中ではある意味不死身だけど、一歩間違えれば自分の命どころか世界そのものが消えてしまうっていう可能性を見せられて、電脳世界の中に記憶や思考なんかのデータを丸写しして住む事にも多大なリスクがあるって気付かされたんだよな………」
「でも、MVRCはあくまで治療用と発表されている分マシですよね………。もしMVRCが人類移転計画だったらあんな世界になるかもしれないって事ですからね………。」
そんな感じでVRMMO系の小説につい話をした後、私は商業ギルドを出て、アカイワ村へ向かうのだった。…………アカイワの向こうにも何か別の世界が広がっているのかなぁ?と胸を膨らませながら私は『アカイワの獣道』という場所に行くために西門へと走るのだった。




