暗雨視点 インビジブル-3
数秒後にラグナと呼ばれた女性が私の尻尾から離れたかと思うと、木で出来たブラシを取り出してから私に向かって土下座をしてきたのだ。
「……モフモフ……している………けど……可能性……ある……。ブラッシング……させて………一生の……お願い…」
「そういえばラグナはケモナーだったな………。それも、ブラッシングした尻尾を楽しみたいという傾向の強い方の………」
ラグナは土下座したまま動こうとしなかった。彼女は前髪を左目が隠れるよう計算して伸ばした水色の髪で、胸はデイブラックと同じぐらいなだらかだった。
「なら、デイブラックにもふられた後で良いですか?ブラッシングされる前よりも荒れそうなので………」
「やりがいも………出てくる。……ばっちこい。」
「……………でもさ、ブラッシングで何が変わるのかなぁ………?別に必要なくない?」
土下座していたラグナに率直な疑問を浴びせたのは、『インビジブル』のメンバーの一人だった。しかし、彼女はその後少しだけ後悔しただろうと思う。
「じゃあ、リーフは我慢できるの?髪がぼさぼさでも、枝毛だらけになっても、肌触りが悪くても。」
「え………………それは嫌だけど………。」
「リーフは犬猫達にそれと同じ事を言ったに等しい。」
「………あ、ラグナが饒舌になってる。」
その後、リーフと呼ばれた女性がラグナにハリセンでぶったたかれていた。物静かなラグナからは想像できない様な速さと威力であったため、大きなたんこぶが出来ていたのだった。
「…………すみませんでした。許してください………バフを私だけにやらないという暴挙に出ないでください。」
「……なら……、………『大学の学食で人気ベスト5のデザートを一週間奢ります。許してください……』と土下座すれば許して上げます。」
…………サラリと自分の要望も付け加えている気もするけども、そこはスルーしようと思う。しかし、リーフは見逃していなかったが、バフを受けられないのは痛いのだろう。
「…………あ、そういえば……自己紹介……してなかった。バフや……デバフ……関連を……主に……担当……してる………ラグナ。よろしく………」
「………私はリーフ。主にハンマーでぶったたいてダメージ与えるダメージバッファーです………。Al付与のバフが無かったら少し戦いにくくなります……」
そうしていると、『インビジブル』の最後の一人が私の方に歩いて礼をした。その顔立ちにはリアルでも見たことがある。……………いや、完全に知っている顔だった。
「………これなら、リアルでも会える日は近そうだね………。久し振り、ティア。」
「………………久し振りです。え~っと………。」
私はリアルでの名前しか知らないので、なんと呼べば良いのかが分からなかった。しかし、それでも彼女に会うのは久し振りだった。………そう思いながら私は、そのプレイヤーと話すのだった。




