プロローグ
「新作のVRMMOが人数分手に入ったんだけど、皆でやらない?βテストは母さんがやっておいてあげたからアドバイスも受け付けるわよ。」
その言葉を言ったのは私達四姉妹の母親である、真城 望だった。クラスメイトでもなく、親友でもなく、上の兄弟姉妹でも無く、一般的な見解ではゲームなんてしてないで勉強しなさいと言ってくるような母親という立場の人が私達四姉妹をゲームに誘っていた。
…………母さんは専業主婦だ。たまにパートにでるが、普段は必要最低限の家事を素早く終わらせた後にゲーム三昧という暮らしをしている。好きな事は全力でする、がモットーの母の生き方を見て、私達四姉妹がどの様に成長したのかを見てみよう。
最初に私、暗雨が起こした反応について話そう。
「はぁ……………まぁ、やれるならやるけどね………。母さんが最近やっていたのってβテストだったのか…………。でも、やるからにはちゃんと家事も両立してよ。これまでと同じレベルでも良いから。」
私はこの四姉妹の三女で高校二年生だが、この四姉妹の中で一番母さんの影響を受けていない娘だと思う。実際母さんがやっていない家事………まぁ、料理や洗濯、裁縫などは全て私が担当している。
………中学校時代の黒歴史のような事情でお嬢様、お坊ちゃま高校に通っているけれど、帰る時間は一番早いので買い出しも私の仕事になってしまっている。
まぁ、ゲームは嫌いじゃないので私は少しだけ楽しみにしながら他の姉妹の反応を見る。すると次に、長女である暁美は、こう答えた。
「う~ん……………私は今シスコン百合ゲーが丁度良いところに行っているから………。でも他の三人の内誰かがやるなら良いよ。という事で一緒にやりましょうね~。暗雨~。」
私は彼女の事を暁美ねぇと呼んでいるので、そのまま暁美ねぇと言うことにする。暁美ねぇはシスコンであり、その関連の百合ゲーをプレイし続ける廃ゲーマーな大学二年生である。
暁美ねぇは母に答える様に見せて私を抱きしめようとしてきたので私はそれを避けた。暁美ねぇが重度のシスコンの気を向けているのは私だけで、他の二人にはあまり手を出さない人だ。
「でも、できれば小梅とも一緒にやりたいけど………手にはいるかしら?母さん、まだ在庫は残ってる?」
「小梅君から電話があったのよ~。無事手に入ったって。ちゃんとアカウントフレンド登録しておいたから、すぐ会えるわ。」
「良かったわ………これで安心してプレイできるわ………。」
小梅さんというのは、暁美ねぇの彼氏の名前だ。姉は中・高・大でかなりモテる程の美人なのだが、そのせいで姉は男性恐怖症に似た男性嫌悪症を発生してしまった。今では事務的な受け渡しならできるものの、普通の友人のようなやり取りは、父と親戚の子供、そして彼氏の小梅さん以外にはまともな接し方をしないのだ。
馴れ初めなどはそれほど砂糖を吐く事は無いのだけど、それ以降の話は砂糖がどんどん吐ける程甘ったるい惚気話になるのである。………私は口の中をベットリとしたくないので、後は本人に語ってもらう事にする。
「ママと一緒にできるの?久しぶりに?やる!!絶対やる!!」
そんな反応をしたのは母さんの事が大好きな次女、新社会人となった18歳、雪奈だった。雪ねぇはマザコンであり、母さんが完全に一人用のゲームを延々としていると泣きながら別の通信できるRPGをしていたような人だ。
商業高校を卒業した雪ねぇは、父さんのいる会社に就職して働いている。今はまだ大した地位では無いが、父さんの部下曰く、数年たてばかなり上の地位に上がりそうだと言う。
ちなみに、父の会社を選んだのは確実に今の家から通えるからという理由だ。出張以外で母さんと離れたくないらしい。まぁ、私達四姉妹で唯一母さんの事をママと呼んでいるからなぁ………。
そして、最期に我が妹、雫だが…………彼女は私が予想していた通りの言葉を発した。
「やだ。本を読む時間が減っちゃうから………だから、また今度………」
「いや、雫は一番やっておいた方が良いと思う。このバイザーのシステムにはログアウト後に自動的に眠るという機能もあるから。」
雫は本の虫で、毎日大量の本を読む。今現在、電子書籍が流行り始めている世界で紙の本をこよなく愛する子だ。しかし、本を読みながら寝てしまい、本に突っ伏して涎を垂らすという事がある。
図書館から借りた本にもやってしまうので、いつも私が着いていって謝りに行っていたのだけど、中学時代の時に行っていたら色々あったので、私はこれ以上は着いていけないのだ。
なので多少無理矢理だけど雫には本を置いてから寝るという事を覚えて貰おう。好きな事は全力で………にも限度というか、節度は必要だと思う。雫は渋々だが納得してくれた。
そして、最期に父さん………深幸については、母さんと同じβテスターのため普通にプレイに参加するのである。……………多分、この中で一番おかしいのは父さんだろう。
なんせ、VRシステムと、VRWシステム、自立AIやらを作ったのは父さんなのだから。しかも、昔ラノベを読んで自分がやってみたいからという理由だけで、大学院生時代に作り終えてしまったのである。
まぁ、父さんはVRMMOの基礎を作っただけで商品開発には一切手出ししていない。自分がラノベの中の主人公のように、VRMMOを楽しみたいという願いから来ているそうだ。
ノーベル科学賞で手に入れた賞金も、殆どVRMMO作っている会社に寄付するほどなので、開発者よりもプレイヤーになりたいという気持ちは理解している。
……………まぁ、小梅さんと暁美ねぇ以上の惚気を母さんと発生させる部分は、私達の両親だと思ってしまうのだけれど………………。いや、切実な願いの中に、二人きりの時に惚気をしてくださいと願うばかりだ。
…………さて、この物語はこんな家族がVRMMOをのんびりまったり、時々ガチ目にプレイする話です。
次回からはキャラメイク編となります。