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赤いろうそく

作者: みみこ

お目にとめていただきありがとうございます。

おばあさまとおじいさまが香具師に私を引き渡したあの日の晩、まるで怒り狂ったように、海は荒れておりました。

入れられた檻の中、波に揺られ、私はただただ泣いておりました。

悲しさよりも、悔しさよりも、なによりも切なくて、切なくて泣くことしかできなかったのでございます。


私が一体何をしたのでございましょう?

私の貴殿方のためにといつも思うておりましたのに……

私はこんなにも貴殿方を愛しておりましたのに……


その切なさは外の雨よりも激しいものでございました。

揺れは強くなる一方でしたので、どうやら海は荒れるばかり。右に揺れ、左に揺れて、そして大きく右に揺れたかと思うと、とうとう天地はひっくり返り、一気に船はその芯まで潮に浸してしまったのでございます。

うねりをあげた波に飲まれて、私を乗せた船は沈みました。

当然に私の檻にも、水が入り、肺まで浸すほどの潮水が私の中に入って参りました。私はまだ己が泳げる身であることを知りませぬ。それどころか、己のことを少し変わった風貌の人間であると思っておりました。

そう考えれば、当時の私からすれば、閉じ込められた檻の中、沈まれると言うことは、恐らく、死が頭をよぎるものであったことでしょう。


ーーしかし、もう、何でも良かったのでございます。


少なくとも、あの日、あの瞬間はそう思ってございました。歩けず、親に捨てられた私など、死んでも良いと思ったのであります。

このまま死に、息苦しさで彼方に連れていきとうて、私は何も致しませんでした。それどころか、沈みゆく檻の中で悠長に海を眺めながら、その時を待っておる有り様でございました。



ーーこの北の海は、青うございました。

先が見えぬ、人の道のように、深く青うございました。



おじいさま、おばあさま。そして、あの美しい町の皆さま方。


あの時、私はまだ、己が人魚であるなど思ってもございませんでした。

そのために、私が願うたことが罪深いものだとは、思いもよらなかったのでございます。


急いで塗りあげたあのろうそく。

赤い赤い私のろうそく。


あれは、私の愛でございました。

皆さまとともに幸せに、側におりたい私の想いでございました。

私も人間であり、その時願った「側」の場所とは、疑い様のない、明るき、美しいあの町であったのでございます。


でも、その願いを込めたろうそくが良からぬ形で、私の願いを叶えることは、この後、檻越しにて出会う私の同朋を見てから気付くのでございました。


申し訳ございません。

しかし、皆さま、人間の皆さま。

私は、あのときも、今でも、そしてこれからも、皆さまのことを愛しております。

お目通しありがとうございました。

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