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異世界の犯罪者  作者: りきやん
あちらの世界
12/42

02

私の手首に掛かった手錠をゆっくりと検分してから、アルベルは小さく首を横に振った。


「ごめん、僕の力じゃ外せない」

「えー!?魔法でパッとできないの?」

「手首ごと吹っ飛ばすなら」


そう言われては仕方ない。

私は大人しく諦めるしかなかった。

これからもずっと手錠をして生活するだなんて、不便極まりないけれど、アルベルに外せないのなら、私にはどうしようもないのだ。


「心配しないで。その内、外す方法を見つけるよ」


アルベルが、ぎゅっと私の手を握り締める。

そして、宥めるようにつむじにキスをした。


この世界に来てからというもの、アルベルのスキンシップの激しさは元に戻ってしまった。

いや、以前よりも酷くなったかもしれない。

抱きしめる、髪を乾かすに留まらず、唇にはされないが、つむじや手、頬にキスしてくる始末。

最初は抵抗していたものの、数日経った今では諦めの境地に達していた。

何を言っても、アルベルは笑うばかりで取り合わず、自分のしたいようにする。

いちいち注意するのも疲れてしまい、まぁ、減るものでもないし、と無駄な努力をすることを放棄した。

慣らされているとしか、言い様がない。


そして、数日経った今、手錠があると着替えすら出来ないことに、いい加減苛立ちを覚え、アルベルに相談したのだが、答えは芳しくなかった。

一生、上の服を着替えない訳にもいかないし、どうしたものかと悩むしかない。

お風呂にすら未だに入れていないのだ。

気持ち悪くて仕方がない。

もちろん、アルベルに入りたいと訴えたのだが、その手錠では無理だろうから、自分が入れてあげると言って頑なに許可をして貰えなかった。

ふざけるな、変態が。

と罵り、当初は完全拒否の姿勢を貫いていたが、どうしても我慢できなくなり、髪だけならば、と今はアルベルに洗ってもらっているのが現状である。

この分では、羞恥心を忍んで身体を洗って貰う日も近いかもしれない。


「脱ぐのは破けばいいとして…でもなぁ」

「肩が出るタイプの服なら大丈夫じゃない?」

「冬は寒いでしょ」

「肩掛けあれば、平気だよ。外に出るわけじゃないし」

「まぁ、ねぇ」


ふと、視線を外へと向ける。

青々と茂った葉が窓いっぱいに広がり、優しい木漏れ日が差し込んでいる。

どうやら、ここは森の中らしい。

らしい、と言うのは、私が一歩も外に出ていないので、確かめようがないのだ。

アルベルは、絶対に私を外へ出そうとしなかった。


「アルベルと一緒に外に出るのもダメなの?」

「言ったじゃない。森は危険だから、我慢してって」


こればっかりだ。

危ないから、外に出ないで。

そんなに危険な場所に、何故私を連れてきたのかと疑問で仕方がない。

アルベルと一緒にですら出て行かせてくれないだなんて、あの言葉は嘘だったのだろうか。


「守ってくれるって言ったのに」


愚痴っぽくそう零せば、アルベルがきょとんと目を瞬かせる。

そして、意味が通じたのか、あぁ、と嬉しそうに笑った。


「もちろん、守るよ。森の危険からだって、カエデを守ってあげるよ」

「じゃぁ」

「でも、今はダメ。今は、まだ、家でじっとしていて」


ぎゅうぎゅうと、アルベルに抱きしめられる。

感極まってしまったのか、執拗に顔中にキスを浴びせられるが、やっぱり唇には触れられない。

ぼんやりとした頭で、何故だろうか、と疑問に思った。


「アルベルは、絶対に口にキスしないね」

「して欲しいの?」


嬉しそうに顔を輝かせた彼には申し訳ないが、私は即座に否定する。


「全然。ただ、疑問に思っただけ」


途端に悲しそうな表情を浮かべるものだから、もう少し物言いを考えれば良かったと後悔する。

アルベルは、私が本気で嫌がることを絶対にしなかった。

寝台が一つしかないため、一緒に寝てはいるが、彼が手を出してきたことはない。

その鉄壁の理性に、ただひたすら感謝するばかりだったが、本人は相当キツイだろう。

自分で言うのもなんだが、アルベルは、私のことが好きなのだ。


「カエデに嫌われたくないから、しない。それだけだよ」

「魔法で私の行動や心を操ることだって、出来るでしょう?」

「それってさ、人形遊びと変わらないんだ」


例えば、と言いながら、アルベルは手近に転がっていたペンを手に取る。


「このペンをカエデだとするよ」

「うん」

「アルベル、大好き!」


そう言いながら、ペンを自分の口元に近づけて、ちゅ、とキスをした。

その光景に私がどん引いたのは言うまでもない。

アルベルから距離を取ったのだって、仕方のないことだろう。


「ほら、それ」


ごほん、とアルベルは咳払いをして、ペンを元の場所に戻す。


「僕だって、そんなことしても虚しいんだよ。だから、カエデにはカエデとして僕を好きになって欲しいし、依存して欲しい」

「そっか」


今の私には、アルベルしかいない。

スキンシップは激しいけれど、私の意思を尊重してくれて、優しくしてくれて、こんなにも求めてくれる人に惹かれない訳がないのだ。

私の世界にいた時とは状況が違う。

アルベルは、絶対にいなくならないし、私だって、あの世界に帰るはずがない。

受け入れても、良いのかもしれない、そんな気持ちが心に芽生え始めていた。

けれども、臆病で踏ん切りが付かない私は、アルベルに意地悪をするしかない。


「私が好きになる保証なんて無いのに、良くやるよ」

「そうかな?カエデには僕しかいないじゃない。それに、時間もたっぷりあるし。ゆっくりでも、構わないんだ」


いつものように、アルベルがにっこりと微笑む。

どうにも心の内を見透かされているようで、居心地が悪かった。

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