表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

諦めの人生

 退屈な午前中の授業も終わり、昼休みを迎えた。


 昼休みだから当然、みんな色々な机で多くの友達と一緒にご飯を食べながら話している。


 大声で話している奴、コソコソ話している奴。


 時々、俺と目が合うと大抵向こうの奴が先に視線を離す。


 俺はこんな性格だからついコソコソ話やすぐ視線を逸らす奴、俺の方を見ながらゲラゲラ笑っている奴を見ると俺の悪口で盛り上がっているのではないかと不安になる。


 生徒内だけなら問題ない。所詮、高校三年の付き合いだから。勿論、未来永劫同窓会なんて行くわけがない。


 だが教師もプラスされるとやっかいなことになる。評定に影響してくるからだ。


 教師も人間だから可愛い生徒、お気に入りの生徒には採点が甘くなったり"見逃し"が発生してくる。


 感情を持つ人間が人間を評価するのには無理があるといつも思っている。


 AIが平等に公平に評価してくれればと何度思ったことか。


 でも現状を打開するのは無理だと分かっている。


 じゃあどうすればいいのか?いつも思っているが自分を変えるしかないと思っている。


 思ってはいるが、そうそうキャラを変えられる訳がない。手遅れ。


 高校生にもなってどうキャラを変えようというのか。


 変えたところで友達が一気に増えた!なんてあり得ないし、猫を被ると毎日の疲労が半端ではないと思う。


 だから、俺は生涯この性格で突き通す。人より苦労が多いかもしれないが何とかなるだろう。何の根拠もない自信だけど。




 そんなことを考えてると、


 「松本、ちょっといい?」


 美術教師の山下が俺を呼んでいる。


 「はい・・・・・」


 内心、面倒。よい話な訳がない。


 しかも山下、絶対俺のことを嫌っている。あからさまに他の生徒と関わる時と態度が違う。誰が見ても分かる。最悪教師。偽善もない。


 教師に俺の味方はもういないが・・・。





 直樹がたまたま家族で中華屋に晩飯を食べに行った時のこと、教師達の飲み会と重なったようで直樹はばれないようにこそこそしていたらしいがやはりそこは一生徒。教師達がどんな話をしているのかが気になる。悪いと思いつつ聞き耳をたてていると

 

「松本は常に受け身で自分から行動を移さない。」


 「自分からコミュニケーションを取ろうとしない。」


 「人間味がない。思いやりがない。」


 「冷たい。何を考えているのか分からない。」


 「自己中心的な考えしかできない。将来絶対に苦労する。」


 等、一時俺の悪口で飲み会が盛り上がっていたらしい。直樹の記憶力には感服した。


 やはり大人は子供には人の陰口を叩くなと言っておきながら、自分達は飲み会の場で中傷的な本人の前では決して言えないような発言をする。実名を出して。もしくは陰で付けられたあだ名を活用して。


 でも俺は人の陰口を叩く奴は絶対そいつも裏で陰口を言われていると信じている。いや、信じたい。


 飲み会での共通の話題で人間関係の話が手っ取り早いのは分かるが、陰口大会になるのはどうかと思う。


 共通の敵を作ることで仲が深まるという話は何かの心理学の本で読んだことがある。でもそんなことで出来あがった関係性なんて薄っぺらいものに決まってる。


 やはり大人は身勝手なんだなとつくづく実感する。俺がまだ半分子供、半分大人だから大人を否定したくなるだけかもしれないが・・・。





 職員室に向かう途中そんなことを思い出していた。そしてまた感情を持つ人間が人間を評価するなんて無理だという考えに至り、どうすればよいのかのいう考えのループに入ってしまう。いつものこと。


 職員室に着くと、


 「松本、あなたはなぜ今日の授業中の課題を一切やっていないの?やる気ないの?何で学校に来てるの?来るだけじゃ意味がないんだよ。授業をちゃんと受けなきゃ。」


 いかにも教師らしいことを言ってくる。職員室だから。他の先生、生徒がいるから。


 「すいません・・・」


 「謝るくらいなら最初からやればいいじゃない?」


 山下は知っている。今日の課題が俺には出来っこないことを。


 今日の課題はペアになってお互いの顔をデッサンすること。前の時間は直樹とペアを組んで課題に取り組んだが、今日は二回目。同じペアを組むことは許されない。必然的に俺は一人になる。友達がいないから。


 クラスは奇数だから必ず余りが出ることも山下は分かっている。



 俺が直樹と組んでデッサンをした際に溢れた奴は山下とペアになってデッサンをしていた。それも山下が、溢れた奴に声をかけて。


 でも2回目は俺が溢れたが山下は何も行動を起こさなかった。例え、俺が「先生、ペアになってデッサンしませんか?」と問いかけるとする。


 すると山下は「今、忙しいからごめん。どっかの組に入れてもらって三人組で描いて」と言うに違いない。山下の今までの俺に対する言動からすれば。そんな奴。俺がどこのペアにも入れないことを知っているから。直樹のペアに入ったとしても直樹の相方に絶対に嫌な顔されるから俺は入らないというのを山下は知っているから。


 「もういい。今回の成績はないから覚悟しておけよ。」


 「・・・・・」


 こうなることは分かっていた。それが山下の手。けれど友達の少ない俺には改めて描いてこいと言われても無理だし、山下をデッサンさせてくれと言っても絶対に煙たがる。なら一層のこと成績なしでいい。


 "人より苦労は多いかもしれないが何とかなるだろう"さっき俺が考えてたこと。本当はなんとかならないのかもしれない・・・。


 やはり一生徒が評定を付ける教師に叶うはずがなかった。

 




 職員室を出るとちょうどのタイミングで昼休みが終わった。


 どっと疲れる昼休みだった。


 でも午後からは安心。全て座学、発表で指名されるのは今日の日付に関わりのある奴だから今日は俺は当たらない。寝て時間が過ぎるのを待とう・・・。誰も起こしてくれないから下手したら放課後まで寝てしまうこともしばしば。




 Zzzzzzz....




 起きたのは案の定放課後だった。


 部活・・・ふと部活の事が頭に浮かんだ。


 俺は卓球部に所属している。


 特に卓球が好きなわけではない。気が向いた時にしか行かないけど。


 気が向いた時にしか行かないから選抜のメンバーになるわけでもなく、後輩にまだ名前も覚えられていないほどだ。


 ただ部活に入っていないと就職や進学に不利になるだろうと打算的な考えから一番楽そうな運動部を選んだ。運動は嫌いではない。


 アニメのようなただお茶して駄弁って帰るだけのような部活に憧れはあったけど無理だと分かっているし現実でそんな部活に入っていても入っていないのと変わらない。就職や進学に不利になることはなくても有利になることは絶対にない。だから諦めた。


 でも今日の美術の一件からもう且つ且つ続けてきた部活さえ辞めようかと思ってきた。どうせいい大学、企業に行けないのなら中途半端に頑張る必要がない。無駄な努力になってしまう。時間の無駄である。


 例え自分なりに頑張ったとしても教師にあれだけ嫌われていれば先は暗い。


 なんか今まで何で中途半端に頑張ってきたのだろうと馬鹿も思えてきた。


 どんどん俺が駄目人間になっているのは分かるがもうどうにもならないような気がしてきた。


 いっそうのことギャルゲーみたいに選択肢前にセーブ出来ればな・・・。





 結局、帰宅することにした。また電車で30分。


 今日はある意味刺激のある一日だったかもしれない。


 "俺のこれからの高校生活、大げさに言えば人生をどのように過ごしていくのか"という方向性に刺激を与えたという意味では。



 


 だがまだ海斗は知らなかった。明日が今までの人生で最大の刺激が起こるということを。

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ