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ワンコイン・オンライン  作者: 鷲野高山
1章 未来よりの誘い
6/33

6話 火口都市、赤の村 <ゲーム>

『』でくくっているのが科学者の言葉ですが、それが多くなってしまってすみません。

地の文をもう少し多くしたかったのですが、主人公が何も知らず突然巻き込まれたため、科学者の語りでしか説明できないのです。


読みにくかったら申し訳ないです。


では、どうぞ!

 言うなればそれは、本物の炎だった。

 いや、それが炎ならば偽物も本物もないのだが、そうとしか言いようがなかったのだ。

 台所にあるコンロや焚火など、目ではなかった。俺の眼前でその存在を激しく主張する、紅い揺らめきは。


「……おぉっ!?」


 ようやく現状を把握し、慌てて飛び退く。

 すると、少しの間そのまま揺らめいていた火柱は、段々とその大きさを縮め、やがては宙に散っていった。

 残ったのは、亀裂。レンガ造りの道に残る、浅いのか深いのか全く不明な穴だ。

 なんだこれ、と今しがた炎が噴き出していた穴を覗き込む。だが、周囲がどよめいたのに気づき、俺はそこから目を離し、顔を上げた。

 瞬間、息を呑む。

 数瞬前までは草原の中にいたはずなのだが、いつの間にか景色が様変わりしていたのだ。

 レンガが敷き詰められた大地、そして、これまたレンガで造られた建物。殊更俺の目を引いたのが――道のあちこちから噴き上がる、紅い火柱。


『時間が惜しいのでね。こちらからテレポートさせてもらった』


 俺が、しばしその光景に目を見開いていた時。

 ゴホン、という咳払いと共に、再び姿無き男の声が響いてきた。


『ここは、先程君達がいた場所のすぐ側にあった門の中。そして、このゲームにおいて君達<赤の民>の拠点となる区域。火口都市、<赤の村>、その広場だ。……この意味、分かるかね?』


 ……火口都市?

 そのどうにも嫌な響きに、俺はゴクリと唾を飲み込む。と同時に、ある一つの可能性に思い至った。

 まさか、あの大地から噴き出る火柱は――。


『察しのいい者は気づいているかもしれないが、正解といこう。そう、この赤の村。この下には――火山がある』

「――は?」 


 嫌な予感がしていたとはいえ、俺は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。

 それは周囲の人間も同じだったようで、皆一様に驚きの表情を隠せないでいる。


『だが、まあ心配しないでくれたまえ。火山といっても、噴火はしないはずだ。せいぜい、今も起こっているが、地上の一部からちょろっと噴き上がる程度だよ。それに――君達赤の民は、他の者と比べて熱、火への耐性が高いからね。なんら、問題はない』


 言われてみれば、思い当る節はあった。確かに、さっきはもの凄く炎に接近していたというのに少し熱い、という程度だった。あれが現実なら、火傷は免れなかったかもしれないのに、だ。


『うむ、では赤の村の紹介も終わったことだし、そろそろ本題へと行こう。この実験でのルールだ』


 だが、俺がそんな事を考えている合間に、話は重要な部分へと入っていた。聞き逃すまいと、思考を止め、耳を傾ける。


『ルールは、たった二つ。それに加え、さきほど説明した基礎知識さえ覚えていてくれれば、君達がどうしようと構わない。……それではまず、君達の目の前にある鏡を見てくれたまえ』


 いつの間に現れたのか。

 気づけば、俺の前には小さな鏡があった。小さいと言っても、顔の全体は映る程度の大きさ。

 これがなんだ、と若干警戒しつつ覗き込む。そして、そこに映っていたのは――。


「……誰だ、これ?」


 俺の顔があると思っていたそこには――全くの別人の姿があった。

 黒、という日本人にとって一般的であった髪は、白銀に。ブラウンだった瞳は朱へと。顔の彫は深く、シュッとした鼻筋はまるで欧米人にでもなったかのよう。そして極めつけは――俺の左頬にあるはずの、傷痕が消えていた。傷痕といっても、そんなに目立つようなものではない。あまり大きくなく、少し目を引く程度だ。俺の顔ならばあるはずのそれ(傷痕)が、綺麗さっぱり消えていた。


『それが、このゲームにおける君達の容姿だ。性別に関しては現実と変わらないが、その他は私がいじらせてもらった。髪の色、瞳の色、肌の色。顔の彫りや、目、鼻の大きさ、口元。その他にも、黒子、傷痕などの身体的特徴などをね。だが、完璧な別人となったわけではない。少しは、元の面影も残っているはずだ。よく見てみるがいい』


 まじまじと、見つめる。

 ……確かに、言われてみれば、そうであるような、ないような。肌も、普段より若干浅黒い。

 だが、指摘されなければ絶対に気がつかないんじゃ……。


『お分かりいただけたかね。しかし、君達はこう思っていないかい? なぜ、こんなことをするのか、と』


 ……確かに。

 わざわざ、容姿を変える必要はないはずだ。そんな面倒なことをせずとも、元の顔のままで一体何が問題なのだろうか?


『これについての答えはすでに説明したね。ゲームの世界だけでなく、現実でコインを破壊されても、肉体の欠損に関わらず君達は死ぬ……と』


 男がそう言った瞬間、ピシッと鏡にヒビが入ったかと思うと、陽光をキラキラと反射させながら崩れていく。まるでそれが、お前の、浅堂隼斗の人生だと暗示するかのように。

 その破片一つ一つがこの世界での俺の顔を写し。そして、ついにはその原型を完全になくした――その時。今まで以上に大きな宣告が、世界を震わせた。


『ルールその一。現実世界において、自分以外の被験者のコインを破壊した者には――その数に応じて、私から褒賞を進呈しよう』 


 その宣言を受け、広場からどよめきがあがる。


『ただし、これは現実においてのみだ。ゲームで他の被験者のコインを破壊しても、なにもないから気をつけたまえ。そして、褒賞を活用すれば、このゲームにおいてその者は他の被験者よりも優位に立てることを、ここに約束しよう! そう、つまりこのゲームでの死亡確率を減らすことができるわけだ!』


 内容を聞いて、俺は言葉を失った。

 そして、きっとそれは俺だけではない。

 それはそうだ。なぜならそれは――現実において、他の被験者から狙われ、死の危険が付き纏うということに他ならないからのだから。

 だが、そんな状況において、一つの声が上がった。


「被験者に殺されなければ、生き返るのではないか」と。


 その言葉に、広場が色めきたった。

 四肢が温かみを帯びていく。そうだ、そうだった。

 ゲームでは有利に立てるかもしれない。が、現実でそんなリスクを負う必要があるだろうか。いや、恐らくない。

 つまり、わざわざ被験者同士で戦い合う必要など何処にも――。


『――ならば、ここで一片死んでみるかね?』


 今までの愉しげな声色から打って変わり、冷水のような声があびせられた。


『生き返るといっても、痛覚はそのままだ。モンスターには残虐性が高いのもいる。例え四肢をもがれていても、死ぬまでは生き返らない。なぜなら、まだ死んでいないからだ。その身は朽ちるまで激痛に苛まれるだろう。それでもいいと言うなら、私は一向に構わないがね』


 男は、淡々と言葉を続ける。


『君達には、安息の場などない。現実にも、この世界(ゲーム)でも。この赤の村とて、弱いモンスターの侵入は防げるが、強力なモンスターはそうはいかない』


 広場が、完全な沈黙に覆われた。


『以上が、一つ目のルール、その理由だ。……では、もう一つ。これが、君達の目指すものとなるわけだが、この実験の終了条件だ』


 バッ、と皆が一斉に顔を上げた。

 俺とて例外ではない。この理不尽な状況。それから抜け出す術があるのなら。

 それは絶対に聞き逃せない。


『ボスを倒す――という、よくある王道なものではない。私は、そんな普通(・・)は求めていない。だが、シンプルだ。実に簡単』


『ルールその二。君達には、この世界のどこかに存在する、あるものを探し、集めてもらう。そして、君達赤の民が探すのは――<紅蓮の(へき)>というアイテム。そしてそれは、赤の民しか手にいれることができない』

「……紅蓮の璧」


 誰かが、ポツリと呟いた。

 ……紅蓮の璧。

 その名を、脳内で反芻する。


『しかし、それだけではない。気づいている者もいると思うが、被験者はここに集まっている君達だけではない。この世界のどこかに、後四ヶ所。君達と同じ境遇の人間が集まっている。彼らを含め、5個のアイテム。その全てが一ヶ所に集まれば、その時点でゲームクリア。実験は終了し、君達はめでたく解放されるわけだ。どうだ、簡単だろう?』


 簡単なものか! 俺は、思わずそう叫びそうになった。

 この場以外にもそういった人間がいるのには驚いたが、確かに、目的は単純明快。アイテムを5個集めることだ。その言葉だけ聞けば難しくはない。

 だが、そう簡単に行くわけが――この男が実験を終わらせるわけがない。

 そう、確信があった。


『では、説明はこれで終了。君達にはここで一度、現実に戻ってもらうとしよう。この世界の扉が開く前兆は、急激な眩暈だ。といっても、それを感じた数秒後にはこの世界に来ているから、知っててもあまり意味はないがね』


 ひとまず、ホッと息をつく。

 正直言うと、未だに実感がない。

 当たり前だ。こんな荒唐無稽な話、体験しなければ、絶対に信じない。それほど、眉唾ものの話なのである。

 もしかするとこの中には、まだ信じていない人間がいるのでは、とも思う。

 実際俺とて、まだ頭のどこかには、これは自身が生み出した妄想なのでは、という考えが渦巻いている。

 だがしかし、ようやく現実に帰れる。

 そのことに俺が胸を撫で下ろした時――男は最後の爆弾を落とした。


『ちなみに、君達の身に起きたのがまやかしではないことを証明するために、最後に情報を与えよう。私が招待した人物――つまり君達被験者は、世界各国からランダムで選ばれている。それこそ、世界中からね。そして、この世界に招待されたにも関わらず、あの空間でコインを入れなかった者。その者には、人質となってもらった。彼らは、ゲームクリアをするまで解放されることはない』


 まるで、それが大したことではないかのように、男は衝撃の事実を語った。


『つまり、彼らを救うにはゲームをクリアするしかないわけだ。人質になった者は、現実世界では、唐突に消えたように見えるだろう。少し時間が経てば、失踪事件としてニュースが世界を駆け巡っているかもしれないね』


「「「「なっ!?」」」」


『では、また会おう!』


 男の言葉が聞こえた瞬間、光が、全身を包んだ。その眩しさに、その冷たさに、俺は思わず目を瞑る。

 だが、しばらくすると、それが消えた。


「……戻ったのか?」


 そろそろと、目を開けていく。

 そこには、いつもの通学路の姿が――なかった。


「……はっ?」


 景色は、なんら変わっていない。レンガの道も、建造物も、噴き上がる火柱も。

 いや、ただ一つだけ。たった一つだけだが、大きく変わっていた。


「……俺だけ……か?」


 そう、先程までは人で溢れていたこの広場に、俺だけしかいなかったのだ。

 まさか手違いがあったのでは、と一筋の嫌な汗が背中をつたった、その時。


『はじめまして……となるかね? 浅堂隼斗君。私は、君みたいな面白そうな人間と話すのを心待ちにしていたよ』


 あの男の声が、すぐ真後ろ(・・・)から聞こえた。

ちなみに、<璧>というのは、中国の玉器の一種です。和氏の璧が有名ですね。

ちなみに、完璧の璧は、これが由来と言われています。


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