相談する相手を間違えました
今日は珍しくあいつは出掛けている。しばらく戻ってこないそうだ。よし、そのまま帰ってくるな!・・・と言いたいところだが、今日ばかりはそうもいかない。
しかし、待てど暮らせど帰ってこないので、結局違うヤツを呼んだ。
いつもの集会所に行くと、まともに起きていたのは『彼』だけだった。ちっ、どいつもこいつも酔いつぶれやがって。
「えっと・・・だから、僕を連れてきたのね」
ぎゃあー!『それ』を持ったままこっちに来るなぁ!!
涼しそうな青い髪の彼---青鬼は、『それ』を優雅に摘み上げると窓を開けて放り投げた。
「でも驚いたなぁ。キミ、あんなのが怖いの?何だっけ、あれ。ああ、確かゴキ・・・」
「その名を口にするなぁああああ!」
呼んで出てきたらどうする。
あいつら、一匹いると三十匹くらいいるらしい。笑えない冗談だ。
黒いボディに長い触覚。床をカサカサと高速で移動する上に飛ぶんだぜ?
しかも、顔に向かって。黒い悪魔の名も伊達じゃない。
「あいつのせいだ。私が世界を創ったときはいなかったからな。絶対、あいつと一緒に入ってきたんだ」
まったく。恐ろしいものを連れ込みやがって。許さん。
「あいつって、例の人間?」
「うん」
あいつは結構有名だ。妖怪の世界に来る人間は迷子か妖怪を退治しにくるヤツらかなのだが、あいつはそのどちらにも当てはまらない。金髪赤目の目立つ容姿もしていれば、最近は集会所にまで着いてきて『うちの家内がお世話になってます』とか抜かしやがる。まだ妻じゃねーよ。そのうち悪い妖怪に食われちまえ。
「出ていけと行っても出ていかないし、妖連中には妻だと触れ回るし、どうしたらいいんだ」
「うーん、・・・それなら、僕が殺してあげようか?」
そうそう、殺すならサクッと・・・は?今、何と仰いました?
「ねぇ、その人間って強いの?妖狐が殺せないくらいだから、きっとすごく強いんだろうね。あ、でも大丈夫。仲間に声掛けて、大勢で行けば流石に」
「ちょっと待て」
なに爽やかな顔して恐ろしいことを口にしている。むしろそれ、君の方が怖いから!間違っても、笑顔全開で言うセリフじゃないよね?
「わ、私は自分のことは自分でどうにかしたい主義なんだ!今のはただの愚痴だから」
「そっか。なら、しょうがないね。じゃあ彼に伝えといて。夜道を歩く時は後ろに気をつけてって」
言葉を聞かなければ十人中十人が振り向くような素敵な笑顔で、彼は帰っていった。
・・・ああ、私が間違えていた。
彼は「まとも」じゃない。間違いなく、集会所のダメ妖怪の仲間だ。
* * * *
「ん?どうしたんですか?」
買い物袋を両手に提げて、あいつが帰ってきたのはそれからしばらく経ってからだった。
「・・・帰り道、何ともなかったか?」
それとなく聞いてみたところ、彼は妙に納得した顔で頷いた。
「特に変わったことは。ああ、でも外でお祭りか何かやっていたみたいですよ。花火とかお神輿とか担いでましたから」
と言うのを聞いて、やっと安心した。・・・ん?何で安心するんだ。さっき、悪い妖怪に食われちまえ。って言ったばかりじゃないか。
「あ、そうそう。これ買ってきましたから踏まないように気をつけて下さい」
買い物袋から覗く、赤い物体。家と黒い悪魔の絵が書いてある。随分ファンシーに書かれているそれは、いつか見たことがあるものだ。ほら、あれだ。置いとくだけで悪魔が劇的に減るやつ。
「・・・あれ?今日は帰ってくるなって言わないんですね」
「気まぐれだ。そういう日もある」
帰ってきてくれて良かったなんて、死んでも言ってやるものか。
いつもの三割増しくっついてきたあいつは今日も、うっとおしかったが今日だけは何も言わないでやる。