引きこもりが出かけるそうです
座談会とは名ばかり。鬼火で火を着けた焚き火に、その周りを囲んで座る。夜はとっくに更け、酒が入って踊り出したり果ては歌いだす輩までいる。
ここはいつも通りで安心する。ここにいるのは、理由は違えど私同様、妖怪社会に馴染めなかったヤツらばかりだ。
「よう、狐じゃねぇか。どうした?」
よう、耄碌じじい。もとい、大入道。
ちっと酒飲みすぎなんじゃないの。全然変わってないなぁ。んなことだから、奥さんに逃げられるんだよ。
「少し、困ったことがあって」
「え、何々?」
足元を見ると、人間の目に手足の付いた妙な生き物がいる。確か、名前は百目鬼。何が百目だよ。目、一個しかないじゃん。
「天井裏に鼠が住みはじめてな。ちゅうちゅう煩くてかなわない」
訳、最近おかしな人間が家に住み着いた。そいつがあれやこれや煩いので困っている。
「鼠?にゃあが食べに行ってやろうかにゃ?」
二股に別れた尻尾をゆらゆら揺らし、狼ほどの大きさをした猫が目を輝かせて言う。
猫又、こないだ鼠見てひっくり返ってたのはどこのどいつだ。どうせ、キャットフードしか食わないんだろ。
「残念。てっきり男でもできたのかと思ったわ」
シャッシャッ、という音ではなくせっせっと顔に化粧水を塗りたくっている女。
手に持っているのは小豆ではなく、手鏡。男ができたのはおまえだろうが、小豆洗い。というか、前見たときより化粧が濃くなっている気がする。働け、ニート予備軍。
あ、こいつらみんなニートみたいなもんだっけ。私もだけど。
「酒くれ、酒」
誰ともなく猪口に注いでくれた酒を飲んだ。もう酒でも飲まないとやっていられない。あー、家に帰りたくないなぁ。
「じゃ、ウチに来る?」
名乗りをあげたのは、青い髪をした青年。たまに集会所に顔を出す。よく見ると白いツノが頭に二本生えている。彼は鬼だ。鬼といえば、力が強く妖怪の中ではエリートな部類に入る。なぜ彼がここに来るのか未だによく分からない。この面子の中では比較的マトモな部類だ。
彼なら大丈夫かもしれないと一瞬邪な考えが頭を過った。しかし、そんな保証はどこにもないわけで。
「ありがとう。でもいいや、帰るよ。鼠、家から追い出さなきゃいけないし」
「そうか。じゃ、またね」
背を向け、家路についた。
あーあ、どうするかな。久しぶりに出てきたのに収穫なしか。・・・でも楽しかったな。もう少し来てみようかな。
椛の林を抜けガラガラと玄関を開けた。
「お帰りなさい」
出迎えた声に驚いた。
だって、一晩明けて今、朝だよ?まぁ、ここはいつも夕暮れだけど。
「・・・出ていけって言ったのに」
出て行くどころか、その気配もない。どこからか出してきたテーブルに綺麗に盛り付けられたいなり寿司と紅生姜。
美味そうだな、こんちくしょう。
冷めないものにして良かったと微笑むその顔が恨めしくなる。
鼠め、どうしてくれよう。
ぐぅ。とりあえず、腹がへった。腹が減っては戦はできぬ。話はそれからだ。