表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

-1st 浅い空、深い海-

感想を頂けたら嬉しいです。宜しくお願い致します。





-1st 浅い空、深い海-




朝なんてものは黙っててもやってくる。どんなにやってこなくていいと思っていても胸糞悪いまでに呆気無く朝日なんてもものは昇り始めて、外が曇りだろうが土砂降りだろうが僕という存在を眠りというこれ以上ない最高に快適な状態から覚醒させてくれる。例え窓際に垂れ下がるカーテンが遮光性の強いものであっても、だ。まったくもって有難迷惑千万。そのまま寝かせておいてくれてもいいのに。

とはいえ、人は一日寝たままではいられない。赤ちゃんには赤ちゃんなりにやらなければならないことはあるし、成長すれば成長するだけそれは増える。それは当然僕という人間にも当てはまるし、残念なことにそれをしないと年長者からのゲンコツか叱責というありがたくも何ともないものが降り掛かってくる。

朝からそんなものを受けたいほどに僕は人生に退屈はしていないし、だから一度開いたまぶたがまた閉じてしまわない内に無理矢理に体を起こした。


「…………」


だからといって本当の意味で眼が覚めるかといえばそうでもない。まぶたは半開きだし、頭は全くといっていいほど働きやしない。敷きっぱなしの煎餅と化した布団の上に鎮座すること五分。ようやく僕は活動を始める。

ノロノロとした足取りで水漏れがしてそうな風呂場へ。シャツとトランクスを脱ぎ捨てて蛇口をひねる。そして必ず浴びるのだ。熱湯を。


「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃっちゃっちゃい!!」


どういう原理なのかはサッパリなのだが、ウチのシャワーは水をひねっても最初に熱湯が出てくる。ここに住み始めてもう相当になるのだからいい加減学べばいいのにと我ながら思うけど、やってしまうものは仕方がない。だって朝は頭が働かないのだ。それほどまでに僕は朝が弱い。

温度がようやく落ち着いたシャワーで覚醒し、寝ぐせだらけの茶色い髪の毛を整える。十分くらい浴びると、風呂場で歯を磨いて、前日の夜に準備してあった着替えを手にとって、使い捨てのコンタクトを付ける。アクビを堪えながら真っ黒な、もうすでに時代錯誤と言うか骨董品、生きた化石に等しい学ランを着替えると、また布団の上に座ってテレビを見ることしばし。面白くも何ともない、ニュースなのかバラエティなのか情報番組なのかサッパリ分からないテレビを眺めてから家を出た。


ようやく動けるようになったとは言っても眠いものは眠い。アクビで眼に溜まった涙を右手で拭いながら自分が出てきた建物を見る。木造の誰がどう見ても、百人聞けば百人がボロ屋と答えるだろう古ぼけたアパートが風に吹かれて軋み音を立てている。当然毎日見ているものだから見慣れてはいるのだけれど、この築何十年か分からない建物がどうして未だに崩壊せずに残っているのかが不思議でならない。今この瞬間に崩れてもおかしくないと思う。もっとも、そうなったら困るのは自分ではあるが。

何十回とアクビをしながら、すっかり主流になった電気自動車から流れる、ガソリン車の擬似エンジン音を耳にしつつ十五分も歩けば我が母校が見えてくる。天気は快晴とは行かず、晴れてるとも曇っているともいえない微妙な状態。寝ているのか起きているのか分からない、さながら我が頭脳といったところか。

誠に当たり前ながら学生というのは僕だけでは無いので、校門の前には続々と他の生徒が集っている。さすがにココまで来れば眠いとはいってもある程度眼は覚める。校門の前は騒がしいけど、僕が近づくと同時にみんなの空気が若干硬くなるのが分かる程度には。


「うっす、夜。おはよう。相変わらず眠そうな顔してんな」

「あ~……真か。おはよう……」


下向きの顔を上に向ければ、頭ひとつデカイ真――朝霧真がいた。見てると眩しくなるくらいに金色に染めた、ツンツンに突っ立った髪の毛が見える。

真は僕の頭に手を乗せてグシャグシャと撫で回した。


「朝なんだから元気だせよ! 一日がもったいないじゃねーか。あ、でもお前は一日中眠くてもしょうがねーのか。名前が『夜』だけに」

「名前の事はほっとけ。あと、そんなドヤ顔されても全然うまくないからな。ついでに言うとその手のネタはとっくに使い古されてる」


何せ生まれた時から「夜」なのだから17年間散々イジられてきた。最初はイヤでこんな名前を付けた我が親をちょっと恨んだりもしたが、もうすっかり慣れきってしまったし、この歳になってまでそんなイジリ方をするような奴はいない。真以外には。


「いつまで経っても色あせない鉄板ネタ! 生まれつき持ってるヤツが羨ましいぜ!」

「色々とツッコミたいところだな……」


とは言え、朝からメンドクサイからツッコまないけど。

そんな疲れる会話を交わしながら毎朝の様に眼を覚まして、気がつけばいつの間にか上履きに履き替えてて廊下を歩いてた。隣で真が何やら話しかけてるけど、それを適当にあしらいながら教室へ向かう。

朝の廊下は登校した他の生徒たちで混み合っててざわついているけど、僕ら二人が近づくとピタリと会話を止めて、端っこ避けてそそくさと早足で通り過ぎる。そして僕らと距離ができると、また何事も無かったかの様に話し始めるのを僕は背中で聞いていた。

僕らは学校だと嫌われ者だ。いや、嫌われ者とはちょっと違うか。正確には怖がられてる。僕が通ってる学校は真面目でお固い生徒が多いからか、いわゆる不良と呼ばれる生徒はいない。僕と真くらいだろうか。もっとも僕も真も不良でいるつもりはないけど。いや、真は僕から見ても不良生徒か。本人に自覚は無いだろうけど。

ステレオタイプだけど、髪染めて時々授業サボってれば周囲からは「ヤンキー」に見えるらしい。加えて有ること無いこと噂も広まるから、ますますそのイメージが固まってしまう。そんなイメージが先行して周囲は僕らが怖いらしいのだ。こんな一六〇cmにも満たない人畜無害な細身の少年のどこが怖いのか、いまいち理解に苦しむけど。


「いやいや、人畜無害じゃねーだろ。聞いたぜ、こないだも工業の奴らに絡まれたんだってな?」

「あー……そう言えばそんな事もあったな。なんか道歩いてるだけで絡まれるんだよな。カモに見えるんだろうな」

「見た目はちびっ子が粋がってるみたいだしな」

「やかましいわ」


と、何やらペチャクチャと話しかけていると、真が視線を僕から正面へと向けて手をブンブンと大きく振り始めた。


「おっはよー、あかりちゃ~ん!」


そして声の先には小柄な女の人。ショートの髪にピンクのカーディガンを羽織って、笑顔でこちらに振り向いた。


「あ、夜クンに真クン。おはよう」


クラスの名簿を胸の前に抱きかかえて、微笑みながら可愛らしい声で応える。コッチに歩いてきながら唇を尖らせて、大きな眼を無理やり吊り上げて怒ってますよ、とアピールしながら真に注意する。小柄な体格と幼さの残る顔、それに何となく「フワフワ」って表現が似合いそうな雰囲気のせいで男子生徒からは人気が高い。事実、彼女の怒った顔を見て周囲の男子生徒は顔をニヤつかせながら通り過ぎてる。


「こーら。ちゃんと『三上先生』って呼びなさい。あと、学生服はキチンと一番上のボタンまで止めること」


そう言いながらあかりちゃんは真の首下に手を伸ばした。そして周囲をキョロキョロと見回して誰もコチラに注意を払ってないことを確認すると、唐突に真の顔を引き寄せる。


「……何回注意させんだよ、真ォ。テメェの頭は鳥並みか、ええ?」

「いやぁ、あかりちゃんの……」

「『三上先生』だろぉ? タマ潰すぞ?」

「ゴメンナサイ……」


ヤクザ真っ青なドスの効いた低い声とともに睨みつけられて、真は今日もあかりちゃんに素直です。


「だから、今度からはちゃんとしてきてね? 三上先生からのオ・ネ・ガ・イだからね」


真を解放するとあかりちゃんはニッコリと笑ってウインクした。それを目撃した男子生徒が頬を赤らめたりしてるから手に負えない。対象となった真の顔は若干青ざめてるけど。


「相変わらずうまいなぁ……」

「何か言った、夜クン?」

「いえ、ただ三上先生は可愛いなぁって思っただけです」

「そう? それなら良し!」


別に被虐願望があるわけじゃないからあかりちゃんには逆らわない。この世界で生きていくためには処世術は大事なのだ。


「何やら騒がしいと思えば、またお前か、朝霧、空深」


あかりちゃんの後ろから小言を言いながら男性教師が近づいてくる。長身・細身で女子生徒にモテる、いわゆるイケメンというやつなのだが、どうにも好きになれない。高圧的な態度で接してきて僕や真を目の敵にしてるし、やたらと男子生徒に厳しい。特に僕と真には、たまに難癖をつけてるとしか思えない時もあるし、ムカツクやつだ。

そう言えばコイツの名前なんだっけ?


「別に騒いで無いっすよ。ちょっとあかり……三上先生と話してただけじゃないっすか」

「教師に口答えするな。だいたいなんだ、その髪は。空深も。ちゃんと黒くして来いって言っただろうが」

「いやいや、校則だと髪の色まで決められてないじゃないっすか。それに中間テストで全教科平均点取ったら認めてやるって言ったの、先生じゃないっすか」

「見逃してやるとは言ったが、認めるとは言ってない。三上先生も、もっと厳しく指導して下さい。担任の三上先生が甘いからコイツらがつけあがるんですよ」


矛先があかりちゃんに向かったところで、あかりちゃんは露骨に舌打ちして顔をしかめた。しかめたっていうか、歪めたというか、言葉に出すのもはばかられる程スゲェ顔をした。向かい合ってた真なんて素で引いてるし。気持ちは分かるんだけど、あかりちゃん、顔崩れすぎじゃね?


「そんな事無いですよ? 朝霧クンも空深クンも、見た目こそこんな風ですけど、とっても良い生徒です。成績も悪いわけじゃないですし、素行に特別問題があるわけじゃありません」

「しかしそこの空深もこの前他校の生徒と……」

「アレは向こうに全面的に問題があったということで話が着いたはずです。先生もそれで納得なさったじゃありませんか」

「それはそうですが……」

「ですが、ご忠告として有難く頂戴致します。

それじゃもうすぐチャイムがなりますから失礼しますね。先生もホームルームに遅れますよ?」


口ごもった先生にあかりちゃんは一息にそう告げると、深々と頭を下げた。どんな顔をして話してたのかは僕の位置からは見えなかったけど、さぞかし今はひどい顔をしてるんだろうな。

一方で先生の方はまだ何やら言い足りなさそうに口元をモゴモゴさせてたけど、反撃の糸口が見つからなかったのか、あかりちゃんに見られないように僕らを睨みつけて去っていった。

廊下を曲って野郎の姿が完全に見えなくなるとあかりちゃんは頭を上げて、真は僕をヘッドロックするとワシャワシャと髪を撫で回した。


「いやぁ、助かったぜ、夜! お前がこの前のテスト、出るところ教えてくれなかったら完全にアウトだったぜ」

「アレはたまたまピッタシ出ただけだよ。次からは前以て勉強しとけ。それと、お礼言う相手は僕じゃなくて三上先生だろ?」

「おお、そうじゃん! あかりちゃんも庇ってくれてありがとう!」

「だから名前で呼ぶなと……まあ良い。それよりもさっさと教室に行くぞ」


相変わらず鳥頭の真に、あかりちゃんは今日は諦めたのか深々とため息をついて教室に向かう。たぶん明日もまた同じ光景が繰り返されるんだろうけど。

似たような毎日に退屈しがちな僕だけど、これはこれでいいんだ。あかりちゃんと真のやり取りは面白いし、見てて飽きない。僕は眼を覚ますことができるし、何より、誰も傷つかないから。ここ最近は悪い未来(・・)も見てないし、これからもずっとこんな日々が続けばいいのに、と二人の背中を見ながらそう思う。悪いこと、嫌なことは忘れて、楽しくて嬉しいことだけ覚えていけたら、どれだけ幸せだろうか。


「なあ……」


そんな事をつらつらと考えながらあかりちゃんの後ろを歩いてたけど、ふとあかりちゃんが僕らの方を振り向いて疑問を口にした。


「あの先生の名前、なんだっけ?」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





興味の湧かないものに対しては人なんて何の集中力も持たない。例え興味は無くとも別の原動力、具体的に言えば野心や目標、はたまた義務感や強迫観念でもいい。とりあえずそんな感じで動かすものが無ければ、人の話なんて夢の世界へ誘うだけの、RPGゲームであるような魔法でしか無い。むしろゲームの魔法より強力だ。

退屈な授業を寝て過ごして昼休みになったはいいけど、僕にはやる事がない。食堂で真と飯食ってしまった後は午後の授業があるまで全くの暇だ。昼休みは大概真はどっかに姿を消すし、他に友達と言える様な奴もいない。教室にいても周りには誰も寄ってこないし、慰めに教室内を見渡してみても大体は仲のいいグループでダベってるか、携帯型ゲームをコッソリと持ち込んで盛り上がってるか、そんな感じ。中には授業で使うPCを好き勝手にいじくって、ゲームなんかをインストールしてる奴もいるけど、周りにITが溢れてるこのご時世になってもコンピュータに教師連中は弱いらしく、今のところバレてないらしい。

幸いにして周囲と距離を取るのは自分としても望むところだし、周りと何かに興じている方が個人的には苦痛だから、今の状況は悪くは無いとは思ってる。暇は暇ではあるのだけど。

頭をバリバリと掻きながら僕は教室を出た。気にはならなくても居心地がいいわけじゃない。他者に無関心でも空気は読める。僕が居心地が良くないのと同じように、周りも僕がいるとあまり楽しめないらしい。


「お?」


アテも無くブラブラと、今日も屋上にでも行こうかと人気の無い校舎の端にある廊下へと向かっていると、人気が無いはずの廊下に見覚えのある人影。昼間だというのに節電してるのか薄暗くて、あそこは確か物理室だっただろうか。そこで彼女は両手にプリントを重そうに抱えて、手が塞がってるからか足だけでドアを開けようとしていた。見るからにバランスが悪くて、胸の前で紙が右へ左へと揺れて、彼女もそれに気づいてるのか上半身を左右に揺らして落ちないよう落ちないようにと苦戦してる。まるでヤジロベーみたいに。

だけど、だけど残念なことにクラスメートである僕は知っている。彼女に運動神経が無いことを。

果たして、十人この場にいれば十人全員が予想するだろうことを、彼女は期待を裏切ること無くやってのけた。


「何やってんの、森川」

「イタタタタ……あ、空深くん」


強かに打ち付けたお尻をさすりながら涙目で見上げてくる森川。黒髪セミロングの彼女はクラスでも地味な存在だ。休み時間に誰かと話してる姿もほとんど見たことが無いし、ついでに言えば話す時も相手の顔を見ることができない。なるほど、ならば相手が気を抜いていたとはいえ、顔を見て話しかけられた僕は非常に幸運と言うことか。

空からはパラパラと宙に舞ったプリントが降ってきて、パサリと黒髪の上に落ちてきた。それに気づくと森川は黒縁の眼鏡がズレたまま慌てて紙を拾い始めた。

こんなナリだけど、一応僕は自称不親切ではない。珍しく幸運に巡りあったことだし、他には特にやる事も無いからしゃがみ込んで拾ってやる。


「そ、空深くん……」

「ん? 何?」

「えっと、その……あ、ありがとう」

「どういたしまして。それより、パンツ見えてるよ」

「え? えっ!?」


教えてあげると、両手にプリントを持ったまま森川はスカートを抑えた。あ、と僕が声を掛ける間もなく、普段の鈍さはどこへやらと言わんばかりの速度で手は振り下ろされて、これまた予想通りにプリントはクシャクシャになってしまう。


「あう……」


さてさて、顔を赤くして涙目になっているのはケツが痛いからか、恥ずかしいからか、それともプリントを潰してしまったからか。好きな人ならそんな姿を見て「可愛いなぁ、ハァハァ」とか心のどっかで悶えるのかもしれないけど、残念ながら僕にはそんな趣味も無ければ興味も無い。気にせず黙ってプリントを集めてやる。


「み、見え、た……?」

「そう言ってるじゃん」

「うぅ……」


おずおずとしてスカートの中が見えないよう足の位置を調整すると、かおを真っ赤にしたまま森川もプリント集めを再開した。そこまで気にすること無いじゃん、と思わないでもないが、まあ、それは僕が男であると同時に周囲に興味が湧かないという変な性質を持っているからだろう。


「おい、空深。お前、何をしている?」


あらかた集め終わったところで咎めるような声が聞こえた。振り返ればそこには今朝方僕と真に難癖をつけてきた奴がいた。


「笹川先生……」


なるほど、笹川っていうのか。この人の物理の授業を受け始めてすでに数ヶ月が経つけど、そうか、そんな名前だったのか。


「別に。森川がプリント落としたから一緒に拾ってただけですよ」

「……本当か、森川?」

「え、あ、えっと、はい……」

「そうか。後は私が拾っておくから行っていいぞ」


別にアンタの許可を貰う必要はねーよ、と内心で毒づく。露骨に「早くどっか行け」と言わんばかりの視線をプレゼントしてくれて、もうほとんど残っていないプリントを拾うために笹川もしゃがみ込んできた。

まあわざわざこの先生が拾ってくれるっていうんだ。厄介者扱いされてるわけだし、別に嫌な想いしてまでココにいる必要は無い。このムカつく先公に後を任せるべく、僕は立ち上がった。

その時だ。


「う……?」


グニャリと目の前の世界が歪む。天井が歪む、床が歪む、窓が歪む。笹川が歪み、森川が歪む。そして僕が歪む。左右が消え、上下が逆転し、時間が前後する。グルグルとめまいにも似た感覚が僕を包み込んで、気づけば僕は見知らぬ場所に立っていた。

ココはどこか。全く見覚えのない場所を僕は冷静に観察する。そこは何処かの部屋だ。それなりに高そうな一室で、部屋中に衣服やら何やらが散らばっている。潔癖症と間違うほどにキレイにしろとは自分の部屋を棚の上の天井裏にまで上げても決して言えないが、ちっとは片付けたらどうだ、とも思わないでもない。とは言うものの、よくよく見れば部屋の隅に埃とかそういったものは見られない。て言うことは、普段から掃除はやってるってことか。


「あっ! ああっ!? ああああっ!!」


素っ頓狂な声が聞こえて、どっかで聞いたことある声だな、とか思いながら振り向くとそこにはついさっきまで一緒にいた笹川の姿。笹川は部屋の残念な惨状を見ると、靴も脱がずに部屋の中へと転がり込んだ。

僕のいた、まさにその場所を通り抜けて。

ガシャガシャとけたたましい音を立てて笹川は部屋中の引き出しをひっくり返していく。


「無い! 無い、無い、無い、無いッ!!」


騒ぎながらアッチコッチを探しまわってその度に絶望したような声を上げた。頭を抱えて笹川は喚く。その叫び声をBGMにその景色はまたグルグルと歪んでいった。


「どうした、空深」


その声にハッと現実に戻る。そこは学校の廊下で、足元には森川と笹川。森川は不思議そうな顔をして、笹川はどこか苛立たしげな目で僕を睨みつけていた。


「いえ、別に……」

「ならさっさと行きなさい」


言われなくてもそうするさ。ここにいる理由は無いし、いたくも無い。

森川は何か言いたそうな顔をしてたけど、結局何も言えずにうつむいてしまった。まあ、いいや。さっさとココを離れよう。

微かな声を背中で聞きながら僕は屋上に向かった。






空は晴れ渡り、鳥は自由に空を駆け回る。よく鳥を自由の象徴として表したり、鳥になりたいとかいう人がいるけど、僕はそうは思わない。確かに大空を飛んでいる鳥は気持ちよさそうで、何の柵も無いように見えるけれど、鳥にだって縛るものはある。鳥は飛べるかもしれないけれど僕らみたいに走りまわることもできないし、きっとできることは僕ら人間のほうが多い。だから僕は例え生まれ変わって鳥になれるとしても、やっぱり人間を選ぶだろう。

だけど。

だけど、もう一度僕になれるとしたら、僕はそんな権利などこの屋上から全力全開で斜め上方四十五度で投げ飛ばしてやる。もっとも、そんな事したら僕の右肩は外れてしまうだろうけど。

できもしない事を妄想するくだらない思考をしながらくだらない街を見下ろす。五時間目の授業はもうとっくに始まっていて、見下してるはずのグラウンドには誰もいないし誰の声も届いてこない。なのに僕はここでこうして一人座り込んでいた。

先ほど見た景色。アレは恐らく笹川の部屋だったんだろう。あの慌て様からして、たぶん、空き巣にでも入られたか。今までの経験からして、空き巣の被害にあうのは今晩。このタイミングで見えたって事はそれで間違い無いだろう。それ自体は何も思わないし、どうこうする気も無い。どこまで行っても僕は観測者にしか過ぎないのだから。

不意に様々な事が頭を過る暗い記憶。無力な自分。助けられなかった自分。助からなかった人たち。断片たちが頭の中を駆け回って、ひどい頭痛を引き起こす。気持ちが、悪い。

どういうわけか悪い未来だけはやたらとハッキリ僕の持つ何かは見せてくる。その度に憂鬱になって、数え切れない程の未来を見て僕はいつしか慣れてった。

風が頬を撫でた。夏が近い、生温い風だ。木々がざわめき、薄い雲が太陽を覆い隠した。

僕は立ち上がり、出口へと向かう。その途中で街を半眼でもう一度見下ろした。何故か、街に見下ろされている様な気がした。





世界は変わらないし変える気も無い。例えどこかの国で紛争が起ころうが日本で地震が起ころうがテレビでデモ行進の様子が放送されただの放送されないだの誰かが喚いていようがあかりちゃんが化けの皮を剥がして教壇の上で悪態吐いていようが真が財布落として地面にめり込みそうなくらい落ち込んでいようが何も変わらない。


「はーい、おはようございまーす」


さっきのはただの物の例えで、実際には世界は平和で、あかりちゃんは相変わらずの完璧に作り上げられた可愛い声でクラスに向かって挨拶している。真だけは財布を落として沈んでるけど。

あかりちゃんはクラス全体を見渡して欠席者がいない事を確認すると、いつもなら「今日も一日ガンバロー」などと言って教室を出ていくのだけれど、今日は「お知らせがあります」などと言い出してニコリと笑った。


「なんと! 今日からこのクラスに転校生が加わります!」


途端にクラス中がざわつき始める。すでにゴールデンウィークも終わって六月にさしかかろうとしているこの時期に転校なんて、物好きな家族もいたもんだ。


「しかも! 喜べ男子!! 転校生はかっわいい女の子だ!」


おおー、と男子のみならず女子からも歓声が上がる。まあそろそろ二年生のクラスにも慣れてきて、変わらない毎日にマンネリ感が醸しだす頃だ。イベント的なものが欲しくなってるのも分かるし、それを考えればいいきっかけにはなる。

それでも関心が無いヤツは何処にでもいるし、そいつらは退屈そうにあかりちゃんを眺め、僕は僕で眠いから机の上のラップトップを閉じてその上に突っ伏してる。一応顔だけはかろうじて教卓に向けてはいるけれど。


「それじゃ入ってきて~!」


間延びした声がして教室のドアが開く音がする。そして彼女は現れた。

真新しい白い上履きが教室に入り、そこから細い脚が伸びていく。転校生らしいシワ一つ無いチェク柄のフレアスカートが腰を覆って、濃紺ブレザーの裾が揺れる。

髪は長い。腰くらいまで届くだろうか。栗毛色に淡く染められたそれが、彼女が歩く度にハラハラと宙を撫でる。

静かな歩調であかりちゃんの隣に立つと、黒板に向かって丁寧な字で自分の名前を書いていく。カッカッカッ、と小気味いい音を立てて書かれるその文字は女の子にしては珍しく丸くなくて、習字でもやっていたのかな、と思わせるくらいにはキレイだった。


浅海・圭(あさみ・けい)です。宜しくお願いします」


落ち着いた口調で自分の名前を告げると、彼女はたおやかに腰を折ってお辞儀をした。キレイきっかり四十五度。お手本みたいなお辞儀をして顔を上げたところで僕は初めて彼女の容姿を確認する。

すっきりとした鼻筋にキリッとした眉が印象的か。ややタレ気味な目尻の下には泣きボクロがあり、落ち着いた雰囲気のせいもあってエライ蠱惑的だ。本当に高校二年生だろうか。正直三十手前だと言われても僕は驚かないぞ。

そんな事を考えてたらあかりちゃんと転校生両方に睨まれた。どうやら二人共読心能力があるらしい。なるほど、だからあかりちゃんは独身なのか。

背筋が凍るような思いを意図的に無視して、僕はまた顔を組んだ腕の中に埋めた。呆れた様なため息があかりちゃんから聞こえてきたけどそれも無視。


「それじゃ浅海さんの席は……空深くんの前でいっか」


なんでそうなる。確かに僕の列は他の列より人数は少ないけど、それでもせめて一番前とか後ろとかだろ。ああ、ほら、周りもざわざわとし始めてるじゃないか。僕は人畜有害なんですから止めたほうがいいですよ。


「浅海さんもそれで良い?」

「ええ、構いません」


反論するのもメンドクサイ。ま、どうせそんなに関わりあう事も無いだろうし、最初は絡むこともあるかもしれないけど、すぐに彼女も離れていく。それに反論しても僕の言葉であかりちゃんが考えを改めるとも思わないし、好きにすればいいさ。


「宜しくお願いします、空深さん」


頭上からの大人びた声に僕は軽く手を上げて応えると、そのまま夢の世界に沈み込んでいった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





僕は夜の帳の中に立っていた。いや、立ち尽くしていたと言ってもいい。

まだ宵は浅くて、周りのマンションの廊下にはLEDが光っている。防音の行き届いたマンションは静かで、夜を夜らしい静かな空間を作り上げてる。閑静なんだろう住宅街は人通りも無くて、高級そうな佇まいが羨ましい。ウチの昭和の時代から有りそうなボロアパートとは大違いだ。ときたま、とっくに滅びた様なガソリンエンジン車が国道から騒音をかき鳴らしてて、それを僕だけが聞いている。生温い風が頬を撫でる。不気味な風だ。まるで、全てを溶かし尽くしてしまいそうで気味が悪い。時折強く吹いて木が不快にざわめいた。狭い路地には街灯が等間隔で並んでて、本来暗いはずの道路を明るく照らしていた。

そんな中で、僕のいる場所は暗い。街灯はチカチカと明滅してて、ひどく目に悪い。

何よりも目に悪いのは赤だ。足元は真っ赤に染まってる。どす黒いような赤いものがドロドロと流れて僕のスニーカーを汚す。

隣には工事現場。緑色のネットに覆われた奥には規則的に鉄骨が組み上げられていて、見上げると首が痛くなるほどに高い。遠く最上部には建設用のクレーンが鎮座してた。

そして僕の目の前には無骨な足場用のパイプが転がっていた。無機質で温かみを全く感じられない。

その隣に彼女も転がっていた。

大の字に手足を広げて、彼女の長い髪は硬いアスファルトに孔雀の羽の様に広がっていた。

眼は見開いたまま。そして瞬きせず微動だにしない。頭の一部が潰れてしまっているのが、点滅する街灯に照らされて分かった。

まだ彼女資材に潰されてから間もないんだろう。広がっていく彼女の血が僕にこびりついていく。

僕は一歩彼女に近づく。ぬちゃり、と今度は音が耳にこびりつく。

顔を覗き込む。僕の知っている顔。

手を見る。ピクリ、と手が動いた気がした。

脚を見る。スカートが布ずれ音を出した。

もう一度顔を見た。

瞳の奥の深淵が僕を覗き込んでいた。




「――っ!!」


ひどく荒い自分の呼吸に我に返る。両目には涙が浮かんでいるのか、机の上にあるはずのPCの姿は歪んでいた。何だ、今の光景は。

グルグルと思考と視界が周り、考えがまとまらない。まとめようとも思えない。頭があらゆる思考を拒絶する。

何を見ていたのか、思い出せない。思い出せないのに、胸に残る不快感だけははっきりと残っている。思い出せないのに、はっきりと未来を見たことははっきりと思い出せる。

どこまでもはっきりと見えて、匂いも、感触も、全てが本物。肌寒さも、静けさも紛れも無く僕は感じていた。

なんてリアル。

なんて不気味。

なんて――無力。

瞬きをする度に景色が蘇る。それを僕は必死に押しとどめる。

僕は思い出さなきゃいけない。誰に何が起こるのか、それをキチンと記憶に留めなければならない。

だけど今は無理だ。さっきから呼吸が落ち着かない。汗は滴り落ちて机の上に溜りを作ってる。なのに体はひどく寒かった。


「大丈夫?」


あかりちゃんの声に僕はようやく顔を上げた。そこで僕はやっと今が授業中で、自分が立ち上がっているということに気づいた。クラス中が僕を見つめ、怪訝な顔をしている奴もいれば、今にも舌打ちしそうなほどに口を歪めてる奴もいる。

そんな中で真とあかりちゃん、それと森川だけが心配そうに見ていた。


「おいおい、顔真っ青だぞ。保健室に行くか?」

「いや、大丈夫……ちょっと風に当たってくる」


真の提案を断って、僕は廊下の方へと向かう。何より今は落ち着くための時間が必要だ。あんなに、はっきりと生々しく未来を見たのは久々だ。気をつけないと胃の中のものを全て吐き出してしまいそうだった。

重い脚を引きずって歩き出す。

動き出す直前に見た、一つ前の席に座る転校生。僕を見つめる黒い瞳。瞬き一つせずに、細かったはずの眼が大きく見開かれていた。

とても黒い黒い瞳。どこまでも深く、底が見えない。それが僕を吸い込んでいく。

知らずの内に僕はその瞳を覗き込んでいた。それと同じく、深淵が僕を覗き込んでいた。

そして僕は意識を失った。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





僕は夜道を歩いていた。夜、というには少し早いかもしれない、しかし夕方というには遅い、そんな時間。誰そ彼(たそがれ)というのが適当かもしれない。

昼間は夏を感じさせるほど暑かったのに、この時間帯は「夏と呼ぶにはまだ早い」と地球が主張しているように涼やかだ。だけど風はどこかまとわりつくようで気持ちの悪さは残る。

気を失った僕が目覚めたらすでに放課後だった。保健室には誰もおらず、校舎は奇妙な沈黙が跋扈していて広いグラウンドからは野球部の威勢の良い掛け声が響いていた。

僕は部屋を飛び出した。適当に書き置きを養護教諭の机の上に置いて、教室に置いてあるカバンもそのままに暗くなり始めた街へ出ていった。

街中を歩きながら夢で見た未来を思い返す。十分寝たからか、思い出しても感情が揺れる事は無くて冷静に、客観的に記憶を辿る。

夢の中で見た彼女は間違いなく転校してきた女の子だ。名前は……浅海って言っていただろうか。地面に横たわっていた彼女の身に何が起きたか、現場の状況を思い出せば想像するのは真の奴でも分かるくらいに容易い。

事が起こる場所については分かる。あの景色には見覚えがあった。前にあの近くに住んでいたことがあって、もうずいぶんと昔の話だ。引っ越してから間もなくビルが沢山建ち始めて、見える景色は変わってしまったけど、だいたいの場所は見当がつく。

風が強く吹きつけ、僕は眼をつむる。すでに現場近くにはたどり着いている。ココから見える建設中のビルは三箇所。ほぼ同時期に建設が始まったのか、どれも進み具合は同じくらいで、夢で見た未来の映像だけだと判別ができない。


「勘で探すしか無いのかよ……」


ひとりごちながら僕は脚を走らせる。時間はすでに無い。太陽は沈んでほとんど夜と表現しても差し支えないくらいになっている。夜の色に染まってしまった雲の流れは速い。

走りながら、僕は考えた。今、僕がこうして走っている事に意味はあるのだろうか、と。

どれだけ頑張っても、何も変わらない。そう、何も変らないのだ。

通学路で交通事故死する奴を止めた。次の日に同じ場所ではねられて死んだ。

飛び降り自殺する高校生を説得した。彼女はその夜にフェンスが壊れて転落死した。

銀行強盗が人質を射殺する未来を見た。あらかじめ通報すると、人質は別の銀行で強盗に射殺された。

僕が何をしても、結果は同じ。誰一人として助けられなかった。

それから僕は諦めた。気力を無くした。何を見ても、何をすることも無くなった。

怠惰に毎日を過ごし、判を押したように同じ毎日を過ごす。それ以来、悪い未来を見ることは少なくなっていった。だから僕はそれに満足した。

なら僕はなぜこうして走っているのだろうか。夢見が悪いから?彼女を助けたいから?暇だったからか?

息を切らしながら、クラスメートの姿を探す。風が強く吹きすさび、それが僕の足を止めようとしてくる。

理由探しなんて後ですればいい。自分に言い聞かせて、現場付近を走りまわる。

汗が額から流れ、眼に入って痛む。全く、なんて割りに合わない。そう吐き捨てながら僕は今日来たばかりの女の子を探す。


辺りがほぼ真っ暗になり、全身が汗にまみれた頃、僕は彼女の姿を認めた。

街灯が路地を明るく照らし、その内の一つが黒く点滅していた。

強風が彼女の髪を揺らし、鮮やかに広がる。何も知らずに無垢な歩みを進めていた。

そばには建設途中のビル。遠くの国道から静まり返った住宅街に車のエンジン音が響いた。

そして空には黒い影があった。

不安定だった足場が強風にあおられて揺れる。

僕は走った。

足場が倒れた。


「浅海ィッ!!」


手を伸ばす。声に振り向いた彼女の顔が見える。感情に乏しい表情に乗っかった黒い眼が僕を覗きこんでいた。

浅海に向かって伸びた腕が、彼女に届く。

だけど、彼女は消えた。音も消えた。

彼女はどこに消えた?こちらを見ていた浅海圭はどこに行ってしまったのか?右を見ても左を見ても彼女の姿はない。

崩壊した鉄パイプ類が足元に転がって靴へぶつかる。地面を見ると、パイプが赤い水の中に沈んでいた。

彼女はそこにいた。眼を大きく見開いて無感情に僕を見上げていた。

染み付いていく血の匂い。孔雀の様に彼女の髪が地面に広がった。

見上げる彼女を僕は見下ろす。僕を彼女の動かない視線が責め立てる。

一歩、後退った。そして左足が後ろへ下がる。右足、左足。右脚、左脚。交互にそいつらが動いていく。勝手に動いていく。


そこから先は記憶に無い。気がつけば聞きなれた目覚ましがなっていた。

頭が働かないままに目覚ましを止め、TVをつけて風呂場へと向かう。シャワーを浴びながら歯を磨いて眼が覚めるのを待つ。いつもは熱湯が出るはずのシャワーは、今日は機嫌が良いらしく素直に適温のお湯を出してくれた。

制服に着替えて、煎餅布団に腰を下ろしTVを眺める。興味の無いワイドショーチックな芸能ニュースを垂れ流し、タレントと化した女子アナが大げさにコメントを述べているのをただボーっと見ていた。


「さて、と……そろそろ行くか……」


アクビを何となく噛み殺してカバンを探してる途中で気づく。そう言えば昨日学校に置きっぱなしだったな。中に入れていた財布は大丈夫だろうか。


「ま、いっか……別に取られても大して額は入ってないし」


気にしたてしょうがない。残ってれば良し、無くてもそれまでだ。そうなったらどうせ見つかりはしないだろうし。

風が吹けば崩れそうなボロアパートを出て人通りの少ない通学路を歩く。天気は良くなくて、曇っているせいかちょっと肌寒い。


「――続いてのニュースです。昨日、神奈川県横浜市内の建設現場で建設用に組まれた足場が倒壊するという事故がありました。事故があったのは南区和泉のマンション建設現場で、十五階付近、高さ四十メートルの所から、昨日の強風に煽られて足場が崩れて落下。一時現場は騒然となりました。幸い、事故当時現場付近には作業員や通行人はおらず、けが人などはいない、との事です」





いつもどおりに学校に向かったわけだけど、どういう訳だかいつもより通りに人は少ない。それは学校近くまで行っても変わらなくて、ポツリポツリとしか生徒の姿も見えない。


「……? 今日、何かあったっけ?」


見慣れない光景に頭をボリボリ掻きながら腕時計を見る。なるほど、人がいないはずだ。いつもより二十分くらい早い。どうやらウチの目覚まし時計は狂っていたらしい。

だからといって今更ウチに帰る時間も無い。ちっとばかし早いが、たまには早めに学校にいるのもいいだろう。どうせやる事は変らないし。

誰もいない教室で、あかりちゃんが来るまで一眠りでもするか、とか考えながら玄関を抜けて教室に向かう。誰もいない廊下はいつもと違って静かで、どこかひんやりとした、神秘的な雰囲気を持っているように感じられた。

慣れ親しんだ廊下を歩き、教室へ。恐らく誰もいないだろうその中へと入るべく、僕は扉を軽やかにスライドさせた。


「おはよう、空深くん?」


いるはずのない彼女が、そこにいた。


「――浅海、圭……」







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ