真珠ちゃんと奴隷くん
僕、きりきり人の初投稿作品になります。
ライトノベルのような形になっています。
読んでもらえたら嬉しいです。
高校生の非日常を描いた作品です
プロローグ
「私の奴隷になりなさい」
「え? なっ、何だって?」
「聞こえなかったの。それとも聞こえなかった振りをしているのかしら。まぁ、どちらでもいいわ。もう一回言ってあげるわ。私の奴隷になりなさい」
「ど、奴隷?」
「そう。奴隷よ」
「そう。じゃねぇよ! いきなり何ぬかしてくれてんだよ。もちろんお断りだかんな。だいたい奴隷って何すんだよ?」
「拒否権はないのよ。というより何で断るのかしら? 理解に苦しむわ。これだから低能の考えることは分からないのよ」
「何と言われようが断固拒否だ」
「貴方は自分の立場を分かっているの? 分かっていてそんなことが言えるなら私も相応の行動に移りますけど」
「何だよ。その行動ってのは」
「あら、そんな分かりきっていることを聞くのね。まさに愚問だわ。いいわ、教えてあげましょう。写真をばらまくのよ」
「なにっ?」
「貴方は本当に耳が悪いのかしら。写真をばらまくと言ったのよ」
「……何の写真だ?」
「またまた愚問を。本当に時間の無駄遣いが好きね。決まってるじゃない。あなたがいかがわしいDVDをニヤニヤしながら買っている写真よ」
「DVDって何だよ?」
「この後に及んでしらを切るつもりなの? 何てめんどくさい男なのかしら。自分の胸に聞いてみなさいよ」
なんなんだよこの女。
何で俺の行動を知ってるんだよ。
絶対危ない奴だろ、怖すぎる………。
「ほら、何も言えないでしょう。じゃあ決定ね。貴方は今から私の奴隷よ」
「ちょ、ちょっと待てよ、まだ俺は何もっ」
女は俺の言葉をさえぎりポケットから何かを取りだした。
「な、何だよそれ」
女は俺を嘲笑うかの様に言った。
「さぁねぇ、何だと思う?」
「んなの分かるかよ、よく見せろよ」
「そんなに見たいなら見せてあげましょう。貴方の恥ずべき汚点を!」
女はその何かを誇らしく見せつけてきた。
俺はそれを視認し愕然とした。
「なっ、かっ、返せ!」
「嫌よ。私のものなんだから」
女が持っていたのはネガだった。何のネガかって?
ビデオ屋(大人の)で俺が人目をきにしながら大量のDVDを……
「ほら、私はいくらでも増刷出来るのよ。どうこれで私の奴隷になる気になったかしら?まぁ嫌と言うならそれはそれでいいんですけど。その時は貴方は社会的に死を迎えることになるけれど」
「ぐっ、っざけんな!何が奴隷だ!だいたいこんなの犯罪だ!」
「へ〜はむかうの。じゃあいいわ。さ・よ・な・ら」
畜生………
「まっ、待ってくれ。分かった、何でも言うこと聞くよ」
「それでこそ、私の犬ね」
「で、どうしたらそれ返してもらえるんだよ?」
女はしばし考えてから言った。
「そうね、奴隷として私を満足させてくれるなら返してあげてもいいけど」
何だよそれ。ほぼ無期限じゃないか。
と思ったが口にはしなかった。
「せめて期限くらいつけてくれよ」
俺の一縷の希望をのせた言葉に女は冷淡な目で一言だけ言い放った。
「は?」
さらに女は続ける。
「私が満足するまでと言ったのが聞こえなかったのかしら?」
何てタチが悪いんだこの女。
しかし今は女のご機嫌取りに専念しとかなくては。
「いや、だってそれって、期限とかなきゃほぼ永遠ってことに……」
俺の言葉を断ち切り女は言った。
「そうね。確かにそうなるわね」
おっ、やっと話が通じた。ここで何とかしてたたみかければ。
俺が次の言葉を考えているところに女が一つの妥協案を持ちかけてきた。
「じゃあこうしましょう。一週間。一週間、私の奴隷になること」
一週間か。それくらいなら何とかなるかな。
「分かった。それで手を打つよ」
俺が言うと女はさらに言葉を並べた。
「けど一週間で私を満足させることが出来なかったら、あの写真をばらまくわ」
「えっ?」
「当たり前じゃないの。私が何の条件もなしに一週間で手に入れた犬を手放すわけがないじゃない」
くそ、この女……
「わ、分かったよ。一週間で絶対満足させてやるよ!」
こうして俺の一週間(予定)の奴隷生活は幕を開けることとなった。
俺の名前は豊臣フーガ。高校二年生である。
部活は誰よりも速く帰り自宅を警備することに命をかけるハードな帰宅部に所属している(笑)。成績は中の上といったところか。暗記科目はそこそこ得意である。因みに、豊臣という名字だがもちろん大昔の秀吉さんとは一切の関わりもない、一般庶民だ。因みにミドルネームはspark。
まぁもちろんミドルネームは冗談で存在しない。頭から意味の分からないことを言って申し訳ないが、俺がおかしくなるのもしょうがないことがおこっちまったのさ。俺はとある事が理由である女の奴隷になることになったんだ。
理由って何かって?そんなの俺の息子が一番よく知っ…あっ、ごっほん。
えー、それでその女がひどい奴で、まぁそれは追って説明しよう。
でまぁとにかくこの奴隷生活が本当に酷くて辛くて最悪で憂鬱で溜息で退屈で消失で動揺で(ry
けど、時にはニヤニヤもんで。
まぁ最後のは置いといて、とにかく人生十六年間で最も戻りたくない、振り返りたくない期間ナンバーワンだね。
そんでこっから俺の奴隷生活について語りたいと思うわけよ。
なぜそんなことをするかはあまり聞くな。黒歴史だからな。
とりあえずまずは一日目だな。今考えれば初日はまだ楽な方だったよ。
それは、女から奴隷通告を受けた次の日だった。
朝から心地よい風が吹き、空には太陽がこれでもかと輝いている、気持ちのいい初夏の日だ。
しかし俺はそんな気分を一掃された。
「今日からは私の奴隷として生きること。分かってるわよね」
そんな一般的に考えたらわけわかんない事を言ってるのが、俺のご主人様である(言ってて恥ずかしいが)おそらく自分のことを女王様だか貴族だかお姫様だかに勘違いしてる女。
楠パール。
すれ違ったら誰もが振り向く整った顔立ちに、アクセントとなっている釣り上がった目。背も高くスタイル抜群。胸はまぁ小ぶりだがな。外見だけみりゃ、そりゃもうあれだよ、うん、そうめっちゃ美人なんだよ。
実際、クラスにも何人もパール教を宗教としてる奴がいるし。そいつらは毎日のようにこんな呪文を唱えてやがる。
『パールたん、かぁいいよ、パールたん』
まぁただのキモオタだが。
何がパールたん、だ。ふざけやがって。
おっと、脱線したな。
話を戻すと六月生まれ(知ってると思うが六月の誕生石は真珠)で真珠のように綺麗に育って欲しいのが名前の由来だとか何だとか聞いたことがあるがふざけた名前だよな。まぁ俺が言えたもんじゃないけど。そんな女と運の悪い事に高校の同級生、しかも同じクラスである。
パールがいかにも苛立ちながら言ってきた。
「返事は?」
あぁめんどくさい……
こんな奴のどこがいいんだか。
「分かってるよ」
俺が答えたらパールは不機嫌そうにこう言った。
「何で敬語を使わないのかしら?貴方は私の奴隷でしょ。言いなおしなさいよ」
俺は皮肉たっぷりに言ってやった。
「分かってますよ。パール様」
パールはそんな俺の心境を全く無視するかのように口角を上げ言った。
「それでいいのよ」
このドエス女が…!
来世であったら覚えとけよ。立場を逆にしてやるからさ。
奴隷生活一日目の朝に学校でパールは以下の事を俺に言った。
「貴方は今日から一週間私の奴隷なのよ。よって私にはむかうこと、反抗すること、文句を言うことなど否定的な態度をとることを禁止するわ。もし私が気に食わないと思う態度をとったならばその時はクラス全員に、いや全校中に醜態を晒されることになるから覚えておきなさい。それから、そうね今日はゴージャスプリンを私に献上すること。一度でいいからあれを食べてみたかったのよ。とりあえず今日はそれを絶対にこなすことね。あと私には絶対に敬語を使うこと。分かったわね」
一通り言いたいことを言っただろうパールは自席へと歩いて行った。
ここで説明しとくがパールの言ってるゴージャスプリンってのはうちの高校の学食で一日二十食、月曜日のみ限定で販売されているプレミアなプリンのことだ。その旨さといったらとんでもないらしい。俺はグルメリポーターではないから上手く説明は出来ないが本当に旨いらしい。
しかし食ったことはない。そのプリンを手に入れるのが非常に大変だからだ。
うちの高校には三学年合わせて約千人もの生徒がいる。その中でプリンを得られるのはたったの二十人。しかも販売は基本的に月曜だけ。購入するのは相当厳しい。
しかも買うには学食のおばちゃん五人にジャンケンで五連勝しなくてはいけないのだ。その上に一回でも負けたらその日はもうジャンケンの資格がないのである。そんな凄まじい運を味方につけた者だけが得ることのできるプリンなのだ。
もし月曜日のうちに二十人も五連勝したものが現われなかったら残ったプリンは次の日に繰り越される。そんなルールで販売されている。
俺は自席に戻りかけているパールに言った。
「ゴ、ゴージャスプリンってお前、いやパール様。そんなの無茶ですよ。あんなの獲れるわけないですよ」
俺の言葉も空しくパールは振り向きざまに予想通りのことを言った。
「それを何とかするのが奴隷であるあんたの仕事なのよ。とってこなきゃ……分かってるわよね?」
俺はうろたえながら一言だけ口にした。
「ま、待てって……」
パールは俺を完全に無視し席に着いた。
こうして俺の最初の仕事が始まるのであった。
その日の一時間目は数学だった。
老いぼれた教師が黒板に数式を書いていく。
それをノートに写す者、授業など気にせずゲームをする者、漫画を読む者、睡眠に一生懸命な者、それぞれがそれぞれの態度で数学の授業を消化していっている。
教室には教師の説明の声と黒板とチョークとが擦れる音のみが響く。
そんな物静かな雰囲気の中、俺はとても憂鬱だった。
はぁ……
さて、どうしよう。
どうやってあのプリンを手に入れようか。
正面から手に入れようとしても絶対無理だろうな。何か良い手はないか。
ジャンケンに確実に勝てる方法なんてあるわけないしな。
うーん、どうしよう。
………。
何も思いつかない………。
このままじゃ駄目だな。
だいたいジャンケンで五連勝って厳しすぎるだろ。がん萎えだわ。
誰だ、こんなルール作ったのは?
校長か?校長なのか??だとしたら今すぐ校長室に乗り込んで改善案を提出したい気分だ。
あぁ、頼むから普通に売ってくれよ。何もこんなイベント作る必要ないだろ。
あぁーどうすりゃいいんだよ………。
にしても一人で考えてるのもバカみたいだな。
そうだ。
とりあえず、ルイにでも相談してみるか。
結局数学の時間はそれしか思いつかなかった。
そんな自分に歯がゆさを感じていたのも確かである。
数学の授業があっという間に終わり俺は同じクラスの田村ルイのところに駆けて行った。
ルイはパールの一番の親友であり(俺から見たら)俺ともそこそこ仲の良い女子だ。
パールと違って背は低く可愛らしい印象を受ける。まぁ実際可愛いんだが。まるで天使のようだ。小さな体に綺麗な黒髪のショートヘア。透き通っているかのような白い肌。なのに色気のあるエロティックな太腿、あどけなさが残る愛らしい唇、それから何と言っても体に似合わぬ豊満な胸、それと、あと………これ以上は変態と思われるからよしとこう。
ルイは男子・女子どちらからも人気が高く、誰とでも隔たりなく関わっているとてもいい奴だ。そこがパールとは大違いである。
けど何故だかパールと仲よくやっている。
なぜだ、なぜルイの様な天使とパールみたいな悪魔が友達なんだ。
天使様にはおれがお似合いなはずなのに。
くそ、パールなんかじゃなくルイの奴隷だったら喜んで受けるのに。
何でも言うこと聞いてあげるよ。ルイたん♪
なんて冗談はさておき、だ。
「ルイ。ちょっと相談があるんだけどさ」
「え?豊臣君が相談なんて珍しいね。どうしたの?」
確かに珍しいシチュエーションだ。
ここで考えてみた。俺はいったいどうしたのだろう。
つかどうやって説明しよう。まさか全てを言うわけにはいかないしな。
端的に要所だけ絞って説明するとするか。
「あのさ、パールの奴にゴージャスプリンを買ってやりたいんだけどさ、確実に買える方法とかあるかなーなんてさ」
ルイは少し戸惑う様な仕草を見せ無邪気な笑顔を見せ言った。
「そっか。豊臣君てパールのこと好きなんだね♪」
この天使はいったいどういう思考回路でそこにいたったのだろう。
「違うよ!何言ってんだよもう。好きなわけないだろ。やめてくれよ」
俺は速攻で否定した。
パールを好きだって?ありえないから。好きとか以前に俺奴隷だから(泣
「ははっ」
ルイはまだ笑ってる。
「何が可笑しいんだよ」
「いや、だってそうやってすぐに否定するのが何か怪しいなって。よし分かった。二人の恋のためにもルイもプリンの件協力するよ!」
ガーーーーーーーーーーーーーーーン。
わけのわからないことになってしまったが協力はしてくれるらしい。
まぁ誤解は後で解けばいいしな。とりあえず写真をルイに見られるわけにはいかないし。ここは素直に協力してくれることを喜んでおくべきだ。
「ありがとな。それで、具体的にどうすればいいと思う?」
ルイはさっきとは違う不敵な笑みを浮かべ言った。
「豊臣君、ルイに相談したのは正解だったね。なんたってルイあのプリン大好きなんだよね。もう十回は食べてるしぃ」
じゅ、十回?!
一回でも食べれたらラッキーなプリンを十回だって??
「おい、ホントかよ、ルイ?」
俺は半信半疑だったが聞いてみた。
「ホントだよ。あれには攻略法があるんだ」
ルイは得意げに話し始めた。
かと思ったら、
話をさえぎるかのようにご主人様であるパールが現われた。
現われてしまった。
「ルイ、何の話しをしてるのかしら?」
「あっ、パール。えっと今ね豊臣君が大胆な告白をいろいろと……」
パールは汚物を見るような目で俺を一瞥してからルイに尋ねた。
「この下衆が告白ですって?ルイに??」
「え?それは違うよ。まぁ誰への告白かは秘密だけどねぇ」
「ふーん。まぁいいわ。私はちょっと職員室行ってくるから」
「うん、ばいばーい」
「では」
パールはルイに微笑みかけていたかと思うと急に冷淡な目つきに変わり俺の方を向いてつぶやいた。
「貴方は何をボーっとしているの?ついて来なさいよ」
そう言って歩みを身勝手に進めていった。
ったくこのご主人様はどれだけエゴイストなんだ。
まぁ一週間の我慢だし写真はばらまかれたらヤバいしついていくとするか。
職員室まで歩いてる間パールは言った。
「貴方はなぜさっき私の親友と会話をしていたのかしら?」
「別に、何でもいいだろ。ちょっと相談してただけだよ」
「だから敬語を使えと言っているでしょう。本当に低能なのね。ここまでものが分からないと呆れるわ。」
「はいはい、すいませんでした」
「はぁ、敬語を使うのはやっぱりいいわ。貴方にはまだ難しかったみたいだし。」
どんだけ俺はバカにされてるんだ。
「そりゃどうも。バカで悪かったな」
俺の問いを全く無視するパール。
「で、何の相談をしていたのかしら?」
「だから、なんでもいいだろ」
「まぁ確かに貴方がどんな相談をしていたかなんてどうでもいいわ。蓑虫の寿命がどれくらいなのかくらいに興味がないもの。けど一つだけ貴方に言っておくわ」
パールは少し間をあけてから言った。
「私の親友を変なことに巻き込んだら容赦しないわよ」
巻き込んでるのはパール、お前のせいなんだけどな。
お前がいなきゃこんな相談もしなくてすんだんだよ。
あぁ、限りなくめんどくさい。
数時間後
場所は購買所。周りにはたくさんのギャラリー。その中にはパールも、もちろんルイもいる。俺が倒してきた四人のおばちゃんたちも自分のことのように、あるいは悔しそうに、そこに集まっている。
「絶対勝ちなさいよ」
パールのうざったい声が聞こえる。
そんなのいわれなくたってそのつもりだ。
俺は五人目の、最後のおばちゃんである緒宮那フワさんと対峙した。
ここまでルイの教えてくれた攻略法は万全である。このおばちゃんに勝てばプリンを手に入れられる!
そうすれば俺の恥ずべき写真が流通することはない。
何としても勝たなくてはいけない。
おばちゃんと視線が交錯する。威圧感が凄まじい、いやえげつない。
周りからはいろんな声援が聞こえる。大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。
心臓のバクバクという音が聞こえる。鼓動が速い。ジャンケンでここまで緊張するのは、これが人生において最初で最後だろうな。
もう一度深く息を吸って吐く。
そして二度目におばちゃんと目があった。
俺はとうとう意を決した。
目前のおばちゃんも同じ気持ちのようだ。
俺とおばちゃん、二人が威勢よく声をそろえて勝負を開始するのろしをあげるため声を出す。
「「最初は……」」
ギャラリーが一瞬にして湧く
その声を俺とおばちゃんの声が打ち破る。
「「グー」」
皆が固唾を飲み込み見守る。その視線の先には俺とおばちゃんとプリン。
後に考えれば何とも間抜けな光景だった。
「「ジャンケン」」
ここまで来たらもう引き返すことなどできない。
その場にいた全員が完全に静止した。
「「ポン!!!」」
時は遡ること数時間前。
教室。
喧騒。
その中に響く音。
ドシッ。
俺の目の前に何十冊ものノートが置かれた。
その横にはルイが得意げに微笑んでいる。
ルイたんスマイル全開である。うっひょーーーきゃわいぃー。
ヤバいよ、とろけちゃうよ。ルイたん。
今すぐにでも奴隷になっても構わないよ。いや、むしろ奴隷にしてください。お願いします。ルイたーーーーーーーーーーん。
「豊臣君?」
「ん、うわっ、あっ、あああ」
「どうしたの?」
「いや、ちょっとマイワールドに旅行に行ってたもので」
「ははっ。良くわかんないけどルイの話ちゃんと聞いてよね」
「もちろん。ちゃんと聞くよ」
「ならよかったぁ」
「でさ、このいっぱいあるノートは何?」
俺はもっともな疑問を口にした。
それを聞いたルイは、よくぞ聞いてくれました、みたいな顔で俺にある事実を告げた。
「それこそ、さっき言っていた攻略法だよ♪。」
ん?どういうことだ?
俺は意味がよくわからずルイに聞き返した。
「だからぁ、このノートが攻略法なの。見てみてよぉ。」
俺は言われたとおりにノートを開いてみる。
俺が開いた何十冊ものノート全てには共通のことが書き込んであった。
ジャンケンに関するデータである。
そのノートには、5人いるおばちゃん全てのデータがパンパンにつまっている。
どのおばちゃんが何を一番出す確率が高いのか、一回あいこになってから次に出す確率が高いのは何か、残りプリン数によって何を出す確率が高いのか、相手が男子なら、女子なら何を出す確率が高いのか、とにかく確率で多くのデータが書きこまれていた。
さらには、おばちゃんがグーを出す前にする動作、この動きがあったらパー、額の汗をぬぐったらチョキ、などど各おばちゃんごとの細かい動作も全て文章化されノートに書き記してある。
「こ、これ全部ルイがやったのか?」
俺は心底驚きながら聞いてみた。
「うん、ぜーんぶルイがやったんだよぉ。凄いでしょ。エヘヘ♪」
「マジか?ルイホントに凄いな。尊敬するよ」
「でしょ?尊敬しちゃうでしょ。ルイ、プリンの為ならどんな努力も惜しまないからさ」
「凄すぎるよ。これがあればプリンが獲れそうだよ。ありがとルイ!」
俺はとても頼もしい味方を手にいれたような気がしていた。
そこでルイは一つ心配気に口にした。
「でも、今から昼休みまでにそのデータ全部頭にいれなきゃいけないんだよ。頑張ってね〜」
「あぁ、やってやるよ!」
こうして俺は昼までの授業全てデータを頭につぎ込むことに専念した。
その莫大な量のデータを一つ一つ確実に覚えていく。
その間は他の全ての事を脳の埒外に押しやり、データに集中する。
記憶力だけは昔からよかったからな。何とかなりそうだ。
記憶している間にふと俺は思った。
それにしても、ルイは本当に凄いことをやっているな。
よくこれだけのデータをまとめ上げたな。
意外にルイの奴、頭いいのかな。可愛くて頭いいなんて完全なチート(ずる)だろ。
ったく世の中不公平だぜ。何で俺みたいな何のとりえもない奴がいるかと思えばルイみたいに見てくれもよくて頭もいい奴がいるんだよ。
あぁ、神様よ。お前の所為でいったいどれだけの人間が差別を受けてると思ってるんだ。
貴様なんかメラゾーマで焼け殺してやる!
ホイミする暇もないほどにこんがり焼いてやるよ。
うおおおおぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉ!!!
と、そんなバカやってる場合じゃねぇか。とっとと覚えなきゃ。
俺はノートの内容をとにかく暗記することに再び意識を向けた。
そうしていると、あっという間に午前中の授業は全て終了した。
昼休みになり俺はルイ、パールと共に購買へと歩き出した。
ルイが心配そうに尋ねてくる。
「豊臣君、さっきのあれ(・・)覚えられたぁ?」
「まぁな、何とかなったかなって感じ」
「ホントに!?あれ、絶対こんな短い時間で覚えられる量じゃないよ」
「そうか?一回見たもんはだいたい覚えられるんだよね」
「普通じゃないよ、それ」
「んあ?そうかもな。けど記憶力だけは自信あるからさ」
「へ〜、何か意外だな。全然覚えられなくてルイに泣きついてくるかと思ってたよ。助けて〜みたいな感じでさっ」
「へへっ。バカにすんなよな」
口ではそう言っておいたが、俺は今激しく後悔している。
くそっ!その手があったか。全く気付かなかった。
せっかくルイと近づけるチャンスだったのに………。
OH、しっーーーーーーーーっっーーーーーーーーとぉぉーーーーーーーっ!!
このチャンスを逃したのはもったいなかった。
もしかしたら、
「ルイ、ヤバいヤバい。全然覚えらんない!」
「え?じゃあルイも手伝ってあげるよぉ」
「マジ?!ありがと!けどどうやって覚えればいいのか分かんなくて………何かいい方法ないかな?」
「う〜ん、そうだなぁ。じゃあルイが体で教えてあげるよ。テヘッ♪」
「か、体で??」
「うん。ただ頭に詰め込むよりかは覚えやすいと思うからさ♪」
「じゃ、じゃあお願いするよ」
「じゃあまずルイがおばちゃんの役やるからさ、ルイの体じっーと見ててね♪」
「うん、よーく見るよ。ずっと見るよ。というかいつも見てるよ、ルイ。一日百回は目に入れるようにしてるよ。目の保養にさ。はぁはぁはぁはぁ………」
ドゴッ!
あれ、足が痛い。
どうやら俺の妄想はパールのローキックによって遮られたらしい。
「あなたはさっきから何をニヤニヤニヤニヤして、気持ち悪いわね。もっと緊張感を持ちなさいよ。今からあなたはプリンを獲ってくるのよ。分かっているのかしら?」
「分かってるよ。ったく良いとこだったのによ。邪魔しやがって」
パールのローキックは予想以上に強く俺の脚に大きなダメージを与えていた。
「ちょっと。なんで今のキック程度でフラフラしているの?もしかして私に肩を貸して欲しいのかしら。けど、そのお願いは拒否するわ。貴方に肩を貸すなど考えただけで………、」
なんなんだよ、好き放題言いやがって。
「で、考えただけで何だって?反吐でもでるってか?」
「そうよ。反吐が出るわ。よく分かってるじゃない」
当たっちゃったよwwww あームカつくな。
そうしている間に決戦の舞台である購買所に到着した。
購買所はすでに多くの生徒でごったがえしている。
その中のほとんどは俺たちと同じ、ゴージャスプリンを狙っている生徒であることは間違いない。
「くっそーーーーー!せっかく三連勝したのにっ!」
「キタ!これで四連勝だ。あと一つ!!!!」
「ぬわーっ、この俺が初戦で負けるとは………」
「プリン欲しいよー」
「ひゃひゃひゃひゃはっはっはははーーー。五連勝だっ!ゴージャスプリン頂きだぜ!。」
「なっ、あいつ獲りやがった」
「よーし、私たちも続くわよ!」
「戦闘力たったの5か、ゴミめ」
「おあぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ」
購買所はすでに騒然としていた。
「すごい熱気ね。気持ち悪いわ」
パールが誰に話しかけるわけでもなくつぶやく。
「いつもこんな感じなんだよぉ」
「本当に?」
「うん、けど今日はちょっと変な人が多いかな」
パールたちが話している間、俺は完全に場の空気にのまれていた。
何も話すことが出来ず立ち尽くす限りだった。
ここでルイが俺らに力強い声で言ってきた。
「さぁて、ルイたちもそろそろ並ぼうか。行くよぉ!」
「おっ、おう!」
俺は完全にその気なってきているというのにパールが水をさしてきた。
「私は遠慮しておくわ」
全くの無表情に無機質な声で言い放った。
「私は自分がジャンケンをするために来たわけではないので。それにあんな集団に混ざれる気がしないわ」
一瞬、気まずい空気が流れる。が、その空気はすぐに払拭された。
「なら二人で行こっか。豊臣君」
「そうだな。パール、そこで静かに待ってろよ」
「期待しておくわ」
あくまで無表情を崩さないパール。
けっ、可愛くない奴だ。
「よーし!じゃあ行くぞぉ!」
「おっしゃー!!!」
そうして俺とルイは戦場へと向かった。まぁ戦場と言ってもただの購買所だがなwww
俺とルイは列の最後尾に着いた。
ジャンケンの列に並んでいる時にルイが聞いてきた。
「豊臣君、一人目のおばちゃんの特徴はばっちりかな?」
俺は、ルイのノートの内容を思い出す。
「あぁ、もちろんだ。熊沢ヒコミさん。五十八歳。データでは最初の手でパーを出す確率が五十二パーセント。逆にグーを出す確率は九パーセントとかなり低い。よって初手はチョキを出せば負けはほとんどない。さらに次手率(あいこの次に出してくる手の確率)はパーが六十パーセント以上だ。よって俺は熊沢さんには全てチョキで勝負することにした」
「うん、完璧だね。流石だよ、ルイも同じ方法でやることにしてるんだぁ」
「そう言われると安心するな」
会話中に列はかなり進みとうとう次は俺の出番となった。
「じゃあ行ってくるぜ」
「頑張ってね♪こんなとこで負けちゃダメだぞぉ」
ルイが俺にエールを送ってくれる。
うぉっーーーーーーーーーーーーー!!!
今の天使の応援で俺のやる気は百倍増しだっ!
もう誰も俺を止めることは出来やしない。
ほらほら、超サイヤ人になった俺の姿を見てみろーーーっ!
ひれ伏せ、愚民どもが!俺には天使がついているのさ。
はっはっはっはっは!
来やがれ、熊沢!
俺は熊沢さんと相対した。
熊沢さんは割烹着のような服を着て優しく微笑んでいる。髪は少し白髪が混ざっているがそれを後ろで綺麗にくくっていて、体型はぽっちゃりとしている。近所のお世話好きなおばあちゃんという様な印象を受ける。とても朗らかそうな人だ。
そんな熊沢さんがにっこりと口を開いた。
「老いぼれだからって舐めんなよ、小僧!すぐさまに貴様をこの戦場から叩きだしてやるよ。うひょひょひょひょひょひょひょ。失せなっ!」
えっーーーーーーーーー。
この人こんな人だったの(?_?)!
嘘でしょ、見た目めっちゃ優しそうなのに。
絶対、何かいけないことがあったに違いない。
「おいおい、小僧。さっさと始めようぜ。それとも何だ、ビビっておしっこでもちびったか。可愛い奴だな」
何なんだ、このおばちゃん。
こんなにギャップがあるのにギャップ萌えを欠片も感じないとは。本当に恐ろしい。
まぁ今はそれどころじゃない。勝負に専念しなくては。
俺は気持ちをたて直し熊沢さんにいった。
「よしっ、じゃあやりましょうか」
「やっとその気になったか。じゃあ行くぞ」
二人の間に刹那沈黙が流れ、声をそろえて言った。
「「最初はグー、ジャンケン、ポン!」
俺は予定通りチョキを出した。
対する驚愕変身老女熊沢はパー。
キターーーーーーーーーー\(^o^)/
「よっしゃー!勝ったぜ!」
俺は喜びをかみしめる。
「くっそー」
熊沢さんも反射的に言葉を漏らす。
俺はルイのデータ通りに試合を運び一勝を手にした。ルイのデータは間違ってなかった。やっぱりすごいな。
負けた熊沢さんは悔しそうに俺に言ってきた。
「くっ、やるな小僧。じゃがこの先にはさらにすごい奴等が待っているぞ。お前にそいつらが倒せるかな」
熊沢さんは噛ませ犬キャラ全開のセリフを吐き俺に次への道をあけてくれた。
何はともあれあと四連勝だ。
先は長いがやってみせる!
俺が次のステージの列に並んでいるとルイがやってきた。
「おっ、ルイも勝ったのか」
「当たり前だよ。ルイのこと誰だと思ってるんだよぉ」
「そっか、プリン大好きなルイが一試合目で負けるわけないか」
「そうだよ。プリンがかかってるジャンケンは無敵だもーん」
少しの会話の後、俺たちは二人目のおばちゃんとのジャンケンの前に一通りデータを整理することにした。
さて、次のおばちゃんは………
「えっと、次は山辺キシコさんでいいんだよな?」
ルイは俺に可愛らしい笑顔を向け答えた。
「うんっ。次のキシコさんは攻略法さえ分かってれば絶対負けないから安心してね」
「つか、そのキシコさんの攻略法って本当なのか?何か信じられないんだよな」
「本当だよ。ルイも変だなーとは思ってるんだけどね」
「まぁルイが言うんだから信じるしかないな」
「そうだよぉ。ルイを信じちゃって〜エヘヘェ♪」
本当に可愛いな、癒される。
俺がニヤニヤしていると前の男子がキシコさんに勝ったみたいで歓喜の声を上げている。
俺の出番が回ってきた。
山辺キシコさんは、これもまた外見は普通のどこにでもいるおばちゃんである。
ただおしゃれが好きなのか髪は紫に綺麗に染め上げていて、どこか浮世離れした雰囲気を醸し出している。腰が少し曲がっており背が低く感じるが、どこか威圧感なるものも生み出している、気がする。
俺はキシコさんの正面に向かっていった。
キシコさんは俺と対峙して話しかけてきた。
「やぁ、よく来たね。私が二人目のおばちゃんのキシコだよ。準備は出来ているかい?」
熊沢さんとは違いまともに話しかけてくる。しかしどこか機械的な喋り方なのが少し気になった。
俺はキシコさんの問いに答える。
「あっ、すいません。まだ心の準備が……」
「そうかい、じゃあちょっと待ってあげるよ」
柔らかい笑みを浮かべながらキシコさんは言った。
俺は一つ深呼吸してキシコさんと目を合わせる。
少しの時間が経ちキシコさんは再度俺に話しかけてくる。
「やぁ、よく来たね。私が二人目のおばちゃんのキシコだよ。準備は出来ているかい?」
何故かさっきと全く同じ言葉を言うキシコさん。
ちょっとまだ、と再度、俺も断りを入れる。
さらに時間が経ち再びキシコさんは言う。
「やぁ、よく来たね。私が二人目のおばちゃんのキシコだよ。準備は出来ているかい?」
ふっ、モブキャラが。いや、この場合はNPC(Non Player Character)といった方が正しいか。
またまた同じセリフを言うキシコさん。ここで俺はやっと今までとは違う反応を起こす。
「あぁ、準備万端だ。始めましょう!」
「ほう、準備が出来たかい。ではいくぞよ」
俺とキシコさん、双方の声が重なる。
「「最初はグー、ジャンケン、ポン!」」
結果はもう見えている。
俺はグーを出しキシコさんに勝利した。
「よしっ。やっぱりルイのデーデータ通りだ」
キシコさんはパール並みの無表情で俺に言ってきた。
「見事だ。さぁ次に行きなよ」
俺はキシコさんにあっさりと勝利して次へと歩みを進める。
ふー、やっぱりルイのデータは凄いな。全くの予定通りで逆に怖くらいだ。
今の状況を解説するとだな、
山辺キシコさんは端的に言うとRPGに出てくる主要ではないキャラクターのような人間なんだ。
決められたセリフしか言わず、決められた行動しかとらない。そうプラグラムされているからだろう。
具体的にいえば、ドラクエ等に出てくる『町の人』のようなものだ。
何度話しかけても同じことしか言わない。さらに一つの選択肢を提示してきて、正解の方を選ばなくては永遠に同じ問いを繰り返す。
まさにNPCの典型ともいえる。顔なしキャラとも昔は呼ばれていたが最近はモブキャラが異常に可愛いという事態が(ry
ともかく機械的な行動しかとらない、いや、とれないキシコさんは二回断ると必ず絶対にチョキを出すというこれまたゲームキャラ的な要素を持っている人だった。
それを利用して俺はキシコさんに勝ったのであった。
後ろからキシコさんの声が聞こえてきた。
「見事だ。さぁ次に行きなよ」
どうやらルイがキシコさんに勝ったようだ。
性懲りもなくキシコさんは同じセリフを繰り返している。
ルイが俺のところにやってきて、
「キシコさんは楽勝だね。どうしてああなっちゃったのかなぁ。まぁ絶対勝てるからいいんだけどねっ」
と嬉しそうな顔をしながら話しかけてきた。
「そうだな。まぁ勝てたからいいじゃんか。次のおばちゃんのデータを整理しないとな」
「そうだね、豊臣君。それで頑張って大好きなパールちゃんにプリンを届けなきゃだもんね♪」
あぁ、だからルイは何という勘違いを………orz
俺はちっともあいつのことなんか好きじゃないのに。
奴隷としてあいつにプリンを貢がなきゃいけないだけなのに。
ちくしょー、この誤解をどうにかして解かなくては、
だって俺の好きなのは………。
………。
………。
………。
………。
………。
ママなのにっ!!
ママ。会いたいよーーーっ。
ママのおっぱいが飲みたいよ。
パールと違って優しいママを俺は愛している!!
うおおおおおおおお、マザコンバンザーーーーーーイ!!!!
何てな、ちょっと盛大にぼけてみたぜ。
本当に好きな人を言うわけないだろ。照れるしな。
そんなこんなで俺とルイは三人目のおばちゃんに向かって行った。
三人目のおばちゃん。
佐天ミナさん。
無論、どこかの国のどこかの都市の無能力者の祖母ではない。
レベルアッパーを使うこともないし、街中でバットを振り回すこともない。
ミナさんは現在六十五歳で購買のおばちゃんの中でも最高齢であり、さらに最も厄介な相手である。
と、ルイのノートに書いてあった。
しかしそれはルイにとってはの話。
俺にとってはミナさんは楽勝で勝てる相手のはずなのだ。
なぜならミナさんは大の男好きで有名であり、男子生徒が懇願すれば、何を出してくれるか教えてくれるらしい。時には自分から何を出してくれるかを教えてくれることもあるという噂だ。
それが嘘か、本当かは分からないが、ルイのノートにはそう書いてあった。
つーか六十五歳で男好きって色んな意味で元気なおばあちゃんだな。
あわよくば俺の体をさずけても………。
俺はミナさんの体をよく見てみる。
皺が何重にもある顔、垂れ下った胸、痩せこけた体、曲がっている腰。
む、どうやら俺には荷が重そうだな、考えただけで震えが全身に回ったし。
そうだな、どこかに居るであろうコアな趣味を持つ勇敢な野郎どもにその役割は任せるとするか。
しかしこういうご老人がいるからこそ今の日本は出来あがっているのか。
柄にもないことを考えていると俺の順番がもうすぐに迫っていた。
前の男子生徒がミナさんに勝利し次のステージへと進んでいく。
そんな男子生徒を見ながらルイが話しかけてきた。
「いいよねぇ、男の子はミナさんには絶対勝てるからさ、何も心配しないで頑張ってきてね。ルイはもしかしたらここで負け知ちゃうかもしれないけど、その時は豊臣君が一人で次に進んでいってね。ルイのことは置いていっていいからさぁ。パールのこと好きなら次からも絶対勝てると思うよ。まぁ、なるべくルイも負けないようにするよ。ファイトだよっ♪」
「おっ、おう。ありがと。じゃあいってくる」
何か俺はルイに励まされてばっかりだな。
けど、そんなルイの為にも勝ち進むしかないな。
俺はミナさんの目の前にまで歩き、そして
ミナさんと向き合った。
ミナさんが俺と目を合わせ唐突に口を開く。
「う〜ん、いい男だね。素晴らしいよ、わしゃ気にいった。何か頼みごとがあれば一つ聞いてやっても構わんぞ」
ミナさんはたいそうご機嫌な声でそう言った。
俺があまりにストレートな言葉に反応しそこねているとミナさんはさらに話しだした。
「わしゃ、男が好きでのう。この世の全ての男を愛していると言ってもいいくらいだ。だからたとえ他人でも男の悲しむ顔なんか見たくないんじゃよ」
ミナさんは一呼吸おいてからさらに続けた。
「ほら、私に何を出して欲しいかいってごらん」
ミナさんはそれだけ言うと忠実なペットのように俺の言葉を待つだけの身となった。
ふっ、男好きっていう噂は本当だったのか。ならこのおばちゃんは何の問題もないな。こんなに楽に勝ちが手に入るとは。
男に生まれて良かった。
「じゃあパーを出してもらえませんか?」
俺はミナさんにお願いする。
ミナさんは言葉なしに頷くと、その後、言ってきた。
「じゃあ、始めるとするかい」
俺も首肯する。
さぁ、始まりだ。出来レースがな!うぇーい!!!
俺は高もる気もちを抑えながらミナさんと声を合わせる。
「「最初はグー、ジャンケン、ポン!」」
俺は目の前の光景に愕然と、
しなかった。
ミナさんは本当にパーを出してきた。
もちろん俺はチョキ。
勝利だ。なんともあっけない勝利をものにした。
ミナさんは悔しさは微塵もなさそうに俺に行動を促してきた。
「ほら、通りな」
道を譲ってくれた。
俺はその道を少し遠慮しがちに通った。
こんなんで勝っちゃったよ。ま、勝ちには変わりないか。
あと二人、何としても勝たなくてはいけないしな。
不意に後ろから女性の声が聞こえた。
「あんた、何回も何回もわしの所に来て、そんなに私に倒されるのが好きか?マゾなのかい?」
「フフッ、何変なこと言っているの、ミナさん。ルイは倒されにきたんじゃないよ。倒しに来たんだよ」
「相変わらずの減らず口だな。だいたい少しは年寄りを敬えないのか?」
「ハハハ、笑わせないでよぉ。贔屓ばっかする人なんてぜんっぜん敬えないよ。敬えるわけないじゃーん」
「くっ、小娘が。調子に乗りおって。今すぐわしの視界から追い出してやろう」
「えっ、何だってぇ?ミナさんこそルイの視界から除外してあげるよぉ。フフフフフ」
「くっ、言うようになったもんだな。まぁ口先だけなら何とでも言えよう。今のうちにほざいておくがよい!小娘がっ!」
「アハハ。なーに熱くなっちゃってんの?ミナさん沸点低いんだね。キレると老けるからあんまりキレない方がいいよぉ。あっ、もう十分老けてたねぇ。ごめんごめーん」
「じゃかわしいっ!」
「ふっ、またまたキレちゃってぇー。大人げないんだから」
「もういい、このままじゃ埒があかん。始めるとしようじゃないか」
「ルイは初めからその気だったけどねぇ。ミナさんがグチグチ言うからこん」
「始めるといっているのが聞こえんのか?」
「ルイが話してたのにぃ。しょうがないなぁ、やってあげるよ」
「じゃあやるとするか」
「もちろん、いつでもオーケーだよっ。くそババァさん♪」
二人は大きく息を吸い込んだ。
沈黙が終わり両者の口が開かれる。
んっ?
何だ、この二人は誰だ?
ミナさんとルイが豹変してる!
これが女の闘いなのか?
だいたいいつからミナさんはこんな饒舌で性格が悪くなったんだ?
フリ●ザ様よりタチの悪い変身じゃないか。
そして、ルイお前もだ。
天使キャラはどこへ葬ったんだ?
いつから腹黒キャラへと変更したんだ?誰の許可を得た?
俺の許可はまだおりていないぞ。
んでもって何でそんな挑発的なんだよ?
お前は、あれか。昔ミナさんに男を略奪されたことでもあるのか?
ルイたんの可愛くて、優しくて、清楚でなイメージを見事に消し去ってくれたな。
俺の夢や希望が………。
しかし、しかしだぞ。
よーく考えてみれば、ちょっと腹黒いルイもいいかもな。
Мの方々にはこの上ない至福の時が与えられるだろうからな。
もちろん俺もその一人だがな。
が、俺の想像を遮断するくらい大きな声が響いてきた。
「これで終わりだよ。小娘!」
「そっちがね。くそババァさーん♪」
二人の声が購買所に響きわたる。
「「最初はグー、ジャンケン、ポン!」」
ルイとミナさんの勝負が決する時が来た。
ミナさんはグー。
対するルイは、
………………。
チョキ。
目の前には二人の対照的な顔が広がっていた。
ミナさんは真っ赤な微笑みを浮かべ、
ルイは蒼白に顔が染まっていく。
何とルイが負けた?
まさか………。
ルイの攻略法が通じなかったのか?
そんなことがるのか?
マジか………。
ルイは泣きそうな衝動をこらえジャンケンの列から外れていく。
あの、数多のノートの意味は何だったんだ。
何でこんなところで。
大切な味方を失った俺は茫然としていた。
「………」
俺はルイに何も声をかけられずに立ち尽くすことしかできなかった。
「へっ、汚いケツ洗って出直してきな!」
ミナさんが意地悪そうに言い放つ。
対するルイは、
ルイはそれを無言で受け流し、去っていく。
そのシルエットはとてもさっきまでの威勢はなくなって萎れている。
悲愴感すら漂い、もぬけの殻のようだ。
ルイの姿はだんだん人ごみに消えていった。
その姿はもう完全に見えない。
くそ、
何でだ?
何かの間違いだ。
絶対間違いに決まっている。
ありえないだろ………。
俺は信じないぞ。
こんなことがあるわけない。
でたらめだろ、あり得ないだろ!
まともに考えろ。
ルイに限ってあり得ないはずだ。
そうだ!
「ルイのケツは絶対汚くなんかない!美尻だっ!」
数分後
俺は四人目のおばちゃんである来城レイさんの前に立っていた。
もちろん、周りにルイはいない。
ギャラリーの集団にも見つけられない。
パールの姿はちょこんと見える。
俺は、来城さんにジャンケンで勝った。
一発。
あっという間に決着はつき俺はファイナルステージへと進む。
ここで冒頭のちょい後の文章にと戻るわけだ。
俺は紆余曲折を経て現在に至りフワさんと対峙している。
フワさんは若干三十五歳にしておばちゃん軍団のトリを務める凄者である。
頭には赤いバンダナを巻き、Tシャツにジーパンとラフな格好をしている。
フワさんを観察していると後ろにパールを見つけた。
目が合う。
「絶対勝ちなさいよ」
ぶっきらぼうに言い放つパール。
相変わらず可愛げのない奴だ。
いったい誰のためにここまでやってあげてると思ってるんだか。
まぁ極論を言えば、いや普通に俺のためか。
俺はフワさんに挑む。
今回は下手な前置きはなしだ。いきなりの勝負へ。
二人とも無言のまま、静寂が支配している。
その静寂を振り払うかのように、
両者の声が響いた。
「「最初は」」
喚声。
「「グー」」
閑静。
「「ジャンケン」」
感性。
「「ポン!!!」」
そして、歓声。
その歓声は俺のものだった。
「よっしゃぁぁーーーー!!!パールやったぞ!俺五連勝したぞ!」
視線の先ではあのパールが無垢に笑っていた。(ような気がした。)
俺はさっそく購買でゴージャスプリンを受け取るとギャラリーにまぎれているパールの方へ駆けて行った。
「ほら、お望み通り獲ってきてやったぞ。見ろよコレ!」
俺は自慢げにプリンを差し出した。
パールはそれをひったくるかのように受け取ると、いや奪い取ると俺に言った。
「何をはしゃいでいるのかしら?奴隷なんだからそれくらいして当り前よ」
パールはそそくさと購買所を後にし、教室へと戻っていった。
くそ、褒め言葉一つくらいくれたっていいじゃねぇか。
どんだけ苦労したと思ってんだよ。
ったく報われないな、俺は。
しばらく立ち尽くしていた俺もぶつぶつ悪態をはきながら教室へと戻っていくことにした。
まぁとりあえずプリンの件は一件落着で良かったってことにするか。
そんな一時の安穏を噛みしめていると、
ふと、パールが後ろを振り向き言った。
「プリン、感謝してるわ。どうもありがとう」
………。
俺の努力は少なからずとも報われることとなった。
ふっ、少しは可愛いとこもあるじゃないか。
こうして俺とパールのプリンをめぐる話はひとまずピリオドを打つことになった。
廊下の端で何かを睨みつけブツブツ唸っているルイを除いては………。
初めての作品でした
右も左もわからず精一杯書きました
僕はパールよりルイの方が好きなんですよwww
続きも現在執筆中です




