第9話『「一歩後退二歩前進」って行ければいいんだけどな』(上)
『「一歩後退二歩前進」って行ければいいんだけどな』これには2つの視点があります。今回は河童の皿田視点です。
一歩後退(河童投手の皿田視点)
妖怪だらけのプロ野球チームの一軍昇格への思わぬ壁。でも、確かにそうなんだよ。
例えば、俺が人間で完全に見る側だったとする。球場に行って、でもTVででもいい、試合を見てたとするよ。緊迫した試合展開、ひいきチームが押され気味だったけど、いい流れになってきた。4番がホームラン性の打球を放った、スタンドに入るぞ、行け!! って思ってるときに、相手チームの外野手が空へ舞い上がって捕球してアウト? やっぱり納得できないかもしれない。何も知らないただのファンだったらブーイングする自信しかないぜ。凄いプレーに凄い、って感嘆して拍手喝采できるのは、同じ人間だからなんだろう。その辺、いわゆるバイアスってのかもしれねぇけど。
プロ野球規定には妖怪の加入は含まれていねぇらしい。昔は女子選手の加入も認められていなかったけど、変わったんだって聞いた。だから、いつかそのうちに妖怪選手の加入だって正式にて認められるようになるかもしれねぇんだけどよ、現時点では規定違反と言われても仕方ないかもしれねぇわけだ。だから、人間と同じ土俵で戦う。それも、俺チート級の能力持ってますけどぉ~チートって責められるの嫌だから手加減しますぅ~、なんて姿勢が見え見えっていうわけにもいかねぇだろう、そんなの逆に嫌われて責められるばっかりだよなぁ。
「でもよ、妖怪ってだけで昇格できないなら、俺らぁ、何のためにバット振ってんだよ」
思わずちょっと、グチも出た。それでもつらつら考えてる間に気付いたことがある。俺たちと一緒にいるけど、あいつは、大成ってやつは、見た目は人間だし、実際人間なんだよなぁ。 ちょっとまだ力は足りないかもしれねぇ、でも。あいつだけなら、一軍昇格候補、行けたんじゃね?
なんで、上は大成を候補に入れなかったんだ?
もし俺が大成の立場だったら、食い下がったかもしれねぇ。
「俺、人間ですよ。ちゃんと人間としてプレーできますよ。」
って。でも、あいつはそうしなかったんだよなぁ。なんかこう、なんかこう……あいつは、俺らと一緒にいるのが、だんだん板についてきたっていうか。
最初は
「人間って弱ぇんじゃねぇの?」
って、ちょいちょいからかってたんだけどな。 紅白戦のあとよ、ちょっと考えちまったんだわ。
試合は負けた。俺ら二軍組は、まぁ、見事に負けたよ。せっかく同点になったってのに、守り切って延長に持ち込むことも出来なかった。打ち崩されてな。 大成も1本しか打てなかった。守備も、まぁ、悪くはなかったけど、目立つほど光るもんはなかった。
でもよ、あいつ、試合後に監督の話を聞いて、弱っちくへたり込んで動けなくなっちまったのに、うわごとのように
「試合、勝ててたら、俺がもっと打ててたら、みんなももっと評価されてたかもしれない」
「……せっかく仲間と、一軍相手でも、いい試合できるようになったのに……」
って言ったんだ。 ……なんだよそれ。ちょっとズルいべ。
俺は妖怪だ。生まれも育ちも河童だ。人間のことなんて、正直、ちょっと見下してた。 でもな、あいつは“仲間”って言った、俺らのことを。 それ聞いたとき、なんかこう……胸んとこが、ちょっとだけ熱くなったんだわ。
一歩後退だって? そりゃそうだ。昇格候補にも誰も入らなかったしな。 でもよ、大成はいつも言うんだ。
「一歩下がったら、二歩進めばいい」
って。 ……そんで、俺も思った。次は、俺が打つ。俺が守る。俺が、もっと前に出る。
ま、俺は別に感動してねぇけどさ。 次の試合、もうちょっとだけ本気出してみるか。 大成がまた“仲間”って言ってくれるならな。
to be continued
『「一歩後退二歩前進」って行ければいいんだけどな』次回は大成視点でお送りします。




