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第5話『ちゃんと名前で呼ばれた日――雪女の左翼手 雪屋雪子 視点』

今回は 雪女の左翼手、雪屋雪子 視点でお送りします。友だちと電話でもしてるのかな。

 ずっと野球選手になりたくて、草野球チームが練習しているグラウンドに見に行っている時も、もっと近くで見たいからって、球拾いさせてもらった時も、私、ちゃんと、名前で呼んでもらえたことがなかったんだ。同じように見に行っている人間の男の子たちは、すぐに名前で呼んでもらったり時々は

 「ちょっとやってみるか? 」

 ってグローブやバットを貸してもらって、ベンチ前で素振りを見てもらったり、キャッチボールしても らったりしてた。でも、私には違った。

 牧戸の人たちは

 「おい、妖怪ぁ、野球見さ来てるぞ」

 とかことさら言ったりはしないんだけど、人間の男の子たちのようには仲間に入れてくれなかった。それは、私が女の子だから? それとも冬属性の妖怪、雪女だから? ごく時々声を掛けてもらえる時も

 「おねえちゃん」

 「雪女ちゃん」

 とか

 「雪子ちゃん」

 なんか、お客様? 場違いなの? そんな気がして寂しくて仕方なかったんだ。私だって野球、好きなのに。

 他の雪女のみんなはね、私のこと、変り者だと思ってるみたいだった。雪も降らない季節の暑い昼日中、日盛りにグラウンド行くって変、って。それよりも、イイオトコ誘う手管や見目好く見せるテク? 磨いた方がいいとか思ってるみたい。

 うん、ちょっと、ううん、かなり浮いてるの。でも、仕方ないと思わない? 今は時代が変わって来てるし、雪女だから野球好きじゃダメ、とかそういう決まりがあるわけでもないし。好きなものは好きなんだし。

 うん、でもね、だからって、どこかにプロテスト受けに行ってプロ野球選手に、ってところまでは想像してなかったな、やっぱり、野球選手っていうのは人間の世界だって思ってたし、どこだって遠いじゃないの。それに、妖怪が、って現実味薄い気がしていたのね。「牧戸Believers」の話が出てくるまでは。

 駅のすぐ近くにスタジアムができたの。そして、巌蔵さんが、本当にプロ野球チームを誘致して。そ、巌蔵いわくらさん、巌蔵林業の。隣の福来市でも誘致の計画はあったみたいで、裏では熾烈なバトルが展開されたとか。でも、牧戸町が勝ったのよね。そして、いろいろあったけど、おかげで現実味薄い、と思っていたプロテストがあって、入団できることになったんだもの。

 でね、でね、この間初めての試合があったのよ。練習試合だったけどね。そこで、初めてちゃんと名前を呼ばれたの、ドラフト3位で入ってきた真田大成三塁手から

 「雪屋、しっかりボール見ていけよ!」

 「雪屋は少しだけ冷気を薄めろ!」

 って。ちゃんと他のヒトたちと同じように呼んでもらえたの、夢みたいだった。

 いきなり冷気薄めろはちょっとムチャブリだったけど、でも仲間、チームメイトって思ってもらえたみたいでとても嬉しかったな。

 そ。試合も勝ったし、これからもっとがんばろう、って思えたんだ。


                           to be continued


次回は主人公(真田大成)大成視点に戻ります。

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