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第13話 「ライパチ」—- 唯一無二のポジション (東風の妖 風祭 視点)

(東風の妖 風祭 視点)


 「風祭ー、集合だってよー」

 大成のやつの太平楽な声がする。へーえ、そうかよ、だから何? ってカンジ。どうせさ、俺ぁ、居ても居なくてもいいんだろう。この前までは試合の時の数合わせくらいの役目はあったんだろうけど、もういいじゃんよ、今はポジション被るやつ居んだし。

 野球って楽しいな、って思ってた時だってあったにはあったけど、やったことある順にポジションと打順選んで、俺に当たったのは「8番右翼手」それが「ライパチ」って言われてることは俺だって知ってるんだよ。チームで一番下手な奴、数合わせ、居ても居なくてもいいってポジションなんて言われてるんだって。

 それで充分業腹だってのに、ポジション被りまで出てくるとはね。

 俺いらないだろう。練習なんて意味あるのかよ。

 大成のやつはいいよな、ドラフトとやらで欲しいって言われて入ったんだし、子どもの頃からやってたとかって試合展開読んで指示出しとかもやれるし、人間だし。

プロ野球ってのが「人間」の世界で、人間そっくりの立ち居振る舞いとプレーが出来なきゃ始まらない、なんて知らないままでいられたら、気持ち的まだマシだったんだけどなぁ、あああ、もう、かったるい。

なんて思いながらダッグアウト裏の観客席に寝転がってたら、ふと影が差す。… 

 何だよ、こいつか。わざわざ探しに来んなよ、お呼びじゃねぇよ、稲葉。嫌なやーつ。なんでこいつがよりにもよって俺のポジションに被って来んだよ。厭味ったらしくまるパクリの「ライパチ」で。紅白戦で、てんと一軍ベンチにいたくせに。わざわざ下がって来なくていいだろ。エリート様が。

 「とうに一軍に名を連ねた兄さんが何の用だよ? 俺居なくてもあんたが居れば連携も十二分に回せるんだろうに」

 「だからって、ただの昼寝じゃないよな。ただの昼寝ならユニフォーム着る必要ないし、場所もここじゃなくてもいい。たしか、グラウンド外にちょうどいい、その名も『昼寝場』なんてのがあったはず…」

 「Yo計なO世話だほっとけYo! とかいうんじゃねーの、そういうのを」

 嫌味遮ってラップ調の抑揚で返すと

 「ああ悪い、そういうの疎いんだ。ずっと野球バカやってたから」

 なんて更なる辛辣な言い方で返される。

 はいはい、妖怪の世界にゃ「野球バカ」になれる環境もねぇしよ。

 「皮肉かよ」

 「え?」

 「ボクはずっと一心不乱に野球してきました。アナタは怠ってるでしょう、とでも言いたいんだろ」

 「なんでそうなるかな」

 首をかしげる稲葉。 は? なんでそうなるかな、はこっちの台詞だよ。

 「エリート様には『ライパチ』の気持ちは分からねぇだろって話だよ。あんたと違って俺は『ライパチ』にしかなれねぇのに、わざわざまるパクリで被ってきやがって。」

 …… と、稲葉のやろうは、ふっと笑いやがった。そして言う。

 「おれもずっとライパチだよ。中学で野球部入ってから高校までずっとそうだった。それにおれ『幽霊』だし。エリート様っていうのは違うと思うよ」

 幽霊? 幽霊部員ってやつか? いや、それは変だ。野球部の幽霊部員が野球バカってわけねぇ。

 「おれは一度死んだ。ああ、比喩じゃない。そしてそれは最低最悪のタイミングだった。県大会の決勝戦の前日だったからな。チームメイトは事故の報に驚き、訃報に動揺し、組んできたメンバーが欠けた状態で決勝戦に臨むことになった。今でも思うよ、あの事故が避けられていれば、って。」

 「幽霊」が喩えでなくて、本当に幽霊なのか? 姿は人間だけど、なのに「人間」としての枠からはみ出した存在? それを自覚した時と、予期せぬ自分の死を後悔した時、いったいどんな思いをしたんだろう…… それを稲葉は淡々と話す。自分のことなのに感情を乗せずに。

 「その後悔と、夢の舞台で闘いたかったって執着が、おれが今ここにいる理由だ。そして、おれはずっとライパチだったけど、自分のポジションに誇りを持っていた。どのポジション、どの打順だって重要な役割を持てる。その場面での最大の貢献ができるなら、どのポジションでも試合を動かせるし欠くことのできない存在になれる。ずっとそう思ってきたし、今もそう思っているよ。」

話し終えた稲葉は、ちょっと息をつき、そして言う。

 「ちなみに、おれ、メンタル下がると人の目には入らなくなるらしいよ、幽霊だけに。紅白戦の時はおれはいないも同然だったようだ、なぜか、大成には見えてたらしいけどな。」

 実に淡々と言う言葉が熱を帯びているようだ。同じ風だとするならこいつは荒南風だ。重みがあって、強い。なんだか泣きたくなったよ。俺は自分で決めつけて、できることを探そうともしないで、半端に拗ねていただけじゃないか。妙な方向にプライド持って、結局、自分を「どうでもいいやつ」にしちまってただけだったんだよ。


 「次ライトー! あれ? 稲葉先輩―⁉ 風祭―⁇ 」

 しばらくしてグラウンドの方から大成の間の抜けた声が聞こえた。なんだよ、基礎練終わって、ポジション練習やって行ってライト、って段になってやっと俺らがグラウンドにいないことに気付いたの? 

 稲葉談によれば大成って目に入らない人も見える目、してるんじゃないっけ? あー稲葉も苦笑してる。だーめだな、ありゃ。目の前に集中すると視界狭くなってるんじゃね? 他のメンバーも少し補ってやれよ。


 そう言えば岡目八目って言葉があったっけな。盤面を見て対戦してる指し手同士では見えない手も、傍から見ていればけっこう見える、っていう。俯瞰すれば先も読めるかもしれないってことか。もしかしたら内野からは見えないことも外野からなら見える、ってこともあるかもしれないよな。

 それなら、右翼手をいてもいなくてもいい、改め、俯瞰から試合を優位に動かしてやれるポジションにしてやろう。誰でもやれるから下手な奴入れていいポジションじゃなく、俺が守れば盤石だ、と思わせるようにさ。

 そうしたら、きっと唯一無二のポジションになるんだろうから。

 さぁ、仲間と合流しよう。

 観客席を一段上がって「ここだぞ~」と手を振ったら、皿田の

 「なんだ、おめーら、サボってんじゃねぇぞ!」

 という怒鳴り声がグラウンド中に響き渡った。

                         to be continued 



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