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第10話『「一歩後退二歩前進」って行ければいいんだけどな』(下)

一歩だけじゃなくもっと下がってもいい、結果として前進できるなら(大成視点に戻る)


 朝だ、自分の部屋で自分の布団の上で目を覚ました。天狗山監督から試合後に、残念ながら仲間の中からひとりも一軍昇格候補が出なかった、って話を聞いて、それからどうしたんだっけ? 自分で部屋に戻ってちゃんと布団に入った記憶が……ない…? え⁉


 まだ未成年だ、やけ酒なんて呑まない。だから泥酔してほず落とすはあり得ない。

ってことは、ええええええ~、マジか? 誰かが俺を部屋まで運んで、寝かせてくれたってことか? 皿田? それとも、滑河? あいつら、そんな優しさあったっけ? いや覚えてないけどちゃんと自分で戻って、って… 枕も布団もひっくり返ってんじゃん。仲間に枕返しっていた?いないよな。

 ってことは、やっぱりか~、うわぁ、醜態。情けねぇとこ見られて手間かけさせて。

 うわぁぁぁぁぁぁぁ 心の中で絶叫しながら、何だか涙が出そうになった。

 入寮してからいろいろあったよ。びっくりしたり呆れたり、軽口たたかれて落ち込んだり。そんな中、いつの間にかみんなが俺の中で仲間になっていた。その気持ちが通じていたのかな。


 妖怪混成軍が人間のプロ野球チームとして、それぞれがれっきとした人間のプロ野球選手として、グラウンドに、観客席の観衆の前に立つ。それこそが一軍選手としてのスタート地点だなんて… 遠いよ。

一歩後退、そう簡単なもんじゃないのかもしれない。同じ野球好きなのに、せっかくプロに入ったのに妖怪だっていう生まれがハンデだなんてさ。

 たしかに一軍は観客の数が桁違いだ、TV中継も入る。だからこその一軍昇格の条件はひとつひとつのプレーやひと試合、ましてワンポイントの采配だけじゃない。勝つこと、ベストを尽くすこと、そんなの当たり前。そうやって必死に当たり前を当たり前にこなしても、目標の前にそびえ立つのは高い壁なんだ、って何なんだよ。

 俺だってまだまだ力不足で、皆の力を引き出してやれない。先に立って皆を引っ張れる力なんてとてもじゃないけど。だけど、だけどさ、なんか俺だけがズルしてるみたいじゃねぇ? ただ人間に生まれて来ただけなのにさ、プロ野球選手としてグラウンドに立ちたいその気持ちは皆同じなのに。

 胸にこみあげてくる何かを無理やり飲み下して、負けるもんか、と自分に気合をかける。

 絶対に一軍に上がってみせる。それに見合う力をつける。俺だけじゃなく、皆で、だ。

 一歩下がる時だってあっていいんだ。一歩で足りなければもっと下がって助走をつけたっていい。一歩後退したら二歩進むって気概。助走するためにもっと下がったらさらにもっと前へ。結果としてスタートより1ミリでも前に出られたらそれは前進なんだし、前進なんてムリ、って決めつけて諦めるには、俺たちまだ若いんだもんな。


 戸を開けて部屋を出たら

 「おはよう」

 と声がした。そして座敷にほーいほーいほーい、とばかりに背中を押されて食堂に行ったら、テーブルにきちんと朝ごはんが並んでいた。何となく流れで座ったら、ご飯も味噌汁も焼き魚もまだあったかい。  ええ、なんでこんなタイミング測ったみたいに、びっくりだよ。

 本当に泣きそうになりながら箸を持ったら、大入道が廊下をにやっと笑って手を振りながら通り過ぎて行った。 

 いつもと同じようで何かが違う新しい朝だった。

                             to be continued


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