【9】リリカル同盟崩壊か!?自分バーベキューに挑む大天使―今日は燃える石の上で―
赤い毛氈が陽光を照り返す中――
クリスタルのピンヒールで、ランウェイさながらにモデルウォーキングする大天使ガブリエル。
真っ白なコートの合間から覗く真っ赤なランジェリーが包むのは、完璧すぎるわがままボディ。
真紅の和傘を差す従者が、真昼の太陽を遮りながらガブリエルを守っている。
その後ろには、雅な衣装に身を包んだ侍女たち。
見習い侍女たちは花びらを撒き――その直後、竹ぼうきでせっせと掃き清め、また花びらを撒く無限ループが続いていた。
白孔雀が羽を広げ、雅楽の音色に合わせて行列を先導する。
さらに奏者たちは演奏のテンポを、わざわざガブリエルの歩調に合わせて微調整しており、統率の取れすぎた笙や篳篥が澄んだ調べを響かせる。
そして毛氈の端に来ると、従者が慌てて新しい毛氈を継ぎ足す。
そのたびにガブリエルは立ち止まるだけだか、従者は「今のは“ひねり歩みの儀”にございますね!」と声を張り上げる。
長者は「なんと美しきこと! この世の極楽……!」と感涙を流し、両手を合わせて拝んでいた。
だが、感動していたのは長者だけではない。
草むらに隠れて覗いていたロクシーとルチアーノも、それぞれの感性で震えていた。
「すごい! アンジュちゃん…!正に夜長姫だよ!! 直視出来ないくらい眩しい…!目が潰れちゃう!綺麗!!」とロクシーが言えば、ルチアーノも「美しいッ……!! リリカル……ッ!!」まるで魂ごと“リリカル”に持っていかれたように、それ以上言葉が出なかった。
だが二人の頭上からは……地を這うような低音の呪文が聞こえてくる。
ロクシーがキッとイレイナを見上げる。
「イレイナ! 呪文唱えるなら、離れに戻ってよ! 雰囲気ぶち壊し!」
イレイナがカッと目を見開く。
「うるさい! あのアンジュの姿を水晶玉に記録してるの! ハリウッドに戻ったらこれ以上の宣伝はないでしょ!?
全米初公開ポスター級!動画再生回数も億単位になるわ……!!」
瞳をドルマークにさせてギラギラしているイレイナにロクシーが舌打ちする。
「だから! それは離れでもできるでしょ!?」
「ここは異世界なのよ!? 万が一失敗したら……ってルチアーノ……あんた、その板何?」
ルチアーノがビクッと、ハイブランドロゴがさく裂しているのシップバッグを胸に抱く。
「……こ、これは…その…ロクシー先生の脚本から実行までが早すぎたかな……って……一応…心配いたしまして…保険を〜……恋の保険!天気の保険!健康の保険であります!」
「……は!? 今日みたいな晴れの日は続かないってあんたが言ったんでしょ!?」
ロクシーに睨まれ、ルチアーノがウンウンと頷く。
「それはそう! 俺様の水晶玉のはアメリカ海洋大気庁より正確だ!」
「それで…あの赤い敷き物を敷き続けてる男にちゃんと言いつけたんでしょうね……?」
「ハイッ! ロクシー先生の脚本通りですッ!」
ルチアーノは小学生のように返事をすると、まるでチーターにも負けない早さで草むらの蔭に消えて行った。
どこに行くの???
ガブリエルは不思議だった。
美しい中庭を抜けてから、どんどん森に近づいている。
だが、“姫”は毛氈の上を歩くルールらしいので、ガブリエルは散歩を楽しんでいた。
きっと素敵な東屋とか言う建物があって〜♪
そこで異世界の帝も唸る世界三大スイーツ級の和菓子を食べる〜♪
これも“夜長姫”という役割!
つまり神の儀式の聖なる遂行!
散歩なのに、まるで宇宙規模の神事!
うん! さすが、私は大天使ガブリエル!
そして、花の香りと緑を含む清らかな風――なのに……鼻がもげそうになる肉が焦げるような悪臭がした。
まず、ガブリエルに傘を差していた男が腰を抜かした。
そして「あれ〜!」「ヒイィィィ…!!」「姫様が燃えるー!」「誰ぞ! 姫様をお守りせい!」などという侍女の悲鳴がそこかしこから上がる。
その時、花びらを散らしていた少女の一人がスッと指を指した。
その方向にガブリエルが視線をやると――
松ヤニを燻した周りで、片手でゴマを焚き、燃える石の上を歩くルシアンがいた。
自分をバーベキューするのか修行なのか分からない儀式……。
だーかーらー!!
お前は何がしたいの!?
それって本当にルチアーノの暇つぶし???
お前がアレンジしてるんじゃなくて!?!?!?
バチッとガブリエルとルシアンの目が合う。
すると――なんと、ルシアンは燃える石の上にジュッと煙を上げながら跪いたのだ。
だーかーらー!!
なぜそこまで悪魔のルチアーノの暇つぶしに付き合うの!?
断れ! 断るのが大天使として正解だろう!?
それとも“耳男”とやらは、“夜長姫”を脅かす存在なわけ!?説明責任ッ!ホウ・レン・ソウ!!
それは、突然の出来事――
ルシアンは無言で後方屈伸3回宙返りで着地せず、そのままスキーのジャンプ台から飛ぶごとく森に消えて行った。
「何で!? どうしてこうなるのよ!?」
ロクシーの怒りの叫びに、イレイナが作り上げた離れの屋敷の空間がビリビリと震える。
そして一気飲みしたロクシーのビールのラベルは、スコットランドの「スネークヴェノム」。
そのアルコール度数、67.5%。
「ルチアーノ! あんた、私の脚本をちゃんとルシアンに渡したんでしょうね!?」
ロクシーの鋭く座った目で睨まれ、正座しているルチアーノがその姿勢のままピョンと跳ねる。
「…も、もちろんです! ロクシー先生の脚本を渡したであります!」
――俺様はルシアンのズッ友…!と思いながら――
「……じゃあ何でルシアンはあんなことするの!?
私の脚本には…美しく優雅なアンジュちゃんが、何か無理男が頑張る姿を見て…『この人…何か無理…でも、頑張る姿ちょっとキュンとしちゃう❤️』なのに!
何で松ヤニを燻したり、ゴマを焚いて、燃えた石の上を歩くわけ!?
何でアンジュちゃんと目が合ったら、その石に跪くの!?
一億歩譲っても、そこは爽やかに微笑む一択でしょ!?
一番大きなフォントでNG事項書いたのに…!!」
※NG:連続水浴び/蛇裂きなど。
(英語・ラテン語・ギリシア文字表記)
すると、イレイナの厳しい声が飛んだ。
「ルチアーノ! あんた、隠してた木の板になんて書いたの?
もし……あんたのせいでアンジュのあの美しいウォーキングが無駄になったのなら…この異世界で私があんたを消す!」
イレイナの言葉が終わった瞬間、シャンデリアの一部が落ち、ブスッとルチアーノの太ももの横に突き刺さった。
ルチアーノが涙混じりに絶叫する。
「ち、違う! 俺様のせいじゃない!
でもッ…! ルシアンは本当にアンジュちゃんのために頑張ってるから…!!
俺様はズッ友として…!万が一!万が一!万が一!
アンジュちゃんがドン引きしたら、懐中時計を24金で描いた『カッコよく去れ!』って板を見せてやりたかっただけなんだ…!」
「……カッコよく去れ? つまりイレイナさえ笑い転げた後方屈伸3回宙返りで森に去ったのは……あんたのせいね!」
ロクシーにビシッと指を差され、ルチアーノが意気込む。
「冷徹極まりないイレイナが笑った!? じゃあアンジュちゃんも笑顔になったんじゃ…!!」
次の瞬間、冷蔵庫がゴゴゴ…と低い唸り声を上げ、ルチアーノが「…れ、冷蔵庫!?」と叫ぶ間もなくルチアーノに直撃する。
「…イ……イレイナ……あがっ……」
「うるさい! 死ぬよりマシでしょ!? さあ、次の手を打たなきゃ…!」
ロクシーの顔がパッと明るくなる。
「イレイナ! もしかして良いアイデアがあるの!?」
ロクシーが顎に手を当ててニヤリと笑うと、イレイナも「あるわよ〜!」妖しく笑った。
そう――
次に来るのはロクシーの“覚悟”だった。
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