【6】耳男は薪を割り、魔女はドルを数え、大天使は再び倒れる
その夜。
ルシアンが「神の新たなる儀式―耳男ロールプレイ―」を完遂した直後――。
ガブリエルは倒れ、ルチアーノは何故か一緒に倒れ、現場は修羅場だった。
ルシアンはあの後、ガブリエルが倒れ、侍女達に囲まれて退場してしまい、長者も姫が心配だと言ってそれに続いた。
そしてルチアーノの「喧嘩ッ! やややッ! 両成敗ィ〜〜!! ズッ友ノリノリバージョン☆」という訳の分からない宣言で場は締めくくられ、ルシアンは耳男本来の仕事に戻った。
今、昼間に切り出した木を選別していると、ルチアーノがルシアンの小屋にご機嫌でやって来た。
「ルシアン♪ 今日の俺様の脚本も上手くいったぞー!
あの後、アンジュちゃんは……寝込んじゃってさ☆
恋の病ってやつだな!」
お前が一番重症では?とルシアンは思ったが、大天使の自分が口にすべきことでも無いので黙っていた。
ルチアーノは興奮を隠しきれないように、続ける。
「それで……なんとお前の名前を譫言で呼んでるんだよ!!
きっと……アンジュちゃんは理想の人に出会えたショックで倒れたんだよな……分かる!
俺様もリリカルが爆発しちゃって倒れたしな♪
恋ってそういうもんだよな☆
斧を持っていたお前は、まるで伝説の騎士……。
そしてロクシーの首を跳ねても良いお前が、ロクシーの首を跳ねなかった!
しかも理詰めに見えて、それは騎士のやさしさ……温情がアンジュちゃんのハートを射止めたんだ……!
そしてモテモテ人生しか送ったことの無いアンジュちゃんは知った……。
この世には、かけがえのないものがあると……!
それは清らかな心……っておい!! お前、何してんだよ!?」
ルシアンがノミを片手に振り向く。
「ガブリエル様がご病気なら、私には分かる。
ガブリエル様はご健康だ。
だから神の新たなる儀式に挑んでいる」
「……お前、まさか……その薪、自分で割ったのか!?」
「そうだ。まず、仏像と厨子を作るに最適な木をこの目で選別し……」
「何でだよ!?」
ルチアーノが大声でルシアンの説明を遮る。
「お前は大天使!
最適な木を探す、と思えばどんな遠くにだって一瞬で行ける!
そして手を振り上げるだけで、その木は薪になる!
俺様、どこか間違ってますか!?」
「いいや、間違ってはいない。
だが、私はこの異世界での耳男……!
耳男としてこの儀式を完璧に終えることこそ、神の尊い試練にして導き!
完璧な儀式を遂行するならば、私も完璧な耳男であらねばならぬ!」
「ルシアン……!!」
ルチアーノが感動に目を潤ませる。
「アンジュちゃんの為に完璧な役作りをするんだな……!!
尊い!!
良し! 俺様も本気を出す!
次なるリリカルな脚本に手を入れて、耳男というお前と、夜長姫となったアンジュちゃんの初恋成就の為に、脚本を練り直す!
じゃあな! ズッ友! ガンバ☆」
そしてルチアーノは盛大な紙吹雪と共に煙の如く消えた。
一方、イレイナの屋敷と化した長者の邸宅の離れでは、ロクシーが風呂上がりの強炭酸水を飲んで、一息入れていた。
「……あー……もう疲れたー……」
ソファにダイブするロクシーを、イレイナが横目で見る。
「疲れたって……あんた土の上で10分、正座してただけじゃない。
いやねー、やる気が無いんだから!」
ロクシーがガハッと起き上がる。
「……やる気……!?
水晶玉で見てなかったの!?
私がどんなに頑張ったか!
あの処刑場で、真っ赤かの顔した汗みどろのルシアンを見て、吹き出さずにいたんだよ!?
もう、いつまでこんな茶番やらなきゃいけないの!?
それよりこの異世界からハリウッドに帰る方法を探そうよ!」
イレイナが絶対零度の目で、ロクシーを睨みつける。
「あんた、人間の中では頭が良い方でしょ!?
分からないの!?
ここには大天使ルシアンがいるの!
私達があれこれ考えるより先に、ルシアンが帰る方法を見つけるに決まってるでしょうが!
それにまずルチアーノが飽きるわね!
こんな山しか無いところで、アイツがじっとしていられると思う!?
もう帰る方法を探してる頃よ!
アイツは馬鹿でも地獄の王! どんなツテだって使うわ!
それに!」
そしてイレイナはビシッと人差し指をロクシーに突きつけた。
「水晶玉でちょっと覗いただけで……この長者の蔵には5000万ドル分の財産があるの!
何十億よ…!レオナルド・ダ・ヴィンチの絵を買ってもお釣りがくる…!
絶対に他にも隠してる筈……!
だから、あんたが土の上で10分正座して、チョロッと織り女の振りしてる間に、私はこれだけの仕事をしたのよ」
ロクシーの膝に分厚い和紙の束が投げつけられる。
ズシンと重みが響く。
「……日本語読めないんだけど……」
ロクシーがボソッと言うと、イレイナが勝ち誇ったようにホホホと笑った。
「それはね……長者に提出する企画書!
ここの織り女の労働環境、ハタを改善すればもっと利益が上がる!」
「それって改善という名の搾取では……?」
そんなロクシーの真っ当なツッコミにもイレイナは揺るがない。
「資本主義ってそういうものでしょ?
そこで……まずは6:4の配分でどうですか?ってさり気なく切り出すの……。
最初は長者が6割。
でも……それがどんどんどんどん私に収益が傾き……長者は私に機織り工場そのものを売却しなければならなくなる。
そしてこの異世界から戻るまでに、長者から絞れるだけ絞り取る!
どう? 完璧でしょ?
あんたも文句ばっかり言ってないで、少しは頭を働かせなさい!」
ロクシーがグビッと強炭酸水をあおると言った。
「イレイナ!
じゃあここでパソコンを使える環境に出来る!?」
イレイナがにんまり笑う。
「やる気が出たわね!
じゃあ、あんたも私の作戦に一枚かんで!
この異世界で利益を上げた分の17%はあんたの取り分!
契約成立?」
「成立よ!
さあ、早く最高機能のパソコンとタブレット端末二台、Wi-Fi環境を整備して!」
「Wi-Fiの範囲は?」
「イレイナの出来る限りの広さでいいよ」
イレイナの目がギラリと光る。
「私を誰だと思ってるの?
地球最強!宇宙最凶!三千世界をまたにかける天才魔女の力を見せてあげるわ!」
ロクシーは、高らかに宣言するイレイナを見ながら思っていた。
……イレイナって……以外とチョロいんだよね……。
そしてガブリエルは――。
氷嚢を頭に乗せ、熱を出してウンウン唸っていた。
長者の「最高の医者を探せ!…薬師!…陰陽師!全部呼べーーー!!」という怒鳴り声が遠くに聞こえる。
侍女がやさしく「夜長姫さま、どうぞごゆるりと」と冷たい水に浸した手ぬぐいで汗を拭いてくれる。
だが、ガブリエルは発熱にも負けてはいなかった。
それは大天使ガブリエルとしての矜持!
部下の大天使ルシアンの奇行を止め、正すことこそ自分の役目!
神の一番の御使いとして尊き御心に答える時――それが今!
そして侍女が止めるのも聞かず、ガブリエルは布団から立ち上がる。
たわわな身体を揺らし、窓辺に立ち、「これも神の試練! 私は必ず見届け……見届け……」
そして、侍女達が悲鳴を上げる間もなくパタンと倒れた。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
明日も17時更新です☆
Xはこちら → https://x.com/himari61290
自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪
\外伝の元ネタはこちら✨/
『最強捜査官』本編 → https://ncode.syosetu.com/n2892lb/




