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【完結】大天使たち、日本昔話に異世界転生する。〜初恋成就作戦を決行するポンコツ地獄の王に振り回されています〜  作者: 久茉莉himari


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13/15

【13】羽根を抜いたら世界が揺れた――大天使、敬愛と樹液の境界線――

燃える小屋を背に、ルシアンは歩いた。


華やかな柄on柄のスーツは、ところどころ破れ、焦げている。

だがその姿に、敗北の影は微塵もない。


長者の使用人が仏像と厨子を運ぶと申し出たが、ルシアンは首を横に振った。

――それは大天使としての誇りだった。


昨日の朝、ガブリエルが去った後。

ルシアンはルチアーノを追い払い、ただひとり考え続けた。


自分の仏に、まだ“足りないもの”は何か。


どんぐりの樹液に浸したジッバー付きポリ袋の中の仏像。

巨石の重みのお陰か、樹液は確かに染み込み始めていた。

だが――明朝までに“耳男”として納得のいく形に仕上げるのは、到底不可能。


ならば、まずは厨子を作る。


その形と模様は、夜長姫――すなわちアンジュさまの調度にふさわしく、可憐で美しくなければならない。

そして、扉を開けた瞬間に現れる像の凄みを引き立てるためにも、外装はあくまで“優雅で柔らか”でなければならない。


ルシアンは、無我夢中でノミを振るった。


そう――ヴァチカン総本山に仕えたエクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父のごとく。

その姿はまさに祈りと狂気の融合――エクソシズムそのものだった。


「厳かに問いかける……あるいは、勧告する……

 私は大天使ルシアンとして――」


呟きながら、ノミを打ち込む。

あえて細工を凝らさず、扉には花鳥を軽くあしらうだけ。

豪奢ではないが、質素の中に“神の品格”が宿る。

それでこそ、真なる厨子だとルシアンは満足げに微笑んだ。


そして――静かに大天使の翼を広げ、羽根を一本抜き取った。






ドンッ――。

轟音とともに、大地が揺れた。


イレイナの離れでは、次々と悲鳴と怒号が飛び交う。

ロクシーが顔を上げ、「今の音……ただの地震じゃない!」と叫ぶ。


「魔力の揺れ……!? まさか……!」

イレイナが水晶玉に手を翳した瞬間、ルチアーノが「俺様のズッ友センサーが反応してる!!」と叫び、勢いよく扉を開けようとして――


ドンッ。

次の瞬間、反対側の壁に叩きつけられた。


「イ、イレイナ……!」

呻くルチアーノを、イレイナが一喝する。


「うるさいッ! この異世界で魔術を使えるのは三人――私、お前、そしてルシアン!

つまり、ルシアンが何かしたのよ!

今、安全なのはこの“空間”だけ!

絶対に扉を開けるな! 次にやったら、あんたを消す!!」


「アンジュちゃんは……!?」

ロクシーの絶望混じりの声に、イレイナが振り返る。


「あのね! ルシアンはアンジュに恋してるの!

大天使が付いてるんだから、一番安全でしょ!?

あんた、頭いいんでしょ!?」


ロクシーが言葉を失う中、イレイナは水晶玉に向かって低く呪文を唱えた。


十秒後――


イレイナは沈黙し、次の瞬間、腹を抱えて笑い出した。


「アハハハッ!! イヤだーもう! 大天使って本当に馬鹿ばっかり!!

アンジュに振り向いてもらいたいからって……そこまでする!?」


「イ、イレイナ……質問しても……いいですかー……?」

ルチアーノが情けない声で言うと、イレイナが手をひらひらさせる。


「許す!」


「ルシアンが……何かしたのか!?」


イレイナがくるりと振り返り、にやりと笑った。


「ええ、したわ。

自分の“大天使の翼”から羽根を一本抜いて――あの“ジッバー付きポリ袋の仏像”の樹液に浸けたのよ!」


笑いが止まらないイレイナ。

ルチアーノも「……えっ……ズッ友……!? 恋じゃない! 愛しちゃったんだ!」と目を丸くしている。


「どういうこと?」とロクシーが眉をひそめると、ルチアーノがピョコンと正座をして解説を始めた。


「ロクシー先生! 大天使の羽根には“天の恩寵”が詰まっております!

それを神が“落とす”のではなく、大天使自らが引き抜くとなると――

その無限のパワーが解き放たれるのですッ!

ですがルシアンは、本気の恩寵でジッバーポリ袋に封じた……!

だからこの程度の被害で済んでいるのです! ラブ❤️」


ロクシーが頭を抱える。


「だからーーーッ!

ルシアンはなんで、どんぐりの木の樹液にあんなに拘るの!?

そこまでできるなら、ジッバーポリ袋いらないでしょ!?

恩寵で仏像をヒタヒタにして、羽根をくっつければいいじゃない! ビール!」


「ハイッ!」

ルチアーノが瞬時に冷蔵庫を開け、瓶ビールをロクシーの前に差し出す。


それは『アルファ・フォニケーション:IBU2500』――驚異的な苦味を誇る、カナダ・フライングモンキーズ社製のビールだ。


ロクシーは一気に飲み干すと、ぷはっと息を吐いた。

そして――俯いて肩を震わせているイレイナに、不思議そうに声を掛ける。


「……何してんの?」


「だって……!!」


イレイナが立ち上がった瞬間、ショッキングピンクの薔薇の花びらが舞い、

ゴールドの煌めきが空間を満たした。


「大天使が、人間に本気で恋して――愛したのよ!?

感情を持たないはずの天使が!

しかも、そのアンジュは私の広告代理店のミューズ!

ランジェリーだけじゃないわ! 香水も、ドレスも、世界中で売れる!

この瞬間を見られたなんて……感動するぅ〜〜!!」


ロクシーは呆れ顔で「ハイハイ。じゃあ安全なのね? 寝ていい?」とだけ言い、

イレイナと――なぜかルチアーノがそろってウンウンと頷くのを確認して、

ビール片手に寝室へと消えていった。





そして――翌朝、運命の日。


ルシアンは、昨夜から燃えさかる小屋を後にし、自ら台車を引きながら、長者の屋敷へと向かった。


その姿を見た使用人たちは、驚きのあまり声を上げ、慌てて風呂へ入るよう命じる。


ハッ……!!

私はなんということを……!

これから夜長姫に転生された大天使ガブリエル様に、“耳男”としての神の新たなる儀式の成果をお見せするというのに……!

ガブリエル様からの教え――“ルッキズム”を失念するとは……!!


そして考える。

私は“耳男”。ならば人間の前で恩寵を使うべきか?

否。

私は風呂場で恩寵を使い、“ルッキズム”を遂行するまで……!


そうしてルシアンは、「台車に誰も触れるな」と厳かに言い残し、屋敷の風呂場へと消えた。


――そして一分後。


ルシアンは完璧な光沢を放つ姿で、何事もなかったかのように台車のもとへ戻って来た。

――その速さ、まさに大天使クオリティ。





そうして導かれた奥の間。

長者が“夜長姫”――ガブリエルを従えて姿を現した。


上段の椅子に並んで座る二人。

やがて、ガブリエルがゆるやかに口を開く。


「珍しい弥勒の像をありがとう。

他のものの百倍、千倍も気に入りました」


――と、棒読みで。


その瞬間、ルシアンは畳に額を擦りつけ、歓喜に震えた。


「ガブ……いえ、夜長姫さま!

この耳男、身に余るお言葉を頂戴し、至極光栄に存じます……!」


ロクシーから教わった脚本に、

大天使としての祈りと荘厳な所作を重ねる。


すると長者が、やさしく語りだした。


「耳男よ、顔を上げよ。

この短期間で、よくぞここまでの作を仕上げた。

お前の弥勒は皮肉の作でありながら、彫りの気魂は凡手の業ではない。

ことのほか姫が気に入ったようだから、それだけで私は満足だ。

よく、やってくれた。」


そう言って、長者とガブリエルは、

ルシアンへ数々の引き出物を与えた。


そして――ガブリエルが立ち上がろうとした、その時。

長者が穏やかに告げる。


「そなたほどの匠、これにて手放すのは惜しい。

夜長姫の姿を刻み、残してくれぬか?」


「は?」

ガブリエルがガハッと長者を見る。


一方でルシアンは、歓喜のあまり立ち上がり、天に祈りを捧げた。


「これは私が“耳男”としての――新たな試練!

ありがたくお受けいたします!!」


脂汗を浮かべるガブリエルに、長者が視線を送る。


「姫はどうじゃ?」


「……えーと……あの……」

モゴモゴと返すガブリエルに、長者がにっこりと笑った。


「姫はお前に完成を急がせた。

姫はお前の腕前を見抜いておったのだ。

夜長姫は美しいだけでなく、教養深く、審美眼もある。

なんと素晴らしき日……!

姫も同意じゃ。耳男よ、頼むぞ。」


「……はい……!」


ルシアンの声には、再び大天使としての決意が満ちていた。





ルシアンが屋敷から出ると、待ってましたとばかりに、ルチアーノとロクシーがいた。


ルチアーノは両手を広げ、満面の笑みを浮かべる。

「も〜!! ズッ友の照れ屋さん❤️ 恩寵で奥の間を囲うなよ〜! それで!? アンジュちゃんはお前の仏像と厨子を選んだよなっ!? なっ!? ラブ❤️」


浮かれきった声が響く中、ロクシーは冷ややかな視線を向けた。

「……で? 詳しく」――それだけ。


ルシアンは無言のまま、ウサイン・ボルトの速度を保って走り去った。





そして、森の奥深く――。


ルシアンは、ガブリエルの等身大の姿を刻む木を探すべく、一本一本を吟味して歩いていた。


大天使ガブリエルに相応しい、神聖なる木。

その器――“アンジュ”の黄金比にふさわしい、大きく気高い木を。


やがて、木こりらしき人間が倒れているのを見つけ、ルシアンの無表情がわずかに揺れる。


「イナゴの大群が来る……!」


確信に満ちた声で告げた瞬間、森の上空を覆う黒雲が渦を巻いた。





イレイナの離れでは、シャンデリアが激しく鳴り響く。

ロクシーが叫んだ。

「まさかまた……ルシアン!?」


その横で、ルチアーノが呆然と呟く。

「……ズッ友が……また愛の奇跡をおこす……❤️」


次の瞬間、イレイナは無言でルチアーノを壁に叩きつけ、水晶玉を睨みつけた。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

明日も17時更新です☆


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