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【完結】大天使たち、日本昔話に異世界転生する。〜初恋成就作戦を決行するポンコツ地獄の王に振り回されています〜  作者: 久茉莉himari


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【10】大天使、悟りの滝で神の啓示を受ける。〜どんぐりの木から没薬を作ります〜

絢爛豪華な花露姫の部屋。

昼食後のお茶を味わいながら、アンジュはご機嫌だった。


ロクシーから届いた一分足らずの動画には、ルシアンが、森の中で仏像を一心に彫る姿が映っていた。

それは控えめながらも真剣で――まさに神々しき大天使にふさわしい行為だった。


しかも、ロクシーのメッセージにはこう添えられていた。


「アンシュちゃん!この異世界、マジで神ってる!

ルシアン、昨日の焼け石ピラミットを反省して、神に祈ったら、今日の明け方、閃光が走ってルシアンの小屋を包んだの!

そうしたら、ルシアンは元の真面目なルシアンに戻ったわ!

神様のAIサポート力すごくない!?

まあ、“無理男”の行動テンプレだと思って許してやって!」


「良かったーー!!」


感動のあまり、目の前の“帝転倒級”の和菓子を一口でいった。


「うまっ!何個でも行ける!……じゃ、無くて…!」


ルシアンよ……!

やはり、ここは異世界。

聖なる務めを果たそうとして、おかしな方向に走っていたのだな……!

しかし、大天使として目覚めたのだ!素晴らしい!


真面目が過ぎるルシアンなら、そうなるか。

そう思うと自然に笑みがこぼれる。


「お代わり!」

――大天使の午後は、今日も穏やかにズレていた。





その頃――。

異世界の空気を遮断するかのように、バイオハザード用防護服を着込んだロクシー。


そのヘルメット越しに――タブレットからイレイナの大声が炸裂した。


「成功よ!

大・成・功!

長者の心は掴んだわ〜!!

あとは企画書を渡す完璧なタイミング♪」


――そう、ロクシーは「アンジュちゃんを安心させたいから」と言って、ルシアンの仏像造りが最も美しく映える場所へ連れて行き、その姿を動画に収め、メッセージ付きでガブリエルへ送信していた。


その間に、ルチアーノはふんどしからいつものスーツに着替え、ロクシーの台本を頭に叩き込み、長者のもとへ腹心の部下『富松』として向かった。


そして――長者に厳かに告げた。


「長者さま。

なんと……清弥に昨日の修行の成果が出ました!

仏の御姿を彫っていた時、眩い閃光が天より走り、清弥の小屋を直撃したのです……!」


長者は「なんと……!」と息を呑み、御簾を上げさせた。

そしてルチアーノを直視して問う。


「富松よ……お前は、その光を見たのか?」


「はい、長者さま!夜明け前、閃光をこの目で見ました。

駆けつけると――清弥の小屋は燃えてもおらず、光輝いていたのです!」


長者は扇で顔を覆い、震える声を漏らす。


「あなや……!何たること!

では清弥を打たずした私の判断は、御仏のお導き……!

富松よ、良くやった!褒美を取らそう!」


だが、ルチアーノは神妙に首を横に振った。


「ありがたきお言葉……!

しかし、褒美をお渡し下さるなら、織り女のイレイナに!」


「……イレイナ? なぜじゃ?」


「イレイナは娘のしたことを後悔し、

あの日から一日も欠かさず、この邸の奥の奥――

鎮守の森で祈っていたのでございます。

清弥の"匠の心"の蘇りを……!!」


長者の目から、感動の涙がこぼれた。


「おお……! イレイナは織り女として天賦の才を持ちながら、

慈悲の心をも備えておるというのか……!!

吉兆じゃ……!

これは姫のための御仏と厨子が完成するという前触れ!

――では富松よ。イレイナに望みの品を聞いて参れ」


ルチアーノは「ははっ……!」と頭を下げ、静かに長者の前から退いた。


そして――ダッシュでイレイナの屋敷と化した離れへ戻って来ていたのだ。


すべてを水晶玉で見ていたイレイナは、ご満悦の表情を浮かべる。


「これで長者の心は掴んだわ……!

異世界の脚本も、私の掌の上!

……ってロクシー、聞いてるの!?」


ロクシーが面倒くさそうに、タブレットに振り向いた。


「その脚本書いたの、私だし!

短時間でルチアーノの芝居をしごいたのも私!

見て分からない!?

今、ルチアーノに香水を作らせてるの!

アンジュちゃんに刺さる香りの!!」


「……ハイハイ、ご苦労さま!

じゃあ私は最終稿を書くわ!」


「どーぞ。勝手に何枚でも書けば?」


そう言ってロクシーは、タブレットの通信を容赦なく切った。


そして、防護服の中で小さくため息をつく。


「異世界っていうより……現場、修羅場って感じなんだけど……」





どうするべきか――。


この異世界に“悟り”を示すために、あと一歩。

だが、その“一歩”が果てしなく遠い。


ルシアンはノミを手に、滝に打たれながら考え込んでいた。


その滝、ブラジルとアルゼンチンにまたがるイグアス滝の如し。

落差八十メートル、滝壺四キロ、悪魔の喉笛と同じく轟音を放ち――

もはやWi-Fiの電波すら届かぬ領域。


ルシアンは滝壺に叩き落とされそうなギリギリの場所で、

身を震わせながらも聖なる祈りを捧げていた。


頭に浮かぶのは、小屋にある“清弥”の仏像。

仕上がりは完璧。これ以上のものなど無い。

“清弥”本人ですら、これを長者と姫に献上するだろう。


――だが、何かが足りない。


何を足せば、“清弥”の仏像は真に完成するのか?


清弥ならば、仏像すら“呪う”だろう。

だがロクシーに「普通ではない行為は全面禁止」と厳命された。

ならば滝しかない。誰が止められようか。


祈り続けること、五時間余り――。


そして、ルシアンは滝に打たれながらカッと目を見開いた。


「神よ……!私に素晴らしい啓示をありがとうございます!!」


叫ぶや否や、翼を広げる。

そのまま何の迷いもなく――

悟りの象徴たるどんぐりの木へと飛翔していった。




ロクシーはイレイナに魔術で再生してもらった、

『生クリームシナモンかけチョコフラペチーノ』を飲みながら、バスタブに浸かっていた。


今日一日で三人分の頭脳を使った気がする。

脚本家、監督、演技指導――ついでに悪魔の保護者。

だから、これくらいのご褒美は許される。誰にも文句は言わせない。


湯気の向こうで、ロクシーの肩がとろける。

泡の山の上にフラペチーノを浮かべながら、満ち足りた声でため息を漏らした。


「はぁ〜〜……この瞬間のために生きてる……」


そこへ突然――


「だからッ!ロクシーは入浴中なの!!」


屋敷中に響くイレイナの怒鳴り声。


まただ。

風呂に入るたび、誰かが世界の終わりみたいな声で呼び出してくる。

ロクシーは素早くイヤホンをつけ、お気に入りの曲とバブルバスに逃げ込んだ。


「どーせ……ルチアーノが明日の脚本がどーのこーの言いに来てるに決まってる……」


泡をすくいながら、ロクシーは小さく呟く。


「でもあと10分ぐらい待たせても……」


シャッ――。

唐突にシャワーカーテンが開け放たれた。


「な、何すんのよ!?」


ロクシーが悲鳴を上げると、イレイナが息を荒げて叫んだ。


「……始まったわ……!」


「は? 何がよ……?」


「ルシアンが今度は――どんぐりの木を切ってる……!!」





……数十分後。

チョコレートフラペチーノを握りしめたまま、しぶしぶ風呂から上がる。


それから三十分後――

ロクシーとルチアーノは森の奥へと駆けつけていた。


木漏れ日の中、ルシアンはすでにどんぐりの木の幹をノミで裂き、樹液を集めている。


その姿はまるで修行僧と狂信者の融合体。


しかも、足元には大量のどんぐりが、神々しい供物のように整然と並べられていた。


ロクシーが呆然と立ち尽くす。


「……ねえルチアーノ、これ何の儀式?」


ルチアーノは眉間に皺を寄せ、唇を震わせた。


「……何してるんだ!?ルシアン!?」


滝のしぶきと同化するほど無心な顔で、ルシアンが答える。


「仏像に足りないものを私は悟った……!それは“呪い”だ。

だが、それは"普通ではない行為"!

だから私は、大天使として――神に捧げる没薬を、仏像に捧げようとしている!」


「……没薬!?

いや、それってエチオピアとかソマリアの木じゃないのか!?

スパイシーな香りがするはずだろ!?

どんぐりで良いのかよ!?」


ルチアーノの正論が森に響くが、ルシアンは神々しく微笑んだ。


「……いや、きっと香りはせぬ。

だが――カブトムシの大好物ならば、神の使いにも通じるはず……!」


「スパイシーとかどうでも良い!!」


ロクシーが絶叫する。


「早くルシアンを止めて!!

またルシアンのおかしな行動がアンジュちゃんの耳に入ったら、私でもフォローできないんだから!!

どんぐりの木を裂くなーーー!!」





その様子を、水晶玉の中からイレイナが見守っていた。


唇を噛み締め、肩を震わせる。


「ダメ……笑っちゃ……ダメよ……!

今笑ったら……この作戦、全部パー……!!」


だが次の瞬間、ルシアンが“どんぐり没薬”を天に掲げて祈りのポーズを取ると――

森中のカブトムシが一斉に飛び立ち、黄金の羽音が轟いた。


イレイナは机に突っ伏して爆笑した。


「もう無理ぃぃぃ!!」


――そしてこの異世界には、今日も神々しいほどのカオスが満ちていた。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

明日も17時更新です☆


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