【10】ズッ友、純白のふんどしで悟る――耳男、奇跡の再生!
その頃、
ルシアンはエクソシストに挑む神父の如く、無心にノミをふるっていた。
あの後、森から小屋に戻ると、長者の護衛達に小屋を囲まれ、「3秒以内に出てこなくば火を放つ!」と言われた。
ルシアンは静かに扉を開け、外に出た。
例えどんな仕打ちを受けようとも……。
耳男として燃やされることすら神の試練!
“耳男”ならば受け入れる! 私は耳男としてこの異世界で神の新たなる儀式に挑むのだ……!
その一心で。
だが、ルシアンの小屋の中を覗いた護衛達は「ギャーーー!!」「ぎょえええ!」「オーマイガッ!」と悲鳴を上げて、呆気なく去ってしまった。
そう。
無数の蛇の皮が風鈴のように揺れ、ザラザラと音を立てていた光景に、度肝を抜かれたのだ。
ルシアンは何をそんなに驚くのか分からなかったが、耳男としての誇りに満ちていた。
きっと…あの悲鳴は感動の叫び…! 心が震えた証!
私が作りかけた仏像に感銘を受けたのだ…!
私は耳男として、完璧に近くなって来ている…!
――いや、護衛達は感銘どころかトラウマになっていたのだが。
「神よ…! あなたの尊きご意思、この大天使ルシアン、必ずやり遂げて見せます!」
ルシアンはそうして祈りの姿勢を取ると、柄on柄のスーツが暗闇に溶けるまで――四時間近く、まばたきすらせず――神に祈りを捧げていたのだった。
一方、ガブリエルは長者の敷地の奥深くにある雅な建物の中で、炎に手をかざさせられていた。
何か…仏教を唱えている者どもがいて、何やら木を焚べているが……
炎は天井まで舞い上がり、ドラム缶のような太鼓が鳴り響く…!
私は大天使…!!
意味が全く分からん!
それも、これも!!
ガブリエルがピンクの唇をキッと噛む。
あのルシアンのせい!!
あいつは本当に何がしたいの!?
あいつの自分焼きバーベキューの行為の後、せっかくの楽しいお散歩は地獄と化した……
侍女の殆どは倒れ…私は勇敢なる一部の侍女に着物を頭から被せられ……
陸に上がった魚のように身動きも取れず、この建物に連れて来られ、
護摩祈祷なるともが始まった……
そして護衛達は二度と戻らなかった――
いつまで!? この炎に手を向けてれば良いのだ!?
手がこんがりチキンになってしまう…!!
帝も三度ひっくり返るお菓子を食べるはずが、出されたのは水一杯!
………ん?
ハッ…!!
つ・ま・り!
これぞ“夜長姫”としての新たなる試練!?
試練、キターーー!!
私は夜長姫として、この炎すら抱擁しよう…!!
神よ…! ご覧ですか!?
私は今、あなたの聖なる儀式に正面から立ち向かっています! そう! 大天使ガブリエルとして!!
ガブリエルは炎に向かって聖なる祈りを捧げる。
こんがりチキンの味を想像しながら。
翌朝、コンコンというノックの音。
ルチアーノは、転生した長者の第一の部下『アナマロ』の部屋を改造したダブルベッドの上から、「は〜い」と答えた。
昨日の爆走を思い出すと、魂が布団に沈むようで……起きる気にもなれない……。
すると、「私、ロクシー! ルチアーノ、入って良い?」と明るい声がした。
ルチアーノがガハッとベッドから起き上がり、扉を開ける。
そこには笑顔のロクシーが立っていて、「朝ごはん一緒に食べない?」と言いながら、カフェの紙袋をちょっと上げて見せた。
リビングのテーブルにさっさと座るロクシー。
そのテーブルには、ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』が忠実に彫られている。
………。
ロクシーは見ないふりをして、心の中で即罵倒する。
………センス以前の問題! こんなテーブルがリビングにあって、くつろげるか!
そんな思いを飲み込み、ロクシーは食事を始めた。
だが、ロクシーが食事を終えても、ルチアーノはロクシーが持って来た食事に手を付けようとせずにいる。
「ルチアーノ、食べれば? 何してんの?」とロクシーが問うと、突然、号泣オペラの幕が開いたかのように叫んだ。
「……俺様ッ! 感動しております!
ロクシー先生がまさか……この不祥俺様に朝食をわざわざ……!!」
ロクシーがやさしく微笑む。
「……ルチアーノ、私、脚本を読み返してて気付いたんだよね。
あんたは芸術家!
だから、リアルな恋愛をリリカルな感性で包み過ぎちゃう!
だから、これからは完全な共同製作しない?
私がリアルな女子の気持ちを教えてあげる!」
「……ロ、ロクシー先生…!!」
ルチアーノの顔が、トイレで輝くLED電球100ワットのように、無駄に輝く。
「だから、約束して?
昨日の板みたいなことをする時は、私には隠さない。
必ず相談してくれるかな?」
「ハイッ! ロクシー先生!」
「それとね……あんたのリリカルな感性が一番発揮されるのは――香水。
あんたのリリカルな感性を、“瓶に閉じ込める”の!」
「……ロクシー先生……!! 俺様をそこまで理解して下さる……!! 天才ですね!!」
「いいのよ。私達は今日から初恋成就作戦のチーム!
私がリーダー、あんたは参謀!
まず、これを用意して!」
そこには――
香水作成器具一式。
バイオハザード用防護服、三着。(ロクシーサイズ)
酸素ボンベ、一ダース。
ペンライト二本。
……そして、ルチアーノは息を整えて、最後の一行を見つめた。
純白のふんどし一丁。
その二時間後――
ルシアンが仏像造りに勤しんでいると、ルチアーノの「ルシアン〜! ルシアン〜!」という叫び声が耳に届いた。
ルシアンは一瞬で状況を把握する。
ルチアーノは、ルシアンが水を被り続けていた川で、ルシアン同様、水を被り続けている。
いつもの黒スーツ姿ではなく、純白のふんどし一丁で。 朝日を反射して神々しく輝く純白のふんどしが、水面にオーラを放っていた。
だが、それは“耳男”には無縁の光景。
そうルシアンは切り捨て、再び仏像造りを開始する。
だが、ルチアーノの叫びが百回を越え、「ルシアーーーン!! ズッ友が溺れてる気持ち、届いていますかーーー!?」になったところで、ルシアンは川のほとりに大天使の恩寵を使い、瞬間移動した。
「……ルチアーノ、静かにしてくれ」
そう無表情で言うルシアンに、ルチアーノがパッと笑顔になる。
そして叫んだ。
「お……俺様達はズッ友……!! ズッ友として、同じ苦難を分かち合う……! 俺様はやり切るーーー!」
「何を?」
そうルシアンが冷静に疑問を口にすると、スッと隣にロクシーが立ち、厳かに言った。
「……ルシアン。 大天使として分からない? あれは慈愛の心……! 苦難をズッ友と分かち合いたいという、ルチアーノの尊い意志、その行動! 正に聖なる犠牲よ!」
ルシアンがガクッとその場に崩れ落ちる。
「……おお! 私としたことが……! 地獄の王、悪魔のルチアーノすら聖なる犠牲を払っていることに気づかぬとは……! 正に大天使として失格……! 神に許しを請わねば……!」
すると、ロクシーがそっとルシアンの柄on柄のスーツの肩に手を置いた。
「でも、ルシアンは今は耳男としての使命を果たす時だよね? 一秒も無駄に出来ない。 だから、私がルチアーノの気持ちを伝えるわ……。 ルチアーノはね、あんたが耳男として、この異世界で成功して欲しい、その一心で水浴びという修行をしている。 つまり……耳を復活させて!」
「……耳? 耳をなぜ? 私が切り落とされたのは耳の外側……。 聴力に問題は無い……!」
だが、そう言うルシアンの声は微かに震えていた。
「ルシアン……。 夜長姫に転生したアンジュちゃんは、きっと“耳男”の仏像と厨子を待ってるよ……。 でも、耳男という人間に転生したルシアンの両耳が無い姿に、きっと胸を痛めてる……! 女の子って、例え何か無理な男でも、大怪我をした男には胸を痛めるものなの……! ルシアンはアンジュちゃんが心を痛めても良いの?」
ルシアンがパッと立ち上がり、ロクシーを正面から見据える。
その顔には覚悟が満ちていた。
「私はアンジュ様に1ピコメートルの傷もつけたくは無い!」
それは神すら沈黙する、聖なる宣誓。 そしてルシアンの言葉と共に周囲は眩い光で包まれ、図らずも大天使の翼が出現し、荘厳な恩寵で神々しく光り輝く。
そして、瞬時に“耳男”として完璧な両耳が再生された。
ロクシーが感動に溢れた瞳でルシアンを見つめながら、片手でペンライトをオンにし、素早く切り替え、レッドを輝かす。
それを見て、ルチアーノは棒のようになった腕を下げ、桶を川へと放つ。
ペンラのレッド――それはロクシーからの「耳男の耳、再生完了」の合図。
疲れ切っていた。
身体は冷え切っていた。
だが、『ネオ☆恋愛成就作戦』第1弾が完了した喜びで、ルチアーノの胸ははち切れそうだった。
――そして、ズッ友の朝は、今日も異世界で静かに燃えていた
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