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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白い結婚は全てを奪う

作者: 辻 ミモザ

レギウム王国は平和で豊かだった、だから若き王ダレスは結婚の最初の夜に、17歳の花嫁に対してこう言っても、自分にもこの国にも悪しき事が起きるなど考えもしなかった。


「俺はお前を愛することはできない、俺には真実の愛を捧げた人がいるのだ、だが彼女の身分は低く今は皆の賛同が得られない、取り敢えずお前と結婚して3年たち子が出来なければ離婚できる、その後なら身分が低くても彼女と結婚できるのだ。」

自分にだけ都合のいい話、花嫁に何の思いやりも遠慮もない話、こんな要求を花嫁は同意するのか。花嫁ソフィアは水色の大きな目に涙をあふれさせ、ベッドの上で白いレースの夜着の肩を震わせて、そしてか細い声で「わかりました」と同意した。

ソフィアに選択肢は無かったのだ、彼女の生国は小さく貧しくレギウム王国の経済的軍事的援助が無ければ立ちいかない国なのだ、あるのは神話の神の末裔という歴史だけだった。

「お願いがあります、私は貴方と婚約した3歳の時からずっとこのレギウム王国の王妃になる為に生きてまいりました、ですから離婚までの3年間は王妃としての仕事をさせていただけますか」

ダレス王には好都合な話だ、怒ったりすねたりと反抗されたら、病気ということにして幽閉しようかと考えていたのだ

「いいだろう、3年間は王妃として立派に勤めを励んでくれ」

そう言うと、ダレスは愛するジョアンナの元へと寝室から出ていった。

翌朝のソフィア王妃は目は少し腫れているがにこやかな顔で起きてきた。夫のいない朝食も気にする事なく給仕をするメイドに話しかけ、レギウム王国の食べ物は美味しい、料理長にも伝えてくれと言い楽しそうに一日を始めた。

ソフィアは良く王国の事を勉強していて、地名、歴史、貴族の事も良く知っていた。メイド達とおしゃべりをして、彼女達の事、王宮で働く下級の使用人の事もすぐに覚えて、彼らに優しく話しかけた。

王妃の仕事は何か、それは広く国民に接し王家の存在を身近に感じてもらう事だ、ソフィアはそう考え行動した。

農村に行き農民と会い、工房に行き職人と会い、街中のマーケットで商人達と話した。

国境の砦の兵士達を慰問もした。

余計な事をする、ダレス王はそう思っていた。

彼は22歳の若き王だ、金髪に深い碧の瞳、身体は鍛えられ大柄で、頭脳も明晰、隣国との小競り合いでも自ら赴く戦上手、父王が突然の病で亡くなり、その前年に母も無くしていたので今は自分の思いのままに行動できた。

本当はソフィアとは婚約破棄したかったのだが、先王の遺言だと家臣たちの猛反対にあい断念した。

しかし白い結婚により自分の意思を通しジョアンナと幸せな結婚をするつもりだった。

ソフィアはダレスの冷たい視線は承知しながらも、自分の理想の王妃として日々過ごした。政務にはかかわれさせてもらえなかったが、外国の要人と会う事は止められなかった。

何か国語も流暢に話し、各国の事情も良く知っていたし、嫁いだばかりなのにレギウム王国の事もよく知るソフィア王妃を、要人たちは褒めた。

それが気に入らないのか、愛想のない表情のダレス王を、人目のないところで

「そんな顔をしてはいけませんわ、3年で別れるからこそ仲のいい夫婦に見てもらう方がよろしいのに」ソフィアの忠告に

「そんな事を言ってこの国に居座ろうとしても無駄だ、私にはジョアンナしかいないのだから」

にらみつけながら言われてしまった。

ソフィアは3年でこの国を去るのは承知している、その間にこの国の為に動きたいと思っているのに、ダレスには通じなかった。


レギウム王国は若い国だった、この地方に割拠する豪族たちをまとめ上げて建国しダレスが5代目だ。

3代目ダレスの祖父は優れた王だった。農業に新しいやり方を取り入れ収穫を増やし、世襲中心のギルドのやり方を改善させて、新しい人材に新しい技術で、見事なガラス製品や陶磁器を作り出した。

農作物、ガラス製品、陶磁器は王国の輸出品となり莫大な富をもたらした。

改革王と呼ばれた祖父にダレスは憧れていた。だから改革の方針から転換し、高位貴族を優遇したり、歴史しかない国の姫と婚約させる、父王のやり方に反対だった。


この大陸には30の大小の国があり、宗教や縁戚で複雑に結びついている。ソフィアの出身、神聖ロマノス皇国は最も古い国家で、大陸の多くの国々が信仰するラーマ教の本山があり、領土は狭く軍事力もない国だが、婚姻により複数の国と関係が深い。父はそこに近づくのをメリットと考えたのだろうが、ダレスにすれば過去の遺物にしがみつく愚かな行為と思っていた。


「チェルシー公爵令嬢とカスター侯爵令嬢が行儀見習いとして王宮に来たいと申し込まれたのですが、よろしいでしょうか。」

高位貴族の令嬢達が、ソフィア王妃のマナーや教養を学びたいと、話が出ているのはダレスも聞いていた、面白くはないが止めるわけにもいかない。

「勝手にやればよい」冷たく言うと、ソフィアはおずおずと、

「ジョアンナ嬢にも教えてあげたいと思うのですが、あの方はいずれ王妃となられるのですから、学ばれてはと思いまして」

ダレスは椅子から乱暴に立ち上がると

「余計な事をするな、あの素晴らしいジョアンナに、お前の様な張り付いた笑顔や、持って回った言い回しはいらない、彼女の愛らしさがお前にわかるか」

ソフィアはジョアンナが男爵令嬢で、高位貴族のマナーをあまり知らない事や、他国との付き合い方を知らないのは王妃として困るだろうと思ったのだ。

ソフィアの様に幼い時から王妃となる教育を受けるのと、伸び伸びと男爵令嬢で過ごすのでは土台がかなり違うのだ、3年しかないが少しでも教えればと思ったが無理のようだ。



こうして3年の月日が流れ、子が出来ないのを理由に離縁となり、ソフィアがレギウム王国を去る日がきた。

王宮に勤める人々は優しい主人に涙した。家臣、貴族も気を使ってくれ、周囲の調和を考えてくれた王妃が去るのを残念に思っていた。王宮で親しく指導を受けていた令嬢達はハンカチを握りしめて王妃を見送った。沿道の庶民たちはもっと単純だ、泣きながら手を振り、頭を下げ、うずくまる者もいた。

ソフィアは自分の為に作られた、水色のガラス細工の首飾りをし、自分の為に描いてもらった、彼女の髪色の銀のリボンと水色の小花がちりばめられたティーセットを記念に持ち、レギウム王国を去って行った。

3年かけて、国中を周り、人々に声をかけた王妃を国中の人が惜しんだ。

ダレス王以外

ダレスはこの国民感情を簡単に見ていた。美しいジョアンナが登場すれば、皆一斉にソフィアの事など忘れると。


すぐに再婚はやはりまずいかと考えていた時、驚くべき知らせが届いた。

ソフィアの再婚だ。相手はウォール帝国の皇帝カール8世だった。




ソフィアは帰国の報告を父にした時に、再婚の話を聞いた。

離縁の話が届くと同時に申し込まれたので、恐らく前から考えられていたようだ。

白い結婚は他国は知らないはずなので、子をなせなかった女を、初婚の皇帝が望むのが腑に落ちないが、強国レギウム王国の後ろ盾を失った神聖ロマノス皇国にとって歓迎する縁談だった。


ソフィアはカールを知っていた。ラーマ教の3年に1度行われる夏至の女神祭で、皇太子時代のカールに会っていた。3歳年上で、黒い髪、深い紫の瞳、背が高く笑顔をほとんど見せない近寄りがたい少年だったが、ソフィアには優しい気遣いしてくれた。彼に嫁ぐのは嬉しさもあったが、なぜという気持ちがぬぐえなかった。


「私でよろしかったのですか」

結婚の最初の夜に、ソフィアはおずおずとカールに尋ねた。輿入れはあわただしかったので、カールとゆっくりと話たのはこれが初めてだ

「君しかいなかった、夏至の女神祭で君に会い素晴らしい妃になると思っていたよ。でも君はすでに婚約していた。ダレスは君の事も皇国の事も尊重していなかったのが残念に思っていたよ。しかし、君が嫁いでから、頻繁に地方に出かけているのを知って、もしや白い結婚なのかと疑ったんだ。あいつは愚かな男だ、君の価値が全くわかっていない」

カールはソフィアを引き寄せた

「君を待ったんだ、そして手に入れた。共に、一緒に生きて行こう」

抱きしめてくれるカールを、ソフィアも抱きしめた。

離縁されて、戻れば修道院に入るか、宮殿の片隅でひっそりと暮らすのかと悲観していたのに、こんなに身も心も満たされる事になるとは思わなかった。


帝国内では最初は出戻りの妃と不満も多かった。けれども、ソフィアの后妃としての活動が、出会った人々の称賛に変わった。地方に出かけるのは出来なかったが、皇都のギルドや商店に顔を出し、民衆と交わり、宮殿で外交使節をもてなし、貴族達と交流した。

そして間もなく懐妊がわかり、国中から祝福を受けながら男皇子を出産した。

母子共に健康だったので、ソフィアは活動を広げた。ウォール帝国はこの大陸一番の広さがある、少しずつ距離を伸ばしながらソフィア后妃は地方に出かけた。

そんなある小麦畑に訪れた時に

「ここではクローバーを植えないのかしら」と言って、レギウム王国との違いに気づいた

「昔からのやり方を変えようとしないのですよ」

案内役のこの地の領主が渋い表情で言う、どうやら新しい農法に領民が従わないらしい

「まあ、もったいないわ、収穫量だってとても増えるのよ、私が説明してあげるわ」

后妃は、休耕地にクローバーを植えると、収穫量が増えるとレギウム王国でやっていた事を話した。難しい顔も面白そうに聞く顔もある

「後で種を配ります、やってみたい人は蒔いてね」

ソフィア后妃は最も古い国の姫だ、しかし彼女が新しい事に前向きな事に、歴史を重んじる帝国の人々に新しい事に挑む勇気を与えていった。

ソフィア后妃が時折付けている、レギウム王国の水色のガラス細工の首飾りを見て、ガラスギルドが新商品を作り、后妃のお茶会に使われたレギウム王国のティーセットが話題になり、もっと細かい絵柄をもっと白い陶器をと競い合う様になった。

そうして帝国の経済力は増しいていった。


家族も増えた、男皇子が続いて授かり、その後に可愛い女皇子も生まれた。

ソフィア后妃は仕事と子育てをバランス良くこなしたので、政務も外交も地方への行幸も精力的にできた。


ソフィアが帝国に嫁いで10年たった頃にレギウム王国から以外な人物がソフィアを頼ってやってきた。ガラス職人のハンスという男だった。家族と共に国境の深い森を抜けて、ウォール帝国の国境検問所でガラス細工の首飾りを見せて、后妃への執り成しを頼んだらしい。

ハンスはあの水色のガラス細工の首飾りを作った若い腕のいい職人だった。




ソフィアが帝国に嫁ぐ事を知ってすぐに、ダレス王はジョアンナと結婚した。

最初の結婚式よりもより豪華な式にし、各国から要人を沢山招いた。

豪華な衣装を纏った美貌のジョアンナは皆に称賛されたが、

「所作はまだまだですな、やはり男爵令嬢では」

「外国語はどれもできないのですか、前の王妃とはちがいますな」

影でそんな言葉が囁かれた。

実はジョアンナは、ソフィアが誘ってくれたマナーや教養を教わりたいとダレスに頼んだが

「君はありのままが素晴らしいんだ、あんなもの必要ない」と拒まれたのだ。

ジョアンナは元々素直な優しい娘だった。ダレスの愛は嬉しく、彼の為ならどんな事でもしたかった。王妃などになりたいとは思ってなく、ソフィアが王妃なら自分は愛妾としてダレスを支えたいと思っていたのだ。

でもそんな話をすると、ダレスは余計にソフィアを否定しジョアンナこそが自分の妃だと言うのだった。


王宮での評判があまり良くないので挽回しようと、ソフィアがやっていたように地方や庶民と交流する事にした。

これは好評で美しいが気さくなジョアンナは人気があった。

しかし、貴族よりも庶民の人気を広げようとした無理な地方旅行が、懐妊していたジョアンナの身体に負担をかけて流産してしまったのだ。


悲嘆にくれる王妃を慰めている時に、ウォール帝国の世継ぎの誕生の知らせを聞いた。

ダレスはどす黒い気持ちが自分の中に広がっていくのがわかった。


「なんだと序列が最下位だと」

夏至の女神祭に出席し帰国した叔父から、屈辱的な我が国への仕打ちに憤った。

大陸の多くの国が信仰するラーマ教の祭典には、各国の王族が集まる。ダレスも王太子の時には、何度か出席した。

神聖ロマノス皇国の姫の婚約者、皇国の庇護国でもあったので序列は1位だった。それが弱小な国よりも下の最下位にされたとは

「離婚により縁が切れたとはいえ、10年以上あの国を支えてきたのは我が国ですのに、ウォール帝国が庇護してくれるからと増長しております」

「なぜ席をけって帰国しなかったのですか」

ダレスは叔父の弱腰に我慢ならぬと声を荒げると

「流石にそこまですると、国際問題になりますからな、夏至の女神祭は大陸のほとんどの国が集まりますから、外交の場としては重要ですから」気弱な叔父の言葉に思わず舌打ちをした。


ダレスは夏至の女神祭にカールが皇太子の時に会っていた。ソフィアに対する冷たい態度にカールが抗議した事を思い出した。あの時からソフィアに惚れていたのか、だったら、白い結婚などにはせず、子の出来ない身体にするまで弄べば良かったのに、そう考えると過去の自分がまだ甘かったと後悔するのだった。


外交は強い国が弱い国を言いなりすること、序列を下にした事を思い知らせてやると、ダレスは強気の外交の為には国力をもっと上げなければと考えた。

農業の生産性をより高める為に、新しいやり方を次々に取り入れた。しかし、実験段階も踏まえず大規模にやり方を変えたため失敗する事もあり、かえって収穫が減った。

ガラス細工、陶磁器の生産も勧められたが、ウォール帝国の製品の質が良くなり、今まで通りに他国の売るのが難しくなってきた。

帝国が技術を盗んだのではないか、ダレス王はそう考えた。

そうして職人達を隔離しようとした。河の中州にガラス職人と陶磁器職人の家族を住まわせ出入りをできなくする。

そんな噂を知り、ハンスは家族と共にウォール帝国に逃げてきたのだ。ソフィアに首飾りを献上した事で、王から疑いの目を付けられていると、恐怖を感じたのだ。ハンスの後を追う様に、職人達の帝国への出奔が続いた。ソフィア様なら助けてくれると皆思ったのだ。

隔離政策は早まり、締め付けはきつくなり、製品へのプレッシャーは強まり、職人達の意欲はそがれていった。


そんな中、大陸を干ばつが襲った。


どの国も多少の差はあれ凶作だった。レギウム王国は凶作の上備蓄が少なかった。

強国に見せる為に無理をして作物の輸出をしていたからだ。今まで輸出国だったので輸入のルートを持っていない、商人に買い付けに行かせても他国への販売は規制され、高値であっても購入できない。外交交渉で食料を得ようにも、王族の婚姻関係も少なくルートがない。夏至の女神祭に不参加を決め、妹王女を国内の貴族に嫁がせたのが裏目にでた。

食料不足は民衆にも伝わりだし、買い占め、高騰、商店の打ちこわしと、騒然とした民衆を抑える為に、軍を派遣し、食料を配給制にする。農家に隠した小麦がないかと軍を動かす。自分達の分どころか来季の種籾まで奪おうとされ農民は混乱して、農地を捨てて逃げ出した。どこへ逃げると考えた農民はソフィア様の所へ、あの方ならば救ってくれるとウォール帝国へ向かった。


「ふん、かえって好都合だ、ウォール帝国との国境を開けてやれ、食い扶持が減ってくれればこっちもありがたい」

ダレス王の指示に家臣たちは反対した

「難民を送るなどしたらウォール帝国とは決裂してしまいます。他国からも非難されます、もう少し穏便な政策をなされないと我が国は孤立してしまいます」

「この凶作の中でどの国も軍事行動はできまい、収穫が戻れば国力も戻る我が国に、攻め込むなどできはすまい」

ダレスはあくまでも強気だった、その姿を家臣たちは先々代の改革王と同じだと思ったが

「あの時は強気が全て上手くいったが、今は逆だ」と呟いた。


ウォール帝国に入ってきた難民の前にソフィア后妃が現れた、事態を収める為に国境近くまでやってきたのだ

「レギウム王国の民達よ、苦難の旅であったでしょう、ここで休む事ができます。ウォール帝国は決してあなた方を追い出したりはしません、落ち着いて私の指示に従ってくださいね」

ソフィアの姿を見てレギウム王国の人々は安心したようで、混乱は起きなかった。


皇帝カールは動いた。

諸国にレギウム王国の非を訴え、行動の了解を得、兵を集め軍を自ら率いてレギウム王国へ向けて出発した。

帝国は今回の干ばつでも被害は少なかった。水の少ない所にため池を作り、小麦以外にトウモロコシや豆類イモ類など、多様な作物を作っていたので、干ばつの影響をもろに受けなかったのだ。

これは、地方に行ったソフィアの助言があったからだ。


帝国軍は何の抵抗もなく順調に王都への道を進んだ。

5万の大軍に近づかれては動ける兵はいない、しかも王宮からはどう動くかの命令も届かない、その上カールの横にはソフィアの姿もあった。

兵はなにもできない、民衆はソフィアの姿を見て侵略よりも救済だと歓迎している。その情報に王宮はパニック状態になっていた

「降伏すべきです、他に手はない」

「籠城すればどうでしょう、帝国軍も兵糧が十分なければ撤退するでしょう」

「王都で籠城など恥でしかない」

「陛下が退位されて叔父君に王位を譲られては」

家臣の口々の発言にダレスは激高して

「私がこの場の全ての近衛を率いてカールの首を取ってやる」

そう叫んだとき、扉が開き王妃ジョアンナが入ってきた。彼女は皆を見回すと笑顔で

「みな少し落ち着きましょう、陛下、どうぞ私とお茶でもいかがですか、気分を変えれば良き案もでるでしょう」


ジョアンナは結局子を産めなかった、流産を何度か繰り返し身体も弱っていった。けれどもその美しさは変わらなかった。ダレスも冷静にならなければとジョアンナの部屋に入った。


「お茶を入れるのも上手になったでしょう」

ジョアンナはメイドをさがらせ、二人きりでお茶を入れた。

香りがダレスのいらだちを沈めていった

「最初から君の入れたお茶は私にはおいしかったよ」

「貴方はいつも私には優しかったわね」

ジョアンナは笑顔でダレスを見てカップを差し出した。その手が少し震えるのにダレスは気づいた。彼女のドレスはダレスが一番好んだレースの飾りの多い、お茶を飲む時には合わない豪奢な物だった。

彼はカップをとると、それに口を付ける事なくテーブルに置き、立ち上がり

「私が最後に出来る事は、お前を苦しませずに送る事だ」

ダレスの腰の剣が線を描きジョアンナの笑顔の首がポトリと落ちた。そしてもう一つの首も落ちた。


「自らの首を刎ねる胆力があるなら、屈辱を凌いで国を立て直す事もできるだろうに、いつまでも愚かな男だったな」

カールは報告を聞いてからソフィアにこう言った。

レギウム王国はウォール帝国の属国になり、しばらくはソフィアが執政する事になった。

レギウム王国の人々からの要望だったのだ。

玉座に座り廷臣の挨拶を受けながら、10年前とあまり変わらない顔を見た。

家臣、貴族、荒廃したが豊かになる土地、技術のある職人、勤勉な国民、みな奪ってしまった、彼の命も彼の愛する人の命も、

「復讐する気持ちなんてなかったのに」ソフィアは小さく呟いた。

                                 終わり


















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