第9話 春の放課後
「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。
声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!
そしてなんと! 第一話と第二話を井上さんに朗読していただきました。
朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!
https://x.gd/9kgir
更新情報はXで!「@dinagiga」
放課後の教室には、春のやわらかな光が満ちていた。
窓ガラス越しに射し込むやわらかな陽ざしは淡い金色の模様となり、窓際の席に座る雫の髪に降り注ぐ。
これってまるで髪飾りみたい。
雫がぼんやりとそう感じていると、開け放たれた窓から吹奏楽部の練習の音色が、風に乗って微かに届いた。
うちの吹奏楽部って、関東でも有数の強豪だって、凛ちゃんが言ってたっけ。
そんなことを思いながら教室内に目を向けると、雫の前に三人の女生徒が座っていた。
都立武蔵原高等学校一年B組、雫と凛のクラスだ。そして後の二人は、つい昨日知り合ったばかりの桜田結芽と伊勢麗華である。放送部と演劇部での騒動の翌日、こうして四人は集まっていた。
「いいお天気ですわね」
そう言って麗華が、目を細めて窓越しに空を仰ぎ見る。
どこまでも高く澄んだ青空が広がり、雫はその広さに胸がふわりと軽くなる気がした。
誰かの笑い声がまた遠くで弾け、校庭の隅で跳ねるボールの音が、のどかな放課後をさらに彩っている。
だが、そんなのんびりとした気分を、凛の元気な声が打ち破った。
「これから会議を始めます! 一同、起立!」
その声につられ、一斉に立ち上がる女子四人。
「結芽、麗華、わざわざ私たちの教室に来てくれてありがとう!」
凛が、拝むように両手を合わせて二人を見た。
麗華がニッコリと微笑む。
「いえいえ、お隣の教室ですから、大した手間ではありませんわ」
「うん、キクラゲもそう言ってる」
結芽は相変わらず、胸ポケットのトカゲの頭をナデナデしていた。
再び凛が大声を上げる。
「礼!」
なぜなのかは理解しないまま、雫、結芽、麗華は言われるままにお辞儀をした。
「着席!」
「凛ちゃん!」
「なに?」
雫が凛に抗議の声を上げた。
「今の動き、必要!?」
「もちろんだよ! 何事もカタチから入るのがいいって、誰かも言ってたよ!」
「誰かって、誰?」
「えーと……誰だっけ?」
凛に目を向けられた結芽が、ゆっくりとうなづく。
「キクラゲ」
雫が首をかしげる。
「キクラゲちゃんがそう言ったの?」
「うん」
結芽は胸ポケットからスッポリと、緑色のぬいぐるみを取り出した。
そして雫の前に突き出してくる。
「ほら」
それをじっと見つめる雫。
一瞬の静寂。
それを破ったのは凛だ。
「そのトカゲ、何か言った?」
「うーん……聞こえたような、聞こえなかったような」
「まぁ、信じるものは救われるって言うから、聞こえたことにすればいいんじゃない? ね、結芽」
「うん、キクラゲもそう言ってる」
そう言いながら結芽は、ぬいぐるみを再び元のポケットにしまい直す。
「あのぉ」
麗華の声に、雫、凛、結芽の3人が視線を向けた。
「お取り込み中のところ申し訳ないのですが…」
優しい笑顔でそう言った麗華に向き直り、結芽が何かの動きを始める。
凛の顔が満面の笑顔になった。
「結芽! それもしかして、洗濯物を取り込み中!?」
「正解。凛に1ポイント」
サムズアップの結芽。
微笑ましいものを見るような笑顔のまま、麗華が二人に言う。
「そろそろ、会議を始めるのはいかがでしょう?」
ハッとする凛。
「そうだった! じゃあ会議を始めるよ!」
「凛ちゃん、もしかしてこれ、例のアレについて会議なの?」
雫が、少し緊張した眼差しを凛に向けた。
「その通り! 全ては雫の疑問から始まったのだ! 声優とは何? 声優の演技とは!? そして私たちはこれからどうすればいいのか?? そのために集まったのだよ!」
「集まったと言うか、凛ちゃんが集めてくれたんでしょ?」
「そう! だって、昨日の放送部と演劇部で新しい情報をゲットしたじゃん? それを分析せずにどうするのだ!? って感じなのよ」
「四人で?」
雫の問いに大きくうなづく凛。
「集まれば文殊の知恵ってね!」
そんな凛に、麗華が不思議そうな顔を向ける。
「それ、三人寄れば、ですわ?」
「四人じゃなかったっけ?」
その時結芽がボソリとつぶやいた。
「かしましい」
「それも三人ですわね」
一瞬の沈黙の後、凛が大声で言い切る。
「三人よりも四人の方がいいに決まってるじゃん!」
雫は、三人が何を言っているのか全く分からないようで、頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいた。
「まぁ要するに、お話を一度まとめて整理しようって会議なのですわね?」
「さすが麗華! 察しがいい!」
凛の言葉に、結芽がカバンをゴソゴソし始める。
そして放送部から持ち出した朗読台本を取り出した。
「これ」
「その冊子じゃなーいっ!」
「じゃあ……」
再びのゴソゴソ。
そして取り出したのはアニメの絵が表紙になった一冊だ。
「それは雑誌! 私が言ったのは察し!」
自分を指差す結芽。
「あっし!」
両手で頬を両側からぐぐっと押す。
「圧死!」
「じゃあ……」
そう言った結芽は突然足をバタバタと上下に動かし、ピョンとジャンプしたかと思えば、手をバイバイのように振り回し始める。
それまでの彼女とはあまりにも違った動きに、一同が引きかけたその時、雫がパッと明るい顔になった。
「それふなっしーだ! 懐かし〜!」
「正解。雫に1ポイント、合計現在2ポイント」
「雫、よく分かったね」
感心顔の凛である。
「あのぉ」
麗華の声に、雫、凛、結芽の3人が視線を向けた。
「そろそろ会議とやらを始めないと、放課後はあっという間に終わってしまいますわよ」
苦笑気味に微笑む麗華に、凛が頭をかく。
「そうだね、会議始めなくちゃね」
えへんとひとつ咳払いをする凛。
「お昼の放送で、声優の井上喜久子さんの朗読を聞いた雫の頭に、どーんと疑問が浮かんだ!」
うんうんとうなづく雫。
「声優って何だろう!? そこで、我が淡島雫隊長はすぐに調査隊を結成! 放送室へ向かったのである! ちなみに隊員は私、高千穂凛ね。するとそこにいたのは、堅物メガネの部長、安田っちだったのだ!」
その声が合図のように、結芽がすっくと立ち上がり、突然男子のような声を出した。
「俺は声優についてはよく知らん。放送部の朗読こそが本当の朗読なのだよ」
その声音は、まるで安田正広部長のようだった。
瓜二つというわけではないが、イントネーションや発声が正広だったのである。
雫の目が丸くなる。
「結芽ちゃんすごい……放送部の部長さんみたい」
凛は嬉しそうな声を上げた。
「結芽って、演技するんだ! 放送部員って、安田っちが言ってたみたいに、演技っぽい演技する人あんまりいないから、ちょっとびっくりしちゃった!」
そんな会話に割って入ったのは麗華だった。
「放送部の部長さんは、声優さんの演技について、何とおっしゃっていたのですか?」
「安田っちが言うには……結芽、よろしく!」
再び結芽が立ち上がる。
「放送部では、声優と違って明瞭な発音と技術的な正確さで聞き手に内容を正しく伝えることが求められるのだ!」
「なるほど」
麗華がゆっくりとうなづいた。
「それって、私たち演劇部の演技とも違っているようですね」
「そして放課後、我ら調査隊は演劇部へ突撃したのである! その時のことは、麗華よろしく!」
「おまかせくださいませ」
その時結芽がボソリとつぶやいた。
「でまかせ」
「でまかせじゃなくて、おまかせ!」
凛の素早い突っ込みが、結芽に炸裂した。
結芽って、演技になると特別なスイッチが入ったように豹変するんですね!
これから先が楽しみです! て言うか、結芽のクイズの獲得ポイントって積算されていくのでしょうか? ……謎です(笑)
さて、そろそろキャラクターたちが揃い始めてきましたが、あなたの推しキャラは誰でしょう?
ひたむきな雫か、元気な凛か、天然の結芽か、それともお嬢様の麗華か?
感想などで教えてもらえると嬉しいです!