第46話 昭和レトロ喫茶
「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。
声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!
第1話と第2話を井上さんに朗読していただきましたが、このたび第16話と17話も、朗読していただきました!
朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!
謎の対談も、聞いていただけると幸いです(笑)
https://x.gd/9kgir
更新情報はXで!「@dinagiga」「@seitsuku」
「今やるなら、やっぱり昭和レトロ喫茶でしょーが!」
一年B組の創造祭での出し物は、そんな凛のひと言で決定された。
その日のホームルームで出たアイデアは以下である。
教室になぞなぞを張り出した脱出ゲーム。
手作りの射的やスーパーボールすくいなどの縁日。
学園祭の定番、お化け屋敷。
メイド喫茶。
そして、投票によってメイド喫茶に決定! となる直前に、凛がいきなり立ち上がって言ったのだ。
「メイド喫茶なんか、もうダサいっちゅーの!」
確かに凛の言うことにも一理ある。
秋葉原に溢れていたメイド喫茶の多くも、最近ではコンセプトカフェ・通称コンカフェに変化しつつある。もちろん今でも定番のメイド喫茶を貫いている店もあるが、全ての店舗が同じ土俵で戦うのは大変だ。そこで様々なコンセプトにより、差別化されたカフェが次々とオープンしていった。
・魔法、魔女/「マジカルロリポップ」や「マジカルツインテール」など、魔女見習いや魔法使いがテーマの店。
・深海、人魚/「Mermaid」のように、海の中をイメージした幻想的な内装でマーメイド衣装のキャストが迎えてくれる店。
・神話、天界/「クイーンズコート 女神の中庭」や「アルテミス チュチュ」といった、女神や天使がコンセプトの場所。
・学園、青春系/「二次元カノジョ」や「ハートオブハーツ」など、キャストが生徒として接してくれるスタイル。
・アカデミア/「ゔぃらねすアカデミア」のように、少しミステリアスな学園生活をテーマにしたもの。
・特定の職業、衣装コンセプト/カジノ風の内装でバニー衣装のキャストが迎える「バニーズギルド」、「イケメンパラドックス」など、女性キャストが男装して接客するスタイル、客を犯人として取り締まる警察がコンセプトの「ぷりしーにゃ」。
・趣味、カルチャー特化型/「鉄道居酒屋 LittleTGV」など、鉄道ファンが楽しめるメニューや内装の店、「大正浪漫喫茶 秋葉原和堂」のように、歴史的な雰囲気の中で読書やカフェを楽しめる場所。
・ダーク、小悪魔系/「サキュバスシーシャ LILITH」など、少しセクシーな小悪魔コンセプトや、「厨二病喫茶PIERROT」のように、独特の世界観やダークな内装を楽しめる店。
そしてメイド喫茶であっても、「サイバーパンク×カワイイ」をテーマにした「アキバ絶対領域A.D.2045」のように、複数の要素を掛け合わせた店なども増えている。
だからこその、凛の提案なのだ。
「私のアイデアはズバリ、昭和レトロ喫茶じゃ!」
凛が言うにはこうである。
最近流行りの昭和、平成レトロは、凛たち高校生にとっては逆に新しくて可愛い。言い方を換えるとエモい。また、親や先生世代にとっては懐かしいと感じられる良いコンセプトであり、集客のターゲット層が広いのではないか? そして、親に借りた古い物を自宅から持ち寄って飾り付けることで映えスポットにもなり、客が勝手に写真をSNSに投稿して宣伝もしてくれるのではないか? と。
明るくて元気だが、いつも適当なことやギャグばかり言っていると思われていた凛の的確な指摘にクラス全員、そして雫も驚きに目を丸くした。
「凛ちゃん、すごーい!」
「私は、やる時にはちゃんとやる女なのだよ!」
その後の投票で、クラス全員一致で凛のアイデアが採用された。
そして今、雫と凛のクラス・一年B組は昭和レトロ喫茶になっている。
ついに、創造祭の日がやって来たのだ。
「いらっしゃいませ」
教室に足を踏み入れると、まるで昭和のミルクホールを思わせるような、ロングスカートのメイドが落ち着いた声でそう言った。
周りを見回すと、確かに昭和レトロを思わせる内装になっている。
天井の照明は濃い色のセロファンで覆われ、各テーブルにはおそらく100均で手に入れたであろうランタンが置いてある。窓には、やはり100均のステンドグラス風シートが貼られ、椅子には昭和の高級喫茶店にある「ベルベットの椅子」を再現するような、安いサテン地の赤い布が被せられている。
「ただ今とても混雑しておりまして、相席ならご案内できるのですが、どういたしましょう?」
その言葉に放送部部長の安田正広は、一緒に創造祭を見て回っている副部長の佐竹真希に目を向けた。
「いいんじゃないですか? ちょっと様子を見に来ただけですし」
「そうだな」
正広がメイドに視線を戻す。
「では、相席で頼む」
「かしこまりました」
そう言うとメイドは、二人をテーブルまで案内するように歩き出した。
正広は生真面目な彼らしく、創造祭だと言うのに、制服を着崩すこともなくビシッとした雰囲気だ。一方の真希は、メガネをかけ真面目そうな表情ではあるが、うさ耳のカチューシャをつけている。実は彼女、あっけらかんとして明るい性格なのである。
「こちらのお席にどうぞ」
メイドが示したテーブル席に、すでに座っていた少女が、ジトリと正広を見上げた。
元放送部で現声優部の結芽である。
「あ、安田っちが来た」
「貴様! どうしてここに!? いやその前に、その呼び方はやめろ!」
「凛がいつもそう言ってる」
「高千穂め! ……まぁいい、相席だ!」
そう言った正広に、結芽と一緒にそのテーブルについていたもう一人の女性が立ち上がった。
「お噂は、高千穂さんから聞いております。声優部の伊勢麗華です」
優しい笑顔でゆっくりと頭を下げる。身長172cmの正広とあまり変わらないスラリとした姿勢の良い女性だ。サラサラの黒髪ロングが背中の真ん中まで伸びており、白いシンプルなカチューシャが美しい。
「安田っち、麗華に見とれてる」
「そんなわけないだろ! ……いや、さすがにそれは失礼だな……ほ、放送部部長の安田です。相席させてもらいます」
「副部長の佐竹真希、よろしくね」
そう言って軽く礼をした真希の頭で、うさ耳がぴょこりと揺れた。
それに目をやりながら、結芽が言う。
「安田っち、どうしてここに来た?」
「僕がどこに行こうと、君には関係ないだろ!」
「部長、落ち着いてください」
真希の言葉に、ふうっとひと息吐いて、正広は椅子に腰を降ろした。
「聞いたぞ。高千穂くん、いや君たち声優部が、この創造祭で高得点を狙っていることを」
都立武蔵原高校の創造祭には、他校には見られない独自のシステムがある。全生徒と全教師、そして父兄など、訪れた者全員が良かったと思う発表に投票するのだ。そしてそれを生徒会がまとめ、後日各賞が発表される。
放送部は、そのトップの常連なのである。
「なるほど。安田っち、スパイしに来たのか」
「スパイじゃない! ちょっと様子を見に来ただけだ!」
「スッパイのは梅干し」
「スパイでも梅干しでもないわ」
真希がすかさず結芽に突っ込んだ。
「おかかの方が好き?」
その問いに、ふと考え込む真希。
「そうね……シャケかな」
「おにぎりの話をしに来たんじゃなーい!」
正広の叫びが、昭和レトロ喫茶に響き渡った。




