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第45話 全国高校生 放送コンクール

挿絵(By みてみん)

「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。

声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!

第1話と第2話を井上さんに朗読していただきましたが、このたび第16話と17話も、朗読していただきました!

朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!

謎の対談も、聞いていただけると幸いです(笑)

https://x.gd/9kgir

更新情報はXで!「@dinagiga」「@seitsuku」

「はーい! みんな注目!」

 アニ研顧問の久慈川静香が、雫たちに号令をかけた。

 白に細いボーダーの長袖Tシャツに、ベージュ系のテーパードパンツ。ボトムスは、腰回りがゆったりとしているのに裾に向かって細くなるシルエットだ。安いのに安物に見えない、教師生活三年目の静香が編み出したいつものユニフォームである。

「キョロキョロしない!」

「先生、そんなの無理だって!」

 凛が静香以上に大きな声でそう反論した。

 アニ研の部員たち六人の前には、巨大な空間が広がっている。今日は部活の校外活動として、静香の引率で幕張メッセに来ているのである。

 幕張メッセは、千葉県千葉市美浜区にある日本最大級の複合コンベンション施設だ。1989年に開業し、現在では東京ビッグサイトと並んで日本の展示会・イベント文化の中心地となっている。

「こんなに広いなんて、びっくり」

 雫は目を丸くしている。

「東京ゲームショウやワンダーフェスティバル、略してワンフェスが開催されているのは知っていましたが、実際に来たのはわたくしも初めてですわ」

 珍しく麗華も、興味深そうにキョロキョロと辺りを見回している。

 そんな麗華に雫が視線を向けた。

「ワンダーなんとか……ワンフェス?」

 だがそれに答えたのは結芽だ。

「ワンちゃんフェスティバル」

「そう、犬の展示会……って、違うわーい!」

 凛の乗りツッコミだ。

 通称「ワンフェス」で有名なワンダーフェスティバルは、毎年夏と冬に開催される世界最大級のフィギュアと造形の祭典だ。プロ・アマ問わず、個人がレジンキャストなどで自作したフィギュア、ガレージキットなどの立体物を展示・販売する。分かりやすくいうならコミケ(コミックマーケット)の立体造形版である。メジャーメーカーの市販品にはない独創的な作品や、非常にニッチなキャラクターが立体化されるのが醍醐味と言えよう。

 ことの発端は、今から一週間ほど前に遡る。その日の放課後、珍しくアニ研の部室に姿を見せた静香が、雫たちにこう言ったのだ。

「他校の声優部の朗読、聞きたくない?」

 今日はこの会場で「JOYV-FM杯全国高校生放送コンクール」が開催されている。

 「JOYV-FM」は、将来のAMからFMへの統合を予見し、AM的番組を目指すFM局として開局された比較的新しい放送局だ。そのJOYV-FMが毎年全国規模で開催しているのがJOYV-FM杯全国高校生放送コンクール、略称は「Jコン」。

 幕張メッセの巨大な会場を可動式の間仕切りで六つに区切り、そのそれぞれで、各部門の発表会が行われる。

 部門は、「アナウンス」「朗読」「ラジオドキュメント」「テレビドキュメント」「創作ラジオドラマ」「創作テレビドラマ」。静香によるとその「朗読部門」に、全国の高校の声優部も出場するのだという。

「他校の朗読は、きっとみんなの活動の参考になるに違いないわ! たぶん」

 そんな静香の提案で、アニ研全員の校外活動が決定したのだ。

「ほんじゃ、景気よく乗り込もうじゃん! レッツラゴーじゃ!」

 勇ましい凛の掛け声に、雫たちは朗読部門の発表が行われている会場に突入した。

「うわぁ、ひとつの部門だけの会場なのに、すっごく広いね!」

 雫が驚くのも無理はない。幕張メッセの各展示ホールは、112.5 m×60 mという広さだ。そこにステージを組み立て、その前に椅子が並べられている。そしてその周りには立ち見ができる空間も作られていた。

 じっくりと朗読を聞くなら、椅子席に座るのが良いだろう。事前にそう静香から聞いていた雫たちだったが、会場に入った途端、アニ研全員その場に立ち尽くしてしまった。

 ステージ左右の巨大なスピーカーから聞こえる声に、圧倒されてしまったのだ。

 さっきまで威勢の良かった凛でさえ、息を呑んでステージを見つめている。

「凛ちゃん……すごいね」

 雫がつぶやくように言う。

「淡島さんの言う通りですわ。この朗読劇、高校生とは思えない迫力です」

 麗華もそう同意した。

「部長」

 英樹が小声で姫奈に言う。

「高校の声優部って、こんなにレベルが高いんですね」

「そうね。この人たちなら、すぐにでもアニメのアフレコができてしまいそうだわ」

 姫奈のその言葉に、全員がうなづいた。

 それからの数時間で、彼女たちは思い知ることになる。

 自分たちがいかに未熟であるのかを。


「ふう」

 凛の大きなため息が、朗読部門の会場であるホール3を出てすぐの広場、やすらぎのモールに響いた。会場ではまだ各校の発表が続いているのだが、精神的に疲弊し始めている彼女たちを、静香が連れ出したのだ。

 麗華が上品ではあるが、少し苦しげに言う。

「わたくしたち、まさに井の中の蛙、でしたわ」

「凛ちゃん、私たちまだまだだね」

 雫の静かな声に、凛がうなづく。

「私ら、ちょっとナメてたかもなぁ」

 そんな凛の顔を、結芽が覗き込んだ。

「どんな味?」

「苦いって感じかなぁ……って、そのナメると違うっちゅーの!」

 そう言って凛がハッとする。

 お気に入りの表情でニヤリと笑う結芽。

「凛、突っ込むと元気になる」

 結芽はボケることで、凛を励ましている?

 そう気づいた雫が結芽を見つめた。

「結芽ちゃんのボケ、いつもわざとやってたの?」

「当たり前。私、本当は頭いい」

 そう言って結芽は、胸ポケットのぬいぐるみの口を持ち上げ、ニヤリと笑顔を見せた。

「ショック! 結芽ちゃんは私と同じくらい天然さんだと思ってた!」

「雫、自分のこと天然て!」

「パーマ」

 と、結芽がまたボケる。

「その天然じゃないっつーの!」

 凛の素早いツッコミに、皆が笑顔に包まれる。

「部長、彼女たち、落ち込んでも立ち直りが早いですね」

「ちょっと賑やかすぎるけど、そこがいいところでもあるわね」

 英樹と姫奈も、笑顔になった。

 凛が右手を突き上げる。

「よぉし! 明日から特訓だ!」

「だっふんだ」

 こうして、声優部のレッスンは続くのであった。

 彼女たちが目指している創造祭のステージはもう近い。

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