第41話 学食に集合
「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。
声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!
第1話と第2話を井上さんに朗読していただきましたが、このたび第16話と17話も、朗読していただきました!
朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!
謎の対談も、聞いていただけると幸いです(笑)
https://x.gd/9kgir
更新情報はXで!「@dinagiga」「@seitsuku」
「雫! 今日は何の日でしょう!?」
「凛ちゃん? クイズを出すのは結芽ちゃんじゃなかったっけ?」
凛があわてて結芽に手を合わせる。
「ごめん結芽! お株を奪っちゃった!」
「凛は泥棒」
結芽が、ジトりとした目で凛を見つめる。
「そうだよ凛ちゃん、しかも株みたいに貴重なものを盗むなんて、大泥棒だよ!」
雫が凛をたしなめるようにそう言った。
「貴重なもの?」
「うん、よく分からないけど、株式会社とかの株でしょ?」
「その株じゃなーい!」
結芽が、自分の足元の床を指差す。
「それは下の方、下部!」
「ブルンブルン」
「それはバイクのカブ!」
「保険室の山下先生」
「それは藪! 麗華ぁ、どう説明したらいいの!?」
麗華はニコリともせず、冷静な口調で言う。
「そうですわね、カブは、今この時間にわたくしたちがこの場所に来ていることと関係がありますわ」
「へ?」
麗華に話を振った凛にも、その言葉の意味が分からないようだ。
「あら高千穂さん、分かっていてわざとカブのことを振ったのではないのですか?」
「いやぁ、サッパリ」
凛から苦笑が漏れる。
「じゃあ、この名探偵結芽がその謎を解く」
バッと雫を指差す結芽。
「今はいつでしょう?」
「えーと、お昼休み!」
「そしてこの場所は?」
「学食!」
結芽の目が、キラーンと光った。
「これですべての謎は解けた。一件落着」
「そうですわね。会津部長がわたくしたちを、放課後の部室じゃなくて、お昼休みの学食に呼び出したのが最大のヒントですわ」
「まだヒントだったぁ」
雫がガックリと肩を落とす。
その時、パンパンと手を打ち鳴らす音が二つ響いた。
「はいはい、コントはそこまでよ」
アニ研部長の会津姫奈だ。
「もう九日だけど、今日の昼休憩にはここで特別なイベントがあるの」
それに続いて、英樹の楽しそうな声が響いた。
「それ、先輩から聞いたことある! 七草粥がふるまわれるのだっ!」
「一年生は知らないと思うけど、この学校では毎年新年の始業式の翌日のお昼に、七草粥が無料で配られるのよ」
「だからこんなに人が多いのかぁ」
凛がぐるりとあたりを見渡した。
「ではここで問題」
結芽が右手の人差し指をピンと立て、雫と凛に視線を向けて言った。
「七草の、七つ全部を言いなさい」
「分かるわけないよぉ」
頭を抱える雫。
だが凛は違っていた。
「そんなの、言えるっちゅーの! テレビっ子を舐めてもらっちゃ困るぜダンナ! この時期ニュースやワイドショーじゃこの話題で持ちきりなのだ!」
「それではどうぞ」
結芽にうながされ、凛が両手を腰に当てる。
「セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロじゃー!」
続けて、大きな本をめくりながら麗華が解説を入れる。
「早春に芽吹く七草は、古くから邪気を払うとされてきた。七草粥は無病息災を祈る伝統の食事であると共に、胃腸に負担がかからないお粥と一緒に食べることで、正月疲れが出はじめた胃腸の回復にも役立つとされている。七草は日本のハーブだと言えよう」
「七草粥を無料で配るなんて、我が校は太っ腹じゃー!」
元気に吠える凛の隣で、雫が困惑の表情を浮かべた。
「七草のことは分かったけど、それと凛ちゃんが泥棒って、どんな関係があるの?」
再び麗華が本をめくろうとしたが、それを姫奈が制した。
「さっき高千穂さんがお株を奪ったって言ったでしょ? そのカブと、七草のカブをかけた言葉遊びだったのよ」
「へ? でも、七草にカブって入ってないんじゃ?」
「高千穂さんが言ったスズナって“カブ”のことなの」
「ふへー!?」
突然雫が驚嘆の声をあげた。
「凛ちゃんすごーい! そんなに高度なダジャレ言ってたんだぁ」
「ま、まぁね」
得意げなのか、苦笑なのか判別不能の表情の凛。
そんな彼女に、結芽が最近お気に入りのニヤリ顔を向ける。
「高度なダジャレ……頭のいいバカ、似てる」
「誰がバカよっ!?」
「はーい! 皆さん、お待たせしましたぁ!」
英樹が持ってきたお盆には、人数分の小ぶりなお椀が乗っていた。
もちろん中身は七草粥である。
「すわっち優秀! みんなの分取ってきてくれたんだ!」
「だってさ、七草って聞いたら、じっとしてられなかったからね!」
「どうして?」
首をかしげる雫だったが、英樹と凛が顔を見合わせて同時に叫んだ。
「よふかしのうた!」
「あ、そっか。ナズナちゃん」
「ナズナちゃんだけじゃないよ! 淡島さん、『よふかしのうた』に出てくるキャラクターを思い出してみて!」
英樹の言葉にふと考え込んだ雫だったが、すぐにその顔がパッと明るくなった。
「ホントだ! さっき凛ちゃんが言ってた七草の名前のキャラがいっぱいいる! でも……スズナは?」
「はっはっは!」
英樹は仁王立ちだ。
「主役のナズナちゃんの育ての親は誰だっけ?」
「えっと……本田カブラ……あ、カブだ!」
「その通り! ボクの大好きな『よふかしのうた』には、日本古来からの七草にまつわる裏設定がいっぱいあるのさ! ボクが思うに、吸血鬼たちの名前に春の七草が使われている背景には、単なる語呂合わせ以上の、日本文化における生命力と境界線の意味が込められているに違いない!」
夢中に持論の演説を始めた英樹だったが、雫たちはすでに七草粥に箸をつけていた。
「凛ちゃん! これおいしーい!」
「うん! 塩味だけかと思ったら、何か出汁が入ってそうだね!」
武蔵原高校の正月はこの日に終わる。
明日からはまた、創造祭へ向けて、声優部のレッスンの日々が始まるのである。
みなさん、七草粥はお食べになりましたか?
私は近所のスーパーへ行った時間が遅く、七草セットが売り切れていたので
適当に七種類の野菜で作って食べました(笑)
ほんの少し白だしをきかせて、なかなか美味しかったです。
でも、ご利益はなさそう……ww




