第40話 初詣
「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。
声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!
第1話と第2話を井上さんに朗読していただきましたが、このたび第16話と17話も、朗読していただきました!
朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!
謎の対談も、聞いていただけると幸いです(笑)
https://x.gd/9kgir
更新情報はXで!「@dinagiga」「@seitsuku」
一月二日のお昼過ぎ、吉祥寺サンロード商店街は大賑わいだった。この日に初売りを始めるショッピングビルや路面店も多く、地元住民はもちろん観光客などで溢れている。このアーケードは、JR・京王井の頭線吉祥寺駅北口の目の前に広がる、吉祥寺を代表する商店街だ。1971年に「吉祥寺サンロード商店街」と名付けられてからずっと吉祥寺のメインストリートとして、この時期でなくても平日・休日を問わず多くの人で賑わっている。その北端の出口付近で、一人の女子高生がぴょんぴょんと跳ねていた。都立武蔵原高校の制服だ。少々気温が低いためか、からし色のマフラーを巻いている。
「雫〜! こっち、こっち!」
高千穂凛である。
「アニ研のみんなで初詣に行かない?」
冬休み前に凛が言ったひと言に、その場にいた全員が即座に賛成した。神社での参拝方法などには疎い彼女たちだが、なんでも知っている、或いはすぐに調べてくれる麗華と一緒なら心強い。
「ごめん! 遅れちゃったぁ!」
白い息をはぁはぁと吐き、肩を上下させる雫。
これで全員集合である。
部長の会津姫奈、平部員の諏訪英樹、アニ研内声優部の高千穂凛、桜田結芽、伊勢麗華、そして今到着したばかりの淡島雫、いつもの六人だ。
今日、雫たちがやって来たのは吉祥寺駅北口からサンロード商店街を抜けた先から少し行ったところにある、五日市街道沿いの武蔵野八幡宮である。吉祥寺の街が誕生した江戸時代から続く氏神様として、地元住民に深く親しまれている神社だ。
「うわぁ! 予想通り、すっごく並んでる!」
目を丸くした雫の視線の先には、鳥居の外まで伸びている初詣の列があった。
凛が肩をすくめる。
「まあ、三が日はしゃーないって。それに、ここってめっちゃ由緒ある神社なんでしょ?」
そう言って麗華に顔を向けた。
「そうです」
簡単にうなづいた麗華に、雫が感心の声を上げる。
「麗華ちゃん、いつもの本で調べなくても知ってるの!?」
だが、そんな雫の疑問に答えたのは結芽だ。
「学校で習った。知らないのは、雫が勉強してない証拠」
そしてお気に入りの表情、ニヤリ、である。
「ええーっ!? してるもん! 凛ちゃんは分かるの?」
雫に視線を向けられた凛は、苦笑しつつ麗華にその視線を受け流した。
「じゃあ結芽ちゃんは!?」
結芽も同様に麗華に視線を投げる。
「二人共知らないんじゃん!」
そんなやりとりに、姫奈が肩をすくめる。
「まぁまぁ淡島さん、武蔵野八幡宮のことなら地域の歴史で学校で習ったはずよ。伊勢さんでなくても、我が校の生徒なら言えるはず。ねぇ、諏訪くん」
「ふえっ!?」
いきなり話題を振られた英樹が、すっとんきょうな声を出した。
「淡島さんたちの会話をニヤニヤしながら聞いてたんだから、ちゃんと答えられるわよね?」
姫奈のその問いかけに、英樹は頭をかきながら麗華を見た。
「あなたもなのっ!?」
「めんぼくない」
そして全員の視線が麗華に集まった。
ふうっと大きなため息をつく麗華。
「吉祥寺という街ができる際、江戸から移り住んだ人々の守護神として祀られた“吉祥寺最強のパワースポット”とも言われているのが、この武蔵野八幡宮ですわ」
「移り住んだ? どうして?」
首をかしげる雫。
「授業ではあまり詳しくは習いませんでしたけど……」
そう言うと、いつもの大きな本をカバンから取り出してめくり始める。どうしてあんなに小さなカバンへしまうことが可能なのか、相変わらず英樹だけが首をひねっていた。
「ふむふむ……1657年の明暦の大火で現在の文京区付近にあった「吉祥寺」という寺と、その門前町が火事で焼失してしまった……住む場所を失った人々が幕府の命で、今の武蔵野の地を開拓して集団移住……なるほど、だから吉祥寺という地名なのですね」
凛の顔がパッと明るくなる。
「前からおかしいと思ってたんだよ! 吉祥寺って言うお寺も無いのに、どうして吉祥寺って言うのか!」
「すごい凛ちゃん、そんなこと考えてたんだ。私なんて、地名の由来とか、気にしたこともなかった」
雫の言葉に、結芽が再びニヤリとする。
「やっぱり雫は勉強してない」
「結芽ちゃんだって知らなかったでしょ!」
「キクラゲは知ってた」
そして胸ポケットのぬいぐるみの頭をナデナデ。
姫奈が再び肩をすくめる。
「有名な話よ。明暦の大火って、確か振袖火事よね。八百屋お七の火事とか、昔から火事って大事件だから講談とか歌舞伎とか、よくお芝居のネタにもなってるわ」
「部長、アニメだけでなく、お芝居にも詳しいんですね」
すぐに感心してしまう雫が、姫奈を尊敬の眼差しで見つめた。
だが、英樹がすぐにそれを否定する。
「いや、部長のことだから、多分アニメに出てくるんだと思うよ」
「さすが諏訪くんね、例えば……『火要鎮』、とかね」
「ひのようじん?」
感心顔だった雫が、再び首をかしげた。
「あ! 大友だ!」
再び大声をあげる英樹。
「康平?」
「克洋! 『AKIRA』ならあなたでも知ってるでしょ!」
首に巻いているカラシ色のマフラーをねじり始める凛。
「それは中尾彬!」
結芽がツインテールを持ち上げる。
「おらぁ、ワクワクすっぞ」
「鳥山明!」
麗華が右手の人差指をピンと立てる。
「いい質問ですね」
「池上彰! あなたたち、分かってやってるでしょ!」
凛がニヤリと笑う。
「もちろん! サンロード商店街といえば、やっぱり大友克洋だからね!」
その言葉に、英樹のテンションが急に上がる。
「幻魔大戦!」
つられて姫奈の顔もパッと明るくなったが、気を取り直したように咳払いした。
「はいはい、さっさと参拝するわよ! 参拝!」
またまた雫が首をかしげる。
「えっと、会社とか工場とかのゴミのことだっけ?」
「それは産業廃棄物の産廃!」
「じゃあ部長だ!」
凛が姫奈を指差した。
「私は先輩!」
その時、麗華が鳥居の方に目をやった。
「あら、列が進みましたわ」
「ホントだ! 部長のおかげで退屈しなかったよ!」
凛のその言葉に、姫奈は大きなため息をついていた。
みなさま、お正月はどうお過ごしでしょう?
のんびりアニメ、ドラマ、映画でしょうか?
それとも、いつも通りお仕事でしょうか?
どんな方にも、ほんの少しの楽しい気分をお届けできればと今週もお休み無く更新です!




