第38話 声優入門
「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。
声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!
第1話と第2話を井上さんに朗読していただきましたが、このたび第16話と17話も、朗読していただきました!
朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!
謎の対談も、聞いていただけると幸いです(笑)
https://x.gd/9kgir
更新情報はXで!「@dinagiga」「@seitsuku」
「それじゃあいくよ!」
凛のその言葉に、雫をはじめ声優部の全員が、彼女が手にしているスマホに注目した。
「凛ちゃん、よろしく!」
雫がそう言うと、結芽と麗華もうなづく。
「よし、ポチッとな!」
スマホの再生ボタンをタップ。するとそのスピーカーから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『は〜い、井上喜久子17歳です!』
思わずそれに返事をしてしまう一同。
「おいおい!」
もちろん全員が、右手を振って突っ込んでいる。
今声優部を含むアニ研の皆で聞いているのは、ラジオノむさしののプロデューサー、城島から届いた音声ファイルである。タイトルはズバリ『声優入門』、城島と栗山が制作したラジオ番組だ。城島によると、聞くだけで声優のレッスンになるこれまでに無い番組、とのこと。はたしてこれを聞くことで、雫たちの実力に変化が現れるのであろうか?
『まずは、声優になるため、そして、声優にとってとても大切な五カ条を伝授したいと思います!』
「五カ条?」
首をかしげる雫。
「それ、歴史に出てきた」
結芽がそう言うと、例によって麗華が巨大な本をパラパラとめくる。
「五箇条の御誓文。1868年、慶応四年3月14日に明治天皇が示した、明治新政府の基本方針。江戸時代までの封建的な政治から、近代国家へと生まれ変わるための、新しい日本の国是を宣言した重要なものである、とあります」
結芽が麗華に視線を向ける。
「ボク、ゴセいもん」
「それは未来から来た猫型ロボット!」
凛の突っ込みに、雫の顔がパッと明るくなる。
「それ知ってる! ファミレスで見たよ、凛ちゃん!」
「それは配膳ロボット! まぁ確かに猫型だけど」
そんなやりとりを呆れ顔で見ながら、姫奈がため息をついた。
「五箇条の御誓文でも猫型ロボットでもなくて、声優に大切な五カ条でしょ! 高千穂さん、再生を再開して!」
「へいへーい」
画面をタップ。
『声優にとってとても大切なこと、つまり声優の心得です。あなたは何だと思いますか?』
「ストーップ! はい、淡島くん!」
凛に当てられた雫が慌てて答える。
「えーと、永遠に17歳であること!」
「正解!」
「正解じゃないわよ!」
再び姫奈の怒号が飛んだ。
「部長! 落ち着いて!」
姫奈と凛の間に、英樹が焦って割り込む。
「この程度で怒ってたら、身が持ちませんよ! たぶんこの後もずっとこんな感じです!」
ハァハァと肩で息をする姫奈。
「そ、それもそうね」
「とりあえず見守りましょう!」
そんな姫奈と英樹を無視して、凛が結芽と麗華に質問を投げる。
「声優の心得って、二人は何だと思う?」
「そうですわね……」
腕組みをして、少し考え込む麗華。
「演技のテクニックでしょうか? それとも、精神的な心構えでしょうか?」
「麗華ちゃん、やっぱり頭いいなぁ、きっとそのどっちかだよ」
思わず感心してしまう雫。
「確かに、麗華いい顔してる」
そう言って、結芽がうんうんとうなづく。
「それは面構え! 麗華が言ったのは心構え!」
凛の突っ込みに、結芽が謎の言葉を返す。
「カラダが後ろ」
「は?」
その場の全員の頭に、はてなマークが浮かんだ。そんな皆を見渡して、結芽がひと言。
「だって、心が前だって」
「心が前じゃなくて、心構えだっつーの!」
「結芽ちゃんも頭いい! 心が前でカラダが後ろって、私思いつかないもん」
再び感心する雫だったが、凛が素早く突っ込んだ。
「頭良くないよ! それ、どんな状態だっちゅーの!」
すると結芽が、言葉以上に謎なポーズをとった。
頭を前に突き出し、体をできるだけ後ろに引く。実にバランスが悪い。
「あーっ!」
再び響く姫奈の絶叫。
「いいから早く再生を続けなさいっ!」
「へいへーい」
画面をタップ。
『声優の心得五カ条、第一条は! 標準語を知ろう!』
「あ、それだったかー」
凛の言葉に、雫、結芽、麗華がなるほどとうなづいた。
『声優の演技にとって大切なもの、それはとってもたくさんあります。例えば色々な地方の方言! 様々な役になりきるためには、そのキャラクターの出身地の言葉を使うことは非常に重要なことだと言えるでしょう。でも、そのためには演技の基本になる言葉、日本の標準語をきちんとマスターしている必要があります。まず基本が分かっていなければ、その応用は不可能! それを覚えておいてください』
「方言かぁ、凛ちゃんはよく関西弁を使ってるよね?」
そう言って雫が凛に視線を向ける。
「アニメや映画と同じくらい、お笑いも好きだからね! つい関西弁がまざっちゃうのかもなぁ」
「だから凛ちゃん、いつも突っ込んでるんだね」
「まぁね」
なぜか得意げな顔の凛である。
『では、標準語とは一体どこの言葉なのでしょう?』
「はい! 淡島さん!」
不意をつかれた雫が慌てて答える。
「えーと、東京……かな?」
スマホをタップ。
『今東京だと思ったそこのあなた! でも、東京と言っても、地域によってずいぶん言葉が違います。例えば神田などで使われている江戸っ子の言葉と言われるもの“てやんでぃべらぼうめ!”などは、もちろん標準語ではありません。標準語とは、東京山の手の一般家庭の言葉が元になったと言われています』
雫が首をかしげて凛に目をやる。
「山の手? 山手線の内側ってこと?」
「うーん、それは私もよく知らないなぁ」
凛の言葉に、麗華がまた巨大な事典をめくろうとする。だが、それより早く、凛がスマホをタップした。
『明治時代、近代化を進めるために全国で通じる言葉が必要になり、東京の旧士族、知識階層が多く住んでいた山の手地域の話し方を参考に、文法や発音を整理して整備されたのが標準語です』
「じゃあ凛は、山の手の反対で下町言葉」
そう言うと結芽が気に入っているニヤリ顔をする。
「べらんめぇ!」
『ですが、私たち声優やアナウンサーが使う標準語は、日常会話の“東京の話し方“とも、教科書的な標準語とも少し違うのです』
雫の額に、汗が浮かぶ。
「凛ちゃん、なんだか難しくなってきたね」
「うん、ちょっとややこしいかも」
『声優に大切な標準語とは、放送標準語、放送用共通語と呼ばれている言葉なんです。放送を中心に整備された、全国どこでも誤解なく癖なく伝わる話し方、東京山の手由来の共通語を、さらに磨き上げた“職業言語”と言えるでしょう』
頭を抱えてしまう雫。
「分かんなくなってきたよぉ」
「私も」
凛も同様のようだ。
結芽は、いつもと同じ無表情で、胸ポケットのぬいぐるみの頭をなでている。
「面白いですわ。わたくしの知識欲が、ビンビンに反応しています!」
麗華だけが、目をギラギラと輝かせていた。
着々と進みつつある放送部の映画製作と演劇部の稽古。
ところが声優部はこれから初めてのレッスン(笑)
どうなることやらww




