第27話 三つ子の結芽
「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。
声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!
第1話と第2話を井上さんに朗読していただきましたが、このたび第16話と17話も、朗読していただきました!
朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!
謎の対談も、聞いていただけると幸いです(笑)
https://x.gd/9kgir
更新情報はXで!「@dinagiga」「@seitsuku」
「結芽って、三つ子だったんだ!」
「ええーっ!」
凛の言葉に、驚きの声をあげた雫たちだったが、すぐに麗華が冷静な突っ込みを入れた。
「凛さん、三つ子とは限りませんわよ」
「どういうこと?」
右手のひとさし指をピンと立てる麗華。
「四つ子や、五つ子の可能性もありますわ」
雫が目を丸くした。
「すごーい! 野球チームができちゃいそう」
素早く凛の突っ込みが飛ぶ。
「野球チームは9人!」
「1970年代に“ナイン”という野球漫画がありました」
なぜか解説を入れる麗華。
「じゃあサッカー」
「それは11人!」
「やはり1970年代に“赤き血のイレブン”というサッカー漫画がありました」
うーんとうなる雫。
「バスケットは?」
「5人!」
「カーリング」
「4人!」
じゃあねと、少し考えてから雫が言う。
「漫才!」
「トリオかコンビ!」
「ちょっとお二人さん」
麗華が凛と雫の間に割って入った。
「すでにスポーツじゃなくなってますわよ」
あ、ホントだ、という表情になった凛だったがハッとして言う。
「いやいや! 別にスポーツの話してるんじゃないから!」
そして階段方向を指差した。
「結芽がいっぱいいるって話!」
一同がその方向に目をやる。
トコトコとリビングへとやって来る二人の結芽。
そして武蔵原高校の制服姿の結芽を、両側からはさむように並んだ。
「クリソツじゃん! やっぱり三つ子だよ!」
「ですから、三つ子とは限らないと言って――」
そんな会話を無視するように、真ん中の結芽が説明を始める。
「この二人は私の妹」
えっ!? っと、三人をまじまじと見つめる一同。
「さ、自己紹介」
右の結芽が一歩前に出た。
「桜田結花、12歳」
結花が元の位置に戻るのと同時に、左の結芽が前に出る。
「桜田結麻、12歳」
「二人はまだ小学六年生」
凛の目が丸くなる。
「六年生なのに、結芽と背がいっしょじゃん! 結芽、ちっちゃ〜い!」
「凛よりは大きい」
「がびょーん!」
雫が首をかしげる。
「画びょう?」
「違うって!」
麗華が例によって、携えていた百科事典のような本をパッと開く。
「“がびょーん”とは、昭和の頃によく使われた擬態語で、失敗した時などに言うギャグ的フレーズ、とあります。『天才バカボン』など、赤塚不二夫の漫画などでよく使用された」
「いやいや! がびょーんの説明はいいから!」
「まだ、用例などもありますわよ?」
「いらないって!」
「残念です」
少しがっかりした表情で、巨大な本をゆっくりと閉じる麗華。
雫が不思議そうな目で、三人の結芽を見つめながら言う。
「二人は同じ六年生ってことは、双子なの?」
全く相似形で同時にうなづく三人。
その様子を感心したような目で見る凛。
「ゆめ、ゆか、ゆまって、スケバン刑事みたいじゃん!」
雫が首をかしげる。
「それなぁに? 大きな女番長さん?」
「スケバンでかっ! じゃないって!」
「1985年から放送されたテレビドラマシリーズで、女子高生がヨーヨーを武器に悪と戦うストーリー……」
麗華が再び、巨大な本を開いている。
「でも、『スケバン刑事III 少女忍法帖伝奇』の場合は、唯、結花、由真なので、少し違いますわね」
そんな会話を聞いていた英樹が、感心した目を凛に向けた。
「高千穂さん、アニメと映画以外に、昔のドラマにも詳しいんだね」
「もちろん! オタクだからね!」
ニヤリと笑った凛の歯が、キラリと光った。
「あれ?」
その時、雫が何かに気づいたような声を上げた。
「雫、どうしたの?」
凛の問いに、指をさす雫。
「キクラゲちゃんも三匹いる」
「どういうこと!?」
よく見ると、結芽の妹二人が着ている部屋着の胸ポケットから、ぬいぐるみが顔をのぞかせていた。
「うわっ、ホントだ! トカゲも三つ子だ!」
「三つ子じゃない、キクラゲの弟で双子」
結芽がそう言うと、妹二人がうんうんとうなづいた。
結花がそのトカゲを胸ポケットから取り出す。
「キクラゲの弟、エリンギ」
結麻も同様に取り出すと頭の上に掲げた。
「キクラゲの弟、シイタケ」
「全部キノコじゃん!」
雫が凛に視線を向ける。
「キクラゲはクラゲじゃないの?」
「木に生える“クラゲのようなもの”という意味で“キクラゲ”という名が付いたキノコの一種。漢字では“木の耳”と書くが、これは“耳に似ている”という見た目の特徴から“耳”という字を使っているだけで、“耳”と書いて“クラゲ”と読む慣用読みがあるわけではない……」
「もうその本はいいから!」
その時姫奈が、両手をパンパンと叩いた。
「はいはい、また話がごちゃごちゃになってるわよ! そろそろ会議を始めましょう」
「ホントだよ! 会話がわけわかめ!」
英樹も苦笑しながら言う。
「それ、高千穂さんが言うかなぁ」
また雫が首をかしげた。
「わかめって、お味噌汁に入れる?」
「そういうことじゃないって!」
「“わけわかめ”は、1980年代に流行したスラングで、わけが分からないことを意味する言葉遊び……」
「だから、説明しなくていいって!」
姫奈と英樹が、肩をすくめて顔を見合わせる。
「なんだかとっても盛り上がってるじゃない?」
その時、結芽ママが盆を手にやって来た。
盆には、コップに入った人数分のオレンジジュースが乗っている。
姫奈があわてて手伝おうと立ち上がった。
「ありがとうございます! 会議しなくちゃになのに、無駄話で騒いでしまって」
「何を会議するの?」
「私たち、学園祭で朗読をするつもりなんですけど、色々と考えなくちゃならなくて」
結芽ママの目に、好奇心の色が浮かぶ。
「朗読かぁ、おもしろそうね。どんな作品を読むの?」
その問いに、雫がパッと明るい顔で言った。
「“ハチドリのひとしずく”です!」
結芽ママがふと、小首をかしげる。
「それ……聞いたことがあるわ」
「知ってるんですか!?」
雫の顔が増々明るくなった。
「知ってると言うか……どこかで聞いたことがあるような……」
雫たちは、結芽ママの次の言葉に耳を澄ましていた。
結芽ママの記憶に残るものは何なのか!?
「ハチドリのひとしずく」には、何か秘密が隠されているのか!?
いやその前に、キクラゲが三匹って(笑)
まぁ名前は違いますが……




