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第23話 その手があった!

挿絵(By みてみん)

「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。

声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!

第1話と第2話を井上さんに朗読していただきましたが、このたび第16話と17話も、朗読していただきました!

朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!

謎の対談も、聞いていただけると幸いです(笑)

https://x.gd/9kgir

更新情報はXで!「@dinagiga」「@seitsuku」

「私、“ハチドリのひとしずく”を読みたい!」

 雫の言葉に、一同がうなづく。

 雫が声優という存在に興味を持ったのは、学校の昼休みの放送で流れた井上喜久子の朗読を聞いたからである。その時に読まれた作品が“ハチドリのひとしずく”なのだ。彼女がそれを、自分も演じたいと思うのは当然のことだろう。皆もそう理解していた。

 だが、凛が苦笑する。

「でもさ雫、あの台本って放送部にあるじゃん」

「放送部伝統の、だっけ?」

「そう。安田っち、貸してくれるかなぁ?」

 安田っちとは、放送部部長の安田正広のことだ。色々あって、彼は雫たちのことをあまり良くは思っていないだろう。

 そんな二人の会話に、結芽が割り込んだ。

「また私が持ってくる」

 両手でサムズアップし、右手を雫、左手を凛に向けている。

「だめだよ結芽! 絶対に安田っちに怒られる!」

「だいじょうぶ」

「どうして大丈夫なのよ!?」

「私、まだ放送部やめてない」

 驚きに目を丸くする凛。

「結芽、今でも放送部員なの!?」

 結芽は胸ポケットのトカゲのぬいぐるみの頬をぐいっと持ち上げ、ニヤリとした表情を作った。

「いや、自分でニヤリしなさいよ!」

「ニヤリ」

「それ、言ってるだけでしょ!」

 そんなやりとりを見ながら、英樹が不安そうに姫奈に顔を向けた。

「部長、うちの学校って兼部OKでしたっけ?」

「どうだったかしら。スポーツ部と文化部の兼部は大丈夫だと思うけど、文化部二つってのは……今度、久慈川先生に聞いてみましょう」

 久慈川静香は、アニ研の顧問である。

「海でゆらゆら」

「それは昆布! 諏訪っちが言ったのは兼部!」

 結芽のひと言に、すかさず凛が突っ込んだ。

「ウルトラマン」

「それはシュワッチ! こいつは諏訪っち!」

 英樹が思わず苦笑する。

「諏訪っちはともかく、こいつって……」

 そんな英樹を無視して、麗華が結芽に向き直った。

「兼部とは、複数の部活やサークルに所属して、活動を掛け持ちすることを言います。ちなみに、剣を持って踊ることや、子供を背中に背負うことでもありませんわ」

「なんじゃそりゃ?」

 首をかしげた凛だったが、結芽は違っていた。

「理解した」

 そう言うと結芽は、ぬいぐるみのニヤリをやめると、その首を縦にうんうんと動かす。

「キクラゲもそう言ってる」

「自分でうなづきなさいよ!」

 そんな会話に呆れたように肩を小さくすくめると、姫奈が結芽に視線を向けた。

「兼部のことは私に任せて。調べておくから」

「頼んだゼ! ダンナ!」

 凛の元気な言葉にふうっと、ひとつ息を吐く姫奈。

「ダンナじゃないけど、頼まれたわ。でもね、結芽ちゃん」

 不思議そうな顔を姫奈に向ける結芽。

「たとえ放送部員だとしても、部の物を勝手に持ち出してはいけないわ。どうしても必要なら、ちゃんと頼めばいいんだし」

「でもなぁ、多分安田っちは頼んでも貸してくれないと思うなぁ」

「どうして?」

「結芽が一度、黙って拝借してるから!」

 姫奈と英樹が、同時に大きなため息をついた。

「だめだこりゃ」

 英樹の嘆きに、凛が元気に声を上げる。

「次いってみよ〜!」

 雫が首をかしげて凛を見た。

「凛ちゃん、それなぁに?」

「うちのお父さんが好きでよく配信で見てるんだけど、昔“8時だョ!全員集合”ってのがあってね、その中の名ゼリフだよ!」

 結芽が、今度は自分でうなづく。

「確かに。9時に集合だと遅刻になる」

「学校じゃないよ!」

「じゃあ、どこに集合?」

「テレビ番組だから、8時にテレビの前に集合って意味よ! たぶん」

「伝説的なバラエティ番組ですわね」

 麗華のひと言に、凛がパッと顔を輝かせた。

「そう! お父さんの横で一緒に見てるんだけど、今でもめっちゃ面白いんだよ!」

 『8時だョ!全員集合』は、TBS系列で16年間も続いた生放送のバラエティ番組だ。コント・歌・音楽演奏を組み合わせたステージショー形式で、最高視聴率はなんと50.5%を記録している。まさに昭和の国民的番組だと言えるだろう。

「ザ・ドリフターズのコントが爆笑ものでさ! 荒井注の“なんだ、バカヤロー”とか、カトちゃんの“ちょっとだけよ〜”とか!」

 その言葉に、雫が何かに気づいたようにハッとした。

「そっか! だからこの前、私達のことをドリフターズって言ったんだ! 英語が苦手のの凛ちゃんにしては、いきなり難しい単語出してきたなぁって思ってたの」

 結芽がボソリと言う。

「泥舟に乗った漂流者」

「結芽さん、さすがに泥舟はアニ研さんに失礼ですわ」

 あれれ?

 このくだり、なんだか前にもあったような……。

 そう思い、首をかしげる雫。

 その時姫奈が、両手をパンパンと叩いた。

「はいはい、また無駄話になってるわよ!」

 英樹も苦笑しながら言う。

「“ハチドリのひとしずく”を読むとして、台本が借りられないならどうすればいいのか、ちゃんと考えないと!」

 その通りである。

 彼女たちはいつも、話がどんどん横道にそれてしまうよなぁ。

 まぁそれが楽しいんだけど。

 そう思うと、英樹は苦笑を深めた。

「その前に、わたくしには少し不安に感じることがありますわ」

 そう言った麗華に、一同が視線を向ける。

 皆に注目された麗華は居住まいを正し、一同を見回した。

「ハチドリのひとしずくですが、以前私の部の青島部長が演じたので知っています」

 その言葉に、凛がハッとする。

「私の部って、麗華もまだ演劇部やめてないの!?」

「はい、絶賛兼部中です」

 そう言ってニッコリと笑顔になる麗華。

「部長、ここにも兼部がいました」

「そのようね」

 呆れ顔を見合わせる英樹と姫奈。

「それで、麗華ちゃんは何が不安なの?」

 雫が不思議そうに聞く。

「あの時の台本が全てであるなら、四人で演じるには短すぎるのではないでしょうか?」

 麗華の言う通りかもしれない。

 昼休みの放送で聞いた井上喜久子の朗読を思い出す雫。

 確かにあれは、ほんの数分しか無かった。

 雫と凛があわてて結芽の顔を見る。

「結芽! あんた放送部なんだから、その辺のこと知ってるでしょ!?」

 結芽はゆっくりとポケットからぬいぐるみを取り出すと、その頭を横にフルフルした。

「知らないと、キクラゲも言ってる」

「だから自分でフルフルしなさいって!」

 再びトカゲの口元を持ち上げ、ニヤリとさせる結芽。

「仕方ありませんわ。ちょっと調べてみましょう」

 そう言うと麗華は、彼女のすぐ隣に置いてあった大きな書物を手に取った。

 英樹と姫奈が言うところのグリモワールだ。

 パラパラと数ページをめくったところで、麗華の手が止まる。

「ありましたわ」

「本当に何でも載ってるんだぁ、その本すごーい」

 雫が感心したような声を漏らした。

「ハチドリのひとしずくは、南米アンデス地方に伝わる民話に由来する寓話である」

 結芽が右手を握って上に突き上げる。

「そのグーじゃないって!」

「ふむ、分かりましたわ。このページに、その全文が載っています」

 そう言うと麗華は、その巨大な事典を広げたまま雫たちに向けた。

「短っ!」

 凛が声を上げたのも無理はない。その全文は、たったの一ページに収まっていたのである。これでは、雫たち四人で読み分けるほどのものではないだろう。

 本を雫たちに向けたまま、麗華が珍しく眉根を寄せる。

「これだと、脚色して長くするしかないと思われます。ですが、この中に脚本の書ける方はいらっしゃいますか?」

 沈黙に包まれる一同。

 その時、英樹が何かに気づいたようにハッとした。

「部長! 脚本書ける人、いるじゃないですか!」

 その言葉に、姫奈が笑顔になる。

「そっか、その手があった!」

「部長、どの手です?」

 雫が再び首をかしげる。

 結芽はまたグーを突き上げている。

「その手じゃないって!」

 そんな中、姫奈がニヤリと不敵な笑顔を見せた。

「私に考えがあるわ。この会津姫奈にまかせなさい!」

「頼んだゼ! ダンナ!」

「ダンナじゃないけどね!」

 まだ姫奈がその内容を話していないにもかかわらず、皆の顔に笑顔が戻っていた。

ついに具体的に動き出した雫たち。

姫奈と英樹が思いついたアイデアとは!?

次回をお楽しみに!

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