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第2話 井上喜久子、17歳です

挿絵(By みてみん)

「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。

いきなり声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!

そしてなんと! 第一話と第二話を井上さんに朗読していただきました。

第2話を聞くには、下のURLをコピペして飛んでください!

https://youtu.be/Im1AN6RqyqQ

「お疲れ様でした!」

 武蔵原高校の三年生であり放送部の部長・安田正広は、全身全霊を込めてそう叫ぶと思い切り頭を下げた。それを合図に、放送部員の全員が同様に礼をする。たった今、昼の校内放送が終わったのだ。そしてスタジオの重い扉を開いて出てきたのは、声優の井上喜久子である。

「お疲れ様です」

 優しさに溢れたその笑顔を見て、正広は思った。

 この人は女神に違いない、と。

 今日のお昼の放送は特別だった。

 放送部のOB、地元のコミュニティー放送局「ラジオノむさしの」のディレクター・栗山智彦から電話があったのはほんの二日前のことだ。

 校内放送でチャリティーイベントの宣伝をして欲しい。やってくれるなら、栗山と一緒に番組をやっている芸能人をブッキングできると言う。イベントを主催しているのが、そのタレントの所属事務所だから、ということらしい。

 その名前を聞いて正広は興奮が抑えられなかった。

 校内放送に出てくれるのは、井上喜久子だと言うのだ。

 高校の校内放送にプロの声優が出演してくれるなんて、夢のような話である。

 もちろん、二つ返事でOKを伝えたのは言うまでもない。

 そしてたった今お昼の放送の内、彼女の出演パートが終了したのである。

「ごめんなさいね、入りがギリギリになってしまって」

 そう言って正広に頭を下げたのは、井上が所属する事務所の代表・関口弥生だ。彼女は井上の実の姉だという。ほんわかのんびりキャラで知られる井上とは違い、パンツスーツをビシッと着こなす知的な雰囲気の女性である。ファンや声優の後輩たちから「お姉ちゃん」と呼ばれる井上の姉ということで、声優ファンの間では「お姉ちゃんのお姉ちゃん」と呼ばれている。なので現場では「お姉ちゃん」呼びが飛び交い、どっちのお姉ちゃんのことだかサッパリ分からなくなるらしい。お姉ちゃんの方を「小お姉ちゃん」、お姉ちゃんのお姉ちゃんの方を「大お姉ちゃん」と呼ぶのはどうだろう? と言うアイデアが出たこともあったが「大お姉ちゃんなんてすごく年上のお姉ちゃんに聞こえるからヤダ」と言う「お姉ちゃんのお姉ちゃん」のひと言で即座に没になった。ああ、お姉ちゃんだらけでややこしい。

 声優に特に詳しいわけではない正広でも、そんなことを耳に挟んだ記憶はあった。井上は、それほどの有名声優なのである。

「だって、電車の乗り方が難しかったんだよ、お姉ちゃん」

「どこが難しかったの?」

 いぶかしげな表情で井上を見る関口。

「新宿で乗ったんだけど、吉祥寺に停まらなかったの」

 正広があっと、井上に顔を向けた。

「中央特快に乗ったんですね?」

「そう!そのなんとか快に乗ったら、吉祥寺を過ぎちゃったの。だから次に停まった駅で降りて、急いで違う電車に乗り換えたの」

「それで?」

「それが、反対向きに乗ったみたいで、どんどん遠くに行っちゃった、てへへ」

 はあっとため息をつく関口。

「行っちゃったじゃないでしょ、ホントに」

「と言うわけで、放送部の皆さん、ギリギリでごめんなさいでした」

 そんな井上の言葉に、放送部員一同が首を横にぶるぶると振った。

「ぜんぜん大丈夫です!お昼の放送に間に合いましたし!」

 正広は、自分の声が裏返りそうになるのを必死で抑えていた。

 彼は由緒ある武蔵原高校放送部の部長だ。JOYV-FM杯全国高校生放送コンクール、俗にJコンと呼ばれる放送部の全国大会で優勝経験もある。しかもアナウンス部門で、である。こんな時こそ、もっと気の利いたことが言えないものかと、自分の度量の小ささが少し情けない。

 その時、副部長である佐竹真希が、右手を上げて手のひらを左右に振った。

「おいおい」

 それだ!それこそが正解だ!

 井上喜久子がボケた時の突っ込みは「おいおい」に決まっているだろう!

 正広は、それに気づかなかった自分を心中で叱っていた。

「はいはい」

 井上は、とても優しい微笑みを浮かべている。

 この人はやっぱり女神だ。

 そう思い、正広の心に暖かいものが広がっていたその時、突然それはやって来た。

 放送室のドアが、激しくノックされたのだ。

「たのもー!」

「やめてよ凛ちゃん!道場破りじゃないんだから!」

「そうなの?」

「そうよ!」

「殴り込みをかけるのかと思ってた」

「誰が誰を殴るのよ!?」

「知らんけど」

 などと、扉の向こうで揉めている女子が二人。

 そのうちの一人、ケラケラと笑うその声に、正広は聞き覚えがあった。

 凛は、正広と同じ中学の後輩なのだ。

 またややこしいヤツが来たな……何の用だ?

 それに、もう一人は誰だ?

 正広がそう悩んでいると、副部長の真希がいきなり放送室の扉を開いた。飛び込んでくる二名の女子。

「一年B組、淡島雫です!」

「付き添いの高千穂凛でぇす!」

 勢い込んで自己紹介した二人に、真希が呆れ顔を向けた。

「今お昼の校内放送が終わったばかりでまだドタバタしてるの。部の見学なら放課後にまた来てね」

 その言葉に、首を横にぶるぶると振る雫。

「見学じゃないんです!」

「じゃあ何なの?」

 ふうっと息を吐き、一回深呼吸すると雫は大声で言った。

「井上喜久子さんに会わせてください!」

「何なんですか、藪から棒に。あなた、井上さんのファンなの?」

「そういうわけじゃないんですけど……」

「じゃあどういうわけなのよ?」

 雫はキッと引き締まった、真面目な顔を真希に向けた。

「さっきの朗読がすごすぎて、どんな人なのか、会いたくなったんです!私とたいして変わらない17歳なのに、あんなにすごい朗読ができるなんて!」

 私と変わらない17歳……。

 ポカンとした雰囲気に包まれる放送室。

 その時、雫の耳にさっきスピーカーから聞こえたのと同じ声が、生で届いた。

「井上喜久子、17歳です」

 ニッコリと優しく微笑む大人の女性。

 放送部の全員が右手を上げ、手のひらを左右に振る。

「おいおい」

「はいはい」

 今度は雫がポカンとする番だった。

「あなたが……井上喜久子さん、ですか?」

「はい。井上喜久子、永遠の17歳です♡」

 雫が慌てて凛に視線を向ける。

 なぜか自慢気にうんうんとうなづく凛。

「どうなってるの!?」

 少し混乱してしまった雫であった。

「永遠の17歳」とは???

ちょっと天然気味の雫に、この謎が理解できるのか!?(笑)

次回、4月18日公開の第3回をお楽しみに!

なお、次の朗読は7月公開を目指して頑張って動いております。

多分、第15話前後になるのではないかと。

なので、そこまでのお話は、ぜひぜひ小説でお楽しみください!

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