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第18話 作戦会議の翌朝

挿絵(By みてみん)

「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。

声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!

第1話と第2話を井上さんに朗読していただきましたが、このたび第16話と17話も、朗読していただけることになりました!

第16話は、7月25日(金)公開予定です。

朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!

https://x.gd/9kgir

更新情報はXで!「@dinagiga」「@seitsuku」

 トントンと、軽快な音が響く。まな板の上で、小気味よくネギが刻まれていく音だ。火にかけた鍋からは、コトコトと穏やかな音が聞こえ、たちまち温かい味噌汁の香りがダイニングキッチンを満たしていく。空気を入れ替えているのか、開け放たれた窓からは、朝の爽やかな日差しが優しく差し込んでいた。

 朝食の準備をしているのは、雫の母、千草である。

 ダイニングテーブルでは、すでに妹の夕梨花が朝食を口に運んでいた。雫よりも小柄で背が低く、髪型は最近流行りの短かすぎないショートボブだ。中学生らしい真っ黒な髪色で、毛先がちょいアゴ下である。彼女は、目玉焼きの半分を口に放り込み、もぐもぐと頬張る。そしてのんびりと現れた姉の雫に視線だけを向けた。

「お姉ちゃん遅~い!」

 雫が寝ぼけ眼で「おはよう」と呟く。

「遅刻しても知らないからね!」

 そう言った夕梨花に、雫があくびをしながら言った。

「お姉ちゃんは高校に入れたからいいの。夕梨花は受験生なんだし、ちゃんと勉強しないとね」

「してるもん!」

 そんな二人に、千草が振り返って言う。

「雫、お味噌汁だけでも食べていきなさい。それに、ゆうべは外で食べて帰るなら、ちゃんと連絡しなさいね」

 千草の声には、心配と少しの小言が混じっていた。雫は申し訳なさそうに頭を掻いた。すると、夕梨花がにやにやとした顔で口を開いた。

「だいじょうぶ! お姉ちゃんのおかずは私がもらったから!」

「え、何だったの?」

 雫が問うと、夕梨花は勝ち誇ったように胸を張った。

「トンカツよ!」

 トンカツ! その言葉を聞いて、なぜか雫は「勝った」とうなづいた。昨晩の食事が、もちろん寿司だったからである。

「ふふん。まぁ、トンカツなら仕方ないね…」

 わざとらしく残念そうなふりをする雫に、千草は優しく微笑みながら言った。

「最近学校が楽しそうね。友達も増えたみたいだし」

 千草の言葉に、夕梨花が目を輝かせて食いついた。

「凛さん以外にも友達できたの!?」

「な、何言ってるのよ! お姉ちゃんだって、友達ぐらい作れるもん!」

 図星を突かれて、雫は思わず頬をぷくっとふくらませた。

「だって、中学の頃、ぜんぜんいなかったじゃん」

 夕梨花が畳みかけるように言うので、雫はムッと唇を尖らせる。

「そうだっけ?」

 とぼけてみせる雫に、千草は苦笑しながら、再び優しく語りかけた。

「何か心配事があったら、ちゃんと相談するのよ」

「心配事かぁ……」

 雫は腕を組み、真剣な顔で考え込むふりをした。しかし、すぐにその表情はぱっと明るくなり、満面の笑顔になる。

「ない!」

 その眩しい笑顔に、夕梨花が興味津々といった様子で尋ねた。

「その笑顔の理由はいかに!?」

 雫は顔をキラキラと輝かせながら、昨日寿司店で出会った人物について語り始める。

「うん! 実はね、すごい人に会ったの。井上喜久子さんて言う――」

 雫が言い終わらないうちに、夕梨花が大きな声で割って入った。

「声優の!?」

 夕梨花の反応に、雫は目を丸くした。まさか、自分の妹が声優という職業を知っているとは。

「え、夕梨花、声優ってお仕事知ってるの!?」

「て言うか、お姉ちゃん知らなかったの!?」

 今度は夕梨花が、心底呆れたように言う番だった。その声には「まさか今時、そんなことも知らないの!?」というニュアンスが含まれている。

「うん」

 雫は素直に笑顔で頷いた。

「マジですか」

「マジです」

 夕梨花は、さらに前のめりになった。

「いつ!? どこで会ったの!? どうやって!?」

 夕梨花からマシンガンのように質問が飛ぶ。彼女は普段はしっかりものだが、予想外の事態に出会うと極端に早口になるのだ。

「その言い方、ちょっと凛ちゃんぽい」

 雫の言葉に、夕梨花の頬が少し赤くなった。

「ほ、ホント?」

 夕梨花は、物知りの凛に憧れの気持ちを持っているのである。

「うん、凛ちゃんぽいって言うか、オタクっぽい」

 雫がそう付け加えると、夕梨花がバッと雫に顔を向けた。

「マジですか!?」

「マジです!」

 クラスの友達には理解されてはいないが、実は夕梨花は凛のような知識豊富なオタクを尊敬しているのだ。

「あ、それはいいから、お姉ちゃんとはどうやって会えたの!?」

 夕梨花は、興奮した様子でそう雫に促した。

「お姉ちゃん? 夕梨花のお姉ちゃんは私だよ」

「違うって! 声優の井上喜久子さんは、みんなからお姉ちゃんて呼ばれてるの!」

 じゃあ関口さんは、お姉ちゃんのお姉ちゃんなのかぁ。

 雫はそんなことを考えつつ、これまでのいきさつを夕梨花に説明することにした。

 お昼休みの校内放送で、偶然井上喜久子の朗読を聞いて感動したこと。

 その声に引き込まれ、放送部に押しかけ、声優という仕事について色々と教えてもらったこと。

 そして、部活について作戦会議をしようと凛たちと出かけた回転寿司店で、井上と偶然再会したこと。しかも、寿司をたくさんおごってもらったと、少し得意げに話した。実際には、料金は事務所の代表である関口が支払ったのだが。

「ええーっ!? お姉ちゃんとお寿司!? うらやましー!」

 夕梨花は目を輝かせながら叫んだ。

「ね、トンカツよりいいでしょ」

 雫はニヤニヤと、そしてふにゃふにゃとした笑顔になる。

 夕梨花は母の千草にチラリと目をやると言った。

「いや、お母さんのトンカツだって、美味しいよ」

 夕梨花の言葉に、千草はニコニコ笑顔になった。こういうところに気を遣えるのが、夕梨花なのである。

「ありがと。でも、お寿司にはちょっと負けちゃうかな」

 そう言って笑顔になった千草に、雫がハッと顔を向けた。

「あ、お母さん、ごめんなさい!」

 千草は笑って首を振った。

「いいのよ。それで、その井上さんて、どんな方なの?」

 再び雫がふにゃふにゃとした笑顔になる。

「すっごく優しくて、いい人で、それに朗読が感動的なの」

 その時、何かに気づいたのか夕梨花が不思議そうに首をかしげた。

「ところで、回転寿司で作戦会議って何?」

 雫は「えへへ……」と照れたように笑った。

「お姉ちゃん、もったいぶらないでよ!」

 夕梨花の催促に、雫はふにゃふにゃだった笑顔を少し引き締めて言った。

「私たち、学校に声優部を作りたいの!」

「ええーっ!?」

 驚きに声を上げてしまった夕梨花だけでなく、千草の目も丸く見開かれていた。淡島家の朝は、突然の告白で、さらに賑やかになった。雫の新たな挑戦は、まず家族から驚きをもって迎えられたのだった。

ちょっと生意気そうな妹ちゃんも、井上喜久子さんに興味津々!

まだ中学生で、武蔵原高校の生徒ではない彼女ですが、雫たちの行動に何か関わってくるのか?

次回をお楽しみに!

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