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第15話 作戦会議をしよう!

挿絵(By みてみん)

「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。

声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!

第1話と第2話を井上さんに朗読していただきましたが、このたび第16話と17話も、朗読していただけることになりました!

近日公開です! お楽しみに!

なお、朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!

https://x.gd/9kgir

更新情報は私のXで!「@dinagiga」

 アニ研の部室に広がる、古びた紙と埃の匂い。

 うず高く積まれた部誌の山を前にした雫は、かつて声優部に在籍していたらしい部員たちの名前に、なぜか奇妙な既視感を覚えていた。一枚一枚丁寧に綴じられた部誌のページに並ぶ名前の羅列が、なぜか心の奥底に微かながらも確かなさざ波を立てている。

 その時凛が、ひときわ大きな声で言った。

「この名前に見覚え、聞き覚えのある人!」

 一瞬の静寂に包まれる部室。

 そして、雫がゆっくりとその手を挙げた。

 一同の視線が雫に集まる。

「知っている人、いましたか?」

 アニ研部長・二年生の会津姫奈が、ミディアムの黒髪を耳にかけ直しながら雫に聞いた。

「誰誰!?」

 興味と少しばかりの期待を込めた視線で、雫の顔を覗き込む凛。

 だが雫は、首を横に振った。

「ううん。なんとなく聞いたことがあるような気がするだけで、私にもよく分かんない」

 雫はギュッと目を閉じ、記憶の糸を辿ろうと試みる。

 だが、まるで夢の中で見た景色を現実で発見した時のような、漠然とした違和感が浮かぶのみである。

 アニ研平部員・一年生の諏訪英樹が、天井に届きそうな勢いで積み上げられた部誌の山を見上げて言った。

「そういうことなら、ここにある古い部誌の中から、ヒントを探すしかないかもなぁ」

 部誌はかなりの数になる。その高さは、雫の背丈をも軽く超えようかという勢いだ。埃をかぶったそれらは、1980年代から続いているというアニ研の歴史を、無言で物語っている。雫がそっと触れると、指先にざらりとした感触が残り、紙の劣化が進んでいることを物語っていた。

「これ全部、部誌なのかぁ……」

 凛が呆れたように肩をすくめた。

「仕方ないですわ。手分けして、もっと声優部についての記事を探しましょう」

 麗華が冷静に指示を出す。彼女の言葉には、状況を素早く判断し、的確な行動を促すリーダーシップのような力強さが滲み出ていた。

「よし! 頑張るか!」

 凛のそんな言葉を合図に、雫たちは過去の声優部についての記述を探し始めた。

 部室のあちこちで、それぞれが部誌を手に、真剣な眼差しでページを開いていく。

 埃っぽい部誌をめくたび、紙の擦れる音と、どこか懐かしい匂いがした。それは、時間が閉じ込められたタイムカプセルのようで、雫たちに過去の空気を感じさせてくれていた。

「みっけ!」

 最初に声を上げたのは凛だった。

 彼女が指差すページには、一枚の少し古びた写真が貼られていた。そこには、生徒たちが楽しそうにマイクに向かい、生き生きとした表情で演技をしている姿が写っている。そして彼らの後ろには、手書きの垂れ幕が飾られており、学園祭の賑わいが目に浮かぶようだった。

「これってもしかして……学園祭のラジオ番組かな?」

 雫が写真に目を凝らすと、その下には達筆な文字で

『学園祭特別企画! 声優部×アニ研×放送部コラボラジオ! 大盛況!』と書かれた見出しがあった。そしてその隣には、当時の生徒会長による感謝の言葉も添えられている。

「ふむ、これって今から12年前のことみたいだね」

 英樹が、記事に書かれた日付を確認しながらそう言った。

 その記事によると、声優部、アニ研、そして放送部が協力してラジオ番組を制作し、大成功を収めたらしい。写真に写る生徒たちの生き生きとした表情から、当時の熱気と情熱がひしひしと伝わってくるようだ。

 さらに読み進めると、昔の声優部は他にも様々な活動をしていたことが分かってきた。その活動は学校内に留まらず、地域社会にも貢献していたようである。

 近所の商店街に頼まれて、アーケードで流れるバーゲン情報のナレーションを担当したり、アニ研といっしょに新入部員勧誘のために生アフレコを見せたり。新入生歓迎会でのパフォーマンスは、毎年恒例の人気企画だったという記述もある。

「昔の声優部、すごい」

 結芽が興味深そうにボソリと呟いた。そして胸ポケットのぬいぐるみを、まるで同意して頷いているかのようにくいくいと動かす。

「お! そのトカゲもすごいって言ってる!」

「うん、言ってる」

 凛の言葉に、結芽はうなづきながらぬいぐるみの頭を優しく撫でた。

 その後も次々と、声優部とアニ研の合同活動の記事が見つかった。

 放送部に頼まれてお昼の校内放送でラジオドラマを演じたり、演劇部に頼まれて舞台転換時にストーリーをつなぐためのナレーションを担当したりと、その活動は多岐にわたっていたようだ。長く続いてきたアニ研と、その当時彗星のごとく新たに登場した声優部は、アニメという共通言語によって固く結びついたのだろう。彼らは合同で、学園内で開催される様々なイベントに積極的に参加しただけでなく、その活動範囲は部活動の枠を超えていた。コミュニティラジオでの朗読劇や、地域の子供向けイベントでの読み聞かせなど、その活動は多くの人々を魅了していたようだ。

「昔の声優部って、放送部とも演劇部とも仲が良かったのね」

 この数日での経験を思い浮かべるような目でそう言った雫の声は、困惑しているようでもあり、感心しているようにも聞こえた。

 彼女の目に写る写真には、当時の声優部の活発な様子が鮮やかに記録されている。その活気に満ちた姿に、雫は驚きと同時に、ある種の憧れのようなものを感じていたのだ。

「安田っちに聞かせてやりたいよ」

 凛が、いたずらっぽい笑みを浮かべて言った。その言葉には、どこか挑戦的な響きもある。

「や、安田っち!?」

 姫奈が、驚きと戸惑いを隠せない様子で声を上げた。彼女の顔には「まさか?」という表情が見て取れた。

「放送部の安田部長ですわ」

 麗華が、姫奈の疑問に答えるように説明する。

 安田部長は、その厳格な性格と、規律を重んじる姿勢で知られている。学園の生徒たちにとっては、少し近寄りがたい存在ですらある。そんな安田部長に「安田っち」などというあだ名をつける凛の奔放さに、姫奈は驚きを隠せないようだ。麗華はそんな姫奈の反応を見て、小さく笑みをこぼした。

 部誌を読み進めるうちに、時間があっという間に過ぎていく。部室の窓から差し込む夕日は、すでにオレンジ色に染まり、放課後も終わろうとしていた。机や椅子の影が長く伸び、部室の中は少しずつ暗くなり始めている。

「続きはまた明日かな」

 英樹が、大きく伸びをしながら言った。だが彼の顔には、まだ名残惜しそうな表情が浮かんでいる。

「残念。とキクラゲも言ってる」

 結芽が、胸ポケットのぬいぐるみを優しく撫でながらそう呟いた。

 その時、凛が突然良いことを思いついたように、目を輝かせながら声を上げた。

「そうだ! せっかく仲良くなったんだし、みんなでご飯食べながら作戦会議しようよ!」

 彼女の提案に、場の空気が一気に明るくなる。

 だが雫が、少し悲しげな声をあげた。

「私、今月ピンチだから無理かも」

「じゃあ、これでどうかな!?」

 そんな雫を尻目に、凛が自分のかばんをごそごそと探り始める。

「……じゃーん!」

 そして、まるでマジシャンのように、紙束のようなものを取り出した。

「控えぃ控えぃ! これが目に入らぬかー!?」

 結芽がボソリと言う。

「それ、目に入れたら痛い」

「結芽さん、今の凛さんの言葉は、水戸黄門さんの印籠を取り出すときのセリフのパロディですわ。そうですわね?」

 麗華の解説に、凛が大きく頷いた。

「そう! 黄門っちの印籠ぐらいすごいものなのだ!」

 一同、その紙束を覗き込む。

 それは、有名回転寿司チェーン店のタダ券だった。その鮮やかなデザインを見た途端、雫の目がキラキラと輝く。そしてその表情は一瞬で「パス」から「参加」へと変わったのだ。

 タダ券の威力は絶大だ。

「お父さんの仕事の取引先が、このチェーン店なんだって。だから、もらったのだよ! 頭が高ーい!」

 ははぁ!と、一同の者がひれ伏すような仕草をする。

「えーと、6人だから……一人5皿は食える!」

「キクラゲもいる」

 結芽のひと言に、凛がニヤリと笑顔を見せた。

「じゃあ私のひと皿、そのトカゲにあげるよ!」

 凛は、キクラゲを指差して言う。

「じゃあ行く」

 凛の言葉に、結芽は即決した。

 こうして6人は意気揚々と、期待に胸を膨らませてアニ研の部室を後にした。彼らの足取りは軽く、まるで空を飛んでいるかのように見えた。部誌の調査で得た驚きの収穫と、目の前の“お寿司”というご褒美が、彼らの心を弾ませていたのだ。いや、自分と同じ興味を持つ新しい仲間たちとの出会いが、皆をそうさせていたのかもしれない。

寿司です! そりゃあキクラゲもよろこびますよね!

寿司はやっぱりウニとイクラがいいですね(笑)

でも、一番好きなのは……イカですww

次回「寿司屋で大散財!」……ではありません(笑)

凛のタダ券がありますから。

ああ……私も寿司屋のタダ券が欲しい!

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