第13話 合同会議
「声優」と言うお仕事の存在を知らなかった女子高生が声優を目指して奮闘する、笑いあり涙ありの……いえ、ほとんど笑いだらけの楽しい青春ストーリーです。
声優の井上喜久子さんが実名で登場しますが、ご本人と所属事務所のアネモネさんには快く承諾をいただきました! ありがとうございます!!
そしてなんと! 第一話と第二話を井上さんに朗読していただきました。
朗読を聞くには下のURLをコピペして飛んでください!
https://x.gd/9kgir
更新情報は私のXで!「@dinagiga」
ある日の放課後。まだ、都立武蔵原高校の制服が今の形になる前のこと。アニメ研究会の部室は、いつもより熱気に包まれていた。アニメグッズやポスターが所狭しと並べられたその空間に、声優部のメンバーである“ぴか”こと青山ひかり、田中美紀、久慈沢菜央、棚倉愛理の四人が、アニ研の面々と向かい合って座っていた。今回の合同会議は、もうすぐ開催される学園祭で、アニ研と声優部が共同で活動できないかという声優部からの提案で実現したものだった。
「さて、本日はお集まりいただきありがとうございます! 私たち声優部と、アニ研さんで、学園祭を盛り上げるために何かできればと思いまして!」
声優部の部長を務める美紀が、きりっとした表情で口火を切った。アニ研の部長は、眼鏡の奥で目が光る、いかにもアニメ好きといった風貌の男子生徒だ。
「ええ、我々アニ研としても、学園祭は一大イベントですからね。是非とも面白い企画にしたいです。しかし、声優部さんと一緒にと言われても……一体何を?」
アニ研部長の問いに、菜央が身を乗り出した。
「やっぱり、声優と言えば声を使うことですよね! アニメのアフレコ体験とか、朗読劇とかどうですか!?」
ぴかも元気よく頷く。
「いいですね! 私も、みんなの前で声を出してみたいです!」
美紀は、菜央とぴかの熱意を受け止めつつ、その視線をアニ研部長に向けた。
「もちろん、それらも素晴らしいアイデアです。ですが、もう少しアニ研さんだからこそできることと、私たち声優部だからこそできることが融合するような企画が良いのではないかと思うのですが……そちらに、何かアイデアはありませんか?」
美紀の言葉に、アニ研の面々も腕を組み、考え始めた。
沈黙が続く中、アニ研部長がぽつりと呟いた。
「アニメの声や洋画の吹き替えはもちろんだけど、最近の声優さんってみんなラジオでおしゃべりしてるよね」
その瞬間、声優部の四人の顔がパッと輝いた。特に、菜央は「それだ!」とばかりに机を叩いた。
「ラジオ! そうですよ、ラジオ! アニラジですよ!」
ぴかも目を輝かせながら頷く。
「アニラジ! 私、大好きです! 声優さんの素の顔が見られるみたいで!」
美紀も、そのアイデアの可能性に気づいたように頷いた。
「なるほど、アニラジですか。アニ研さんのアニメに関する深い知識と、私たちの声優としての表現力を合わせれば、面白いラジオができるかもしれませんね」
愛理は、静かに微笑みながら、小さな声でつぶやく。
「トークとか、ラジオドラマとか、やってみたいかも」
こうして、学園祭でアニ研と声優部が共同でラジオ番組を作るという、新たな挑戦が決定したのだった。
合同会議が終わる頃には、窓からの光はすでに斜めに傾いていた。
アニ研の部室を出た声優部の四人は、興奮冷めやらぬといった様子で顔を見合わせる。
「まさか、アニ研さんと一緒にラジオ番組を作ることになるなんてね!」
ぴかが満面の笑みでそう言った。
美紀も、どこか感慨深げな表情を浮かべている。
「本当にね。私たち、よくここまで来たわよね。まさか声優部を作って、そしてアニ研さんと一緒に活動するなんて、あの頃は想像もできなかった」
美紀の言葉に、四人の脳裏には、都立武蔵原高校に入学したばかりの、あの桜舞う春の日の記憶が鮮やかに蘇っていた。
その年の4月。真新しい制服に身を包んだぴかは、慣れない校内をきょろきょろと見回していた。そして入学式の看板につまずきそうになった彼女を支えてくれたのが、田中美紀だった。
「大丈夫? 気を付けてね」
「あ、ありがとうございます! あの、私、青山ひかりって言います! ぴかって呼んでください!」
「私は田中美紀。よろしくね、ぴか」
全てはその出会いから始まった。
そしてその後、二人が声優志望であることを知った菜央と愛理が合流することになるのだが、それはまた別の話。
この四人によって、都立武蔵原高校に声優部が誕生した。ちなみに初代顧問には、彼女たちの情熱に心を動かされた演劇部の先生が兼任で就任してくれた。
それはまさしく、彼女たちの夢への第一歩だった。
アニ研との合同会議を終え、四人は声優部の部室に戻っていた。
みんなでアニラジを作る!
興奮冷めやらぬ四人の顔には、期待と、そして少しの不安が入り混じっていた。
「でも、ラジオ番組を作るって言っても、私たちだけじゃ無理よね? 機材も知識もなーんにも無いよ?」
ぴかが、ふと現実的な問題に気づいて首を傾げた。美紀は、その言葉に小さく頷く。
「そうね。アニ研さんも知識は豊富だけど、本格的な音響機材や、番組作りのノウハウは持っていないでしょうね……」
菜央が腕を組み、うーん、と唸った。
ぴかが、ピカッと光るように明るい顔になる。
「スマホ真ん中に置いて、私達がわーってしゃべればいいんじゃない?」
ぴかを冷たい目で見つめる美紀。
「それ、BGMとかどうするの? ジングルとか、編集とか」
あ、忘れてた。
そう思ったのか、気まずそうな表情に変わるぴか。
「どうする? アニ研さん以外の誰かに協力を求める?」
そう言った菜央の顔をじっと見つめ、愛理がポツリと聞く。
「誰に?」
菜央が愛理を見返して、真剣な口調で言った。
「それが問題だ」
ぴかがパッと明るい顔を菜央に向ける。
「それ知ってる! 生きるべきか死ぬべきか!? それが問題だ!」
愛理が、今度はぴかの顔をじっと見つめた。
「オムレット」
「ハムレットよ!」
猛烈な勢いで美紀の突っ込みが飛んだ。
「私、チーズが好き」
「それはオムレツの方でしょ!」
そこにぴかも乗ってくる。
「ハムも欲しいなぁ」
「じゃあ私、ちょっと行ってくる」
そう言って立ち上がろうとする愛理。
「どこ行くの?」
「トイレット」
「だからハムレットだって言ってるでしょ!」
その時ぴかの顔に、再びピカッと電球が灯ったかのような表情が浮かんだ。
「そうだ! 放送部も巻き込んじゃうのはどうかな!?」
ぴかの突然の提案に、美紀と菜央は顔を見合わせた。
愛理は、ぴかの言葉に反応するように、わずかに身を乗り出す。
「放送部なら、機材も揃ってるし、放送のプロでしょ? もしかして、私たちの力になってくれるんじゃない?」
そんなぴかに視線を向け、美紀はゆっくりと頷いた。
「確かに、その手はあるかも。学園祭のために協力してって言えば、放送部も無下には断れないかも」
「よし! そうと決まれば善は急げ! 早速、放送室に行ってみよう!」
こうして、声優部の四人は、新たな目標に向かって一歩を踏み出した。
校舎の廊下を「放送部を巻き込もう!」という熱い思いを胸に、意気揚々と歩いていく。
時に今から12年前。
都立武蔵原高校の声優部は、確かにそこにあった。そして、彼女たちの情熱と努力は、未来の雫たちへと繋がる、確かな軌跡を描き始めたのだった。この小さな一歩が、やがて大きな波紋となり、都立武蔵原高校声優部の歴史を紡いでいくことを、彼女たちはまだ知らない。
まさかの、過去の声優部の登場回でした!
12年前に、声優部は確かに活動していたのです。
彼女たちのスピンオフも、いずれお届けできるかも!?
さて、そろそろキャラクターたちが揃い始めてきましたが、あなたの推しキャラは誰でしょう?
ひたむきな雫か、元気な凛か、天然の結芽か、それともお嬢様の麗華か? アニ研の二人?
レビューや感想、Xなどで教えてもらえると嬉しいです!




