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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 第6章:共和国の誕生

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第41話 新体制の構築①

 王国が崩壊し、国王が退位を表明してから数日が経過した。いまだ混沌とした首都では、革命軍が旧貴族を排除しながら秩序を立て直そうと奔走していたが、権力の空白は想像以上に大きく、一筋縄ではいかない難題が積み重なっている。


 貴族による支配から解放された民衆は大きく息をついて安堵すると同時に、新たな政治体制がどのように動き出すのか、不安げな眼差しを向けていた。


 首都にある王宮の主要部はすでに革命軍の管理下に置かれ、破損した施設の復旧や戦災孤児の保護、物資の集中と配給が急ピッチで進められていた。


 ある朝、パルメリアは広大な謁見の間の一部を「臨時議会」の開設場所として利用しようと提案する。元は国王や貴族が華美に使っていた広間を、もっと実務的かつ開かれた場へと改装するのだ。花をかたどった壮麗な天井画や壁の金箔が剥がれ落ち、ところどころ剣戟の跡が残る大理石の床。その上に長机を並べ、予備の椅子をずらりと配置している光景は、かつての王制を象徴した空間とは打って変わり、なんとも奇妙に見えた。


 それでも、多くの代表者が一堂に会すためには十分な広さがあり、かつ市民が傍聴しやすい場所だ。何よりパルメリアは、この「元王の広間」をあえて使うことで、「旧き支配の象徴を、新体制の母体へと変える」という意義を示そうとしていた。


「ここを、議論の場に変えたいんです。誰か一人の決定ではなく、全員で意見を出し合える仕組みが必要。首都であれ地方であれ、人々の声を集めるには十分な広さもあります」


 会議室の準備に取りかかろうとするパルメリアを見て、ガブリエルが少し驚いたように声をかける。


「ここは、かつて国王が威厳を誇るためだけに使っていた部屋ですよ。そんな場所が、まさか市民たちの議論の場に……」

「ええ、だからこそ意味があるの。今までは威光で民を従わせていただけの象徴的な場所だけど、これからは市民が政治に参加する象徴へと変えるのよ」


 パルメリアの端正な顔つきには揺るぎない決意が窺える。かつて「高慢な貴族令嬢」と呼ばれていた面影は消え去り、今や彼女は新時代を築くリーダーとしての重責を背負いながらも、自分の信念をまっすぐ貫こうとしている。


 その日の午後、王都周辺の各地区や地方から選ばれた臨時の代表者たちが、次々と王宮へとやってきた。旧貴族の穏健派や、中小領地の領主、都市の商人組合の長、農村や労働者の代表、さらに革命派の各地分隊の指導者など、実にさまざまな人々が肩書を問わず参加している。


 かつては決して一堂に会することのなかった人々が、同じ机を囲むというだけで周囲の話題は尽きない。中には「こんな会議の形になったって、結局は口先だけでしょ?」と猜疑的な声を漏らす者や、「貴族もいないと政治は回らない」という旧来の考えを持ち続ける者もいた。しかし、全体の空気は概ね「とにかく話し合って次の手を決めよう」という前向きな熱気に満ちていた。


 やがて、パルメリアが壇上へ上がり、円卓を囲む代表者たちを見渡す。大理石の床にはまだ戦火の傷が残っているが、その上に並べられた机と椅子は簡素で質素だ。それぞれが雑多な服装や身なりで席に就くさまは、かつての王宮とはまるで異質な光景だった。


「今日は、お集まりいただきありがとうございます。ご承知の通り、王制は崩壊し、保守派の旧貴族による支配は終わりを迎えました。けれど、今のままでは国全体が混乱し、再び戦乱に(おちい)る危険があります。だからこそ、新しい仕組みを作らなければならないのです」


 パルメリアの声が、大広間に静かに響く。彼女の言葉が始まると、代表者たちはいつしかささやき合いをやめ、耳を傾ける。


 その姿を後方から見守るレイナーは、彼女がかつて貴族令嬢として振舞っていた頃を懐かしく思い返した。ほとんど別人と見紛うほどの変貌を遂げたパルメリアは、今こうして人々の未来を背負って堂々と語っているのだ。


「まず、暫定的な政府を作り、地域ごとに代表を選出してもらいます。それぞれの代表による議論を重ね、この国をどうしたいか――私たちみんなで決めていきましょう。教育や農業、税制、それから治安維持の方法まで、従来のやり方を完全に見直すチャンスです。考えるべき課題は多いですが、後回しにしては何も始まりません」


 それまで静かに聞いていた代表者の中から、一人の壮年の男性が立ち上がる。もともと都市の商人組合をまとめていた人物だが、これまで貴族の横暴に苦しめられてきたらしい。彼は声を張り上げ、少し鋭い視線をパルメリアに向ける。


「だが、いきなり大きく制度を変えて、本当にうまくいくのか? いくら貴族制度が腐っていたとはいえ、長く続いた仕組みを一掃すれば混乱するだけという意見もある」

「そこは私も理解しています。でも、今が最大の転機です。王のいない今しか、大きく制度を変えることはできない。改革を中途半端に止めてしまえば、また同じような腐敗が繰り返されるだけです」


 パルメリアの説得力ある口調に、男性は考え込むように沈黙する。続いて農村の代表たちが声をそろえる。


「私たちは、パルメリア様がコレット領で示してきた農業改革を全国に広めてほしいと思っています。税制を見直し、農民が自立できるような仕組みがなければ、この国はいつまで経っても豊かにならない」

「そうね、私もその意見には賛成です。かつてコレット領が追い詰められていた状況を思えば、従来の税制度がいかに農村を苦しめていたかわかります。だからこそ、あの経験と知識を、全土へ応用したいの」


 パルメリアが穏やかに答えると、会場には一斉に同意の声や疑問の声が飛び交い始める。


 その光景を傍観していたユリウスは、いよいよここからが本番だと悟る。蜂起による勝利はただの始まりにすぎない。人々が実際に政治に参加し、互いに意見をぶつけ合いながら合意を形成する――革命の先にある本質的な試みが、今まさに動き出しているのだ。


 堂々と議論を主導するパルメリアの姿には、レイナーもユリウスも内心で強く胸を打たれていた。


 レイナーは幼馴染として彼女を見守ってきたが、この変化と成長ぶりはまぶしいほどに感じる。一方で、これほど大勢を率いる彼女との距離感を、少し寂しくも思う。また、ユリウスは彼女が大義を貫く姿を革命派の理想と重ねながら、どこか感情的な惹かれをも感じている。


 さらにガブリエルも、騎士として彼女を守る役割を担いながら、忠誠を超えた思いを心のどこかで抱き始めていた。ロデリックもまた、王太子の立場を捨てたいま、彼女の世界に踏み込みたいと願いつつ、自分にそれだけの価値があるのか自問している。


 ――こうして、パルメリアの周囲には、まるで「逆ハーレム」を思わせるようなさまざまな心情が渦巻いているが、当の彼女は政治と改革の多忙さに追われ、恋愛の機微を深く考える余裕はほとんどなかった。


(今は新体制を作ることで精一杯。それが人々のためになるなら、私の個人的な感情は二の次よ……)


 そう自分に言い聞かせながらも、例えば議会の合間にレイナーが優しい言葉をかけてくれたり、ユリウスが力強く「君と共に国を作りたい」と瞳を揺らしたり、ガブリエルが静かに支えようと寄り添ってくれたり、ロデリックが控えめな視線を送ってきたりすると、パルメリアの胸の奥はどうしようもなくざわついてしまう。


 だが、それを表に出すわけにもいかない。大勢の代表者が見守るなかでは、あくまで「新体制の中心人物」としての役割を果たすしかないのだ。

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