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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 第5章:革命の火蓋

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第36話 蜂起の連鎖①

 コレット領を起点とした改革と抵抗の火は、想像を超える広がりを見せ始めていた。


 当初、パルメリアたち義勇軍は、王国軍という圧倒的兵力を相手に「じり貧」な戦いを強いられると予想していた。ところが、地形を活かしたゲリラ戦や、領内外から続々と集まる志願兵の支援によって、コレット領は幾度もの危機を乗り越えることに成功し、その勝利が周囲の領地や民衆に大きな衝撃を与えていた。


 それだけではない。かつて「領主の命令に従うしかない」と諦めていた農民や下級貴族までが、各地で一斉に立ち上がり始めたのだ。革命派との連絡網が整備される中、王国全土のあちこちで、同様の蜂起が次々に起こる状況となった。


 コレット領周辺の森林地帯は、パルメリアたちにとってある意味「ホームグラウンド」である。道を熟知した農民や狩猟民たちが義勇軍に合流し、木々や崖を巧みに利用して王国軍を翻弄していた。


 王国軍は正面からの一斉突撃で一気に制圧する作戦を描いていたが、その思惑はコレット領の地形を活かしたゲリラ戦に阻まれ、思うように進軍できずに停滞。そこまではパルメリアにとって想定内の展開だった。


 しかし、ここからが誰にとっても大きな誤算だった。戦いの報せが周辺地域へ伝わるたびに、「コレット領の抵抗が功を奏している」という噂が人々の希望を刺激したのである。


「パルメリア・コレットが王国軍を押し返しているらしいぞ!」

「負けると思われていたのに、あの領地はまだ健在だ。ならば、私たちにもできるはず……!」


 こうした声は、各地の農民や下級領主、さらには都市の労働者階級にまで飛び火し、「革命派」に共鳴する蜂起が続々と発生していった。


 王国の西方には険しい山岳地帯が連なり、そこで暮らす人々は長らく大きな税負担に苦しめられていた。山の幸を収穫しながら細々と生活する彼らは、中央の政策から見放されがちで、領主たちもほとんど関心を寄せない状況だった。


 そんな折、パルメリアの義勇軍が「地形を活かした戦術」で王国軍に対抗しているという情報が山岳の村々に伝わった。元々、山の地形に慣れた住民たちは、いざとなれば地の利を駆使して戦える自信を潜在的に持っていたのだが、きっかけがなかっただけだ。


 そこへパルメリア陣営の小分隊が連絡を取りに訪れ、「今こそ搾取に終止符を打つ時だ」と呼びかけると、一気に火がついた。


「王国軍なんて、山道で襲えば分断できるんじゃないか?」

「山の急斜面を利用すれば、大規模な部隊は身動きが取りづらいはずだ。俺たちにも勝機はある!」


 こうして西方の山岳地帯でも蜂起が始まり、王国軍や保守派の部隊が分断され、物資輸送や連絡網に大きな支障を来すようになった。


 一方、南方に位置する大河沿いでは、小さな領地を統治する下級貴族たちが結託して「コレット領の改革手法を取り入れれば、自らも豊かになれるのではないか」と考え始めた。


 彼らは、これまでの大貴族の命令に黙って従っていただけだったが、パルメリアの行動が正面衝突でも勝利を得られることを証明し始めると、「私たちも独自のやり方で領地を守りたい」と意欲を示し始めたのだ。


 特に大河沿いの領地は肥沃な土地が多いため、これが王国軍や保守派の目に留まれば略奪対象となる可能性が高い。そこで、小領主たちが同盟を結び、対抗勢力として立ち上がった。川の流れを制御し、水門を操作して敵軍を足止めするなど、まさにパルメリアが進める「地形や環境を活かす戦術」の発展形が用いられ始める。


 初めは「自分たちの領地を守りたい」という利己的な思いからの行動だったが、そこで得られた小さな成功がさらに周辺地域を巻き込み、「一緒に改革を進めていこう」という機運へと変化していく。そして、その動きが王国中央へ向かう兵站(へいたん)ラインに大きな影響を与え、保守派の思惑を次々に狂わせた。


 コレット領が王国軍に対し善戦しているという報せは、王都や主要都市の労働者階級にも一条の光を射し込ませた。日々過酷な労働に喘いでいた人々が「この状況を変えられるかもしれない」と立ち上がるきっかけになったのである。


 彼らは必ずしも剣や槍を持つわけではないが、武器の製造や修理、情報の収集や連絡などで貢献するようになり、都市内部での蜂起計画にも参加する。ユリウス率いる革命派は、その熱量を見逃さずに組織化を進めた。


「コレット領が示したように、私たちが自ら動かなければ、未来は手に入らない!」

「ベルモント公爵の軍勢だって、完璧じゃない。いま混乱を起こせば、中央の支配は一気に揺らぐはずだ!」


 こうした声が広まり、都市部でも工房や商店が反乱の拠点となり得る状況に。労働者の蜂起は、王都の政治を根底から揺るがす爆弾にもなる可能性を秘めていた。


 パルメリアの元には、毎日のように各地の蜂起情報や支援要請が舞い込む。コレット領に続いて改革に乗り出そうとする小領地や自治都市が連携を求め、その勢いは日を追うごとに増大した。


 王国軍が当初イメージしていた「改革派とコレット領だけを潰せば全て解決」という構図が、いつの間にか「王国各地で起きる蜂起を一つひとつ鎮圧しなければならない」という大混乱へと変容していたのだ。


「パルメリア様、こちらは北方の鉱山地帯です。奴らが占領しようとしていたのに、住民たちが立ち上がり、見事追い返したとのことです!」

「ここは南東の港町からの連絡です。商船の支配を狙った保守派が押し寄せましたが、漁師たちが結束して追い払ったそうで、我々に協力する用意があるとの報告が……!」


 義勇軍の本部として機能する館では、こうした報告が絶え間なく読み上げられ、地図の上で王国中の拠点が次々に「コレット領側」へと塗り替えられていく。驚くべき速度で形勢が変化していくその様子に、パルメリア自身も思わず目を丸くすることがある。


(まさか、こんなに多くの人々が協力してくれるなんて……私たちが考えていた以上に、国中が変化を望んでいたのね)


 嬉しさと同時に、彼女の胸には大きな責任感がわき上がっていた。自分たちが中途半端に倒れたり、改革の先行きに(つまず)いたりすれば、これほどまでに期待を寄せる人々を裏切ることになるからだ。

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