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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 第5章:革命の火蓋

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第33話 覚悟の宣言①

 夜の闇が訪れてもなお、コレット公爵領の町には人々のざわめきが絶えなかった。広場に設置された簡易の篝火(かがりび)がゆらゆらと炎を揺らめかせ、その光の周囲には、領民から志願兵、そしてさまざまな立場の有志が集まっている。


 その中央に立つのは、公爵令嬢パルメリア。彼女は深紅のマントを肩にかけ、普段は落ち着いた表情を見せる面差しを、今は毅然(きぜん)と引き締めていた。これまでの改革の成果を信じて立ち上がった人々が期待に満ちた瞳を向けるなか、彼女は静かに視線をめぐらせ、深く息を吐く。


 数日前、ベルモント公爵派が王国軍を動かし、コレット領を含む各地で改革派を「討伐」しようとしているという情報がもたらされてから、領内の空気は急激に変わった。かつてパルメリアの改革で穏やかさを取り戻していた町や村も、軍事衝突の恐怖に(おび)え、日常の歯車を狂わせている。


「本当に戦になっちまうのか?」

「どうやって暮らせばいいんだ……」


 市場ではそんな声が絶えず、農民たちは収穫を前にうろたえ、商人たちは物流が止まることを恐れて戦々恐々としていた。せっかく広がりはじめた経済の活気が、兵の足音とともに潰されるかもしれない――その恐れは、どんなに改革を信じている人々の胸にも重くのしかかる。


 そして、領主であるパルメリアが何を決断するのか、皆が固唾をのんで注目していた。彼女はこれまで、ただ荒廃した領地を立て直すために尽力してきたが、今や王国全体を巻き込む動乱の中心に立たざるを得ない状況に追い込まれている。


 そんな空気の中、夜が更け始めた頃、領内の広場には人々が次々と姿を現した。そこには農民や商人だけでなく、遠くの村から駆けつけた者や、革命派の青年たち、そしてわずかながら武装した義勇兵の姿も混じっている。


 篝火(かがりび)の光が闇を切り裂くようにゆらめき、その明かりを受けて立つパルメリアの姿が神々しくさえ見える、という者もいた。もはや誰もが分かっている――この領地が、王国軍と正面から対峙する日が近いということを。


「……パルメリア様は何かをおっしゃるご様子だ」

「そりゃそうだろう。このままじゃ、あの軍勢に蹂躙されるだけだって話だからな」


 ささやきが広がるなか、パルメリアは大勢の視線を静かに受け止めていた。彼女の隣には、護衛騎士のガブリエルが控えめに立ち、周囲に鋭い眼差しを巡らせている。後方にはクラリスが資料を抱えて待機し、レイナーとユリウスが少し離れた位置で彼女の言葉を見守るように立っていた。


 これまでは、内部の改革や識字教育、農業のテコ入れなどで領地を豊かにするのがパルメリアの主な活動だった。しかし、保守派の暴走が始まった今、もう「身を守るだけ」では済まない。彼女の背筋には、困難な道を選ばざるを得ない重圧がくっきりと感じられる。


 しばしの沈黙を破るように、パルメリアはかすかに顎を上げ、篝火(かがりび)に照らされた人々を見渡した。その瞳には不安を振り払う決意と、民衆への深い思いが宿っている。そして、はっきりとした声が夜の闇を貫いた。


「皆さん、こんな遅い時間に集まっていただき、ありがとうございます。……ご存じのとおり、ベルモント公爵が王国軍を動かし、このコレット領を『反逆の地』として攻めようとしています。そんな無茶な話が、王都でも堂々とささやかれているんです」


 言葉の一つひとつが重く、周囲に沈鬱な空気を生む。しかし、彼女の語り口は、妙に落ち着きと力強さを兼ね備えていた。あえて小さなため息をつくように続ける。


「本当なら、こんな大それた戦なんて起こしたくない。皆さんも、日々の生活を脅かされたくはないでしょう。でも、彼らが攻めてくるなら、どうか聞いてください。……私たちには、もう退く場所がありません。ここで屈服してしまったら、改革が築いてきた未来も、皆さんが勝ち得た生活も、すべて踏みにじられることになるの」


 彼女の声が夜風に乗り、広場に広がる。農民たちは互いに顔を見合わせ、かすかに唇を噛みしめている。誰もが疑問を抱いているはずだ――本当に戦うのか? 勝てるのか?


 しかし、その疑問に押し潰される前に、パルメリアは続けざまに言葉を放つ。


「私は、あなたたちの努力が無駄にされるのを見過ごせません。かつて、この領地は荒れていました。でも皆さんの力で復興し、穏やかな暮らしを取り戻し、前よりも豊かな実りを得てきました。それは決して偶然や気まぐれではなく、積み重ねた行動の成果です。それを今、たったひと握りの権力者の都合で粉々にされるなんて、絶対に嫌なんです」


 その瞬間、農民の中から低く震える声が上がった。


「そうだ……オレたちは、パルメリア様と一緒に畑を耕し、識字も教わって、ようやく昔のような貧しい生活から抜け出せたんだ。今さら元には戻りたくない……」


 その声に呼応するかのように、別の商人も拳を握りしめて言う。


「俺たちが手に入れた商売の自由や利益を失うわけにはいかない。ここで踏ん張らなきゃ、あいつらの思いどおりになってしまうだけだ」


 人々の中にある「守りたいもの」への思いが、じわじわと熱を帯び始める。王国軍と聞けば、恐怖で後退りしたくなるのは当然だが、それ以上に今の暮らしを壊されたくない気持ちが強いのだ。


 場の空気が一段と熱を帯びていくなか、レイナーが人々の間を縫うように前へ進み出た。普段は柔らかな表情の彼も、今はどこか厳しく険しい面持ちをしている。


「みんな、聞いてほしい。この領地を守るためには、パルメリアと共に戦うしかない。僕たちは大貴族や王国軍に対して、力では劣るかもしれない。だけど、ここには僕らが(つちか)った結束があるんだ。農民も、商人も、工房の職人も――みんなの力を合わせれば、軍勢にも対抗できる道がある」


 彼の言葉に、いくつかのうなずきが返る。事実、コレット領ではパルメリアの改革を通じて各層が協力し合う意識が高まっていた。それは単なる領主と領民の関係を超え、互いに助け合うコミュニティを形成していたのだ。


 さらに、ユリウスが大きく腕を組みながら、革命派としての立場を示すように声を張り上げる。


「俺たち革命派は、中央の腐敗を断ち切るためにずっと行動してきた。でも、やっぱり力不足を感じていたんだ。ここでパルメリアが立ち上がり、領内が一丸となってくれれば、あの王国軍にも一泡吹かせられるはずだ。――いや、そうするしかない」


 その鋭い眼差しは、どこまでも本気だった。民衆の中には、革命派と聞くと過激なイメージを抱く者もいるが、ユリウスが語る理想は決して無謀ではなく、現状を変えるために熱量を注いできた結果にほかならない。


 人々は口々に「よし、やるしかない」と決意を固め始め、広間の空気はさらなる高揚感を帯びていく。そこには恐怖もあるが、それ以上の「闘う理由」を見いだした者たちの覚悟が充満していた。


 興奮に包まれる一同を見渡しながら、パルメリアは手を軽く挙げて制するように呼吸を整えた。その瞳には、全身全霊で立ち向かおうとする熱がこもっている。


 一瞬、彼女は数日前に王国軍侵攻の報せを受けたときの衝撃を思い起こした。だが、もうためらう余地はどこにもない。彼女は意を決したかのように声を張り上げる。


「――私がこの地に来たのは、単に公爵令嬢という立場を守るためだけではありませんでした。皆さんと一緒に新しい可能性を探り、荒れていた畑や行政を立て直してきました。ときには喧嘩もありましたが、それでも手を取り合ってきた結果、コレット領は大きく変わったと自負しています」


 彼女の言葉に、農民たちや職人、商人らの中から「そうだ」「あのときは本当に助かった」「私たちも恩がある」といった声が次々に上がる。パルメリアの改革がもたらした恩恵を肌で感じている人々が、今こそその力を返そうと思っているのだ。


「今、ベルモント公爵派が王国軍を動かし、私たちの意思を踏みにじろうとしています。もしここで諦めれば、もう二度と立ち上がれないかもしれない。だからこそ、私はこの改革を守るために戦います。……ただ、何も考えずに突っ込むわけではありません。私たちは、正当な理由を持って抵抗し、民を守り、腐敗を糾弾する。それが本来の筋だと信じています」


 本来の筋――その言葉に、民衆は心を揺さぶられる。力に頼るのではなく、正当性と信念を掲げて進む姿勢が、彼女の言葉をさらに輝かせているのだ。


「私は皆さんに強制はしません。だけど、ここで立ち上がらなければ、今まで私たちが築いてきたものが全部失われる可能性が高い。もし、一緒に戦ってくれるなら、どうか力を貸してください。……私も、あなたたちのために命を懸けます」


 その瞬間、会場にいた誰もが息を呑むほどの緊張と感動が走った。「領主」や「改革者」という地位を超え、パルメリアが全てを賭してでも戦うと宣言したのだ。


 やがて、一人の壮年農民が泣きそうな顔をしながら前へ出て、震える声で口を開く。


「私の畑は、ほんの数年前まで荒れていて、どうしようもなかったんだ。それをパルメリア様に助けてもらって……今は家族が笑って暮らせるようになった。俺は……もうあの地獄に戻りたくない。だから、戦うと言うなら、俺も参加するよ!」


 その言葉に人々から拍手や賛同の声が沸き起こり、若い商人が続ける。


「俺だってそうだ。商売を盛り上げようと必死だったけど、昔のコレット領ではどうにもならなかった。それが今じゃ取引が活発になって、家族を養う余裕もある。この生活を奪われるなんてたまらない。ならば、立ち上がるしかないさ!」


 感情の波が一気に広がり、母親が幼子を抱えたまま「子どもたちの将来のためにも応援する」と涙ながらに宣言したり、ある老職人が「わしはもう年寄りだが、道具作りで力を貸す」と申し出たりと、次々に意志表示が起こった。


 熱気が広場を満たし、夜の闇がまるで光に照らされるかのような錯覚さえ覚えるほどだった。

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