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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 第4章:暴かれる腐敗

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第30話 決定的証拠②

 一連の打ち合わせを終え、各自が退出した後も、パルメリアは執務室に残り、書類を見つめながら夜の静寂に沈んでいた。


 窓の外にはほのかな月明かりが差し込んでいるが、彼女の頭の中は激しく思考を巡らせている。ベルモント公爵派にとって、これらの証拠は致命傷となるはずだ。しかし、同時に彼女自身や仲間たちにも危険が迫るに違いない。


 それでも、ここまで来て後退するわけにはいかない。


(私の本来の目的は「追放エンド」を避けることだった。だけど、今やそんな次元じゃない。多くの人が、この国の未来を私に託してくれている。それなら――)


 パルメリアは深く息を吐いて、決意を固める。


 自分の中で「ただ生き延びるため」だった改革が、「国を変えるため」の改革へと確固たるかたちへ進化しているのを、彼女自身がいま強く自覚しているのだ。


 書類の山を整頓し、ペンを置いたパルメリアは、小さく微笑む。


 ここには王室や公爵派の不正を突き崩すための決定的証拠が山積みにされている。今後はタイミングを見計らい、ロデリックとの連携を本格化させることで、腐敗した貴族たちを一挙に糾弾できるだろう。


 それは同時に、彼女自身が長く続く貴族社会の歪みと対峙することを意味してもいる。


「絶対に、勝ち抜いてみせる。この国のあり方を変えるために――」


 暗い部屋に、パルメリアの低い独白が小さく響く。


 机の上には一束の封書が置かれており、その宛名は王太子ロデリック宛となっていた。今夜中に密かに届け、殿下がこれを見れば、公爵派への圧力は格段に増すはずだ。


 ただし、一度戦いの火蓋が切られれば、ベルモント公爵派は一切の手加減をしないだろう。再び暗殺や強攻策に打って出る可能性が高い。しかし、それでもパルメリアの仲間たち――クラリスやレイナー、ガブリエル、そしてユリウスまでもがそばにいるならば、決して負けるつもりはない。


(どれだけ困難な道でも、みんなの想いを無にするわけにはいかない。私は最後まで戦い抜くわ)


 彼女は静かに立ち上がり、執務室の窓辺へと歩み寄る。カーテンを開けば、澄んだ月明かりが差し込み、金色の髪が(ほの)白く照らされる。


 遠くから風が吹き込み、パルメリアはその冷気を胸いっぱいに吸い込んだ。まるでこの国を覆う暗い闇が、そのうちすべて吹き飛んでいく前触れのようでもある。


 こうしてパルメリアは、ベルモント公爵たちが繰り返す横領と密貿易の証拠を手にし、最終的な一撃を放つ準備を整え始めていた。


 王太子ロデリックとの極秘協力関係が大きな支えとなり、彼女は王国の中枢へと攻め入る足がかりを手にしつつある。もちろん、革命派のユリウスも、一挙に貴族社会を揺るがすために動き始めており、コレット領の仲間たちも万全の態勢でパルメリアをサポートしている。


 数ヶ月前までは想像すらできなかった「国全体を変える」道が、いまはっきりと彼女の前に現れているのだ。


 その夜、書類をすべてまとめ終えたパルメリアは、椅子の背に軽くもたれかかった。疲労が全身を襲うが、瞳には揺るぎない光が宿っている。


 すぐそばにはガブリエルが控えており、警戒心を解かずに立っている。その背後にはレイナーとクラリスが部屋の外で準備をし、ユリウスの手下たちも屋敷の周辺を見回る手配を済ませていた。もはや、これだけの布陣があれば、保守派が単純な暗殺でパルメリアを消そうとしても容易にはいかないだろう。


(いよいよ、大詰めね。大規模な衝突は避けられないかもしれない。でも、この証拠を握っている以上、ベルモント公爵たちを追い詰める好機が訪れるはず)


 パルメリアはうっすらと笑みを浮かべ、机の上の封書に手を伸ばす。それには「ロデリック殿下に直接お渡しください」とオズワルドが手書きでメモを添えている。


 すべてを賭けたこの一手が成功すれば、コレット領だけでなく、王国全体の腐敗を洗い出せる可能性がある。もちろん、相手も必死に抵抗するだろう。だが、このまま腐敗が続けば、農民も都市の民も、そして彼女自身も、いつか破滅に陥るのは目に見えている。


 ――だからこそ、これが彼女に許された唯一の選択だ。


 窓の外、夜空には一条の星が瞬いている。パルメリアはその光を見つめながら、前世の自分をふと思い起こす。


 「ただの会社員」だった自分が、まさか異世界で貴族令嬢となり、国家規模の腐敗と対峙するなんて想像もしなかった。しかも、最初の目的はゲームの「追放エンド」を回避するだけだったはず。それが今はどうだろう――王太子と手を組み、革命派とも必要に応じて協力し、ベルモント公爵という巨大な敵を打倒しようとしている。


 感慨はつきないが、同時に不思議と胸が高鳴る。この先に待ち受けるのは、決して平穏な道などではない。混乱と危険はさらに増すだろう。それでも、こうしてつかんだ決定的証拠が、彼女と仲間たちを勝利へと導く道しるべになると信じている。


(もう後戻りはできない。だからこそ、この国を守り抜くために――私たちは最後まで戦い続ける)


 パルメリアは立ち上がり、封書を手に取ってガブリエルを振り返った。騎士は黙ってうなずき、後ろに控えるレイナーとクラリスにも視線をやる。三人とも、彼女が何をしようとしているのかを十分理解しているようだった。


「皆の協力に感謝するわ。あとは、この書簡を殿下に届け、さらに慎重に動くタイミングを見計らいましょう。万全を期して、絶対に公爵派に隙を与えないように」


 そう言い残すと、パルメリアは仲間たちを見回す。それぞれの表情からは、不安と緊張と、わずかな期待が入り混じった色が見て取れた。


 だが、彼女が放つ決意の光は、その不安をかき消すほど強烈なものであり、誰もが気を引き締めるように姿勢を正した。


 こうしてパルメリアと仲間たちは、ベルモント公爵が長年にわたって築き上げてきた闇の利権にメスを入れるための準備を完了した。王太子ロデリックとの内密の連携によって、書類を公表する「完璧な舞台」を整えることさえできれば、公爵派と腐敗した貴族たちを一網打尽にできるはずだ。


 もちろん、そこに至るまでの道のりは決して平坦ではない。公爵派が激しい抵抗に出るのは目に見えているし、まだまだ不確定要素は多い。


 だが今、彼女たちの手には「決定的証拠」がある。腐敗を暴くに足るだけの圧倒的な材料を握っているのだ。


 夜の館に、はやい足音がかすかに響く。封書を運ぶ使者が、こっそりと出発の準備を始めた。廊下の窓からのぞく月光は、静寂をたたえながらも、次に起こる激流を予感させるかのように冷たく光っている。


 パルメリアは、深く息を吸って再度自分を奮い立たせる。前世とは違うこの世界で、仲間たちと共に進む道は、もはや「追放エンド」を回避する小さな目標ではなく、「国全体を救う」という遠大なゴールへ向けた本物の挑戦に変わっていた。


(ベルモント公爵派の策略も、革命派の過激さも、王太子ロデリックの真意も――全部を見据えて、私は自分の道を歩き続ける)


 運命の歯車は、すでに大きく回り始めている。


 遠くで風が吹き抜け、夜の静けさをわずかに揺らす。そのかすかな音を聞きながら、パルメリアは唇をきつく結んだ。次なる一手を打つのは、自分の意志と仲間たちの協力が重なり合う、まさにこの瞬間――。


 こうして決定的証拠を手に入れた彼女は、腐敗した貴族社会を打ち破るための最終局面へ向けて、加速度的に準備を進めていくのである。証拠の力と多彩な仲間たちの援護があれば、どんな強大な敵にも立ち向かうことができるだろう。


 深い夜の闇を切り裂くように、パルメリアの改革はさらに加速していく。その行き着く先に、どのような勝利が、そしてどのような変革が待っているのか――その全貌はまだ明らかではない。


 しかし、彼女の瞳にはもう揺るぎない炎が宿っていた。現実に手を伸ばし、腐敗の根を摘み取るための大きな戦いが、今まさに幕を開けようとしているのだ。

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