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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 第3章:恋と葛藤

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第18話 揺れる想い②

 さらに、王太子がわざわざパルメリアに関心を持っているという話を耳にすると、レイナーは胸を押し潰されるような気持ちになる。王太子ロデリックといえば、体制を背負うこの国の頂点に立つ存在であり、どんな高位貴族でも敵わないほどの権威を持つ。そんな男がパルメリアを称賛し、興味を示しているのなら、いずれ二人が特別な関係になるかもしれない――そう考えるだけで頭が真っ白になる。


(正直、僕なんかが太刀打ちできる相手じゃない。……だけど、だからって何もしないわけにはいかない)


 馬屋の片隅で、レイナーは拳を握りしめる。幼馴染というだけでは、もはや自分の想いを隠しきれない。だが、いまの彼女をどう支えればいいのか、どうすれば対等な存在になれるのか、答えは見えないままだ。


 とはいえ、レイナーがパルメリアの幸せを願わないわけではない。もし彼女が本当に王太子と結ばれ、それが領地や国全体にとって良い結果をもたらすなら、レイナーも祝福したい気持ちはある――そう頭では理解している。


 しかし、心の奥底には「彼女を誰かに取られてしまう」ような喪失感が渦巻いているのも事実だ。昔のように気安く言葉を交わし、同じ目線で未来を語れる日々は戻らないのか、と考えると苦しくて仕方がない。


(あの優しい笑顔は、もう僕だけに向けられたものじゃない。周囲には彼女を慕う家臣や領民がたくさんいて、さらには王太子殿下までが……)


 その思いを強く自覚すればするほど、レイナーは胸の奥がきゅっと締めつけられる。その感覚は切なく痛いが、同時に「それでも彼女のために何かしたい」という強い衝動を呼び起こす。


 どのくらい馬屋で考え込んでいたのか、気づけば夕闇が深まり、空にはわずかな星が瞬き始めていた。レイナーは愛馬の背を撫でながら、深く息を吸い込み、夜の冷たい空気を肺いっぱいに取り込む。


「……自分の気持ちを誤魔化していたけど、もう後戻りはできないな。僕は、ただの幼馴染じゃ満足できない。彼女が王太子や他の誰かを選ぶとしても、納得するために、もっと強くならないといけない」


 声に出して言うと、不思議と少しだけ肩の力が抜ける。恋という名の渦中で揺れる心を、言葉にして形にすると、ほんの少し現実に向き合いやすくなるのかもしれない。


 馬屋を出て行こうとする彼の耳に、「王太子殿下がまたこちらに来るかも……」という使用人たちの噂が遠くからかすかに聞こえる。それがまるで、自分の不安を煽るような残響となってレイナーの胸を突くが、ここで立ち止まっても何も変わらない。彼はかつてのように笑ってパルメリアを支えるわけにもいかなくなってしまった――むしろ、本当の意味で彼女の力になれるよう、姿を変えていく必要があると痛感している。


 外に出ると、夜風が頬を()で、淡い月明かりが邸内の中庭を照らしていた。レイナーはしばし立ち止まり、面差しを上げて月を見つめる。その穏やかな光の下で、幼い頃のパルメリアの笑顔が頭をかすめる。


(あの花畑で一緒に笑い合った日々……もし今の彼女に会わせたら、なんと言うだろう。『もう一度、昔みたいに安心させて』って笑うのか、それとも『私は前を向いてるから、追いついてきて』と背を向けるのか……)


 レイナーは苦く笑いながらも、小さく拳を握って決意を新たにする。今、彼女には王太子や家臣、学者たち――多くの人々が取り巻いていて、誰かが一歩近づいただけでは簡単に振り向くとは限らない。それなら、自分をさらに磨き、どんな困難にも立ち向かうだけの力と存在感を得なければならないと思うのだ。


「僕はどうしても、彼女を支えたいし、その笑顔を守りたい。……ただの幼馴染で終わる気はないんだ」


 その声は夜の闇に溶け込み、誰にも聞かれることなく消えていく。けれどレイナーの胸には確かな炎が宿るように感じられた。


 幼い頃の無邪気な時代には気づきもしなかった、自分自身の恋心。その切なさと嬉しさが混ざり合い、胸を濡らすような痛みを与える。けれど、その痛みこそが、今の彼を突き動かす原動力なのかもしれない。


 そうしてレイナーは夜の庭を抜け、屋敷に戻っていく。気持ちを新たにしたとはいえ、具体的に何をどう変えればいいのかはまだ手探りの状態だ。パルメリアから見れば、自分は下級貴族の次男坊にすぎない。それでも、進んでいる彼女の足もとを支えるくらいはできると信じている。


 もし王太子ロデリックがパルメリアに強い興味を抱き、彼女のことを奪い去ってしまうのだとしても、そのときはそのとき。後悔しないように、今のうちにできる限りの力を尽くしたい。


 恋の痛みと使命感――二つの感情を胸に抱きながら、レイナーは静かに廊下を進む。明日の朝にはまた仕事が待っているし、彼女の改革を支えるために奔走する日々は続く。


 だが、今夜だけは少し余計に眠れそうにない。パルメリアの笑顔を思い浮かべれば浮かべるほど、彼女への溢れそうな想いが恋と呼ばれるものなのだと嫌でも自覚してしまうからだ。王太子という圧倒的な存在を前に、何ができるかわからないが、それでも彼女を支える想いだけは譲りたくない――その切なさと誓いが、彼の心に深く根を張る。


 こうして、邸内の明かりが少しずつ落ちていくなか、レイナーは自室へと歩を進める。幼い頃の無垢な関係から一線を越えた、この切ない恋心は、果たしてどこへ導かれるのか。彼自身、答えはまだ見えないまま――それでも、胸の奥にある熱は、これまでよりも強く、彼を支え、彼を突き動かしていくだろう。

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