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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 第2章:変革の足音

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第15話 革命の火種②

 夜になり、執務室で明かりを落としかけたパルメリアは、机の端に置いたユリウスの情報が詰まった書類をもう一度開く。表紙には「革命派……ユリウス・ヴァレス…」と赤字で書かれ、いくつもの断片的な情報が挟まれている。


 もしユリウスが穏健な道を選ぶなら、彼らと協力できる可能性もある。だが、過激な暴力に頼る集団であるなら、パルメリアの目指す改革とは相容れないだろう。


(革命、という言葉が現実味を帯びてくるなんて。私の改革が国全体の体制を揺るがすきっかけになるとしたら、これから先はもっと慎重に動かなきゃいけないわ)


 同時に、王国の仕組みそのものと対峙する日が来るのかもしれないという恐れも胸をよぎる。ベルモント派との衝突など序の口にすぎない――国家規模の変革が生まれたとき、その渦中にいる彼女はどうするのか。


 そっとペンを取り、パルメリアは小さなメモを走り書きする。「ユリウスの詳細を調査」「革命派との接触方法」「これ以上過激化しないための策」など、箇条書きの項目が次々に浮かぶが、今すぐ結論を出せる内容ではない。


 こうして、パルメリアが動かした小さな改革の波は、いつしか国全体に広がる火種を撒き散らしていた。その火種は「コレット領が成功例だ」という噂とともに、王都や各地で鬱積(うっせき)する民衆の不満に着火しようとしている。


 革命派リーダーのユリウス・ヴァレスは「民衆の力で国を変える」という大義を掲げ、もともと不満を抱えていた人々を吸い寄せているらしい。パルメリアからすれば、その動きがどんな形で彼女の改革に影響を与えるかは未知数だが、一つ確かなのは――改革という光が強まるほど、その影もまた濃くなるということ。


(革命って……。もしかすると、ヒロインたちが一丸となって戦うような、あのゲームの終盤を思い起こさせるわ。でも、これは現実。私が下手を打てば、多くの人を危険に巻き込むかもしれない)


 馬車の中や執務室の机に向かう合間、パルメリアはその不穏な可能性を否応なく意識し始めていた。


 一方、領内では「コレット家の改革が国中に広まればいいのに」という声が増えつつある。村人や商人が互いに情報を交換するなか、王都や他領から流れてくる「革命の噂」も混じり合って、どこか落ち着かない空気が漂い始めている。


 ある農民が「俺たちも立ち上がれば、もっと税が軽くなるのか?」とつぶやけば、周囲の者が「いや、そんな危険なことをしたら、軍が出てくるぞ」と慌てて止める――そんな風景が、各地でちらほら見られるようだ。


 どうやら人々の中でくすぶっていた不満が、パルメリアの成功例によって「自分たちにもできるかもしれない」と形を取り始めている。それが良い方向に向かうか、あるいは爆発的な動乱を起こすかは、まだ誰にもわからない。


 夜が更けた執務室。パルメリアはランプの灯りに照らされた報告書を再度読み込み、しばし考え込む。

「革命派」「ユリウス・ヴァレス」「体制への反発が各地で高まる」――これらの言葉は、彼女が想定していたよりもはるかに早く芽吹き始めた現実を映し出している。


 だが、彼女の目標はあくまで「領地の改革を成功させ、民衆の生活を守ること」であり、それが国全体にも及ぶならそれはそれで歓迎すべきだが、過激な方法で国を揺るがすのは望んでいない。勢いに任せて血を流すような大変革など、彼女の望むところではないからだ。


(結局、どう動くかは私次第。ユリウスという人物がどんな理念を持っているのか、ちゃんと確かめる必要があるわ。革命という言葉に踊らされて、領民が辛い目に遭うのは避けたい)


 彼女はそう心に決め、オズワルドらに追加の調査を指示する用紙を手に取った。もし革命派と平和的に連携できる可能性があるなら模索したいし、過激な道を進むなら止めるか対立するしかない。いずれにせよ、自分が何もしなければ物語は流れに身をまかせるだけだ。


 こうして、コレット公爵領の小さな改革は国全体を揺るがす革命の火種に火をつけるきっかけとなり始めた。パルメリア自身が予想していたよりも早く、人々の間に「体制を変えたい」という思いが芽生えつつあり、それを具体的な行動へと駆り立てようとする「革命派」という存在が確かに動き始めている。


 パルメリアは、これまで抱いていた想像をさらに超えた事態へ足を踏み入れようとしているのを感じ、胸に抑えきれない緊張とわずかな高揚が入り混じる。農業改革や学舎教育など、地道に(つちか)ってきた成果が「革命」と呼ばれる形で爆発すれば、最悪の場合、国中が大混乱に(おちい)る可能性もある。だが、それが民衆の正当な声を代弁する運動として成熟すれば、王国全体が大きく変わる未来もあり得るのだ。


 静まり返った深夜の執務室で、パルメリアは書類の束を整えながら唇を引き結ぶ。


(後戻りはできない。私がまいた改革の種が、王国全土に広がっている。その炎がどう燃え広がるのかは、私の選択と行動にかかっているわ)


 窓を開けると、月明かりが穏やかな光で室内を照らす。外の闇の奥底で、まだ姿を見せぬユリウス・ヴァレスが民衆を扇動し、この国を激変させる運命を手繰り寄せているのかもしれない――そう思うと、パルメリアは小さく身震いする感覚を覚える。


 しかし、その怖れと同時に「国そのものが変わるかもしれない」という期待感が芽生えるのも事実だ。腐敗と闇に支配されていた王国が、変革によって明るい未来を手に入れる可能性があるなら、自分ができることをすべて注ぎ込む覚悟がある。


 こうして、コレット公爵領から広がった小さな改革の灯火は、いつしか革命という大きな炎の予感を孕んで王国全土を照らそうとしていた。それは、パルメリアにとっても想定外の規模だが、もはや止めることはできないだろう。


 彼女は窓を閉じると、深く息をついてペンを握りしめる。すべてはこれから――未来を決めるのは、自分の行動と決断の先にある。庶民の革命か、それとも秩序ある改革か。その狭間で、パルメリア・コレットの物語は、ますます大きな波乱と可能性へ突き進んでいく。

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