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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 第2章:変革の足音

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第15話 革命の火種①

 コレット公爵領の改革が進むにつれ、領内の活気は確実に高まりを見せ始めていた。農業改革や基礎教育の普及が着実に形を成し、いくつもの村が少しずつ安定した収穫と新たな知識を手にしはじめている。


 しかし、そうした変化は同時に、王国全土に広がる暗部を浮き彫りにする結果となった。――コレット領外の諸地域では「彼女がいったい何をやっているのか」「その改革とやらが本当に成功しているのか」と噂し合い、さらには「もしあの令嬢が国全体を動かしたらどうなるだろう」と、不穏な期待や警戒を抱く声が少しずつささやかれるようになったのだ。


 都市部や他の貴族領、そして遠方の農村からも、「コレット領が驚くほど立ち直ってきたらしい」「荒れ果てた地をわずかな期間で見違えるほどにしたとか」といった話題が、街道を行き交う行商人によって伝えられている。


 ある街角では、旅人風の男が仲間に向かってこう話す。


「聞いたか? コレット家の公爵令嬢が、村々に学舎を作ったり、新しい農法を導入したりしてるらしい。荒れ果てていた土地がそこそこ活気づいてるとか」

「そんな話が本当なら、うちの領地でも取り入れたらいいのにな……でも、貴族様は誰も動かんしなあ」


 そんな会話に耳を傾ける人たちは、一様に「まさか」と半信半疑な顔をしつつも、どこか現状への不満を抱えている者が多い。特に厳しい税や搾取に喘いでいる民衆ほど、「あの領地が本当に変わったのなら、私たちも何とかできないのか」と希望をかきたてられるようだ。


 一部では、「パルメリア・コレットが王都の権力者を出し抜いた」といった誇大な噂が飛び交い、「彼女なら国全体を変えてくれるかもしれない」とささやかれるほど。これらの噂の盛り上がりが、王国にくすぶる民衆の不満を刺激し始めているのは確かだった。


 ある日の午後、パルメリアは新たに学舎を設ける候補地となった小さな村を訪れ、教師たちとの打ち合わせを済ませた帰り道だった。馬車に乗り込む間際、村の人々が交わしていた会話が、彼女の耳に飛び込む。


「コレット領がこんなに変わったんなら、国全体だって変えられないもんかね」

「俺たちにも何かできるのか? でも、貴族に刃向かうわけにはいかないし……」


 パルメリアはふと足を止め、そっと耳を傾ける。いつの間にか、自分の改革が領民だけでなく王国の多くの民衆を鼓舞し始めている。思いがけない大きな波紋に、彼女は内心で戸惑いつつも、どこか底知れぬ可能性を感じていた。


(まさか私の動きが、こんな広範囲に影響を与えているなんて。最初はただ領民を救うための改革だったのに……)


 馬車の扉を閉めながら、パルメリアは小さくため息をつく。もしこれが正しい方向へ進めば、より大きな力を得るかもしれない。しかし、(いびつ)な形で膨れ上がれば、大きな混乱を引き起こす危険もある。それが、今のパルメリアには薄々わかっていた。


 その日の夕暮れ、遠くなっていく村の景色を馬車の窓から見つめながら、彼女は心の中で静かに言い聞かせる。


(私が進めているのは、あくまで領地内の改革。それが国全体にどんな影響を与えるかは、まだ想像もつかない。でも、誰かが動けば、きっと波紋は広がっていくのね)


 館に戻ると、家令のオズワルドが険しい面持ちで執務室へ現れた。いつも冷静な彼がわずかに焦りを滲ませているところを見ると、ただ事ではないらしい。


 オズワルドは深く頭を下げ、差し出した書類をパルメリアに示しながら低い声で告げる。


「お嬢様、『革命派』を名乗る組織が、民衆の不満を吸い上げて動き始めたようです。その中心人物がユリウス・ヴァレスという青年で、危険な思想を唱えているという話もあり……すでに一部の都市部では彼らの影響が広がりつつあるとか」

「革命派……ユリウス・ヴァレス……聞いたことがある名前だわ。たしか、都市部の学生や労働者をまとめていると言われている人物ね」


 パルメリアは書類の内容に目を落としながら、前世のゲームで断片的に見覚えのある名前だと感じ、脳裏を掠める記憶を探る。ゲームでは革命の火種を巻き起こすリーダーとして登場し、終盤で体制を揺るがす存在になるはずの男――その存在が、今こうして現実の問題として浮上し始めているのだ。


 オズワルドの報告によれば、ユリウスは都市部を中心とした過激な組織を率いているらしい。王室や貴族の腐敗に対する民衆の不満を巧みに取り込み、いずれ大規模な行動に出るのではないか――と噂されている。


 そして何より、今のコレット公爵領での改革を「成功例」として取り上げているという話が、パルメリアを動揺させた。農民や職人の間で、「令嬢があれだけの変革を起こせるなら、私たちにもできるはずだ」と期待を抱く者が増えているのだという。


「民衆が力を合わせれば、王国を変えられるかもしれない……。ユリウスたちはそう鼓舞しているようです。実際、コレット領が農業や教育で成果を出し始めているのは事実ですから」


 オズワルドは苦い顔のままそう続け、パルメリアに書類を指し示す。そこには、都市部で集会が行われた際「コレット領を見よ!」というスローガンが飛び交ったという報告まで記されていた。


「私の改革を成功例として?……そんな大きな話にしたつもりはないのだけれど。ユリウス・ヴァレス……革命なんて大事にならなければいいのだけど」


 パルメリアは書類を手でそっと撫で、深い思案に沈む。自分がまいた「改革の種」がいつの間にか「革命」という火種に成長しかけているなんて、想定外としか言いようがない。しかし、体制に不満を抱く民衆がいる以上、その火が燃え上がる可能性は大いにあるだろう。

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