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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第三部 第4章:滅びの足音

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第115話 失われた希望③

 ある夕暮れ、パルメリアは屋敷のバルコニーに立ち、薄闇が降りていく空を眺めていた。鳥の群れが低く飛び交い、遠くの建物からは煙が立ち昇る。風が冷たく頬を撫でる中、彼女はそっとつぶやく。


 その声は誰にも聞かれない、ひとりきりの独白だった。


「……私が何もしないと決めた以上、もう周りも私を見限ってくれたみたいね。ええ、それでいいのよ。そうやって失望して、もう私なんかに期待しないで……。その方が痛みが少なく済むわ」


 視線の先には、廃墟のように暗く沈む街並み。過去にどんなにぎわいがあったとしても、今は深い絶望の中に沈んでいるようにしか見えない。まるで自分の心象風景がそのまま投影されているかのような、冷たい世界だ。


 ほんの少しの前まで彼女を頼りにしていた人々も、今ではその姿を見ようともしない――いや、見たくもないのだろう。


 わずかな罪悪感が喉に引っかかるような感覚を呼び起こすが、パルメリアは唇を噛んで振り払う。


「もし、今から動こうなんて思ったら、また地獄が広がるのかもしれないし……。私にはもう、その責任を負う気力なんて残っていないの。――誰もが私を必要としないなら、それで十分だわ」


 まるで念を押すように、彼女はバルコニーの欄干にすがる手に力を込める。


 先日のレイナーとのやり取り、ユリウスの情熱的な姿勢、クラリスの真摯な研究心――そうした記憶が頭をかすめ、心がほんの一瞬だけきしむ。


 しかし、すぐに「もう遅い」と言い聞かせるように目を伏せた。


(私はこの国で最後まで拒絶されればいい。そうすれば、誰も私に無駄な期待を抱かず、余計な失望も生まれない。ふふっ……それがいちばん穏やかな終わり方でしょう?)


 ――その思考が正しいのか、自分でも分からない。しかし、もう選択肢は残されていないような気がする。


 忌まわしい過去の革命と粛清を思い出すたび、行動する恐怖が身を蝕む。仲間を切り捨て、血の海を生み出し、最後には自分も処刑された――あの光景を二度と繰り返したくない。


 だから、今さら誰かの呼びかけに応じてはならない。少しでも疑いを抱けば、すべてが一気に崩れていく。それを防ぐためには、こうして冷たく拒み続けるしかないのだ。


「……そう、もう私なんかに期待しないで。むしろ、早く私を忘れて。いずれ国が滅ぶかどうかは知らないけれど、少なくとも私が介入して血を流すよりはマシだと思うから……」


 つぶやき終えても、彼女の胸は痛む。これは自分自身への言い訳であり、同時に正当化かもしれない。だが、そうでもしなければ心が潰れてしまう。


 夕焼けが次第に紫の闇へと変わり、王都の屋根の端が濃い影を帯びていく。遠くから誰かの叫び声が聞こえるが、内容は定かではない。取り締まりの兵士と小競り合いしているのか、あるいは別のトラブルか――。


 けれど、パルメリアはもう耳を傾けようとしない。そっと瞳を閉じ、廊下へ足を向ける。バルコニーのドアが静かに閉まり、夜の風だけが残された。


 こうして、かつて彼女に対して燃え上がった多くの希望は、「失われた希望」へと変貌し、国の中に絶望の種をまき散らす結果となった。


 王宮の廊下や街角の噂話では、もはや「パルメリアの力を借りよう」という声はめっきり聞こえなくなり、変わって「このまま崩壊するのを待つしかないのか」と嘆く人々が増えている。


 暴動やクーデターの火種があちこちで燻り、隣国の軍は虎視眈々と侵攻の機会を狙っている――それでも、誰も決め手を打ち出せない。


 パルメリアという切り札が「表向きは存在しない」も同然になったいま、国はさらに破滅へと近づいていく気配が色濃く漂っていた。


 だが、その破滅がいかなる形で訪れるのか、具体的には分からない。ただ、「悪い予感」だけが人々の胸を覆う。やがて訪れる大崩壊の前兆におびえつつも、誰も行動を起こすことができないまま、日々が過ぎていく。


 パルメリア自身もまた、その破滅を心のどこかで感じ取りながら、あえて動かず、自らを孤立させる道を選び続ける。冷えきった瞳の奥には、二度と立ち上がる気力を失った者の絶望と諦観が宿っていた。


(……いずれ、すべてが炎に呑まれるのかもしれない。でも、私が手を出さなければ、せめて私の手が血に染まることはない。ふふっ……そうでしょう?)


 胸に渦巻くのは矛盾だらけの思考と、どうしようもないトラウマ。それが彼女を動けなくさせ、周囲の失望を決定的にしてしまった。


 その嘆きは、誰の耳にも届かないまま、静かに国の最期を暗示するかのように時が流れていく――。


 ここに至り、パルメリアは「もう私に期待する人などいないだろう」という確信に至る。実際、すでに街でも王宮でも、彼女の話題はほとんど上がらなくなっていた。


 こうして、国が窒息しそうなほどの混乱に陥るさなか、パルメリア・コレットは孤独を抱え込んだまま、誰の目にも触れず静かに息をしている。誰も呼ばないし、彼女も応じない。まるで呼吸だけが生を証明する透明な亡霊のように――。


 まさに「失われた希望」。その言葉が示すのは、人々の憧れだった光が消えてしまい、いよいよ破滅を留める術が失われたという現実だ。


 そしてパルメリアは、自ら放棄したはずのその「希望」を、誰にも気づかれぬ片隅で、密かに胸の奥で悼んでいた。


「どうか、私をこれ以上求めないで……。もう手遅れなのよ。そう、だから何もかも、失われてしまったの――」


 彼女のかすかな独白を知る者はいない。やがて夜の深い闇が王都を覆い、重苦しい風が吹きすさぶばかり。


 だが、その闇の先にはさらに恐ろしい運命が待ち受けているのかもしれない。人々の希望が失われた今、混迷は加速度を増し、破滅へと突き進む。


 そして、そんな破局の足音を耳にしながら、パルメリアはなおも「行動しない」という選択肢にしがみつくのだ。まるで自らを罰するように、一切の光を遠ざけて――。

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