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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第三部 第4章:滅びの足音

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第114話 交わらぬ想い④

 その後、レイナー、ユリウス、クラリスの三人は、別々のやり方で国を救おうと奮闘を続けていく。しかし、そのいずれもが大きな成果を得られず、「パルメリアさえ動いてくれれば……」という想いが日に日に強まるばかり。


 けれど、パルメリアが再び心を開く兆しはどこにもない。むしろ、屋敷に閉じこもる時間を増やし、王宮や社交の場には姿を見せなくなっていく。


 屋敷へ足を運んでも、使用人が「お嬢様はご体調が優れない」と述べ、表向きは病気のように扱われることが多い。実際に彼女が病んでいるのか、それとも単なる言い訳か、誰にも真相は分からない。


 いずれにせよ、パルメリアの扉は固く閉ざされたままであり、レイナー、ユリウス、クラリスの三者は己の無力感を抱え込んでゆく。一度は強い思いを胸にぶつけても、拒絶されて終わるのがオチだと分かっている以上、それぞれが別の道を探るしかなかった。


 こうして決して「交わらぬ想い」だけが積もり、王都の空気はさらに重苦しくなる。反乱や暴動の噂は絶えず、隣国の動向も不穏なまま。人々が待ち望んだ救いの光は、どこにも見当たらない。


 パルメリアは時折、窓辺から遠くの街並みを眺め、ほんのわずかな独白を洩らす。


「……何もしない。そう決めた以上は、他人の期待など知ったことではないわ。だって、手を伸ばしても血が流れるだけ。私が触れていい世界じゃないの……」


 そのつぶやきを聞く者は誰もいない。彼女の中にある「後悔」と「恐怖」は、いまさら誰にも救えないほど根深く刻まれている。


 だからこそ、レイナーの悲痛な呼びかけも、ユリウスの熱い演説も、クラリスの純粋な研究心も、すべてが無意味なものとして彼女の前に散っていく。


 まるで、荒涼とした砂地に種をまいても、芽吹かないまま風に吹き飛ばされるように。


 それは、すべての人物が「自分の信じる道を進みたい」と願いながら、肝心のキーパーソンが動かないために宙ぶらりんになったような状態と言える。


 思いはあるのに、想いを交わすことができない。まるで巨大な迷宮の壁が邪魔をしているかのごとく、それぞれが別々の方角へ散っていく。


 レイナーも、ユリウスも、クラリスも――互いに顔を合わせることはなく、ただパルメリアの拒絶を受けて嘆き、再び孤独な戦いへ戻っていった。


 その姿は、国全体の様相を暗喩しているようでもあった。


 誰もが必死に生きようとし、未来を切り開こうとするが、根本の部分で道が交わらず、一向に協力し合う流れを生み出せない。王宮にしろ、派閥にしろ、同じようにバラバラで、相手を信じられないがために内紛を深めている。


 パルメリアという存在に一縷(いちる)の望みをかけても、その望みすら打ち砕かれるのなら、もうどこに光を求めればいいのか――そんな閉塞感が人々の心を蝕んでいた。


 夕暮れ、コレット公爵家の屋敷から、ひとりの来客が表情を曇らせたまま出て行く姿を、遠目から使用人が見つめていた。


 誰だったのかは分からないが、明らかに落胆した様子で門をくぐって行く。今日だけでも、何人かがそうして帰路についたらしい。


 使用人の一人は心中で「またお嬢様が誰かを拒んだのだろうか……」と噂し合うが、口には出さない。お嬢様の意思を曲げることなどできないと知っているからだ。


 そうして、屋敷の廊下ではパルメリアが最後まで顔を見せず、来客の呼びかけは空しく廊下にこだましただけ。


 結局、何の結果ももたらされず、人々の想いはただ宙を舞っては消えていくのだ。


 交わらない――そう断じられた意志が、さらに国全体を不穏に染め上げていく。


 夜の(とばり)が下りるころ、王都の街角には陰鬱な雰囲気が漂い始める。レイナーは行き場のない焦燥を抱え、ユリウスは過激な改革を検討し、クラリスは研究室で一人涙をこぼす。


 パルメリアは屋敷の窓辺に立ち、かつての仲間や幼馴染を思い出しながら、しかしあの夜の血塗られた光景を重ね合わせる。


 再びあれを繰り返すくらいなら、いっそ何もしたくない――そんな思いが、静かに彼女の胸を蝕んでいく。


 こうして、三人の必死の呼びかけと、彼女の揺るぎない拒絶は平行線のまま終わりを告げた。


 絶望へ傾きつつある王国の運命を変えたいという願いは、パルメリアの固い壁を前にして叶わない。


 誰もがすれ違うまま、足早に現場を去り、あるいは無言で背を向ける。彼らの視線が交錯することなく、各々の道へ戻っていく姿は、国の未来が暗澹たるものであることを示唆しているようだった。


 屋敷の最上階の窓に灯る淡い明かりを、レイナーもユリウスもクラリスも、それぞれ違う場所から見上げたかもしれない。だが、パルメリアが関わらないこの世界では、それぞれの絶望を胸に帰途に就くしかない。


 一方、窓の内側でパルメリアは閉じられた世界に身を置き、変わることのない結論を抱え続ける。


(……あなたたちの思いに応えられるほど、私はもう強くないの。何もしたくないわけじゃない。でも……)


 そっと目を伏せ、暗闇に沈む王都を見下ろす。遠くから聞こえる喧噪や、時折響く戦慄めいた物音が、国の死へ向かう足音に思えてならない。


 それでも、彼女はあえて耳を閉じる。もう一度「手を伸ばす」恐怖を思い出すたびに、胸を刺すような痛みが(よみがえ)るからだ。


 かくして、この世界でのパルメリア・コレットと、彼女へ望みをかけた三人の仲間――レイナー・ユリウス・クラリス――の想いは交わらないまま固く閉ざされる。


 それぞれが別々の場所で、「どうして動いてくれないんだ」と慟哭(どうこく)し、「もし動けば、さらなる血を呼ぶかもしれない」と拒み合い、絶望と苛立ちの淵に沈んでいく。


 やがて外の世界は徐々に、誰も止められない「破滅」へと足音を速めてゆく――。


 こうして彼らは、それぞれの道を独りで歩む。協力しようにも手段がなく、ただパルメリアへの思いを抱いては拒絶され、変わらぬ日々を続けるしかない。


 ――最後に残るのは、静かな夜に溶け込むため息と、二度とかさなり合うことのない視線だけ。


 すれ違いのまま、三人は足早に去る。そこには空虚な余韻だけが漂い、国が破滅へと向かう足音が重く響くばかりであった。

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