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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 第2章:変革の足音

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第14話 新たな守護者②

 ガブリエルの到来によって、コレット公爵領で進む改革はさらに活気を帯びる。クラリスが学術面を支え、ガブリエルが警護と実務面での安全を担当し、それぞれが己の得意分野を発揮し始めた。


 そもそも、パルメリアの周囲には既に複数の仲間が揃っている。幼馴染のレイナーや家令のオズワルドがこれまで支え続けてくれたし、新たに加わった学者のクラリスは革新的技術で領地の未来を拓こうとしている。その中で、ガブリエルという元騎士団の実力者が加わったことで、物理的な危険からパルメリアを守る体制が強化された。


 彼女が領内を視察したり、農村で改革を説明したりする際には、ガブリエルがぴたりと後ろにつき、もし何か起きれば瞬時に動けるよう備えている。その無言の支えがパルメリアにとってどれほど心強いか、本人でさえ予想外だった。


(この世界では、改革を進める人間が暗殺や誘拐の危険にさらされるのは珍しくない。だけど、ガブリエルがいてくれるなら少しは自由に動けるわね)


 そんな思いが、彼女の行動範囲を無意識に拡大させ、より積極的に人々と接触する機会を増やす。これは改革を深めるうえで大いにプラスになるはずだ。


 パルメリアもまた、ガブリエルを単なる護衛役として扱うつもりはない。彼自身が腐敗に抗い、正義を貫いてきた過去を知るほどに、騎士としての忠誠心を尊敬し、彼から意見を求める場面も増えていた。ときには農村に同行してもらい、そこで感じた危険や不正についての感想を求めたり、あるいは治安維持の面から見た改善策を聞いたりする。


 ガブリエルは戸惑いながらも、パルメリアの質問に誠実に答える。その様子を見ていると、彼が決して言葉巧みに動くタイプではなく、思ったことをまっすぐに語るだけの実直な人物なのだとわかる。


「お嬢様が命じてくだされば私は動きます。それが騎士としての役目です。ですが、腐敗した状況に対しては、やはり自分なりの声を上げたいのです」

「私の改革にも、遠慮なく意見を言ってちょうだい。騎士だからといって、ただ従うだけじゃもったいないわ」


 そんなやり取りの中で、二人の間には言葉少ないながらも確かな信頼感が育まれつつあった。「新たな守護者」として迎えられたガブリエルは、主従の枠を超えたパートナーになるかもしれない――それが、パルメリアの胸に浮かぶ淡い予感だった。


 こうして、天才学者のクラリスが学術面を強化し、ガブリエルが護衛として加わったことで、コレット公爵領の改革はさらに一段上の活気を帯び始める。パルメリアは以前よりも大胆な構想を口にし、農民や家臣と協力して実行に移す機会を増やしていった。


 幼馴染のレイナーは外部との折衝や農村との連携に奔走し、家令のオズワルドは財務や事務面を着実に固める。それらを背景にパルメリアが指揮を執り、クラリスが技術的な提案を行い、ガブリエルが現場での安全を確保する――まるで歯車がかみ合うように、それぞれの役割が鮮明になっていくのだ。


(こんなにも頼れる仲間が集まってくれるなんて、想像もしていなかった。ゲームの設定では、ひたすら破滅に追い込まれる悪役令嬢のはずだったのに、私はもう同じ運命をたどる気はないわ)


 パルメリアはふと、前世の記憶と今の現実が交錯する感覚を覚え、思わず唇を引き結ぶ。破滅回避を超えて、自分の理想を現実にするという決意が強まるたびに、新たな仲間や支えが現れるのは、運命の皮肉なのか、それとも自分が引き寄せている幸運なのだろうか。


 もっとも、敵はベルモント派だけとは限らない。貴族社会の腐敗は根が深く、表立った政治工作のほかにも陰で暗躍する勢力があって不思議ではない。王宮内部の権力争いがコレット領に飛び火すれば、彼女の命を狙う者が増えていく可能性も捨てきれない。


 しかし、パルメリアは足を止めるつもりはまったくない。悪い噂を恐れて社交界に引きこもるより、領地を守り抜き、歪んだ貴族社会そのものを変えることこそが自分の使命だと信じている。


「学術面はクラリス、護衛はガブリエル。私の周りには、信頼できる人が次々と集まってくれている。これなら、もっと改革を加速させても大丈夫」


 手元の書類を眺めながら、彼女はそう小さくつぶやく。ガブリエルがいてくれるおかげで、襲撃や暗殺未遂の危険を警戒しつつも、以前より落ち着いて仕事に専念できるようになったのだ。


 朝から晩まで動き回っていても、背後に感じる守護があることで、一段と自信を持って行動できる。公爵令嬢として華やかな場に出るときも、学舎を訪れて子どもたちと触れ合うときも、農村に足を運んで畑の様子を確認するときも、ガブリエルはいつも静かに控え、危険を察知する準備を怠らない。


 こうして、コレット公爵領は新たな仲間を迎えてさらに勢いを増した。クラリスが学術面を支え、ガブリエルが護衛として安全を担保することで、パルメリアの改革はより大胆な構想を具体化できる下地を得る。


 農民との対話や学舎での教育拡充、そして新技術の導入など、やるべきことは山積みだが、パルメリアは疲労を感じるどころか、新たな未来を思い描くことで活力を得ている。そこには、一人では決してたどり着けない領域が確かに見え始めているのだ。


(私が歩む道が、誰かにとって危険だろうと、歪んだ貴族社会にとって脅威だろうと、そんなの関係ないわ。やるしかない。そして、私の周りにいる人々が助けてくれる)


 ガブリエルの存在は、まさに「新たな守護者」という言葉が相応しい。彼は主従の枠を超え、信念を共にする相棒になる可能性を秘めているし、クラリスの学問的視点やレイナーの誠実さ、オズワルドの忠義と合わせれば、コレット領はさらに力強い基盤を築けるだろう。


 そんな希望が胸に満ちる一方で、彼女は「本当の戦いはまだ先だ」とわかっている。この世界の腐敗を根こそぎ変えるには、強大な敵との対峙が不可避だからだ。とはいえ、ここで仲間が増え、守護の手が厚くなったことは大きな追い風になる。


 夜が更け、パルメリアが屋敷の長い廊下を歩いていると、ガブリエルが無言で数歩後ろにつく。窓の外は星がきらめき、冷たい風がカーテンを揺らす。


 ふと立ち止まったパルメリアが振り返ると、ガブリエルはまっすぐな眼差しを向け、黙って微笑を返す。言葉はなくとも、そこには確かな信頼が浮かび上がっているように見えた。


 パルメリアは小さくうなずくと、心の中で「ありがとう」とつぶやく。返事をしなくても、この小さな空気の変化で彼女の感謝の意が伝わっているような気がした。


「――おやすみなさい、ガブリエル。明日もよろしく頼むわ」


 短い言葉を残し、彼女は自室へと入って扉を閉じる。外から聞こえる足音が遠のき、静寂が戻ってくると、パルメリアはベッド脇のランプを置き、今日の出来事をそっと思い返す。


 ガブリエルという新たな守護者が加わった今、彼女は一層確信している。領地を守り抜き、(ゆが)んだ社会を変えるという目標は、もはや夢物語などではなく、現実に向けた足音を刻み始めている――。


 その夜、パルメリアは幾重もの困難が押し寄せてくる予感を抱きながらも、不思議と安らかな気持ちで眠りにつく。明日から始まる新しい日々を、彼女の背後でガブリエルがしっかり支えてくれると信じて。

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