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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第三部 第3章:拒絶の選択

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第111話 四人の孤軍奮闘②

 一方、ガブリエル・ローウェルはコレット領の騎士団に所属しながら、領内の治安を守るべく日々奔走している。盗賊の横行や行き場を失った農民の流入など、混沌とした状況が広がりつつあるため、騎士団の業務は増える一方だ。それにもかかわらず、人手や装備は足りず、場合によってはガブリエルが少人数を率いて危険な巡回に出ることもしばしばだった。


「領主様――公爵様は優れた方だが、肝心のパルメリア様が動かない以上、領地全体の方針も曖昧(あいまい)で……」


 騎士団の詰所で同僚にそう漏らすガブリエル。領内の安全は騎士たちが守らねばならないが、国全体の混乱がコレット領にも波及し始めている。もし大規模な反乱や隣国の侵攻が起きれば、とても小規模な騎士団だけでは対処できない。


(パルメリア様がお動きになれば、国の流れが変わるかもしれないのに……)


 ガブリエルは心の底でそう歯がゆく思う。コレット領の騎士として忠誠を尽くす決意をしているが、当のパルメリアからは「あなたに守ってもらう必要などない」と言われ、冷ややかに突き放されている。彼女が動かない以上、ガブリエルは領内の小さな問題だけを片づけるしかない。それはあくまで“対症療法”に過ぎず、国全体の危機には焼け石に水だとわかっているのだ。


 ある日、隣国との国境に近い方面で盗賊団が出没し、交易ルートを襲撃しているとの報告が入った。ガブリエルは少数の騎士を率いて討伐に向かおうとしたが、装備も資金も十分とはいえず、苦戦を強いられるのは目に見えていた。上官に相談しても「人手が足りない」と言われ、結局は危険を承知で出撃することに。


「これもコレット領の平和のため……。私がパルメリア様に忠誠を誓ったのだから、守らねば」


 しかし、内心では「もっと効率的な方法」があるはずだと感じても、すでにパルメリアは動かない。ガブリエルがどれだけ報告を重ね、助力を求めても「ご苦労さま」と返されるだけで、支援の手配も特別な指示もない。彼は苦々しく思いつつも、それ以上何も言えずに騎士団の仲間とともに駆け出すしかないのだ。


 こうして、レイナー、ユリウス、クラリス、ガブリエルは互いに別の場所で必死に動いていたものの、各々が抱える問題はまったく噛み合わないまま進んでいる。レイナーは外交を探り、ユリウスは民衆をまとめ、クラリスは研究を進め、ガブリエルは騎士団を率いて治安を守る――だが、そのどれもが単独で動くだけで、国全体を揺るがすには力不足だ。


 本来なら、パルメリアがまとめ役を担うことで四人の力が大きく結集する可能性があった。しかし、彼女が拒絶を続けている以上、四人は互いの動きをよく知らず、偶然どこかで会って情報交換をしても“パルメリアさえいてくれれば”という話に行き着くばかり。


「レイナーさんが頑張っているらしいけど、王宮での地位が低すぎて話を通せないみたいだ」

「ユリウスは勢力を伸ばしてるが、保守派との衝突が怖い。革命の噂をたてれば弾圧されかねない」

「クラリスさんの研究は評価されず、ここで止まったまま……」

「ガブリエルは領内を守ってるみたいだけど、いずれどうなるかわからない」


 そんな風に、彼らがどこかですれ違っても、口々に「パルメリアが動いてくれれば」と嘆くが、手段は見つからない。結局、彼らはそれぞれの場所で孤独に戦うしかないのだ。


 四人それぞれが思う。「彼女に協力を求めても、無駄に終わる」と。だから独自に行動しているが、国全体で見るとごく小さな成果に留まり、歯車が噛み合わずに空回りしている。現状、一枚岩となって国を建て直す力を発揮できず、まるで四本の細い柱がバラバラに支えようとしているような不安定さが漂っているのだ。


 パルメリア自身は、こうした四人の孤軍奮闘を横目で感じつつ、あえて何も言わない。かつての仲間たちが命を削るように立ち回っているのを知りながら、あえて目を伏せているかのようにも見える。なぜなら、彼女は「自分が動けば、もっと悪い結末を招く」という信念を崩せないからだ。


「私が立ち上がれば、四人を巻き込んで血塗られた未来へ進んでしまうだけ」


 そんな独白を胸に秘め、パルメリアは再び扉を閉ざしてしまう。レイナーが「外交を」「情報を」と懸命に走り回ろうと、ユリウスが「革命を起こす」と声を張り上げようと、クラリスが「研究で人を救う」と頑張ろうと、ガブリエルが「領地を守る」と孤軍奮闘しようと、彼女の態度は変わらない。誰がどう動いても、彼女は「興味がない」の一言で距離を置くのだから。


 もはや、四人は完全に孤立しながらそれぞれの戦いを続けている。わずかに成果を得ても、全体像の前には力及ばず、空回りの連鎖に陥っているのだ。


 夜の王都、レイナーは街の外れを馬車で走りながら、書簡を一人確認していた。隣国との非公式な外交チャンネルを探るという試みは、いまだ大きな成果を得られず、むしろ警戒を招いている節がある。


 ふと、幼馴染の笑顔を思い出す。かつては多少無茶な改革にも乗り出してくれたパルメリアだが、今はどうしてあれほど冷たいのか理解できない。と同時に、「自分がもっと強ければ、彼女を支えられるのに」という歯がゆさに苛まれていた。


「……動いてくれさえすれば、こんな遠回りをしなくて済むのに」


 馬車の車輪が石畳をきしませながら、レイナーは夜道を進んでいく。彼の顔には疲労の色がにじんでいた。せめて一度でも、パルメリアがうなずいてくれれば――その思いがもはや虚しい願望だとわかっていても、捨てきれない。


 一方、ユリウスは深夜の集会所で、自分がまとめた議論の資料を読み返している。民衆の苦しみや渇望する改革案がぎっしり詰まっているが、王宮に送っても門前払いに近い扱いを受けることも珍しくない。過激化する仲間に引きずられて、「本当に革命しか道がないのか」という迷いも生じ始めていた。


「パルメリアがここにいて、一緒に道を探してくれたら……いや、もう期待するだけ無駄か」


 そのつぶやきに、周囲のメンバーも沈黙する。彼女への期待が尽きない一方、何度説得しても応じない現実を知っているからだ。いつか国全体を巻き込む大変革を起こす可能性が高まるほど、ユリウスは彼女の存在の大きさを痛感するが、結局すべてが届かない。


 クラリスは夜遅くまで研究室の机に向かい、書類を整理していた。新種の作物を導入する計画や、医療スタッフを養成するプロジェクトの草案が積み重なっているが、どれも資金不足や政治的ハードルで足止めされている。熱意ある研究者たちは疲れ切りながらも彼女を信じてついてくるが、クラリス自身、「これでは成果を拡大できない」と苛立ちを募らせていた。


「パルメリア様が賛同してくださるだけで、きっと違うはずなのに……」


 ノートをめくりながら、クラリスはため息をつく。パルメリアが「興味がない」と拒むため、どこへ行っても「公爵令嬢が動かないなら、わが家も余計な出費は……」と渋られるばかりだ。すべてが停滞している現状に、クラリスは徒労感を抱えるしかない。


 ガブリエルは深夜の街路を、騎士団の仲間とともに警戒しながら歩いていた。近頃は夜盗や盗賊だけでなく、飢えた民がごく普通の家を襲撃する事件も増えはじめ、治安が急速に悪化しつつあるのだ。少人数の騎士団だけでは手が回らないエリアも多く、疲弊を極めていた。


「公爵様や領地の重臣が頑張っていても、国全体が混乱していたら、いずれコレット領にも波及する。そのとき私たちだけで守りきれるのか……」


 ガブリエルは仲間にそうこぼしながら、背後を警戒していた。もしパルメリアが領地指揮を取ってくれれば、効率的な兵力配置や助成を受けられるかもしれない。だが、実際には「私はあなたに守られる必要はない」と言い放たれ、ガブリエルは彼女との連携を得られずにいる。苦労の実態や治安の悪化を伝えても、「父を守ってあげればいい」と突き放されるばかり。


「こんな暗闇の中で巡回を重ねても、根本は何も解決しないが……。それでも、私は騎士として責務を果たすしかないんだ」


 彼は夜の冷気を噛み締めながら、街角の巡回を続ける。コレット領が比較的まだ落ち着いているのはガブリエルら騎士団の尽力だが、それも限界がある。国全体が燃え上がれば、ひとつの領地だけで防ぎ切ることなど到底不可能だとわかっているのだ。

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