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悪役令嬢、追放回避のために領地改革を始めたら、共和国大統領に就任しました!  作者: ぱる子
第一部 第2章:変革の足音

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第14話 新たな守護者①

 ちょうどこの頃、コレット公爵家に新たな人材が加わるという話が、屋敷の使用人や家臣の間でささやかれはじめた。名前はガブリエル・ローウェル――かつて王国騎士団に所属していたが、上官の腐敗を見過ごせずに抗議し、結果として左遷同然に遠ざけられたという経歴を持つ。騎士団では随一と評される剣技の腕前を持ち、なおかつ妥協を許さない正直さゆえに(うと)まれたらしい。


 パルメリア・コレットの周りを取り巻く危険から身を守るため、公爵が彼を「護衛役」として雇用することを決断したのは、ひとえに娘への深い配慮といえよう。何度も妨害工作を受けてきたパルメリアを危険から遠ざけるには、騎士としての実力だけでなく、強固な正義感が必要だと判断したのだ。


 ある昼下がり、パルメリアは執務室で書類の山と向き合っていた。扉をノックする小さな音が響き、家令のオズワルドが「お嬢様、新任の護衛が到着いたしました」と告げる。


 許可の声をかけると、ゆっくりと扉が開き、逞しい体躯を持つ男が姿を現した。深みのある彫りの整った顔立ち、洗練された所作。そしてなにより、静かながら凛とした眼差しが強い印象を与える。


 彼――ガブリエル・ローウェルは、軽く膝をついて深々と礼をし、低い声で言った。


「ガブリエル・ローウェルと申します。本日より、パルメリア様の護衛をお任せいただくことになりました」


 パルメリアはその静謐(せいひつ)な態度に、一瞬戸惑いを覚えながらも彼の面持ちをまっすぐに見返す。強い誇りと芯の通った精神が、言葉少なな雰囲気の中に宿っているのを感じた。


 そしてかすかに口元を緩めて答える。


「そう……よろしく頼むわ。けれど、私を守るというのは、想像以上に大変な仕事になるかもしれないわよ」


 彼女の挑むような言葉に、ガブリエルは顔をわずかに上げ、静かな声で応じる。


「承知しております。ここへ来る前から、パルメリア様の状況は聞いていました。簡単な任務でないことはわかっています。それでも……私に託された役目を果たす覚悟はできています」


 まるで、騎士としての矜持を示すかのような、揺るぎない言葉だった。そこには取り繕った感情が微塵もなく、正直で不器用なまでの真摯さがにじんでいる。


 パルメリアはその真っ直ぐさに、どこか自分と似通った部分を感じ取った。腐敗に抗い続けてきた彼の経歴と、今の自分が立ち向かおうとしているものが、重なるように思えるのだ。


(腐敗を許さず正義を貫いて左遷された彼。そして、私もまた改革を進める過程で多くの反発を受けている。もしかすると、私たちの関係は単なる主従を超える何かに変わるのかもしれない)


 そんな考えが脳裏をよぎりながらも、パルメリアはあえて口にせず、改めてガブリエルに向き直る。お互いにやや緊張した空気が漂うが、そこには言葉にしづらい穏やかな期待が混在していた。


 パルメリアがオズワルドから聞いた話によれば、ガブリエルは一時期「王国騎士団の将来を担う逸材」とまで称えられていたらしい。若くして高い剣技を習得し、騎士道精神を徹底的に身につけている。しかし、上官の汚職に気づき、それを黙って見過ごせないという正義感の強さが、逆に彼を騎士団から遠ざけた。


 「騎士としての矜持を捨てられず、不正を許さなかったために冷遇された」と聞いたとき、パルメリアは思わず「私も腐敗を見過ごせない立場だものね」と共感してしまった。今までも改革の過程で数え切れないほどの障害に直面し、それを乗り越えるには一歩も引かない覚悟が不可欠だったからだ。


 パルメリアが度重なる妨害や暗殺未遂の危険に晒されていることは、これまでの改革の流れで明らかだ。保守派の怒りを買うのはもちろん、革命や変革を望まぬ勢力が行動を起こす可能性は高い。特に、彼女が学舎を設けて教育の普及まで手がけ始めたことで、「身分制度を壊しかねない」と警戒する声もある。


 こうした状況で、ガブリエルのような騎士としての実力者が護衛に就くことは、パルメリアだけでなく領地全体にとっても安心材料となる。


 彼と初めて言葉を交わした日、パルメリアはしみじみと感じた。


(彼がいてくれるなら、私も余計な不安を抱えずに改革を進められるかもしれない。改革の先にある、さらに大きな戦いにも、きっと力になってくれそう)


 その思いは、同時に「自己防衛以上の選択肢」を彼女に提供する。自分が現場に足を運んでも、もし何かあればガブリエルが守ってくれる――そんな安心感が、新たな行動を促す原動力となるだろう。


 ガブリエルの到来に対して、屋敷の使用人や家臣たちは少なからず戸惑いを覚えたようだった。


 「噂では、彼は騎士団での評判は悪くないが、権力に刃向かう危険な性格とも聞く……」「騎士団を去った経緯もあやしいのではないか」など、さまざまな憶測が飛び交う。しかし、公爵自身が彼を雇い、パルメリアの護衛役に抜擢(ばってき)したとあって、表立った反対を唱える者はいない。


 実際に顔を合わせてみると、彼の態度は穏やかで礼儀正しく、寡黙ながら芯の強さをにじませていた。大半の使用人は、「思っていたほど怖い人ではなさそうだ」と安心しているようだが、騎士らしい鋭さを見て警戒する者もいる様子だ。


 ある日の夕暮れ、パルメリアは庭で一息つこうとしたとき、ガブリエルが傍らで小さく頭を下げて控えていた。


 いつものように彼は無言のまま、付かず離れずの距離を保つが、その存在感は大きい。パルメリアは少し笑みを浮かべ、「どうかしら、ここでの暮らしには慣れた?」と声をかけると、ガブリエルはかすかな笑みを返す。


「はい。まだ至らぬ点も多いと思いますが、すぐに慣れてみせます。お嬢様の護衛として恥じぬよう、日々訓練も(おこた)りません」


 その言葉に、パルメリアは「そこまで堅苦しくしなくていいのに」と心の中でくすりと笑う。だが、内心では騎士としての忠誠心を示す彼の姿勢を頼もしく思っている。


「そう……ありがとう。私も安心できそうよ。あまり無理をしないでね」


 ガブリエルは一瞬だけ驚いたような表情を見せ、続いて深く一礼し、「お気遣い感謝いたします」と口にした。その瞳には照れや戸惑いも含まれているようで、パルメリアは改めて「不器用なまでの誠実さ」を感じ取る。

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